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感想を聞かせてよ、捨てた現実世界に花が咲き始めた状況の!(リメイク版)  作者: カラーコーン人間
第1章、こんなクソみたいな現実に感想だと!? どこかのラノベみたいにゲームに閉じこもっていたいね!!
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4ゲーム、現実世界をそんな目で見るなんて、死んだ魚のような目からビー玉程度に光らせるとは珍しい

どうしてこうなったんだっけ……? カスキの脳内にはこれしかなかった。


アニテンで自分の学校で人気の愛姫薫と出会い、話をするため一度場所を変えることにした。


(いや、さすがにメイドカフェはないよな……)


どこでとりあえず話そうか悩んでいた時、一瞬だけメイドカフェという案が脳裏をよぎったが……、さすがにないなと思った。


ということで、偶然空いていたワクドナルドとなった。注文する前に席を確保したのは良いが座ってから数分、お互い何も話さない気まずい状況が続いた。


(……ん? いささか気分が良いのが目に見えるなこの女。大方お嬢様だからこんなところ行けなかった的なやつかな?)


少々高揚する薫だが、我に返ってカスキの肘を見る。


「そ、そのひじ……、今朝の事故で、ですか……?」

「あぁ、気にしないでいいよ。えっとさ……、聞かせてくれない? どうしてお嬢様の愛姫さんがここに……?」


それなりのクッションがあっても良いのに、女性に対して免疫力がないせいでいきなり本題を話してしまう。


「私がここに来るのおかしいですよね……?」


(やばっ、誤解招いてるよ……!)


少しあたふたしながらもきっちりフォローする。


「お、おかしいってわけじゃないんだけど……! 意外なんだよ、あんたみたいなお嬢様がアニメとかこういうのに興味あったなんてのがさ……!」

「そんなにおかしいのでしょうか? アニメは日本の文化ですし、私も小さい頃からプ〇キュアとかのアニメで育ったんですから」

「いやぁ~俺が言うアニメってのはそういうことではなくてですね……」


一緒にするなと言ってるわけではないが、プ〇キュアとかア〇パ〇マ〇とかそういった子ども向けアニメとカスキたちが見るアニメを一括りにするのは合ってるようで間違っている。


この隔靴掻痒な気持ちを彼女に伝えられるほどの語彙力を、カスキは持ち合わせていなかった。


「で、でもさ……、うちの学校は『不良ヲタク』っているわけじゃん? ヲタクは嫌われ者で有名なのに、どうしてアニメに興味を持ったの?」


自分の言ってることがらしくないことに気付く。誰に何と言われようと己の道を曲げないつもりだったが、先ほどの一件で後ろめたい気持ちが僅かにあった……、いや、弱かったその感情が復活したかもしれない。


「……? 一体何の話をしているのですか?」

「……ん?」

「ヲタクというのは、『相手の家庭・夫・団体を敬っていう語』のほうのお宅でなく、『ある事に過度に熱中している』のほうのヲタク、ですよね? どうして嫌われるのでしょうか?」


哲学……、なのか?


「えぇ……、だってヲタクはみんなから嫌われると相場が決まって……」

「何を言ってるんですか!? 皆さんが食べて消化している排泄物は、肥料として使われているんです。私からしてみれば、排泄物を見ただけで気持ち悪いと言ったり暴言に使う人たちのほうがよっぽど哀れです! ヲタクというのは『ある一つのことに情熱をかけるもの』のこと、プロじゃないですか!? 専門家じゃないですか!? 尊敬します!! それなのにどうして嫌う理由ができるんですか!?」

「……!」


彼女の熱弁に、カスキは感銘を受けた。目が覚めたというより、ヲタクのことをそうまともに受け入れてくれることに、ただただ尊敬の念を抱くより他なかった。


「と言っても、私またヲタクと言えるほどではないのですが。えへへ……」

「そ、そうなんだ……。いつから?」

「今年の4月に入った時に入学記念としてノートパソコンをもらったんです。父が機械に強くなるようにしなさい、ということなんですけど。最初はインターネットに繋げて、検索やタイピングの練習などする程度だったんですけど、動画を見る練習をしていた時に、これを見たんです」


薫が手に取ったのは、先ほどのCSOのゲームソフトだった。薫はCSOの広告の動画を見たという。


潤んだ瞳、十人十色な髪の色と型、小さな顔にしまりのよい体つき、わずかな陰が立体図の奥ゆかしさを際立たせている、現実の人間にあるところを隅々まで描いておりながら、その容姿は人間離れしている。


