80ゲーム、人生死ぬことを除いたやり直しはいつだってできる、そしてそれはゲームの世界でシミュレーションできる
「そういえばラク殿、2人を新たな動画編集部に連れて来たということは……」
「うん、2人とも4月からうちに入ってくれるんだって!」
「いきなり新入部員ゲットって幸先良すぎやろ」
「もちろん僕が誘ったわけなんだけど、今回の付き合いをきっかけにってわけじゃないんだよ」
「じゃあ2人も能動的に動画編集をしたいと?」
「蘭は少し怪しいけど、私は少なくともやりたいことがあるんです」
「へぇ、どんな動画? というかついにミルチューバ―化するの?」
「いえ、顔出しはもちろんできません。作業用や睡眠用のBGMを作りたいんです」
「へぇ、あれ作りたいんだ……」
「はい、なかなか良いBGMがミルチューブの中になかったので、ならばいっそ作りたいなと」
「良いね、そういう思考好きだぜ」
「原曲を繋ぎ合わせるやつ作るの? メドレー的な?」
「それも良いですけど、私ならピアノや他の楽器でも再現できますのでアレンジしたり、あるいはオリジナルを作ることも」
「えぇすっげ!」
「じゃあ私ドラムとか録ってみようかなぁ」
「2人とも楽器が弾けるってどんな家系よ……」
「言おうと思ってたことなんですけどね……。私たち白石家は音楽業界ならそれなりに有名な家系でして、だから私は小さい時から音楽の英才教育を受けてました」
「あーそんなエリートならうちの高校来るのも納得やわ」
「私は……? 蘭さんは?」
「私は途中でスポーツやりたかったからやめたっす。でも絶対音感とリズム取るのには自信あるっす!」
「その代わり音痴ですけどね」
「絶対音感持ってるのに音痴なんでござるか?」
「ありえることはありえるよ。聴くことと口に出すことは別ものだから」
「カスキさんでしたよね、音楽詳しいんですか?」
「カスキくんはうちの中では一番歌が上手いけど、音楽知識とかは僕のほうがあるかな……」
「J-POPやアニソンとかエンタメ系の歌うこと専門って感じだからな」
「何でちょっと威張っとんねん」
「そうですか……」
「じゃあカスキ先輩も私と同じくらいの価値観っすね! なあなあの距離感で良いっすよね音楽は!」
「イエイ!」
「もう仲良くなってるでござる」
「話を戻しますけど、そんな感じでもよろしいでしょうか?」
「うん、全然問題ないっていうか僕以外みんなまだ編集の技術持ってないし……。この部活は一応作り終えるまでが最終目標だから、依頼したもの以外世に発信するかは個人それぞれが自由に決めて良いってことで申請してるんだ。ただ不特定多数に見られる行為だから身バレするようなことだけはしないよう気を付けなきゃだけど」
「じゃあE-ZONESの動画は……?」
「それは別というか……」
「俺らが普段やってるE-ZONESの撮影をスムーズに行うためにこの部活を作っただけやからな」
「あの憎たらしいタテワキが無駄なルール作るから利用してるまでだからな」
「なるほど……、皆さん色々あるんですね」
とりあえず茶菓子とお茶を用意して再び談笑を再開した。
「でもあれだよな、やるからには再生数取れるような内容であるほうがいいよな」
「えぇ……、あんまり新入生に課題増やさないであげてよ」
「ていうか俺らも編集技術手に入れなあかんのに先輩面すんのおかしいやろ」
「でもおっしゃってることは本当にそう思います……。やるからには自分用だけでなく他の方にとっても需要になる動画を作りたいですね」
「そもそもそういう動画作りたいならまず何から始めれば良いんすか? ミルチューバーの先輩として聞きたいっす!」
「ヤーミンさんも言ってたことだけど、まずは真似してからだな」
「真似っすか……?」
「もちろんパクるという意味ではないでござるよ。良い要素をつまんで自分なりにヒントを得てそして反映する、これが1番でござる」
「なるほど……、でも私がやろうとしてるのは顔も出さずただ音楽を繋げてる人のですから、そこから要素をつまめるとは……」
「あれだって有名な曲を続けて聴きたいと思うファンの期待に応えて、選曲、つまりセンスを求められるからそういうところをちゃんと参考にするのが1番だと思うよ。あと何気にサムネとかタイトルとか大事」
「そうですね……、センスですか」
