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1-2

リゼットが覚えている限りでは300年は結界の中に閉じ込められている。

昔起きた戦乱の中で、リゼットは王国が攻め滅ぼされた元凶とされたらしい。

その前にもリゼットは動乱の時代の中で何人もの王族を殺害した経緯がある。

元は庶民の間に産まれた少女でしかない彼女は、何らかの理由で魔法使いとなった。

宮廷に招かれるほど有名な存在になった彼女は、王族の政権争いに巻き込まれることとなる。

「17にして不老不死となった彼女は魔女と恐れられ、同族であるはずの魔術師からも嫌われた。」

屋敷にあった歴史書は、サキュバスが持ってきた物らしい。

ベアトリスによる王朝から派生したエストベル王国の年代記。

エストベルは帝国の分裂により起きた戦乱の中で勝ち抜いた国家で、リゼット・フローレンスはエストベルを苦しめていたリディア王国の重臣と書かれている。

リディア王国は軍事には優れていたが、帝国の衰退により大きく経済が悪化する。

帝国に従属していたリディア王国は、帝国の安定のために分裂したエストベルを制圧しようとする。

リゼットはこの時に何らかの理由でエストベルに味方しており、その反逆罪により彼女は結界に閉じ込められた。

しかし、リゼットはこの時のことはあまり覚えていないという。

「サキュバスも、結局自分が何者かは明確には言わない。」

僕は適当に本を片付け、外へ出た。

暗く、大きな月が見える。非常に大きく見えるが、本物の月ではないはずだ。

裏庭の方へ歩いていく。そこには白い花が一面に広がり、その中央にリゼットがいた。

「貴方…」

「君はここにずっと居るつもりなのか?」

「分からない。もしかしたら、私をこの庭園に閉じ込めた本人にすら忘れられているかも。」

「じゃあ、仕方ないか。」

「貴方はどうして、ここに来たの?」

「サキュバスが言うには、何かこの結界の魔法に縁があって、魂が吸い寄せられたらしい。」

「そう。」

「だから、元の世界に戻ろうとしても今頃は身体を火葬されてるだろうし。殆ど死んでるのも当然かな。」

「誰かに、殺されたの?」

「魔物退治の時に何かあった気がするんだけど。うまく思い出せない。」

「名前。」

「え?」

「だから、名前。まだ、聞いてない。」

「そうだった。」

かなり、今更のような気がする。

冷たい夜風がどこか寂しそうで、リゼットはこの世界の中にずっと一人でいたのだろうか。

「ナツキ。元討伐ギルドの人間だ。」

「ナツキは、この庭園から出たい?」

「出たとしても、僕はもう死んでるからね。」

「この結界は、異界の魔物の血によって出来た世界だから。その魔物の血はそのまま私を侵食しているの。」

「初耳だな。それは最初から知っていたのか?」

「いいえ。つい最近思い出しただけ。わかったからといって、すぐに出られるわけじゃない。」

「昔の人は、リゼットに何か恨みでもあったのかな。」

「魔女である時点で、恨みなんていくらでも思いつくわ。」

ナツキが記憶している歴史では、リゼットという魔女は何人もの人間を殺している。少女でありながら彼女は軍隊の実験を握り、王の命令に従って行動する。

リゼットが生きていた当時の世界はとても殺伐としており、その原因として経済の衰退と政治家の専横があった。

魔物が増加したことにより農地が荒らされる事もあって、その時代の人間たちの殆どは死を覚悟し生きていた。

それも過去の事だがリゼットはこんな状態のままで、いつまで生きるつもりなんだろうか。

「サキュバスは、どう思うのかな。」

「あのセクハラ悪魔なら、殺しても構わないわ。」

「殺すって。」

かなり物騒なことを言っているが、サキュバスはリゼットに何をしたのか。

殺意を持たれた時点で殆ど交渉は失敗しているような気がする。

「ねえ。ナツキはこの世界がつまらないのなら、一つ方法があるわ。」

この世界から出る方法はまだ他にあると言うのか。

「出る、というか終わらせると言った方がいいわね。」

「君、それって僕に死ねって言ってるもんだろ。」

「死にたくないの?」

「どうだろう。君のことも興味はあるし。」

「きもっ」

今、物凄く真面目な話をしているのに。