薫は今のアニメーション技術に自分の知らない芸術を知るようになった。


「私の父、油絵が好きなんです」

「あ、油絵……?」

「はい。父はなかなかの収集家でして、家の壁には数えきれないほど並んでいます」

「それはそれで良いんじゃない? 美術館みたいで、愛姫さんのお父さんもなかなかのヲタクじゃん?」


「父をヲタクなんて言わないでくださいっ!」


バン、と薫がテーブル叩く。


「……!?」

「……すみません、いきなりこんなことを。赤谷さん、でしたよね? 赤谷さんはどうしても欲しいものがあって、でもそれの生産量が少ない、極端に言えば1つしかない場合、どうしますか?」

「そ、そうだなぁ……。できるだけ全財産を駆使して購入するよね。下手すると転売のを買うかもな。まあ無理なら無理で諦めるしか……」

「普通はそうですよね、でも父の行動は度を越えてるんです。知ってますか? 愛姫家の黒い噂」

「さあ、俺そういうことには興味ないから……」


その言葉は薫にとってとても意外な返答だったので、今までのスラスラとしていた会話が途切れてしまった。


「えっと……、自分から説明するのはすごく恥ずかしいのですが……」

「ごめんね……」

「父は、欲しいもののためなら手段を選びません。最終的には根回しで殺し屋を雇うなんてことも……」

「うわぁ、フィクションならワクワクする内容なのにリアルだと物騒……!」

「ですよね……。できれば説明なんかしたくなかったです、私がすごくバカみたいです」

「ほんとごめん、このことは誰にも言わないから……」

「いえ気にしないでください。というか秘密にしてほしいですけどしてほしくもない自分もいてすごく複雑です……」


彼女にはしっかりとした正しさを持っていて、カスキは密かに安心した。


「話を戻しますと、私はそんな絵たちが可哀想と昔から思ってました。だって絵という魅力的なものを独り占めするなんて……、すごくだめだと思うんです! 真のヲタクというのは、好きなことを共有して価値があるものじゃないですか!?」

「そ、それはそうだね。確かに……」

「それでも父を説得することなんてできなくて、すごくモヤモヤしてたんです。そんな時このCSOの広告が教えてくれたんです。それから関連するゲーム・漫画・アニメ・ライトノベルなど、一心不乱に探し続けていました。こういったメディアこそ、私が探し求めていたものだったんです!」


彼女の瞳からは見たことのある光が見えていた。それはヲタク特有の光、好きなものを見つけた瞬間である。


「それは、こっちまで嬉しくなる言葉だね。ようこそ、ヲタクの世界へ!」

「はい、初めまして!」


先ほどの悲しい顔とは打って変わって、実に少女らしく無邪気な笑顔だった。


「なるほど、事情は大体分かったよ。それで実際にゲームをしてみたくなったってわけね」

「はい」

「でも一つ文句を言っちゃうと……、遅くない? どうして今始めることに?」

「もちろん、前からやりたかったですよ! でも表に出してできない理由があったので、今日ようやく準備ができたんです」

「表立ってできない理由?」


彼女ほどのオープンヲタクの素質がある人間が、一体どんな理由で隠しているのだろうか。


「はい、まず父が……」

「また父親か……」

「はい、父は油絵こそ正義と思ってますから、油絵以外の絵、特にこういったものを認めていないんですよ……」

「難儀なものだ……」

「あと私、自由にお金を使えないんです」

「……?」


えっと、どういうことだ? と誰でも悩んでしまうだろう。カスキも悩んだ。


何せ愛姫財閥の一人娘、お金持ちなのに……、そんなに不自由な生活を送っているのだろうか。


「お小遣いはもらってるのですが、使ったお金と買ったもの、そして残ったお金の精算を家に帰ったら必ず見せるよう決められているんです。使ったら必ずレシートをもらって、財布の中身や買ったものやアリバイ、それはもう色々と厳しく……」

「……ドン引き」


ドン引き、と口に出してしまうほどの事実。これが薫でなくカスキなら耐えきれず死んでいることだろう。


「しかしなるほど、そういうことか。つまり父親は油絵以外の絵、ましてやアニメなんて認めるわけがない。かといって隠れてアニメグッズとか買うことはできない、その決まりがあるわけだから」

「はい、その通りです。アニメヲタクを学校隠しているのは単なる恥ずかしいという理由じゃありません。学校の人たちにも、親同士の繋がりがあるので知られるわけにはいかないんです」