「あとさ、さっきピアノ弾けるって言ってたじゃん」
「はい」
「何気に人気曲を原曲のまま聴くよりはピアノでアレンジしたほうがさ、いつもとは違う音色でこの曲が聴けるって需要があるんだよ! 少なくとも俺はそれを楽しませてもらってる、だからそういうのもやってくれると俺何気に嬉しかったりするよ」
「確かに……、原曲って色んな楽器が複合してて素人からすれば分かりにくいんですよね?」
「そうそう、だから楽器1つに絞ってやるのもね、ギターもベースも三味線も」
「三味線って渋っ」
「何かできそうな気がしてきました! ありがとうございます!」
「いやいや、俺も先輩として鼻が高いよ!」
「鼻につくの間違いでござろう」
「おいっ!」
「ていうかカスキお前、どうせあれしか見てへんのやろ? コスプレした胸のデカい演奏者が胸強調するサムネに見事に引っかかって開いてまう夏の虫代表やろ」
「誰が夏の虫だよ!」
「見てることは否定せんのやな」
「あっ……!」
一気に空気が悪く、特に蘭からすごく怖い視線をもらっている。
「最低っす、お姉に何させるんすか」
「別にそうしろなんて言ってないじゃん……」
「でも別に良いんじゃない? 胸でも何でも、顔さえ出さなきゃこれだけで再生数取れるのなら」
詩楽が自分の胸を強調する、それに対して男4人は何も言えなかった。
「お姉がそういうスタイルで動画投稿するなら、私顔出しするから」
「や、やめてよね恥ずかしい……!」
「恥ずかしいって……、なんで?」
「私たち2人はそれぞれコンプレックスがあるんす。私は胸、お姉は顔っす」
「ふ、複雑そうな内容をさらりと言うなよ……」
「蘭さんが顔出しするのを詩楽さんが嫌がるのって、2人とも顔が似てるから?」
「そうっす! 私からしたら考えられないんすよ、お姉の私服エロくて胸強調するのばっかだし、普段マスクしてるからまだ良いけど色欲放出して外歩いてる姿が私には我慢できないっす!」
「見たいなぁ私服姿」
「カスキくん黙ってて」
「仕方ないじゃないそういう私服じゃないと、他のだと太って見えるんだから! それに私だって、あなたが素顔のまま外を歩いてることに嫌気がさしてるんだから!」
「そっちはさすがに理不尽やないか……?」
「全くお姉の価値観には呆れるよ。たぬき顔の何が不満なんだか」
「重要な部分よ! 整形でもしない限り変えられないんだから。あーあ、きつね顔の家に生まれたかったなぁ」
「それ、パパとママに絶対言っちゃだめだからね。だいたいお姉はさぁ……」
その後も2人はぎゃーぎゃーと言い争いが始まっている。
「なんか2人が喧嘩した理由が何となく分かってきた気がするわ。根本的に合わへんねやろうな」
「ラク殿はこの2人をよく誘おうと思ったでござるよ……」
「そりゃあスミ、ラクにとって2人のあれは需要でしかないからだろ」
「どういうことでござる?」
「あいつの顔見てみろよ」
「うわぁ……、この状況を喜んでやがるよ……」
「百合好きの悪いところでござるよ、喧嘩すら性癖という色眼鏡で良く見れるってわけでござるか」
「そういえば女同士の小競り合いも百合の一歩って言うてたわ」
「名言生み出してる……」
とりあえず男たちが女2人を止めに入り、話を戻す。
「取り乱して失礼致しました」
「ははは……」
「でも良かった、蘭さんはともかく詩楽さんなんだか普通に話せる状態まで来た感じだし」
「はい、こういう空気に慣れてきました。これからもよろしくお願いいたします」
「へぇ、ラクが相手なら緊張しなくなってたんだな」
「これは確実に昨日何かあったでござるな」
「何かって……、僕そんなやましいことなんてしてないからね」
「お姉はラクさんには初めてリアルで会った時から緊張しないで済んでたよね」
「おぉ? それは不思議な心境の変化ですな」
「だってラクさんもといジョイさんとはゲーム上で沢山お話させて頂きましたもの。リアルでも変わらず、仲良く接しておりますもの」
「あ、やべこれラクを1人の男として見てないパターンだ」
「何でカスキくんたち、僕たちを無理矢理繋げようとしてるの……? 別にどういう関係でも良いでしょ?」
「お前がそう言うならそれでええけどさ……」
「ちょっと3人ともいいっすか?」
一度2人を部屋に残し、カスキたち3人と蘭で話をする。
