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1-8

円を描くように、その大きな刀は襲撃してきた。花は衝撃によって舞い散り、ナツキの体を吹き飛ばすのは難しくは無かった。

剣で防御したとはいえ、あの攻撃をそう何度も受けるのは拙い。ガミジンは見た目とは裏腹に速度は速く、一瞬にして距離を詰めてくる。

ナツキは何とかその攻撃を受け止め、回避に専念する。リゼットからのバックアップのおかげで、肉体強化による魔力切れはまず無い。

「サキュバス、何でその姿のままなの!?」

「月が出ていないと本気で戦えないのよ。言っておくけど、貴方包囲されてるから。」

「え?」

リゼットの周囲にはオールド・デビルンが集まって居た。

「仕方ないからこれあげるね。」

突然サキュバスはハルバートを召喚する。ギリギリの所でリゼットはそれを持ったが、まさかこれを使えというのだろうか。

「使えるの?」

「実を言うとこれ私のじゃないから。盗品かな。」

「まぁ、何でかは聞かないで置くけど。使い方は?」

精神干渉による念話で彼女の声を聴く。一秒も説明時間は要らなかった。

そのハルバートを両手で持ち、空へ向ける。

「バスターフォーム」

その一言により、ハルバートの形が変形した。刃の部分が割れ、赤い水晶玉が露出される。

そしてリゼットの魔力が動員される事で、その先に魔力の収束体がチャージされていく。

ナツキを従属にしているにも関わらず、リゼットは予想以上の魔力を感じ取って居た。

このハルバートが一体何なのか、それを確かめるために一撃を躊躇せず放った。

「ライジング・バースト!」

短語の詠唱により、魔力収束体は大きな閃光を生み出した。

その光によって多く居たオールド・デビルンは一瞬で倒されていく。その光景にガミジンも驚いて視ていた。

「何だ、あれは・・!?」

まさか自分が連れてきていた部隊が一瞬で消滅させられるとは思っていなかった。

あんな武器を持っている理由が思いつかずに居ると、ガミジンはぎりぎりの所でナツキからの攻撃を回避した。

「く、何を企んでいるのかは知らないが・・俺はこの程度では負けぬ!」

そのセリフの直後、また何かが結界の中に入ってくる。

今度はかなり大きな異形の魔物で、その姿を見た時は何かの悪夢かと思ってしまうほどだ。

「えっと、あれもお前の仲間か?」

「いや、違う・・拙い、ここは退散だ!」

ガミジンは他の三人よりも先に結界から脱出を試みるために走り去った。

あまりの早さに捕まえることは困難だが、今はリゼットの安全が先だった。

ただ、その前に異形の奇怪な頭から突然ビームが放たれ、地面を焼き払ってしまう。

「む、無茶苦茶だ・・!?」

「まさかあんな物まで出てくるなんて。リゼット、モテモテじゃない?」

「あれ、私が目当てなの!?」

「当然じゃない。あの生き物もリゼットの中に秘めている何かを狙っているんだから。捕まったら触手プレイはまったなあいたぁ!!?」

ハルバートで殴られてしまった。かなり痛そうだが大丈夫だろうか。

「もし次いったら叩き切るわよ。」

「それ、元は私のなのに。」

一応盗品のようだが。

「もういい。こうなったらこんな結界から出てやるんだから!」

「り、リゼット!?」

「ナツキ、こっちに来て!」

リゼットの近くに来ることはできたが、異形による攻撃は止まず更に強い閃光が放たれてくる。

リゼットは魔法障壁を展開し、更に別の術式を展開して集中する。自分が今まで300年居た結界の事は今更気にしていない。

「リゼット、奴がこっちに来る!」

サキュバスが焦っているが、リゼットの魔法はまだ完成されない。

異形の頭の前に魔法陣と魔力収束体が絡み合い、大きな閃光を放とうとする。

一体あの異形は何故攻撃してくるのか、ガミジンよりも行動が読めないその異形は止まる事なく攻撃を続ける。

閃光が放たれるが、そのリゼットが展開している魔法障壁に任せるしかなかった。

視界を覆うほどの巨光が発生し、そこでナツキの意識は一度失う事となる。




