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めざせ!ダメおっさんマスター

作者: api

 そちらの世界では子供の夢と言えば野球選手やパイロット、あるいは公務員だろうか?

 その一方で、少なくともこちらの世界ではぶっちぎりで一番人気なのが「ダメおっさんマスター」である。


 ダメおっさんマスターとは、草むらに棲息しているダメおっさんを捕獲して戦わせる「ダメおっさんトレーナー」の王者である。 

 ダメおっさんエリートトレーナーたちにとっては焼酎を使ってダメおっさんを捕獲するのが一般的なのかもしれないが、比較的安価な発泡酒を使い頑張って捕獲した、このケンさんこそが私の今一番大切なパートナーだ。



 ――ついにここまできた。

 私は今、ダメおっさんリーグの決勝戦を迎えようとしている。


 本来ならば、リーグ戦で最後まで勝ち残ったうえで、さらに前回のダメおっさんマスターを倒して、そこで初めてダメおっさんマスターになれるのだ。

 だがなんと、今回の大会ではなぜかチャンピオンは出場していない。つまり、次の決勝戦が事実上のダメおっさんマスターをかけた戦いなのだ。


 最後の敵となったのは私のライバルでもあるコマツバラタウンのチヨちゃんだ。ひもQを鞭のように捌くその姿から、『アホのチヨちゃん』の異名を持つ。そんな彼女のパートナーであるダメおっさんのマサさんは、耐久力と攻撃力を兼ね揃えるタイプであり、素早さに全てをかけた我がケンさんの天敵でもあった。一筋縄ではいかないだろう。




 ――今、正に最終決戦が始まろうとしている。

 諸君らは既にご存じであろうが、ダメおっさんバトルはダメおっさんたちの挨拶に始まる。


「よろしく!」

 というマサさんの声に

「るーみーさん」

 とケンさんが応えた。


「なんだそのイントネーション?! 今なんて言ったの?!」


 対戦者のチヨちゃんが抗議の声を上げるが知ったことではない。ケンさんの訛りに一番苦労しているのはこの私だ。私が教えて欲しい。

 余談だが、その訛りのルーツを知るべく、ケンさんに生い立ちを聞いたことがあった。曰く、東京生まれの東京育ちらしい。なんだその訛りは。


 そうこう考えていると、早速ケンさんの速攻が決まろうとしていた。

 ケンさんがおもむろに懐から取り出したのは、鶴玉川マンパワー開発研究所の適性テストの結果だ。

 鶴玉川マンパワー開発研究所とは、うちの近所にある就職支援施設であり、一万円を支払い会員に申込むと、まずは適性テストを受けることができる。

 ケンさんが取り出したのはその結果用紙であり、そのには「適性:クリエイター」と書かれていた。


「ぐわー!! 会社生活に適合しなそうな奴に出される奴ーー!!」


 えらく説明的な悲鳴をあげて倒れるマサさん。必殺技「適合:クリエイター」の効果はまずまずのようだ。

 しかしここで反撃を受けては一発で終わらされてしまう。素早さを活かして連続攻撃をしかけなければならない。間髪入れずにケンさんが口を開く。


「なろう小説とか好きそう」


「ぐわー!! 結構市民権を得てきたと自分の中で納得させていたけどやっぱり人には言われなくない奴ーー!!」


 必殺技「なろう小説とか好きそう」に、続けて説明的な悲鳴をあげるマサさん。それでもまだ倒れてはくれない。


「そこまでのようね! 私のマサさんの反撃をくらいなさい!」


「それはどうかな?」


 ダメおっさんバトルにはコンボ攻撃というものが存在する。そう!「適合:クリエイター」と「なろう小説とか好きそう」が新たなコンボ攻撃を生み出すのだ!


「なろう小説とか書いてそう」


「ぐわー!! それだけは言われたくなかった!!……無念!」


 この速攻コンボ攻撃により、ついにマサさんを戦闘不能にした。

 とうとうこの私がダメおっさんマスターとなったのだ!


「見事ね! 流石は私のライバルだわ!」


チヨちゃんが麩菓子をナイフのように持ってポージングしながら言った。この姿から「アホのチヨちゃん」の異名を持つ。




 ダメおっさんマスターとなった私は、家では威張り倒し、学校では借りてきた猫のようにして毎日を過ごした。

 やがて学校も卒業し、実家にしがみつきながらもバイトで食い扶持だけは稼いで生活していた。

 パートナーのケンさんは

「下手に食い扶持だけは稼げているから危機感を持てていない。まるで昔の俺のようだ。」

 と言った。

 それ以来ケンさんとは口を聞いていない。


 そんな関係もあってか、バイト以外で家を出ることが億劫になっていた俺は、4年に一度のダメおっさんリーグのマスター防衛戦には出場せずに家で昼寝やゲームをして過ごすことにした。

 奇しくも、私がダメおっさんマスターとなった前大会と同じように、リーグ決勝戦が事実上のダメおっさんマスターをかけた戦いとなったのだった。


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