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ジギタリスの微笑

お題:「うるさい話」必須要素:「白トリュフ」

制限時間:1時間

雪が降る、二月の初頭。特に珍しくもなんともない風景。この地方でこの季節の雪は通常運転だ。

それとは全く別の理由でこの月はナーバスになる。毎年聞き飽きたフレーズを聞くことになるから。


この雪積もらないかなあ。積もったら今日の部活は雪遊びになりそうなんだけどなあ。


なんて思いながら頬杖をついてなんとなく聞き流した授業もやっと終わり、今日が部休日だと知ったのが1時間前。


バスに揺られながら明日は道路ツルツルだなあと思ったのが30分前。


そしてたった今。


「お前誰だ!!」


「いやお前が誰だよ」


真っ黒でぼさぼさの髪をした、切れ長の目と八重歯が特徴的の、男の子・・・?

同じくらいか少し上くらいの歳の男の子が部屋に居座っておりました。


「いやー、ここの住人だとは思わなくってなー!悪いなー!」


「はあ」


名前をレンというその人は時間旅行者?なんだって。知らん。なんじゃそりゃああああ!の世界だ。松田さんちのゆうさくさんより困惑していると言える。因みになんだよこれェ!とかいうどっかの厨二病な岡部さんなんかは世界線こえちゃってるわけだけどそこまで混乱してるわけじゃない。