リゼットはあまり性格がよろしくないようだ。

「サキュバスは、私を侵食する魔物に関係する種族らしいけど。彼女から何か聞き出せれば、何か分かるかもしれない。この結界に飽きて飛び降りるのは自由だけど。」

まさか本当に飛び降りるわけにもいかない。サキュバスが何か知っているかもしれないので、彼女とまた話をしてみよう。

「リゼットは辛くないのか?」

「よく分からない。余りにも時間が経ち過ぎたから。自分の過去が知識にしか感じない。でも、それは貴方には関係ない話しじゃない?」

「一応、話くらいは聞いておきたい。」

「そう。」

結局リゼットはその庭園にずっと居た。何の品種かもよく分からない花の中で、彼女は何を考えているのか。


結界の中に入ってから何日かは経った。

死んだ後の僕は、お腹をすくことはないが魔力が必要だった。

それを聞いたサキュバスは今こそリゼットと愛の誓いをと意味の分からないことを言っていた。

生憎、月の光で変質した空気中の魔力を溜め込むだけでも問題はなかった。

むしろ飛び降りる以外にも自滅する方法があったが、今は考えないようにしよう。

「サキュバスは、結局何者なんだ?」

「聞きたい?聞きたいでしょ?聞きたいわよね?」

「やっぱり今日も外の掃除するわ。」

「ナツキ先輩は放課後の掃除に熱心なようだけど。私とも遊びましょう?」

放課後って何だ?とギルドで教育を受けた事しかないナツキは不思議がっていた。

「かなり嫌な予感しかしない。」

夜中に悪戯で人の服を女性用のものに入れ替えたぐらいだ。

また何かする理由は十分ある。

「ていうか人の物を勝手に入れ替えてるけど。あれって何処で手に入れた物なんだ?」

「乙女の秘密よ。」

「じゃぁ、あのものすごく淫らな本は何だ?特に深夜に起きた狼同士オスの劣情とか何処で売ってたんだ?」

「え?あれは私が描いた神聖な二次創作よ。」

「つまり、元は人が描いた作品をお前は淫らな二次創作妄想として利用したと。」

「私の愛を形にした漫画なのよ。」

「どの時代でも禁書扱いにされそうな内容だった気がするが・・。そもそもそんな物持ち運べるんだったらリゼットを外に出せないか?」

「んー。貴方とリゼットを外に出すのは物を持ち運ぶのと違うというか。魂?がそもそもこの地に根付いているから。もし寂しいのであれば子供を増やすという手段も私は許可するわ。」

「お前、いつかリゼットに殺されるぞ。」

「いつの時代も人間はラブアンドデストロイよ。」

意味不明な言動をしているが、どっちにしろ迷惑すぎて今すぐに幽閉したかった。

「とりあえず、適当な事を言って人に迷惑をかけるのを止めろ。あとできれば俺の服も用意してくれると・・。」

「それならばっちり。純真な乙女が通う聖ブリランテ女学園の制服を一着手に入れました!」

「お前は俺に女装させて何がしたいんだ?男性用の服は?」

「あの学園の制服を手に入れるのに物凄く時間がかかったんですから。少しは誉めてくれてもいいじゃない?」

「その制服は窃盗品だろ?」

「いいえ。新品です残念ながら。あの学園、私みたいな悪魔に敏感なのか、サーチアンドデストロイ的に襲い掛かってくるのよね。」

「はぁ・・。どうせ頭の中で変な事を考えていたから不審者にしか見えなかったんだろ?」

「乙女の学園の中で百合カップルがイチャイチャする光景を見たかっただけなのに、世の中薄情よ。」

「劣情を抱えていたんだから仕方が無いだろ。少しは頭を使え。」

「頭ぐらい使っているわ。頭の中で少女たちの会話イベントを網羅するなんてサキュバスには楽勝だもの。」

「何の話だ・・?それで、お前は何でそんな馬鹿なんだ?」

「馬鹿じゃありません。私は基本秀才で通ってるんで。」

「リゼットに殺されそうなセリフだな・・。」

「大体、私だって苦労して手に入れた戦利品をどうして活用しないのよ。」

「その戦利品のほぼ半分以上がR18指定だからだよ。調子に乗ってそんな物集めるとすぐに屋敷の中いっぱいになるぞ。」

「えー?300年間そんな事一度も無かったんだけど。何で?」

300年間そんな事をして気が付かなかったサキュバスはある意味天才だった。リゼットは更に効率よく不要な物は全部、この世界の奈落へ捨てている。捨てられた物は問答無用で原子レベルにまで分解されるため、自然破壊にすらならない。

