婚約破棄入りました!はい、喜んでー!(能天気なお嬢さんの婚約破棄は、こんな感じみたいです!)
「ニーナ・バルカス嬢、悪いが君との婚約を破棄させてもらいたい」
学園の裏庭で、1組の男女が向かい合っています。
周囲に人影はありません。
「え?」
ニーナと呼ばれた女は、ポカンとした顔で男を見つめ返しました。
「6歳の時に婚約して、卒業間近の今になって破棄など、次の婚約者を探すのにも苦労するだろうし本当に申し訳ないと思うのだが、しかしーーー」
「婚約…破棄………?」
俯き震えるニーナ嬢に、男は一瞬言葉に詰まります。
「ぐっ、そうだ。タイミングの悪さは重々承知ーーー」
苦い顔でなんとか言葉をつむぎ出しましたが
「はい!喜んでー!!!」
パッと顔を上げたニーナ嬢に満面の笑みで遮られ、今度は男の方がポカンとなりました。
「え?」
「婚約破棄ですよね!喜んで承ります!」
ウキウキという擬音語がぴったりな様子です。さっき俯いていたのは、喜びを噛み締めていたんでしょうか。
放っておいたらコサックダンスでも踊り出しそうです。
「やだなーもう、エミリオ様ったら!来年結婚したらその先ずっとお茶会とか夜会とかその他諸々、肩の凝る上流階級のお付き合いで人生すり減らすことになるのかって考えただけで鬱になりそうだったんですよ!もっと早く言ってくれればよかったのにー!!」
背中とかバンバン叩きそうな勢いですね。本当に貴族のお嬢さんなんでしょうかこの人。
「いや、他の男と結婚してもそういった生活になると思うが」
「エミリオ様の伯爵家よりはマシですって。一度仮バツが付いた男爵家の女なんて欲しがる家は、同じ男爵家かせいぜい子爵家くらいですよ。私としては、もう一歩進めて商家とかいっそ肉屋とかでもいいんですけどね」
「肉屋…そちらに進むつもりなのか。とにかく破棄に異存がないことはわかった。後で書類を家に送ろう」
エミリオは仮バツという言葉に眉を寄せましたが、肉屋のインパクトに持っていかれたようです。
「はい、ありがとうございます!」
「まさか婚約破棄を申し出て、感謝されるとは思わなかったよ」
引きつった顔で乾いた笑いを浮かべています。
希望通りに事が運んだのに素直に喜べないなんて難儀な人ですね。
「あ、肉屋に嫁いだらどうぞご贔屓に〜!」
一方、ニーナ嬢は図太…たくましいです。
「………考えておこう」
伯爵家の厨房が生涯お得意様になるなら、なかなかいい持参金になりそうですね。
なんとなく、婚約中より距離が縮まったように見える二人は、なにやら話しながら裏庭を去って行きました。
………ところで婚約破棄の理由って何だったのでしょうか?
…めでたし、めでたし!
転生者っていう設定が、本文に入りませんでした。