「なー、お前名前は?聞いてねえだろー?」


「千夜子」


「ちょこ?」


「ち!よ!こ!」


「おーチヨコ!古き良き名だな!」


「はあ」


そのレン曰く、自分は24世紀からきたとのこと。いろいろすごい。猫型ロボットより先の未来だ。藤子先生もびっくりだ。


信じられないことなんだけど、時間旅行者専用のパスポートとか、タイムマシンとか未来のものをいろいろ見せてもらったのでとりあえず信じておくことにした。


「で、レンさん?そんな未来の人がうちに何の用ですか?」


「レンっでいってばよー。敬語もいらねえからさー。いやな、タイムマシンが壊れちゃったみたいでさー。しばらく置いてほしいんだけどなー」


「え、ええー・・・」


私をちらちら見ながら申し訳なさそうにする目の前の人はどうにも憎めない雰囲気だったので、気付いた時には私は彼の臨時同居を許可してしまっていた。


「あれー、千夜子、親御さんは?」


「両親どっちも動物学者。今はカンボジアで研究してるんだってー」


「へー。プテラノドンとかー?」


「流石にプテラノドンがそのへんに生息してたら大ニュースだよ」


「そうかー!そうだよなー!」


楽しそうにケラケラ笑うレンの八重歯はちょっとかわいいな、なんて思ったのは内緒である。


「え、レンって20歳なの?」


「ひとりで時間旅行ができる年齢ってのが20からなんだよなー」


「思ってたより年取ってんね」


「千夜子は思ってたよりズバズバ言うね」


聞いてみれば食べるものは私たちが食べるようなのと同じものを食べるらしいので御飯を一緒に食べることにした。無償の奉仕てやつね。


カレーが案外お気に入りのようで、3回くらいおかわりしている。

そんなに食べると思わなかった・・・。


「千夜子料理うまいなー!いい嫁になるぞー!」


「言ってることがオッサンくさいね」


お風呂も私のあとだけどちゃんと入ってもらって布団はお客さん用のを使ってもらうことにした。


「シャワーだ!こんなん博物館でしか見たことねーよ!え!使えるの?まじ?まじ?」


「レンには特別にお水でシャワー浴びさせてあげるね。この時代の最大限の歓迎の儀式だよ」


「水も千夜子も冷たい!ねえそれ嘘だよなー!!ごめーん!・・・・・・いやほんとごめんって!すみませんでした千夜子さま!!!」


レンの明るい性格のおかげで、この共同生活に特に問題はなかった。


休日に買い物に連れていけば車を珍しがり、ビルを懐かしがり、土を見つけると持って帰ると言い、それはそれは大変だったけど。


「未来ってどんなとこなの?」


レンがきて一週間ほどが過ぎた日の夜。テレビを見ながらレンとジュースを飲む。

私の質問にレンはちょっと考えたような仕草をしてゆっくり話しだした。


「・・・大きなフィルターが空に一枚かかっててさ、人工的に空をそこに映してるんだ。

気温も、時間も、人工的に管理されてる」


「へえ」


「息苦しいよ、正直。フィルターが空くのは特別な日ぐらいだしな」


「土を珍しがってたけど」


「俺が生きてる時代にはもう土は無いよ。それこそ植物館にでも行って植物の根っこでも見ない限りはね。そこにもほんの少ししかないけど」


「そうなんだ」


「だからこの時代に旅行できてすごく嬉しいんだ、俺。向こうの俺の友達はみんなこれ、知らないんだぜ。太陽って冬でもこんなにまぶしいんだな!」


私には、どんな季節の太陽よりもレンの方がまぶしく見えた。







今月、2月がこんなにもナーバスになるのは主に今日のこの日のせいだと言っていい。

2月14日、バレンタインデー。


またの名を、私の誕生日という。

毎年毎年このネタをからかわれるのでいい加減うんざりしている。


毎年って普通飽きるでしょ・・・!


そんな私の願いなど神様仏様七夕様、誰も誰も叶えてくれそうになかった。


今日だって、誕生日おめでとう、と言いながらにんまり手を出してチョコを催促するクラスの男子、本命居るの?ねえ誰?きゃー付き合っちゃいなよー!とノリノリな女子。

いつもはにぎやかで楽しいから好きだけどこういう盛り上げ方は全然嬉しくないんだよ・・・。


14日がせめて土日ならみんなもちょっとおさまるからいいんだけど・・・。一週間は土日より月~金の方が圧倒的に数が多い。圧倒的に私の誕生日は平日だ。


『直ったー!千夜子ー!タイムマシン直ったー!』


『え・・・』


『ずっと世話になりっぱなしだったからなー。悪いことしたなー、千夜子ー』


『いや、私は・・・』


『・・・またな!』


一昨日、タイムマシンが直ってさっさと帰っちゃったレンにも裏切られたような気になってしまう。


この話をした時にすごく真面目な顔で話を聞いてくれてたから何かわからないけどちょっと期待するような気も確かにあったわけで。別にレンは今日のためにきてくれたわけじゃないんだけど。

それにまた来るって言ってたし。いつになるかはわからないけど。


そんな事情もあってか今日はいつもより足も心もいろいろ重い。

そしてやっぱりいつもより重いため息をついて私はざわつく教室に入った。








形だけの誕生日おめでとうをもらってふらふらになりながらバスに乗って帰ってきた。

いつもどおりクラスのみんなは騒いでいた。


憂鬱だけど今日がすぎればあとはみんなが飽きるのを待つだけだ・・・!大丈夫千夜子!元気だして千夜子!


心の中で自分を励ました私は部屋に戻って、また、見慣れたぼさぼさの黒い髪を見つけた。


またタイムマシン壊れたのかな、なんて良くないことなのにちょっと嬉しく思いながらどうかしたのか、聞こうとした時だった。


「これ、やる」


「え?これ・・・トリュフ?」


レンの手にあるのは小さな丸いドームのような形の箱だった。どんな材質なのかさっぱりわからないけど、透明で、柔らかくて、そして中に見えたのは、いつだったか、私が好きだと言った、白いトリュフ。


「お前、それ好きだって言ってたろ。だから、やる」


「・・・・・・!」


いつにないぶっきらぼうな言い方に思わず顔が赤くなる。


赤い顔と恥ずかしさを隠すためにわざと、男の子から渡すときはホワイトデーだよ、と言えば彼はこれは誕生日プレゼントだと騒いでいた。


「ありがと」


つぶやいた言葉が果たして彼に届いたかどうか、それは彼の真っ赤な耳が物語っている。


最後まで読んでいただきありがとうございます!

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