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32歳ニートの異世界譚  作者: たこ
4/7

第4話 嗚呼、絶望


なんていう事だ。

おっさんの話を総合するとこういう事だ。


この世界にはモンスターはおろか、魔法も、スキルも、ステータスも、ましてや科学もない。


俺が質問する度におっさんは怪訝そうな顔を強めていく。

そりゃ、そうだ。

俺が現世でそんな話をされたら同じような顔をするだろう。

それに対して呆然とする俺の顔を見ておっさんが話しかけてくる。


「…さっきからお前の言ってることって、まるでファンタジー小説みたいだな。まさか、小説の中から出てきた…何て言いださないだろうな?」


「ま、まさか…。多分、前にそういう小説を読んで記憶が混同してたん…じゃないんですかね。多分……。」


適当な言い訳をした。誤魔化せるかとうが分からないが、まぁしょうがない。

おっさんも不審そうだがこの話はここまでだ、あまり喋りすぎたらボロが出る。


それからは、この国やおっさのことなど他愛もない雑談をしながら食を進めた。

おっさんには嫁に加えて子供が2人いるらしい。

リア充かよ。クソ。


時間も12時を回ろうかというところ。

店が混みだしてきて、ほぼ満席といっていい客入りだ。

それに合わせて店を出ることにした。


店を出ると、再び強い日差しを浴びる。

「それじゃ、俺は仕事に戻る。また何かあったら呼んでくれ」

おっさんはそう言い残して手を振りながら屯所のほうへ戻っていった。


さて、これからどうするか。

なんか身体に力が入らないがとりあえず、おっさんに言った通り少し町の中をを歩いてみるか。

当てもなく足を動かし始めた。


見た感じどうやら町中には電線などなく電気は通っていないらしい。

電子の申し子たる俺には非常に残念だ。

せかっくだ、港のほうも見にいってみるか。


漁師だろうか、筋骨隆々な男たちが船から荷台を運び出している。

別の場所では魚を売買しているようだ。

生臭く苦手な臭いが、海の風に乗り遠くまで届いてくる。

近付くことを止め、別の方向に足を向けることにした。



町は思ったより広いらしく、1日ではとても回れそうにない。

足が棒のようなってきて、これ以上歩くのはどうにも辛い。

宿に戻ろうとして気付く。ここは何処だ。

如何せんはじめての場所だし、何より現世のような特徴的な建物が少なく似た形の民家が多く並んでいる。

何の気なしに歩いて失敗した。

完全なる迷子である。

クソっ。ほんとならGo◯gle検索で一発なのに。



何時間経っただろうか。

もう上がらぬくなった足を引きずりながら歩き回りなんとか見覚えのある通りに戻ってこれた。

記憶を辿りながらどうにか宿屋に帰還することができた。


部屋に戻るやまだ慣れぬ硬いベットに身体を預ける。

予想外の事で大分疲れた。


眼をつむり、足の疲れを癒す。

身体が落ち着くと昼間のおっさんとの会話を思い出す。


どうやらこの世界には異世界モノの『お約束』といえる要素は何もないらしい。

そりゃモンスターなんて実際いたら怖すぎるし、魔法なんてあったら色々世界を取り巻くバランスがヤバそうではある。

でもなー、こう、圧倒的チートは無くても一見役に立たなそうなスキルを持っていて、それが工夫すると実はとんでもない能力だった!とかステータスは低いけど、1つだけ飛び出てそれを有効活用してちやほやされる!的なのを期待してんだけど…


