69ゲーム、一言一句に癖がある、たったその文字の羅列だけで他人が真似したくなる影響力を生み出せる人は偉大である
翌日、いつも通りの授業が始まる。
「おいおいおい、赤谷、お前何してるんだよ」
「何って、だべってます」
「だべるなよ授業中だぞ」
「いつものことじゃないですか」
「いつもだからまた注意してるんだ、しかもテスト前なんだから周りのためにも静かにしろよな。それで、国語の教科書は?」
「ない」
「……ノートは?」
「ない」
「……筆箱は?」
「ない。全部ない、もういい?」
今のカスキの言葉に数人笑った声が聞こえた。
「お前モノマネするなよw」
「え、先生知ってるの? 若いねぇ」
「これでも29なんだけど」
「「ええっ!?」」
「おいこいつらヲタクたちはともかく何でみんなも驚いてるんだよ!!」
「年齢気にしたことないけど老け顔だねぇ」
「うるさいな。良いからお前、次の段落から読め」
「ラク、教科書」
「はいはい……」
「ええと……、『その時の私は屈託がないと』……」
「違う」
「『彼らの出て行った後、』……」
「違う」
「……。『私は次の日も同じ時刻に』……」
「違う。全部違う、もういい」
まさかのモノマネ返しをされて生徒みんな爆笑していた。
「アレンジして返してきたでござるw」
「『もういい』のニュアンス全然違うやんw」
その後国語教師の田所先生はこの受けたネタをきっかけに持ちネタにするようになった。
「いや、教師が持ちネタなんか作るなよ……」
そして次の理科の授業で、
「はいそれじゃあ今日の授業はこのくらいにして、あとは自習したほうが良いですね! でただ自習するだけじゃあれだし、プリントを持って来ました! もちろん課題じゃないから明日までにやってきてってものではありません! ただ、これやっておいたほうがテスト楽ですよ! もちろん私の労いに応えてもらいたいものです、どうか、どうか、お願いしますね!」
「抑揚とかあの声の張り方とか、何で選挙みたいになってんの?」
「斎藤先生、昔選挙の手伝いしたことあるらしいんだ」
そして次の世界史の授業では、
「えぇ~、君たち金八先生とか見たことないの!? レインボーブリッジとかは? 知らない、世代ギャップだねぇ~」
「先生今はジェネギャって言います」
「そうなんだねぇ、ジェネギャね、ジェネギャ」
そして体育の授業、
「はいはい良いよぉ! バスケはね、テクが重要だからね。あ、そっちのテクじゃないよw」
「アハハハwww」
「カスキくん、小早川先生の下ネタ受けすぎでしょ……」
「ケンコバ本当、セクハラやなぁw」
ということで、彼らの楽しみな昼休みがやってきた。机を合わせて弁当を食べながらいつも通りだべっている。
「気付いたんだけどさ、」
「うん……」
「ここの教師ってクセあるよな」
「カスキくんが言うんだね……」
「俺あの人たちから分からないところ教えてもらいにいかなきゃいけないの?」
「僕だって教えられるところに限界あるから、ちゃんと先生に教えてもらいなよ。昨日の分からなかったところ、早いところ解決させないと、鉄は熱いうちに打てって言うし」
「はぁ……、しゃーないなぁ」
しかしダラダラと放課後になってしまい、職員室へ向かう4人たち。そこへ向かう道中、生活指導室から見覚えがある生徒が出てきた。
「お、永良じゃないか!」
「お前たち、久々だな。何か最近忙しかったみたいだったけど元気してるか?」
「まあな」
「何? CSOやってるのにあのイベント見てなかったの?」
「こいつ、最近CSOやってないんや」
「え~」
「仕方ないだろ、今から進路に向けて勉強しないといけないんだから」
「勉強ねぇ、お前なら運動推薦狙うと思うてたけど」
「それでも勉強必要なところあるんでしょ?」
「いや……、俺医者になりたいんだ」
「「ええっ!?」」
「まあ意外だと思うよな」
「いやそうでしょ、だってお前がメスとか持ったら危ないもん」
「いや別に外科医になりたいわけじゃないんだよ。医者っていうか療法士というか、リハビリをサポートする仕事がしたいんだ」
「あー、そういうことね」
「まあ結局は医学を身に付けなきゃいけないからね」
「じゃあ医学部志望なんだ」
「あぁ、でも2つの障害が起きてだな……」
「どうしたでござるか?」