「サキュバスの頭のおかしい部分はともかく・・。どうしてそんな恰好なんだ?」

「この恰好はサキュバスの正装だけど。」

「その恰好で学園に入ったのか?」

「そりゃぁもう。」

こいつは真正のアホなのか。

「私の姿を見た男には問答無用で魅惑の魔法をプレゼントできる、一種の呪いのアイテムなのよ。あれ?冷静に考えたらなんで貴方にはきかないのかしら。」

「さぁ・・。」

「理不尽すぎるわ。」

「何が理不尽なのかさっぱり分からないけど。もし俺がサキュバスに欲情したらどうする気なんだ?」

「え?やだ、きもい。」

「お前といいリゼットといい言っていることとやっていること滅茶苦茶だな。」

「私、おとこのひと怖いし。」

「嘘をつけ。毎晩人に淫夢を見せやがって。でも、それでサキュバス自信が見たりしないのか?」

「本当はそういう事をしてみたい気持ちもあるんだけれど、神の指令により一線を越える事は許されないのよ。何故か私にも分からないけれど、絶対的な意思によって私の貞操は守られているの。」

「何だそれ・・?」

「だから、私はそういう意味では聖女とほぼ同格の悪魔だということ。人間に夢だけを見せて、現実には決して成熟しない。私のような悪魔に支配された人間はどんな奴だろうと夢に恋をし、夢に抱かれ続ける一生を得るの。だからずっと童貞処女のままだし、ずっと清らかな人間で居られる。そういう意味では私は人を守護していると過言ではないの分かる?」

「分かりません。」

「はぁ?今の話聞いてたの?」

何で怒られているのかさっぱりよく分からないのだが。

そういう意味では、サキュバスは基本的には普通の女の子と変わらないのか?

「でも、それで聖女と同格って無理がありすぎないか?現実でも人を誘惑しているだろ?」

「確かにそうだけれど。でもサキュバスという悪魔はそういった人の欲情という感情のリンクを利用して精神を冒すのが得意だから。そうして、人から魔力を吸い上げて自分の糧とするの。だから馬鹿な男が居れば居るほど私は彼らから魔力を吸い上げられる。ある一種のアイドルとして祭り上げられれば、私はより力を増強できる事になるんだけど。そういう魔法に詳しい人が一人でも居ると、私に逆に精神を冒してくる人も居るから厄介なのよね。リゼットに以前、物凄くエロい夢を見せようとしたら逆に大型動物の見たくも無い○○なシーンを延々と流されて・・死にそうだったわ。」

「お前でも死にたいという気持ちはあるんだな・・。ていうか、リゼットも何やってるんだ。」

「私の魔法を研究したんでしょうね。ちょっと魔法の術式さえ知れば、例えその映像は見なくてもいいから。設定だけを変更して画像の情報だけを流し込む、彼女はサキュバスの魔法ですら簡単に解読してしまえる逸材なのよ。ちょっと惜しいわ。」

