其の弍
(本田綾という少女が過ごす世界ではさまざまな世界が存在していることは周知の事実で時たま世界間の侵略や戦争があった。そして全ての世界共通で【守護者】と呼ばれる者がいた。【守護者】は世界間の戦争には介入しないが侵略に対しては徹底的に潰しにかかることで恐れられていた。)
綾「そういえば【守護者】さんについてキリハさんはよく知っているようでしたが何かあったんですか?」
《天の声》キリハ・ミナカ 女 年齢不詳(最低でも3000歳以上) 妖。強い。
キリハ「そうね。とりあえず【守護者】は過去にとても悲しいことがあったの。そのせいで彼の心はすでに壊れてしまっているの。」
綾「もしかしてそれが【守護者】さんが侵略に対して敵対的な行動を取る理由ですか?」
キリハ「そういうわけではないわ。【守護者】は心が壊れる前から守護者と呼ばれていたの。でも【彼】は他の世界の侵略を防ぐことを意識しすぎていたために家族を侵略によって殺されるなんて思ってもいなかったの。どうやら彼らは家族を人質にとれば大人しくなると思っていたみたいなのだけど思ったより彼の家族が抵抗をしたために殺してしまったみたいなの。【彼】の父親、母親、兄、妹。この四人が『彼』の血の繋がった家族だったのだけど全員殺されたのよ。しかも、【彼】の(・)目の(・)前で(・)ね(・)。」
綾「ひどい。わざとだったの?」
キリハ「いえ。それは偶然だったらしいわ。【彼】が帰ってくると同時に殺してしまったらしいから。」
綾「じゃあ偶然目の前で家族が殺されるのを見てしまったってこと?」
キリハ「そういうことよ。そして【彼】は家族を深く愛していたの。その家族を目の前で殺されたらどう思うと思う?」
綾「深く悲しむんじゃないの?」
キリハ「、、、そうね。彼は深く悲しんだわ。それ以上に悔やみ、憤り、狂った。そして彼はその世界と侵略者の拠点がある世界だけだなくその世界と関わりのあるものがある世界まで〔消し始めた〕の。」
綾「消し始めた?どういうこと?」
キリハ「【守護者】は常に自分に封印をかけて力が暴走しないようにしてるのよ。そしてその封印を【彼】はその時に全て外した。そうなれば【彼】の力は全ての世界の生物の力を合わせてしてもせいぜい互角かそれ以下だったの。」
綾「そんな人が暴れたら、、、誰も止められないじゃない。でも、、、理性がなくても何かをきっかけに止まったりはしなかったの?」
キリハ「残念だけどしなかったわ。彼は家族の他に少しの孤児も預かっていたの。みんなを平等に愛して大切にしてね。それこそ家族が嫉妬してしまうほどに。そしてその孤児たちはもちろん【彼】の暴走を止めようとしたの。でもね。」
綾「でも、、、殺されたの?」
キリハ「、、、ええ。そうよ。殺されたわ。【彼】は完全に精神が崩壊して目につく『生物』全てを破壊し始めてしまったの。孤児たちが止めようとしたと思えばそこには血の痕しか残っていなかったわ。」
綾「じゃあ落ち着いた後に、、、さらに悲しんじゃうんじゃ、」
キリハ「、、、勘が鋭いのね。そうよ。そのことが【彼】の心を完全に破壊し尽くした原因よ。たぶんあの孤児たちを殺させていなければ【彼】の心はまだ生きていたはず。だけど【彼】に殺させてしまった。それは私たちの責任だわ。だってあの時の私たちも落ち着いて考えればそのくらいすぐにわかったはずだもの、だけどあの時の私たちは焦って錯乱してしまっていたの。だからあんなことを許してしまった。【彼】は落ち着いた後に孤児たちは何処かと聞いた。しかし私たちは真実を告げるしかなかった。『あなたが殺したのよ。』って。」
綾「そんな、、、」
キリハ「その瞬間からの雰囲気が変わったの。これまでは何というか深い青色だったオーラが消えたの。消えたというよりは砕けたの方が正しいわね。彼のオーラが有機的なものから完全な無機質に変わったの。その時私たちは悟ったわ。【彼】はもう『生物とは呼べない』とね。【彼】は【守護者】になってしまったの。ただ拭いきれない後悔と悲しみの念に囚われて侵略者に八つ当たりをするだけの存在。それが【守護者】なの。わかったかしら?」
綾「、、、【守護者】さんはわたしと話すときは笑顔でただの優しいお兄さんって感じだった。でも【守護者】さんは生き物ではないの?」
キリハ「世界の管理者の大半はそう捉えているわ。だって彼が笑顔で話していても纏っているオーラに変化が生まれなかったから。つまりただの演技ってことなの。」
綾「あの笑顔は本当に優しい人じゃなくちゃできるわけがない!」
キリハ「できるのよ。だって【守護者】はもともと『底抜けのお人好しバカ』なんて呼ばれていたのよ?その時の真似をすれば容易いのよ。」
綾「、、、じゃああの笑顔は演技だったってこと?そうなら、、私は、、、何も、信じられない、よ?うそなんだよね?」
キリハ「、、、事実よ。」
綾「うそだ!うそよ!アレが演技なら私は何も信じられない!だって!だって!私の持つ特殊能力《真実の目》でも見破れない演技なんてないもの!」
キリハ「彼の力は神すらも超越してるの。能力なんて簡単にごまかせるわ。」
綾「そう、、、なんだ。」
キリハ「ショックだったかしら?」
綾「当たり前よ。疲れちゃったから部屋で休むね。おやすみ。」
キリハ「おやすみなさい。大丈夫かしら。」
綾「(ありえない。あり得るわけがない。あんなのが演技なんてありえない。でもなぜか演技だと言われて違和感が持てなかった。なんで?完璧すぎたから?笑顔が自然すぎて逆に少し違和感があったから?わかってるはずなのに認めたくない。なんでなの?なんで私は【彼】を【守護者】として見れないの?どうして?)」
《天の声》こうして綾は【守護者】の壮絶な過去を聞いて以来他人を信じることができなくなってしまった。だが皮肉なことにも【守護者】が侵略者を殲滅しているおかげで信じることがなくても生きれてしまう。その中で彼女はどうそれを克服するのか。その先のことは誰も知りえない。それこそ、、、《桜》でもね。