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1-3

その結界から出る方法を探していたが、ナツキは何も見つけられず数日後に諦めてしまった。

屋敷の屋根の上に寝そべり、曇り空を眺める。リゼットの説明が正しければ、異界の種族の血が見せている幻覚のようなものらしいが。

もっと正確な情報を知る事が出来なければこの世界から出る方法は無い。

何かもっと他に情報はあるのか考えても、ただ時間が過ぎるばかりだった。

確かにこのまま続けば考えることも放棄してしまいそうで、リゼットはこの世界に何故耐えられるのか不思議だった。

「ん?」

ふと、何か聴こえる。

庭園の方から、リゼットの歌声が聞こえていた。

何処かなつかしさを感じる歌声だが、リゼットの歌声を聴くのは今日が初めてだった。

意外な特技を持っている。けれど、聴く相手がごく少数なのが残念ではある。

「別に、歌っても世界は変わらないか。」

一応期待してしまったが、この世界が変わるほどの力は持っていない。

ナツキは仕方なく、彼女の歌声を聴いているしかなかった。



ナツキが死ぬ直前に、仲間が必死に助けようとしていたのを思い出してきた。

それは危険なドラゴンを討伐していた時の出来事だった。標高の高い山の頂上で、ナツキは黒く大きなドラゴンを奇襲して倒そうとしていた。

作戦通り、ナツキはドラゴンの背中に剣を突き刺す事に成功した。そこで驚いたドラゴンは浮上し、そこを狙って別の所から仲間が魔法でドラゴンを攻撃する。

純魔力による射撃がドラゴンの腹に命中し、そのドラゴンは大きな鳴き声を上げた。

このまま行けば倒せる可能性は十分あったが、そのドラゴンの血を受けた時にナツキは奇妙な悪寒を感じた。

すぐにドラゴンから離れようと剣を引き離そうとしたが、それも遅くドラゴンが放った黒い炎が舞い上がる。

この時ドラゴンの種別は不明で、おおよそ雑種のドラゴンが適当な山脈を根城にしていると思い込んでいた。

今思えば、そのドラゴンを討伐して手柄を立てようと思わずに観測していればよかったのかもしれない。

その黒い炎は山脈の頂上を破壊し、強烈な爆発を発生させた。

生まれて初めて山が消し飛ばされるほどの爆発を経験し、ナツキは爆風に吹き飛ばされてしまった。

記憶が蘇り、ナツキはようやく自分が死んだ理由を整理できていた。

まさか自分が死ぬとは思っていなかったが、今更自分の浅はかな行為を嘆いても仕方が無い。

「今頃あいつは何をしているんだろうな。」

妹のレナ、仲間のジギル、フレイア、リッド。その他色々な人を思い出すが、ナツキにとってはどうしようもないことだ。

「今日はいい天気ね。」

サキュバスがいつの間にか横に居た。

何で曇り空がいい天気なのかは謎だが、悪魔だからそういう感じになるのだろう。

「リゼットの歌、綺麗でしょう?」

「あぁ。」

「リゼットが覚えている記憶の断片。つまり、彼女がこの結界に囚われる前にあった歌になるの。」

「自分で考えたわけじゃないんだな。」

「リゼットならできそうだけど。彼女、ピアノも弾けるし。」

「魔女だからか?」

「いいえ。昔の彼女の事はよく知らないもの。私は彼女の面倒を見ているだけだから。」

「本当に何者なんだお前・・?」

「そんなに知りたいの?」

「何か知って居そうだからな。大体、リゼットの面倒を見ている時点でお前も普通じゃないんだ。」

「えぇ。確かに私は普通じゃないけど。でも、そう怒ることでもないでしょ?」

「怒る・・?」

そう怒っているように見えたのだろうか。

「リゼットもナツキも、基本的にこの世界の短所を理解できていない。リゼットがこの世界から本当に出たいと思えば、いつだって出られるの。」

「本当か?」

「えぇ。この結界は彼女を閉じ込めるために作られた物。けれど、彼女の力さえあればいつでも出られるほど拘束力は無いの。リゼットが覚えていないだけ、リゼットが忘れているだけで本当はすぐにこんな幻想は壊れる。」