「今はああやって平静を装ってるっすけど、うちにはわかるっす。お姉の態度は今までの男と違って良い傾向にあるっす」
「へえ、双子の観点から見てそうなのなら間違いなさそうだな」
「うちとしては引っ込み思案なお姉がせっかく積極的になってるから、何とかして2人を繋げていきたいんすよねぇ。てことでお三方も協力していただけるっすか?」
「いやそこはまあ別に良いというか、応援はしてあげたいけど……」
(((百合好きという難ありな性格だからなぁ……)))
その悩みは蘭に打ち明けられない内容なので余計に困る3人であった。
とりあえず話も終わったことなので4人は部屋に戻り、それぞれ世間話などを話し始めて馴染んでいく。そしてリアルとしてのこの部活の話も大事だったのだが、もう1つ彼らには大事な要素がある。
「あの……、そういえばギルドのほうはどうします?」
「どうするって?」
「ここまで仲良くなれましたし、移籍は無理ですけど同盟とか……」
「いやぁそういうのはやめといたほうが良いかな」
「えっ? カスキくんどうして……?」
「何ていうか、今は強豪のギルド同士が手を組んでないから穏便でいられてるって感じだからかな。もしどこかしらそんなことが起きたらもうCSOはめちゃくちゃになるね、裏切りをするされるの疑心暗鬼状態っていうか……」
「うわぁ……、それは楽しくないでござる」
「でもいて座はや座とケンタウルス座とかを傘下にしてるやろ? うお座もそれなりの魚の星座を傘下にしてるし……」
「あれは力があるからそうやって2軍3軍を決めてるだけだし、ギルドランキングがちゃんと付けられる前からやってたことだからな。強豪が故にできる特権だ。だけど8位のふたご座ギルドと18位のうさぎ座ギルドが手を組むってのは別問題だ。余裕のあるTOP3とかはともかく、他のギルドたちとのバランスが悪くなって便乗する奴らが現れる」
「俺らそれぞれそれなりに強い状態で手を組むこと自体悪手ってわけやな。そりゃもっと混ぜるな危険なギルドが現れるに決まってらぁ」
「それにさ、今って俺たち学生が何百人ものプレイヤーを管理するギルドマスターなんだぜ? 自分たちのところの管理も大変なのに、俺らが仲良いからって安易な理由で同盟を組むのは違うだろ?」
「確かに他のギルドメンバーはあまり認めなさそうでござるな」
「た、確かに私たちのメンバーも認めてくれなさそう……」
「まあ全く繋がりを絶つわけじゃないさ。実際俺もはくちょう座ギルドとは『それなりに』仲良くやらせてもらってるわけだし、何かあったらその時限りの協定組めばいいだけさ」
それなりに、を強調するあたり、素直じゃない男である。
「じゃあ、お互い必要以上に干渉しないで良いってことで良いんですね?」
「うん、突かず離れずって感じで」
「あ、でも8月のギルドバトルに向けて練習試合を組むくらいしといたほうが良くないか?」
「……そうだな。そう考えるとギルドをまとめる秘訣みたいなの教えてほしいかも」
「うまくいってないんですか?」
「そういうわけじゃないけど行動方針とか自由にしてる感じだから、いざギルドバトルに向けてガチにやろうとしたらメンバーが減るんじゃいかなって不安になってて……」
「うさぎ座ギルドって、ギルドできる前の俺、というかLapinのことを知る古株メンバーと、Lapinというアイドルを崇めるファンの集まりみたいな感じだからなぁ……」
「それで18位ってすごいと思いますよ、40くらいあるギルドの上位にいるわけなんですから」
「確かに去年のギルドバトル、みんな一生懸命やってくれたよなぁ……」
「だったら充分理解のあるメンバーだと思いますよ? 上位志向になるのは別に悪いことではないと思いますし思い切って話し合ってみたらどうですか?」
「うん……。まあゆったりギルドを目当てに来てくれた人たちには悪いけど方針を変える話をしようか」
「ラク、近いうちに生配信できそうか?」
「うん、全然問題ないよ。じゃあ予定を組もうか」
久しぶりにミルチューバ―としてのE-ZONESの活動である。不定期投稿に不定期配信、根強い人気とCSOソロランキング5位のギルドマスターに集うゆったりギルドのおかげで登録者10万人を突破していたのだが、現在は98348人、下がってしまっているこの現状を無視するわけにもいかず、行動力を底上げして進んでいかなければならない。
