貸し借り
「えっと・・・ナルミさんはお金持ってないんですか?」
「恥ずかしながら・・・
お金も見たことなくて・・・」
ファステ町に入るには通行税が必要らしく
アルスから説明されてお金が無いことを伝えると
驚かれた。
「クッガハハハ!
あんちゃんは今までどんな生活してきたんだよ
あんちゃんぐらいの年頃の男なら
都会で一発当てようと外に出るのによお!」
「ハハハ・・・田舎に祖父母が居たので
看護しながら死去するまで過ごしてまして…
猟師になるつもりだったんですが
祖父母の言葉で『世界を知りなさい』と言われて
外に出たんですが・・・
早速道に迷いまして・・・」
咄嗟に考えた設定だがどうだろう?
異世界物では良くある設定だからいけるかな?
「ウッウッウッ…ウオオオオン・・・」
え?熊が叫びだした!?いや泣き出したのか?
「お、お前さん苦労したんだなあ…
ウゥ…良いじじばばに恵まれてよかったなぁ…
よし!ここは俺の奢りだ!持ってけチキショー!」
熊さんからお金を渡されたけど良いの?
ナルミが悩んでると
「ちょ、ちょっと?アビットさん!?
別にお金を渡さなくても
私達が証明すれば良いのでは?」
「ん?そう言えばそうか!
よし、あんちゃん金返してくれ!
酒代が無くなる!」
「ええ!?」
渡しといて何?その理由?
酒代が無くなるって?
「ほら!何悩んでんだよ!
渡した本人が返せといってんだ!
さっさと返さねえと町に入れねえぞ?」
「横暴だよね!?」
「アビットさん?何言ってんですか…
後で渡した分立て替えて上げますから
そのまま渡してくださいね?」
アルスが宥めるように告げると
「え!まじで!?ラッキー!
んじゃ酒樽2個で頼むわ!」
「いや、そんなに金渡してないでしょ!?」
「良いじゃんかよ!
アルスは稼いでんだからそのぐらい良いだろ?」
「稼いでる額は同じだと思いますけどね?
はぁ・・・良いですよ…
酒樽1個で我慢してくださいね?」
アルスが溜め息を吐きながら告げると
アビットは笑顔で喜ぶ。
「あ、アルスさん?大丈夫ですか?」
「ナルミさん…いつもの事なので大丈夫ですよ…
お金は受け取ってくださいね?
そのお金で宿を取れば1週間は寝食出来ると
思いますので…」
「分かりました…では遠慮なく頂きます…」
頂きますと言った時のアルスの顔は
一瞬だけ曇り笑顔を作りナルミに
笑いかける。
話していると目指していた町に辿り着いた。
ファステ町。
門番が1人1人に優しく接客している。
入る列に並ぼうとすると
「ナルミさんは僕達が保証するので
並ばなくても良いですよ?」
アルスに言われて列を横目に見ながら
町へと入った。