「お、俺は良いの……?」

「はい! カスキさんなら問題ないと分かりましたし、初めての同士として仲良くしたいんです!!」


さ、さらりと恥ずかしいことを言うなぁとカスキは思ったが、嬉しいことに変わりはなかった。


「なるほどね、ありがとう。でも、問題はアニメグッズとかゲームを買うお金だよ。どこからそんなお金出てくるの? バイト? それともクラスメートから前借り?」

「バイトも考えてみたのですが、父は認めてくれませんでした。その給料もどうせ見られると思いますが……、なので考えた結果、アリバイ工作が一番やりやすかったんです」

「アリバイ工作……?」


軽く犯罪用語が出てきたが、とりあえず説明を聞くことにした。


「ある人にお願いして、買い食いや外食した時のレシートをもらってるんです。その時間はもちろん私も同行していて、会計が終わった時に『そのレシート、私が捨てておきますよ』と言えば……、そのレシートを父に見せて、あたかも自分が買い食いや外食したように見せて……」

「了解了解! 言いにくいよねそういうの! ある程度察したからもう言わなくていいよ説明ありがとね! あそうだ、せっかくだから何か頼もうか、アリバイ工作のために!」


説明の途中で『何てひどいことしてるんだろ私!』と言わんばかりの罪悪感満載の顔をしていたのでカスキが止めに入った。


良く考えれば何も頼んでいないのに長居するのも良くなかったので、丁度良いから注文をすることとなった。お互い何の変哲もないバーガーのセットを頼んだ。


「お気遣いありがとうございます……、でも実は外食するならするでもっと上品なところにしろって言われてるんです……。ここでのレシートは役には……」

「げ、厳格すぎる……」

「でも、前から食べてみたかったんですよね! いただきます……」


やはり憧れがあったのか、とても大事そうにバーガーを食べ始める。すごく美味しいと顔に漏れるくらい良い顔をして、小さい口ながらも速いペースで食べ続ける。


「それで、浮いたお金が出てきたんです、夏休みも同じようにして1万円まで貯めることができました!」

「おぉ~、ちりつもだね! でもそれって……、すごい量の買い食いや外食をしたわけなんだよね……」

「はい、まあ父の前では育ち盛りとか大食いとか色々ごまかしてますけど特に問題はなかったみたいです!」


あるよ、絶対あるよ! とカスキは言いたかったが、喜んでいる薫の前で水を差すようなまねはできなかった。


①財布の中身、②買ったという事実、③アリバイ、この3つが揃えば良い。食べ物なら②は用意できない、食べたものを吐き出せという親はいまい。


カスキは納得しつつも、すごく面倒臭いことだと思った。そんな厳しい家庭環境の中、抜け穴を見つけることができた彼女に、またも尊敬の念を抱くようになってしまった。


「でもこのソフトを買ったことで半分以上使ってしまいました。また何回か買い食いと外食のレシートをもらわないといけませんね、このやり方、一回一回の値段が少なくて効率が悪いんですよね……」

「……というか、愛姫さんゲーム機持ってないじゃん」

「え……? ゲーム機?」

「ソフトを入れるゲーム機、それを買わないと遊べないよ」

「え……、ちなみにそのゲーム機はおいくらなんですか……?」

「3~4万、中古でも2万はするかな」


絶望。その言葉が似合いそうなほど、彼女の顔は青くなっていった。


「……大食い大会の、金一封を狙ってみます」

「なぜ食べ物にこだわるの!? というか大食いは嘘なんでしょ!?」


身から出たさび、いや、少し違う。違うが打つ手なし、のような感じで、薫の思考は完全に停止してしまった。


「……パソコンは持ってるって言ってたよね?」

「……? はい、それが何か?」

「このCSOはネットゲーム、いわゆるネトゲでもあるんだ。だからパソコンで、しかも基本無料でゲームすることができるんだ」

「ほ、本当ですか!?」


しおれた花が一気に開花したような活気だった。


「う、うん……! だから隠れて、しかも金を使わず買うことができるわけだよ」

「あ、ありがとうございます!! カスキさんと同士になれて本当に良かったです!」

(いきなり名前呼び!?)