そして翌日の2月16日、金曜日ということで今回は明日のことを考えることなく思いっきり配信に時間をかけることができる。ユーザーが集まりやすい時間と準備時間を考慮して18時から生配信を開始することを昨日から宣伝していた。
そして今回の生配信でいつもと違うところは、うさぎ座ギルドメンバーをランダムにゲストとしてお呼びするということ。そのことも伝えているので既にギルドメンバーから何人か話したいという声がかかっているため、集合はうさぎ座ギルドのロビー中央でと話はついている。
特に問題がなく、開始のカウントダウンを待つのみだった。
「5秒前、4……、3……」
2、1はあくまで無言で、0のタイミングで配信を開始した。
「こんばんは、E-ZONESのLapinと、」
「ヒーラと、」
「ジョイと、」
「ハーミーですわ!」
「はい、生配信音声に問題ありませんね? ……今回ですけど、ある意味重大発表ですね」
「重大よ、私たちのこれからの方針に関わることですもの」
「そう、実は私たちE-ZONESはご存じの方もいらっしゃるでしょうけどCSOのうさぎ座ギルドの長を務めております! 実は今までゆる~いギルドとして基本的に誰でもウェルカムな感じにしていましたけれども……」
「まあ要するにガチギルドに方針を変えたいって話やろ」
「ん~でもそのニュアンスがちょっと難しいのよね。もちろんガチで1位を狙うってくらい頑張りたいんだけど文字通りのガチでやるかって言ったらそこまで強制したくはないのよね……」
「今まで通り入るのも抜けるのも自由ですし、8月のギルド戦の都合が悪い人は無理に参加しなくて良いですし、オフラインが何日も続いてるからと言って強制退去させるようなことはあまりやりたくないよね……」
「ただ八方美人に中途半端にそういうことをやるのも余計に状況が悪くなるということもありますので、今回はギルドメンバー数人からお話を聞いていって改めてルールを決めようかなと思います!」
「皆さんの忌憚ない意見をお待ちしております!」
「それでは今ですね、うさぎ座ギルドのロビーにいるんですけども……、はい、今回のためにこんなにいっぱいのプレイヤーが集まってくれてますね。ありがとうございます! お話できますよって方はそうですね、手をあげるポーズをお願いします」
たまたまこの場に居合わせているプレイヤーと聞いてここに居座っているプレイヤーを区別するために、ポーズを要求してそれに応えられた人からチャットに招待していく。
「ではまずはこの人ですね、プレイヤー名は『シュヴァルツ』さん。聞こえますか~?」
「はい……! お話できて光栄です! 私、『スタンピング』というパーティメンバーのリーダーをしています、シュヴァルツです!」
(あ……、じゃあこの人、カホさんか)
もちろん声に出さず、シュヴァルツの正体を再認識する。
「『スタンピング』知ってますよ、この前のクリスマスのイベントも僕たちE-ZONESと並ぶくらいイベントクエスト周回してくれましたよね。そのバニー姿もうちのLapinと同じくらい似合ってますね!」
「あ、ありがとうございます……!」
「それで今回の話なんだけど、ギルドの方針を変えようと思ってるんですよね。まったりなギルドから本格的に上位を目指そうと思ってるんだけどどう思いますか?」
「それはもう、私たちはLapinたちの望む通りに動きますよ! みんなそうでしょ?」
その言葉に、賛同の声が複数上がっている。これで解決できれば良かったが……、
「あ……、すごいスピードで手を挙げてアピールしてる人がいる。物申したいって感じかな……、じゃあ今繋げますね」
「あれ、このプレイヤーは……」
チャットに入ってきたプレイヤーは、またもカスキが知っている人物のようだ。
「パーティーの名は『カラージェイド』そのリーダーの『グラファイト』だ。久しぶりだなLapin……」
【プチメモ】
作者として、ミルチューバーという動画クリエイターを扱うにおいてモデルはもちろん現ユーチューバーの方を勝手にモデルにしているところがあります。ヤーミンさんは言わずもがなでしょうか? もともとこの主人公たち4人組にもモデルがいます。
他にも1人か2人はモデルを決めているところです、怒られるかもしれませんが楽しみに待っててください。