「リゼットにはかなり同情するというか、流石にサキュバスも人に迷惑をかけすぎじゃないか?」

「私にとって大切な魔力収集だもの。リゼットをデレさせるためには貴方をも利用しなくてはいけないわ。」

「お前にとってリゼットは一体なんなんだ・・。」

「処女よ。」

「・・・・・・。」

僕は一体何と喋って居るんだろうか。

「まぁ、私にとって大切な活動である以上、貴方に渡せる服装はこの女学園の麗しい制服しかないのよ!」

何処から出したのか、サキュバスはその女学園の女子制服を見せつける。

かなり派手というか、本当に制服として正しいのかよく分からない制服だが。

「さぁ、今すぐにでもこれを着てもらうわ。」

「俺に女装させて何をしたいんだお前!?」

「んー。何というか、悪魔的な観察眼として貴方は女装したほうがいいという謎の考えがあって。大丈夫です。私、こういうのは得意だから。」

「それを着たとしても誰も喜ばないからお前が着ろ!」

「私がですか?全く、サイズがそもそも合わな・・あれ?これ、ナツキさんとサイズ合わないじゃない・・。」

「それ、一体どうやって手に入れたんだっけ。」

「適当に注文しただけ。あれ?でもサイズは確かに指定したはずなんだけど・・?」

「さぁ。注文されが側がミスったんだろ。いいからお前が着ろ、そっちの方が似合うから。」

「えー?そんなに私の制服姿が見たいのかしら。」

「とりあえずそのSMみたいな服装よりはマシなんじゃないか?」

「ちぇー。仕方が無いわね。でもこの服もマンネリだから、確かに私も着替えた方がリゼットの好感度が上がるかもしれないわね。」

「どんな好感度だよ・・。」

「ちょっと待って。今脱ぐから。」

「ここで脱ぐなっ!?」

突然サキュバスは脱ぎ始めた。人が居ないとはいえ、いきなりその場で着替えるのはどうかと思われる。


着替えたおかげで、サキュバスのイメージもまた異なるものとなっていた。

「どう?今すぐにでも私の奴隷になりたくなった?それともしたいほう?」

「その言動さえ無かったら評価できただろうに。」

「でも私はリゼットのために生きているから、今の所は貴方がどんな欲情をしても私の好感度は上がらないわね。」

自信過剰すぎた。

「で、この服はどうすればいいの?」

「脱ぐと何だか変な物体みたいだな・・。」

しかし、こうしてみると本当にサキュバスも10代の女の子にしか見えない。

「サキュバスは今何歳?」

「女性に向かって何て言い方。私はこう見えても少女なのよ?」

「適当に聞いてみただけだよ。」

「えーっとねー今3歳程度かしら。」

「精神年齢ならまだ分かるだろうけど。実年齢はかなり高いだろ。」

「私に向かって実年齢を言えだなんて侮辱、不敬罪だと思わないの?」

「あの変な恰好をしているくらいだから性癖で考えれば軽く俺の倍以上は言ってるぐぁは!!?」

普通に殴られた。尻尾で殴られたとはいえ、その威力は割とでかい。

「よくも人を性癖で判断してくれやがったわね!リゼットにちくってやるんだから!!!」

精神年齢低いセリフを吐き捨て、サキュバスは何処かへ走って行った。多分リゼットの所だろうけど、何が起きるかは分かりきっている。

「いつまでこんなことしてればいいんだ?」

この結界の中に閉じ込められた後、気晴らしに本を読んだり掃除をしたりしている。

その行為は最初はいいが、何度もやると流石に飽きてしまう。

リゼットはずっと屋敷や庭園の中で何かしているが、外に出ようとは考えていない。

もしかしたら、ずっと結界の中に僕たちは居なければいけないのだろうか。


サキュバスはリゼットの部屋の中に突撃する。

「うわーん!!リゼえもーん!!」

その部屋の中で本を読んでいたリゼットは、無言で抱きついてくるサキュバスを叩き落とした。

「床も貴方も冷たいわ。」

「上手いこと言ったつもり?」

「私、ナツキにセクハラされたわ。」

「いっそのこと襲われればいいのだけど。ナツキは貴方には眼中にないものね。」

「アウト・オブ・眼中だなんて、私はどうしたらいいの?」

「意味不明だし古い。」

しっしっ、と犬を追い払うような動作をしたリゼット。彼女に負けずサキュバスは立ち上がって彼女に抱きついた。

「リゼットはずっと何してんのよ。殆ど本を読んでばかりじゃない。」

「まだこの小説の第180章までしか読んでいないもの。」

「その本、後1000章はあるわよ?」

「貴方が持ってきたんでしょう?」

「私の家に置くには重すぎてね。私のことはどうでもいいのよ。」

「貴方ならナツキと一緒に子供を作れるんじゃはい?」

「人の話聞く気ゼロね!何で私がナツキとえ、エッチなことしなくちゃいけないのよ!?」

人に言われる側になると異常な赤面をするサキュバス、リゼットは彼女の扱いを理解していたが鬱陶しかった。

「貴方、サキュバスでしょう?」

「私は乙女だから、聖女マリア並みに私は清い悪魔なの。」

かなりいらっとしたが、どっちにしろサキュバスを相手にはしたくない。

「そう。汚らわしいからあっち行ってくれる?」

「何でナツキもリゼットもクールなの?少しは欲情しろー!!」

謎のキレ方をしたサキュバスはリゼットに飛びかかったが、リゼットの攻撃魔法によって軽く撃退された。

全身に駆け巡る電撃によってサキュバスは30分程度は身動きが取れないだろう。



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