「父がな、どうせ医者をするなら大きい病院の外科医になるくらいでないと許さない。有名外科医かジムトレーナーか、2つに1つだ、って」
「何だその変な2択……」
「ジムトレーナーは悪い話じゃないの?」
「悪くはないけど良くもないというか、医学関連の仕事をしたいけど、する以上は中途半端な立ち位置にいるのはやめろって、プライドが高いんだ……」
「わぁ大変だなぁ……」
「そんなこと言ったら中途半端な人間がほとんどだっつうの」
「それで、2つ目の障害は?」
「父の意向がもう教師にも知れ渡ってて、生活指導の先生に今絞られたところなんだ。志望校あるのに却下されたんだ。そして第1志望として東大医学部を強制的に入れられて……」
「うわぁ……」
「永良くん的にはそこまでレベル高いところ行く必要はないんだよね、たぶん」
「お金かかるっていう迷惑はあるが専門学校も考えてた。国公立に行けっていうのも分からなくもないけど求められるレベルが高すぎる……」
「生活指導の先公っていえば峰岸か、何か言われたか」
「医者を目指すにしても頭悪すぎないかとか、反論したって本当のこと言って何が悪いとか……」
「やっぱりそうだ……」
「なにカスキくん、何か嫌なことがあったの?」
「この前学校で模試あっただろ? それ終わってしばらくしたら呼び出されてさ……」
「赤谷、何だねこれは」
「模試の結果ですね」
「そういうことを言ってるんじゃないっ! ヲタクは頭悪すぎないか!? しかも志望した欄は何だ、どれもレベルが高いところばっか候補に入れて、嘗めてるのか!?」
「いやぁ1度はオールSを見てみたかったものですから」
「確かにそうだなっ! オールSだよ、判定不可能に決まってるだろこの学力で、女子大も候補に入れてるし!」
「あぁここ女子大だったんだウケるアッハッハ!!」
「何が可笑しいんだっ!」
「あーもううるさいうるさい」
「本当だからだっ!」
「はーもう、どうしようが俺の勝手だろうが。今くらい自由にやっても良いだろうが」
「自由で良いわけがないだろっ! 模試とは真剣にやるもの、わかったかぁ!!」
「知るかバーカ」
「知らねぇじゃねぇ!! お前なんで自分の言ってることが正しいと思ってるんだ? 何でお前は正しい!? 正しい根拠を言え!!」
と、売り言葉に買い言葉で喧嘩が続いていたのだ。
「あの先公すぐキレるんだよなぁ」
「向こうがおっきな声出すとこっちまで張り合っちゃうんだよなぁ」
「相手にしないほうがいいよそういうのは、同レベルになっちゃうから」
「おぉラク、なかなかの辛辣っぷりだな」
「赤谷も大変だな」
「いや俺の場合はミルチューバ―になるから良いんだよ。模試を遊び道具にしてたから怒られるのは当然なわけで、ただあの先公の怒り方はヤバい」
「確かに、俺もそんな感じだったよ。あの人が生活指導でいる以上、相談できる人がいないんだ」
「え待って普通に深刻じゃない……?」
「説得しようにも仲間がいない状況か……」
「ここの先公たちがそもそもで頼りないんだよ、金持ちの親たちの言いなりなんだから」
「永良くん、僕たちじゃできることは限られるけど、何でも相談に乗るよ? だから頑張ってね」
「あぁ、ありがとう」
その後教師に分からないところを教えてもらったり、ほぼ毎日集まって勉強をしたり、できる限りの対策をしてテスト当日を迎えてしまった。
1月30日の火曜日から2月を跨いで2日の金曜日まで、4日間の勝負が始まる。そして、また別の勝負が始まっていた。
「おい赤谷! 俺たちと勝負しろ」
HRが始まる前の8時10分頃、カスキたちの前に謎のクラスメート3人が話しかけていた。
「誰ぇお前ら……」
「山田だよ!」
「佐藤だよ!」
「鈴木だよ忘れんな!」
「誰がそんなありきたりな苗字覚えてられっかよ」
「いや逆に覚えられるだろ!?」
「相変わらず腹立たしい野郎だぜ……」
「まあその壊滅的な記憶力の無さが逆に俺らにとっては嬉しいことだがな」
「何だそれ……? あと勝負って?」
「そうだ、今回のテストの総合順位で勝負しろ! そして俺たちの誰かが勝ったら、愛姫さんと別れてもらうからなっ!!」
「なぁに勝手に決めてんだこいつら」
「男の勝負に人の恋人を賭けに使うとか、男の風上にもおけへんな」
「しかも3対1とかどうかと思うでござるよ」
「しかも勝負の話するなら1週間前とかが普通じゃない? 本番前で宣戦布告したら正々堂々感無くなるよ?」