「…ステータスオープン!」


試しに声に出してみたが特に何も発生しない。

ただ、虚しさだけは発生した。


いや、正直なところ最初にきたときから何となくそんな気はしてんだ。

ファンタジー要素ねーなーって。昔の海外っぽいだけだなーって。

ワンチャン期待し、昼飯の時におっさんに訊いてみたが、最後の希望もこれで完全に消えた。


あーあ。

ないのかぁ…。


「………っ。うぐっ……。うっ、うっぅ…ぅぅ……。」


悔しくて少し涙がでてきた。


変われるかと思った。何も持たない俺も特別な力を得ることができると思ってた。

でも俺はここでも変われないんだ。

大して賢くもない頭と、すぐへばってしまう身体。

人とだって相変わらずうまくコミュニケーションとれない。

むしろ、住む家もなく、言葉すら読めない。ついでに足も痛い。

マイナスじゃねぇかクソ。


現世では辛いことは、他のことに熱中することで忘れてきた。

だがここにはネットもテレビもゲームも漫画もラノベもない。

娯楽がないのだ。

電気もなく暗い部屋を照らすのは備え付けの小さなランプだけ。


俺はこれから何を楽しみに生きていけばいいんだ。


少し腹が減ったが、飯を食べに行く気力も湧かない。

そのまま眼を閉じて朝を待つことにした。

暗い部屋はやだなぁ。




昨日と同じくらいの時間に目が覚める。

疲れと足の痛みはどうやら抜けきってないらしい。

久しぶりにあんなにも歩いたのだから仕方ないか。


さぁ、今後の為に何をするか。

まずは仕事を探す必要がある。仕事…。

15年以上無職とういうベテランニートの俺が急に、しかも異世界で働けるだろうか…?


無理である。


しかも文字が読めないときてる。

チラシや掲示板に求人があっても、そもそも応募ができない。

かと言って理解できたら応募すからといったら、しないだろうが。


とりあえず、この問題は後で。


次に住まい。

これも金がなければどうにもならない。

つまり仕事が必要である。

すると、先の問題点に戻る。


あれ、詰んでね?


俺は考えるのを止めた。

でもまだ、期限まで5日ほどある。

今日は昨日の疲れが残っており、イマイチ頭が働かないようだ。

今日は1日休養にあてよう。

明日から本気をだそう。

きっと現世の知識を生かした何ができるはずだ。


結局そのまま眼を閉じて、二度寝を決め込むことにした。


何度か軽く目を覚ますが、直ぐに寝直すことを繰り返す。



完全に覚醒した時には外の景色はオレンジ色に染まっていた。

時計を見やると5時を少し回ったころか。

今日はずっとベッドの上で過ごしていただけなのに腹は減る。

これは現世で幾度となく経験しているが不思議なモノである。


のそりと身体を起こし伸びをする。

備え付けの机に突っ込んでおいた金を手に取り食事に出掛けることにした。

どの程度必要かわからないので1番数字の大きいを1枚。


部屋を出るとフロントにいる店主と目が合った。

こっち見んな。


さぁ、何を食べようか。

周りをキョロキョロしながら飲食店を探す。


何やら看板が出ているが、当然読めない。

絵が描いてあるところもいくつかあるのでそれを当てにするか?

あの店は骨の付いた肉の絵、こっちの店はビールの絵。

う~ん迷うな。


しばらく歩いてると、急に目の前にチャラそうな男が立ち塞がる。


「お兄さん、お兄さん!何、今から飯?それとも飲み?」


なんだなんだ!?

あれか、客引きってやつか?異世界にもこんなのあるのか。

現世の客引きってのは外に出てなかったからあまり見たことないけど、まさかこんなところで経験するハメになるとは。


「しょ、食事です…」


「そーなの!丁度いい!この先においしい食べ物がでて、しかも隣に可愛い女の子が付くお店があるんだけど!」


ん?それってキャバク――


「よーしよし、とりあえず行ってみよ!ね!は~い1名様ご案内で~す!」


なに!?行くなんて一言も言ってないぞ。

抗議だ、抗議!


「あっ、あの、自分行くとは……」


「だーいじょうぶ、大丈夫!女の子みーんな可愛いから!ねっ?」


「いやっ……、その……」


「ほらほら、そこだよ!いい店でしょ!」


着いたその店は明らかにヤバそうなオーラを放っていた。

まずはボロい。そしてほの暗い。

他の店が大きなランプや篝火(かがりび)で照らしているのに対して入り口に申し訳程度の小さな蝋燭が置いてあるだけ。


俺は最後の抵抗意思として、進まぬようにグッと踏みとどまるが、意外と力強い男は関せずといった態度で肩を抱きその扉を開けてしまった――。 


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