一瞬びっくりして少し顔を赤くするカスキだが、気にせず話を続ける。


「それじゃあ今からそのソフトはクーリングオフしに行こう! そしてCSOのゲームをするなら、愛姫さんは今から別のものを買わなくちゃいけないんだ。もちろんちゃんと俺が教えるし、絶対に役に立つものだから!」

「はい、よろしくお願いします!」


こうして、新たな同士と出会う。それと同時に、カスキは少し現実が楽しくなった。

「そうだ! ついでに買い食いや外食よりも、もっと金を浮かせられる方法を思いついたんだ!」

「え、そうなんですか!?」

「例えば、友達がレンタルした漫画やCDを利用するとか……、あぁでも漫画はまずいのか!」

「でも少女漫画ならある程度許してもらえるかもしれません、友達が読んでるからその話題についていきたいみたいな理由を拗らせて……」

「あとは、カラオケかな! 友達のひとりカラオケのレシートをもらえれば……、カラオケはダメとか言われてない?」

「いえ、でもどういう理由で行ったということにすればいいか……」

「カラオケ行くのに理由なんてないでしょ! まあストレス発散とかあるいは……、音楽の授業が上手くいってないから練習したいとか?」

「なるほど! カスキさんてすごく悪知恵が働くんですね!」

「褒めてないな、言葉だけだと……」


と、言う事で、2人はすぐに買い物を済ませに行った。久しぶりにワクワクしたカスキ、それを見た薫も笑顔が絶えることはなかった。


「本当にいいの? 家まで荷物運ぶよ」


改札口前、すでに17時と遅くなってしまい、買い物をして多くなった荷物を運ぶくらいのことをするのが紳士たるマナーだ。


「大丈夫です、逆にこっそり家に入らないといけないので、その……、カスキさんがいると余計目立ってしまいますので……」

「それもそうか、じゃあ気をつけてね。ちなみにどの辺に住んでるの?」

「浅草です」

「うっわいいなぁ! 秋葉原から近いほうじゃん、俺足立区の梅島だから遠いんだよね……」

「遠いですね……、学校からも」

「区間急行で乗れないからさ、普通に毎回乗ってるんだ……。まあそれはともかく、帰ってから電話でゲームのことについて話すね」


こんなに自然と女子高生の連絡先を知れるのは珍しいのではないか。


「でも、ゲームのルールとか知ってますよ? 動画見てますし」

「動画?」

「はい、バーチャルミルチューバ―の『E-ZONES』さんの動画を見て予習をしたんです!」

「あぁ、俺たちの動画を」

「俺たち……?」

「あ!」


カスキたち『E-ZONES』の正体は、別に絶対に隠さないといけない存在というわけではない。最低限、本人であることは秘密にし、別に中身が男であることがバレても問題ないと思っている。


何せバーチャルだから、中身が男というネカマプレイヤーなんて珍しくもないことだ。


ただ、ヲタクになったばかりでそういった知識に乏しい薫はどうだろう。幻滅する恐れが充分にあることを、カスキは少し恐れた。


「す、すごいです! 本当にカスキさんがE-ZONESの……、あぁでもちょっと待ってください! せめて誰か当てさせてください!!」


どうやら杞憂だったようで、カスキは安心した。


ひとまずそんな話を終え、乗る電車の方向が違うのでホームで一時的なお別れとなる。最後に薫がカスキに感謝の言葉を述べた。


「今朝の事故といい、家の秘密といい、カスキさんには感謝してもしきれません! なのでカスキさんも、困ったことがあったらいつでも私に言ってください! こんなふつつか者ですが、何でもしますから!!」


どこか誤解を招きそうな言い方をする、何でも言うことを聞いてくれるカオルチャン。しかし誠意は十分に伝わった。薫が乗ろうと思っている電車が来たのでそそくさと電車に乗って行き、姿が見えなくなってしまった。


(何だろうこの気持ち……、すごく気分が良いや!)


今のカスキに、満足感はあっただろうか。いや、これは満足とか達成とか、そんなものとはまた違った想いだった。


強いて言うなら、興味だろうか。愛姫薫との出会いによって、これから起こる物語。


現実なのに、魔法も能力もファンタジー要素のカケラもないこの現実世界を、まるで冒険したくなるほどの好奇心が、カスキのエンジンを活性化させる。


歩きたい、捨てた現実世界だったはずなのに、まるで続きが気になったゲームや漫画のような感覚。


未来が、待ち遠しくなった。


そんな時、スマートフォンから着信音がした。


「何だよ雰囲気台無しだな……、もしもし?」

「カスキ殿今どこでござるか? ずっと待ってたのでござるよ」

「あ……!」

【プチメモ】


ワクドナルドはもちろんマク〇ナルドをもじったものです。もう少し原型無くすくらい変えられないのかなと語源を調べたのですが、人の名前なんですよね。これは無理だ。

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