「お前らヲタクの俺らより倫理観失っちゃだめだろ」
ヲタクたちからの正論ラッシュを喰らい、恥ずかしくなってきた3人。
「う、うるさい! お前が愛姫さんを奪ったのが悪いんだ! 負けたら愛姫さんを自由にしてもらうからな!?」
「あーはいはい勝手に勝負してろ。こちとら赤点回避で必死なんだから」
「よぉし! 今の言葉忘れんなよ! いこうぜ」
そして3人は自分たちの席に着いた。
「ド三流も良いところだぜ」
「本当に良いの? カスキくん」
「別にいいだろ、お前も言ってただろ? 相手にしたら同レベルだって」
そして4日間のテストを終えて、全ての解答用紙が返ってきて順位が決まった6日の終礼前。
「さぁ赤谷見せてもらおうか、お前の点数を。出来はどんな感じだ?」
「あぁ、ひどかったね」
「そっかそっか、まあそもそもお前みたいな落ちこぼれはこの高校にいることすら……、えっ!?」
もらった期末テストの結果は、どれも高得点。324人この学年にいる中の11位だった。
「ひどかったよなぁケアレスミス、あれなかったらトップ10は入れたよなラク」
「まあこれは仕方ないよ、カスキくん最後の見直しができるほど体力残ってなかったもんね」
「ちょいちょいちょいちょい! 待てよお前ら、驚愕の事実だろこいつがこんなに頭良くなったなんて……!」
「あーそのくだりもう終わったから」
「いやいやてかは!? 何でそんなに頭良いんだよ?」
「あれでござるな、完全に冬休みの伏線回収でござるな」
冬休み、年が明けてゲームに手もつけられなかったあのバグみたいなカスキの時、その分勉強していた時に今回の範囲がしっかりと頭の中に入っていたのだ。
「まあもうこの手は使えないと思うけどね、テスト次は無理あるかも」
「時間経つと忘れちゃうってわけね、もったいないなぁ」
驚愕した3人とは違って、のほほんとしているヲタク4人たち。それもそのはず、覚醒したのかと思うくらいカスキが高得点を取れることはスミの部屋で勉強していた時、驚かせてもらった。もう本番で良い点数だからって驚くことはないのだ。
「さて、勝負は決したわけだけどあれだな。勝ったこっちから好きに条件を言っても良いんだよなぁ?」
「ま、待って! 待てよ! そもそもそっちは勝手にどうぞって言ったわけでそっちが勝った時の条件なんか言わなかったじゃねぇか!?」
「言わなかっただけな? そっちは条件を出しておいてこっちは何も条件つけなくてはいOK! とはならないやろ」
「お前らの目の前にいるのは聖者でもなくヲタクだぜ? ヲタクは調子に乗れる時に出し惜しみすることなく盛り上がる人種だ。俺たちを敵に回したことを後悔してもらうぜ」
「ど、どうしよう鈴木くん……」
「お、お前ら……、不正を働いただろ!? そうでなきゃありえねぇ! お前ら授業中の妨害だけじゃなくついにカンニングを……」
「いい加減にしなさいっ!」
意外にも、止めたのはヲタクたちを嫌っていた翔子だった。
「はぁ……? 何でお前が……」
「確かにこの男たちは不真面目そのものな不良ヲタクよ。でもね、他人でも自分に対しても、勝負となると正々堂々と向き合う連中なのよ。こんなクソな塊でも、仁義はあるのよ」
「全く褒めてんだかけなしてんのか」
「いいから黙ってようよリョウくん……」
「それに、この男に勉強を教えたのは私もあなたたちも想いを寄せる愛姫様なのよ!? 今回は半分以上本人の実力だったみたいだけど、この男は愛姫様の期待を踏み滲むようなことはしない。そしてあなたたちがこの男のカンニングを疑うということは、渡りわたって愛姫様を疑うという侮辱に繋がるのよ!? 分かった!?」
「ひぃぃぃ……!」
翔子の圧に腰が抜ける3人、庇ってくれたヲタクたちはにやついていた。主に3人だが。
「お前が俺らを庇うとはどういう風の吹き回しや?」
「あんたらを庇ったんじゃないから、愛姫様の侮辱が許せなかったの」
「それにしちゃあ余計なこといっぱい言ってたけどなぁ?」
「う、うるさいわね!!」
またもリョウと翔子の痴話喧嘩が始まる。
「分かったらさっさとうせろお前ら、負け犬らしくな」
「くそぉ、覚えてやがれよ……!」
「うわぁありきたり……」
見逃すヲタクたち、そしてみじめに教室から去ろうとする3人たち、だが、