「じゃぁ、リゼットが本気をだせばすぐに出られるのか?」

「えぇ。私は止めないけれど、貴方はどうしたい?」

「それは・・。」

「リゼットと一緒に居たい?」

「何でそうなる?」

「私としては、ナツキとリゼットはドラマチックに恋をしてもらいたいんだけれど。どうして進展しないのかしら?」

「お前は何をしたいんだ?」

「愛のキューピット役の小悪魔、というところかしら。」

「お前、実はかなり馬鹿にしているだろ。」

「してないわよ。じゃ、私はちょっと用事があるから。リゼットの面倒をよろしく。」

「え?」

突然サキュバスは離れ、どこかへ消えていった。

今もまだリゼットは歌い続けている。その声を聴いて、ナツキは本当に彼女の力によってこの世界から出られるのか。疑念はあった。



そしてまた夜。サキュバスが居ないおかげでかなり静かに感じていた。

しかし、その安静の時間も短い。

ナツキの知る限り、悪魔という種族は元々は別の世界から来た存在だという。

異界から何らかの方法でナツキが居た世界へ移住してきたその種族の力は強く、その残忍さから魔族と呼ばれていた。

その魔族は今の時点ではかなり少数派に等しい。理由として、魔族が必要とする闇系統の魔力が少ないのが原因らしい。

「これは・・?」

庭園を歩いていた時、何か地面に黒い穴が出来た。

その穴からゆっくりと、人型の何かが湧き出てくる。

「魔族・・?」

サキュバスもその魔族だが、まさか今頃戻って来たのだろうか。

しかし、実際はサキュバスでもない。悪魔的な外観をしたその存在は、ナツキを確認し襲い掛かって来た。

「っ!?」

大きな翼を生やし、尖った爪をナツキへ向ける。一瞬驚いたものの、体は冷静さを失わずに剣でその腕を切り裂いた。

屋敷の中にあった名剣、その切れ味は思った以上に鋭かった。

更に追い打ちをかけて、ナツキは問答無用でその悪魔の首を切り落とした。

襲ってきた魔物は再起不能となり、砂となる。

「何だこいつ・・!?」

今のが終わりでもなく、また次から次へと同じ悪魔が現れてくる。

これではリゼットにも危険が及ぶ可能性があるが、今彼女が何処に居るか分からない。

攻撃してくる悪魔に応戦して、ナツキはリゼットを探すために走り出す。



リゼットは屋敷の裏側にある庭園に居た。そこに来る間に10体ほど悪魔を倒したが、彼女の所には来なかったのだろうか。

彼女には傷はなく、ただ月を視ているだけだった。

「リゼット、大丈夫か?」

「えぇ。あの程度の敵には・・そう簡単には死なないわ。」

「あれと戦ったのか?」

「この結界の中に定期的に入ってくる魔族。オールド・デビルンは特に一週間に一度は襲ってくるのよね。」

「オールド・・?」

「異界に住む野蛮な一族で、サキュバスがもっとも嫌いな一族みたい。」

「あいつが嫌いなものもあるのか。」

「ブサイクだからじゃない?」

「サキュバスが色情狂なのはともかく、怪我はしていないのか?」

「そんなに私の事が心配?」

小馬鹿にしたような表情だったが、リゼットが戦っている所は見てみたい気もする。

「・・リゼットは、この世界から出たいと思わないのか?」

「え?」

「こんな場所にずっと居るより、外の世界に出てもっと色んな場所に行きたいと感じないのか?」

「私には分からない。どんな手を使ったところで出られるわけないもの。」

「サキュバスは、お前が本気を出せば結界から出れるって言っていたけど。」

「あの馬鹿が?」

かなり酷い言い方のような気がするが、今は細かい事は気にしないでおこう。

それよりも、リゼット自身は出られないと思っているのは・・やはり過去の事を忘れているからなんだろうか。



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