酷い夢を見ていたような気がする。むしろ夢であってほしいのだが、ただあの世界の中で彼女は自分の本心を一度も話していない気がする。

本当はずっと外に出たかったのかもしれない。ただその切っ掛けを見つける事ができなかっただけで。

リゼットが300年前に経験したことを知る事は困難なのは確かで、彼女の苦しみを理解できるかどうかは想像するしかなかった。


目を開ける。ベッドの上に居るのだろうか。

柔らかい布団の中で目覚めるが、体は割と結構痛覚があった。

「お目覚めですか?」

誰かよく知らない声が聞こえた。

ぼんやりとした頭を右に向けると、確かにその人物はよく知らない女性だった。

エルフ、だろうか。金髪のその女性が居る限りでは、ナツキは元の世界に戻って来たのだろうか。

「君、は・・?」

「私はミリア。ミリリンとでも呼んでください。」

長くなってるし、ミリアでいいだろう。

起き上がろうとするが、痛覚がわりときつい。自分は一体どれぐらい寝ていたんだろうか。

「駄目ですよ?ねむって三日ぐらいは安静にしていたんですから。」

「リゼットは・・?」

「今、お呼び致しますね。」

そうして、ミリアはリゼットを呼ぶために部屋の中から出て行く。

「待って。」

「はい?」

「一応聞いておきたいんだけど。今、どの国に居るの?」

「リディア王国ですけど。」

エストベルではなく、よりにもよってリディアに居るとは。運がいいのか悪いのかよく分からなくなってきてしまう。



リゼットとサキュバスが来て、とりあえず二人が無事だということは分かった。

ナツキだけ気絶している時間が長かったのは、空間転移による衝撃に耐える能力が足りていなかったかららしい。サキュバスは慣れっこだが、ナツキは殆ど未経験。リゼットは持ち前の魔法の術式コントロールで何とか無事にこれたらしい。

「一応二人とも無事でよかったけど。結局、あの結界はどうなったのかな。」

「さぁ。あの怪物に木っ端みじんにされたんじゃない?」

「嫌じゃないのか?」

「どうせ忘れるわ。大体、貴方にキスされたせいでそれどころじゃなかったもの。」

「へぇ。」

ミリアにしっかり聞かれているし、サキュバスもマスコットモードになっているから分かりにくいがにやにやしているのは確かだ。

「私も努力した甲斐はあったわね。」

「むしろ、ナツキには責任を取ってほしいんだけど。ここまで来てしまったのだから。」

「せ、責任・・。」

確かに責任はあるだろうけれど。あの状況ではああするしかなかったわけで。

「とりあえず、リディア王国の森の中に私たちは転移して・・それで気絶している間あのエルフに捕まったのよね。」

「捕まった?」

ミリアは別に敵対心を持っているようには見えないのだが。

「この森は人間が立ち入れない領域なんです。エルフの一族、エンデュミオンの掟でして。申し訳ないのですが、一週間ほどこの部屋に拘留させていただきます。」

「あぁ、そういう事。」

エルフは卓越した魔法と狩猟によって生計を立てる種族で、基本的には人間よりも小さな集団を形成して生活している。

そのためルールも独自で、人間に比べるとかなり古風な習慣を持っている事が多い。

不可侵条約があるのも、エルフは古来から秘密にしている神域に人間を近づけさせないようにしている事もあるからだ。

「私は貴方たちには敵意が無いということは信じていますが、長老や軍閥は警戒を解いていません。何かあれば近くの衛兵に相談してくれると助かります。それでは、私はこれで失礼しますね。」

そう言ってミリアは御辞儀し、部屋から出て行った。そして、鍵が閉められる音も聞こえた事から、完全に閉じ込められている事を理解した。

まさか結界の中から脱出して、エルフに捕まって幽閉されるとは思っていなかった。正直、エストベルの領域の中に出ると思っていたのだが。今はリゼットとサキュバスが無事だというだけでもいいだろう。


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