「いやどっかいかんといてくれ、この後終礼や」
タイミングが良いのか悪いのか、担任のケンコバが教室に入って3人の行く手を阻んだ。
ケンコバの顔を見るだけでカスキたちも含め、みんながそれぞれの席に着いてしまう。
「まったく相変わらず争いが絶えないなぁ? カスキ」
「俺の名を出すな」
「まあ話は聞かせてもろたんやけどな、」
「あの人絶対出るタイミング逃しただけやろ、2学期初めみたいに」
「リョウくん聞こえるよ……」
「鈴木・山田・佐藤、正直俺は先生としても男としてもお前らをカバーできる言葉は持ち合わせていない」
「ただの語彙力皆無教師でござる」
「そこ聞こえとんでさっきから! まあとにかくお前らは、みじめになるから今後あいつらと関わらへんか、潔く負けを認めて和解をするか、はっきり選びぃや」
プライド、今後の周りの目、どちらを取るかの問題になってきた。
カスキたちからすれば、もうこれ以上関わってほしくないという気持ちもある。しかし勧善懲悪が大好きな彼らからすれば相手の鼻を完全にへし折っておきたいもの。とはいえいじりがいがあるのは前者なのでこのままみっともなく逃げてほしいなという気持ちが強くあった。
「……すみませんでした。負けを認めます」
「あちゃ~」
「え、何でお前らが悔しがる?」
「そうか、えらいなお前ら。でもな、カスキ相手やから油断してたみたいやけどもう少し学力上げろよお前ら」
「「「はい……」」」
「せんせー! じゃあ俺らはこいつらに報復しても良いっすか? 勝者の特権ってことで」
「……常識的な範囲内でな」
「よぉしじゃあ俺らからの条件、ちゃんと目ぇ見開いて、耳の穴よぉくかっぽじって聞きな」
「……っ!」
カスキが本人たちの前に現れた。唾を飲むくらい怖じ気づき、目を閉じた。
「おい、目ぇ開けって言ったろ。これ見ろよ」
「え……?」
リーダー鈴木が見たのは、アニメのタイトルがいくつも書かれた紙だった。
「これ全部、今薫さんがハマってるアニメのリストね。お前らも薫さんと接点持ちたきゃこれ全話見て感想言い合って、薫さんを楽しませてくれよな」
「な、何でこんなこと……!?」
「お前らなぁ、アニメを一括りで悪影響って決めつけるのか……」
「そうじゃねぇ!? 何で調子に乗ってあれこれ恥ずかしい報復を選ばなかったのかって聞いてんだよ!?」
「え~、まあ。ヲタクは蔑まれても蔑むなってね。それに布教するのが仕事だから、ここで使わなきゃな」
3人だけでなく、他のクラスメートも今回のカスキという男の印象がガラリと変わってしまった。
「あ、そうそう。楽しませてくれよなとは言ったが……、彼氏の特権を譲ったわけじゃねぇから勘違いしないようにっ!!」
最後にドスのきいた声で威圧した。
「これ命令な」
「はぁ!? 2個も命令するとか卑怯だろ!?」
「お前も誰も、条件は1つだけって言ってねぇじゃねぇか!!」
「俺らは1つだったじゃねぇか!!」
何だかんだ言い合いになりながらも楽しく学校生活を迎えるカスキ。恨みも妬みも何のその、好きなように生き好きを共感することこそが彼らの根幹なのである。
騒がしい終礼を終え、カスキたちは少しだけケンコバに言われて残ることになった。
「それにしてもカスキ、お前今回はいつにも増して立派やったなぁ、あ、そっちの意味やのうてな」
「ギャハハハ! 相変わらずさいてーな下ネタだ!!」
「カスキ殿だけレベチでござる、ケンコバの下ネタにここまでウケるの……」
「話を戻すとだな。今回のテストの件で解決したと思うやろうけど、まだ1人だけお前のこと疑ってる人がおんねん。その人と話すませてきぃ?」
その話が終わって、高いテンションだったカスキが急に凪のように黙ってしまう。教室を出るとそこには、待っていた薫が声をかけてくれた。
「あ、カスキさん! 遅かったですね、何かありましたか?」
「あぁ、ちょっと用事があって今から行ってこなきゃいけないんだ」
「用事?」
「あぁ、生徒会長に呼ばれた」
「生徒会長……! やっぱりカスキさん、関わりがあったんですね」
「あぁ、赤谷帯刀。1つ上の従兄さ」
【プチメモ】
この話を書き終えてPCを閉じ、しばらくしてふと開いた時一番初めに目についたのが、鈴木というモブキャラが放った『俺らは1つだったじゃねぇか!!』、ここだけ見るとなんかエモく感じました。




