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第2章「熾烈」瀾(二)

 死神(ヤマ)からの通信が終ると同時に、「死霊」達の面構えが凶悪になったような気がした。

 いや、こいつらが「見えている」と言っても、目から得られたのでは無い情報を、私の脳が無意識の内に視覚に置き換えているので、本当は何が起きているのかが逆に判らないのだが、ともかく、何かの事態の変化が有ったのは確かなようだ。

 そして、死霊達が私から離れる。いや、私に迫っていた以外の死霊も、ある特定の一人の元に向う。

 佐伯と共に居る太った男……おそらくは死霊使いであろう男の元に……。

「あ……あれ?」

「困った事になったわね。すぐに死霊を引っ込めなさい」

「いや……その……出来ないんです……」

 男は何とかして死霊の制御権を取り戻そうとしていたが駄目だったようだ。そして、死霊達は、死霊使いに襲いかかる。

 そして、死霊使いはパニくって逃げ出そうとしたが……あっ……敵であっても人が死ぬのは何度見ても嫌な感じだ。

 呼吸を整え、精神状態を平静に戻す。

 その時サイレンとヘリの音がした。

 だが、相手は異能力者の中でも更に数千人〜数十万人に1人しか居ない規格外の化物「神に選ばれた者」だ。制圧または殺害が目的である限り、警察や軍隊では、考え得る最良のケースでも「役立たず」だ。例え、異能力者から構成されていたり、対異能力者のノウハウ・経験を持つ特殊部隊であろうと同じ事だろう。

 逆に下手な真似をされたら、一〇年前のあの事件の二の舞いだ。

 むしろ、この状況で必要なのは、避難誘導や救護班だろう。

 先進国や、いわゆる新先進国では「あまりに強力な異能力者による破壊活動に対しては、むしろ大規模自然災害に準じた対応をすべき」と云う経験則が一般的になりつつある筈だが……。

「えっ⁇ 嘘だろ、これ……」

 起き上がって、辺りを見回して思わず溜息と共に愚痴が出てしまう。確かに、九州では、この規模の「異能力者」による犯罪は、そうそう起きないので、慣れてないのは仕方無いが……。

「瀾ちゃん大丈夫だったの?」

「高木、助かったぞ……レンジャー隊だ」

「……佐伯漣さんですね」

 私は佐伯に向かって、そう言った。

「え?」

「は?」

 驚いてる治水と望月は、とりあえず無視する。

「何故……えっと、私の事を知ってるのかしら?」

「有名人ですから……。で、こっちとしては、何もせずに広島に帰っていただけると有り難いのですが。それなら、無関係な人間が、誰も死なずに済む。あと、サインもらえますか? 部屋に飾っておきたい」

「どうやら、私がここまで来た目的も知ってるようね。で、貴方も、私の妹の巫女も、無事に家に帰せ、と」

「そう云う事です」

 待て。「私の妹の巫女」だと? こいつは、自分と神の区別が付かなくなっているのか? どう云う事だ?

「私が、その子を何もせずに帰すと思ってるのかしら?」

『満点じゃないが合格だ。何とか時間を引き伸ばせ。もう少しで準備が整う』

 死神(ヤマ)からの通信だ。

「じゃあ、そちらでも了承出来る次善の案を」

「何かしら」

「場所を変えましょう。喧嘩するにしても、無関係な人間を巻き込めば、後々、面倒な事になるのは、そっちも同じでしょう?」

「こっちは、面倒な事になるのを覚悟の上で、これだけの事をやったんだけど」

『おい、見習い。とりあえず俺が隙を作ったら、連れの2人と一緒に逃げろ。駐輪場の先の交差点で鬼子母神(ハーリティ)が待ってる』

 再び死神(ヤマ)からの通信。佐伯の後方に目を移すと、死霊使いの死体と、いつの間にか死神(ヤマ)が操る死霊に殺されていたらしい「エンコウ」がノロノロと立上る。

「そうですよね」

 佐伯に返事をすると同時に、一気に佐伯との距離を詰め、佐伯の顔からサングラスを取ると、後に飛び退いた。

 佐伯は何が起きたか瞬時には理解出来なかったようだ。佐伯にとっては、こちらの動きが読めていたのに何も出来なかった、と云うタネが想像も出来ない手品を見せられたようなモノだろう。

 そして、私は奪ったサングラスを佐伯に見せる。

 まぁ、要は、腕が違い過ぎるのと、満さんに協力してもらって、「相手の動きを予想出来る能力を持った相手」との戦い方を色々と工夫してきた結果だが。

「警告のつもり?」

「ダンスバトルでも申し込んだ方が良かったですか?」

 しかし、「隙を作る為の隙」を作るのには成功したようだ。

 死神(ヤマ)の支配下にある死霊に操られた2体のゾンビが佐伯を拘束する。一時凌ぎにしかならないが、鬼子母神(ハーリティ)に合流する時間ぐらいは稼げた筈だ。

『お前、何、危ない真似してんだ‼ まぁ、いい。行けっ‼』

 死神(ヤマ)からの再度の指示。

 その時、拡声器ごしでは有るが、聞き覚えが有る声がした。

「その児童達から離れろ‼ チビ助、治水、お前たちも、そいつらか離れろ‼」

 声の方を振り向く。

 『レコンキスタ』のレンジャー隊だ。副指揮官(ブルー)の強化服を着た男性が1名。パワー型(イエロー)の強化服を着た女性が1名。通常型(グリーン)の強化服を着た男性が3名。

 グリーンの3人は人数が足りてない上に慣れてもいないような避難誘導に手間取り、イエローはブルーに怒られてる。

「さ……桜姉さん……」

「あの人、レンジャー隊だったのか?……エリート部隊だよな……一応」

「どう云う意味だよ?」

「あ……失言だった。本人の前で言ったら、喧嘩になるような意味だ。それはともかく、治水、望月、逃げるぞ‼ こっちだ‼」

「え?」

「え?」

「理由は後で話す。早くしろ‼」

「治水‼ チビ助‼ 大丈夫か⁇ こっちに来い‼」

 だが、レンジャー隊のイエローがこっちに来る。

「おい、待て、イエロー、お前の身内だとしても、それは公私混同……。今、県警と消防とPKFと九州7県合同軍に救護班の出動を要請したから、それを待て」

 レンジャー隊のブルーの声。

 もし父さんや伯父さんの前で口にしたら確実に雷が落ちるレベルの悪口雑言罵詈讒謗が喉元まで出かかった。

 そして、小声で味方に通信。

死神(ヤマ)、今の状況見てます?』

『ああ……あの黄色いの知り合いなのか?』

『ちょっと、ややこしい事になってて……どこまで話せばよいか……』

『思わず愚痴っただけだ。話さなくていい。「同じチームのメンバー以外には自分の身元に関する情報は明かすな」がルールだろ』

『了解。では、プランBは有ります?』

 その時、眼鏡型のモニタに仏教の神「風天」を現わす梵字のアイコンが表示される。

『プランBか……。これから考える……』

 コードネーム「風天(ヴァーユ)」こと、通称「おっちゃん」が憂鬱そうな声で言った。

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