35ゲーム、現実を生きることこそ勝利、その暁として勝利の美酒を飲むことが大人になって必要になる
「では改めまして、今日はお疲れ様でした! 忘年会、そして今後の本物E-ZONESとコスプレE-ZONESの活躍祝いも兼ねて……、かんぱ~い!!」
「「かんぱ~い!!」」
「この飲み会1回に中身詰め込みすぎ!!」
それぞれ手に持っていた飲み物を口へ、大人組はビールやカクテルなどのお酒、子どもはジュースで乾杯し、飲んだ後に気持ちの良い『あ~』が出てしまう。
「しかし赤谷さん……、あの時ほんの少しの時間とはいえ良く私たちのこと、分かりましたね?」
「まあ……、あの時ツッコまなかったけど……、明らかに目立つメンバーがそちらにいらっしゃるじゃないですか」
「あー確かに恵は目立つ」
「目立って本望」
「恵さん……、すごく日本人らしい名前なんですね」
「というより、改めて自己紹介したほうが良いわよ」
「それもそうですね、じゃあまずは私から。東菜々美と言います。コスプレではヒーラを担当させてもらってます」
「前園未来です……、コスプレはハーミーをしています」
「森恵で~す! ジョイをコスプレしてました、よろしくで~す!!」
「あなたミドルネームは言わないの?」
「初対面の人にはミドルネームは言わないようにしてるので、一応言いますと、間にサラが入ります」
「森・サラ・恵さん……、淡々としてるお名前ですね……」
影武者メンバーの3人組、東菜々美は茶髪ショートな大和撫子という印象か、前園未来は子どもかと思ってしまう低身長、森・サラ・恵に至っては金髪碧眼のムチムチボディガールがいる。これを一目見て忘れる男はいなかった。というよりカスキが今思うと、影武者という言葉が本当に似合わない一団だった。
「ンンッ、改めて自己紹介させて頂きますね。飛燕香帆と申します。僭越ながら、お宅のLapinのコスプレをさせて頂きました。今後もコスプレイヤーとして精進していく所存、以後お見知りおきを」
「は、はぁ……」
「カホさん言葉固すぎてドン引きされてる~、侍じゃん侍」
「う、うるさいわね恵! これくらい挨拶として当然でしょう?」
「少なくとも年下に挨拶する言葉じゃないと思うけど、ねぇ愛姫さん?」
「良いじゃないですか張り切ってる感じがしてて」
「何でしょう、すごく浮いた感じが……」
今になってあの挨拶の仕方を後悔した香帆であった。
「克星院高校1年で、E-ZONESのリーダーLapinの中の人です。赤谷過守着です。こっちは同級生でもあり弟子でもある、」
「愛姫薫です、宜しくお願い致します」
「なるほど、愛姫さんはLapinさんのお弟子さんなんですね」
「はい!」
先ほどの冷たい視線で薫を説教していた時とは違い、今の香帆は薫を見る目が輝いている。とんだ変わりようだ。
「すごいですね、CSO内でも師弟関係を持つ人は多いけど、リアルでも知り合っている関係だなんて」
「どちらかというと、リアルでお互いの正体を知ってから、ゲーム上では師弟関係になっただけだからなぁ」
「な、なるほど……、そういう経緯で。愛姫さんもウサギ座のギルドの方ですか?」
「はい、フレイバというアバターでプレイさせてもらっています」
「フレイバだったんですか!?」
「カスキさん、私もついに知られるほど強くなったんですかね!?」
「フレイバはこの前動画に出てたじゃん、それでだよ。言っておくけど本当にまだまだだからね、フレイバの実力は」
「か、カスキさん、トホホです……」
しょぼんとショックを受ける薫だった。
「それにしても東さん、さっき愛姫さん『も』って言ってましたけど、もしかしてウサギ座ギルドに入ってるんですか?」
「えっと……」
「ん?」
「またナナミの悪いところが出た」
「先ほどからカスキさんに対してちぐはぐな態度を取ってましたけど、もしかして東さんは男性が苦手なんですか?」
「そう、普段から自慢のコミュ力で進行がスムーズに行くんだけど、こと男を相手にするとだめだめなのよなの。だから赤谷さん、席を替えましょう。向かい合わせにナナミが座るのは良くないです」向かい側だから余計に緊張してるの」
お座敷の一間、長方形の真ん中に焼肉の焼き網があるテーブルに3人3人と別れている。扉の手前にはカスキたちから見て左から香帆、菜々実、恵と座っている。奥側は手前の菜々実から見て左から薫、カスキ、未来と座っている。カスキと未来が席を替えた。
「カスキさんと距離を置くなら、東さんも端に座ったほうが良いんじゃないですか?」
「ナナミは真ん中でないとだめよ、ナナミが一番肉焼くの上手いから。真ん中でも大丈夫よね?」
「うん、まあ大丈夫」
「カスキさ〜ん、私たちもウサギ座ギルドで〜す! 私たち3人とカホさんが新たに入って、『スタンピング』というグループで活動してま〜す!」
「スタンピング......、あぁ! うちのギルドの中でも一番貢献力が高いあの! まさかリアルでコスプレまでしてくれるとは思わなかったなぁ」
「覚えててくれたんですね! ありがとうございます!」
「でも......、どうしてリアルでコスプレをしたんですか? CSOのアバターでコスプレというか、Lapinと同じ格好をすれば良いんじゃないですか?」
「愛姫さぁん、それは違うよ」
「え?」
「確かにゲーム内でなりきりをするのが一番手っ取り早いし、LapinたちはもともとCSO内で出来上がったデザインだからCSO内で再現は100%可能だよ。でもそれじゃ彼女たちのプライドが許さない。リアルにE-ZONESを、2.5次元に呼び出すことが何よりも重要なんだから」
「そう、そうです!!」
「良かったぁ公式が私たちの意図を良く分かってくれて!!」
大歓喜、それもカスキには理解できる光景だった。カスキもヲタクだ、自分の好きなものがいわゆる『本物』に認められるほど喜ばしいものはないだろう。
そして、喜んでいるのはカスキも同じだった。カスキがこの1年足らずで積み上げた自分のやりたいことを、こういった形で応援してくれるからだ。認められること、その喜びは実は意外と訪れることがあまりない。カスキは俄然、今の行いに自信を持てた。
少し落ち着いた頃に、頼んでいた料理が来たので早速焼き始める。焼肉屋の中でも高級なところだけあって、1枚1枚の肉が普段見るのとは違うクオリティ、器も輝かしいものでより高級感を増している、ドライアイスや金のオブジェクトなど演出もバッチリ。口だけでなく目も耳も鼻も、楽しませてくれる素晴らしい店だということをカスキは実感した。
「あの......、やっぱり払いますよ。お高いんでしょう?」
「まあ確かに、その返しに実は割引してますなんて言えないほどのお値段だけど。でも良いですよ、大人として子どもの前ではかっこつけさせてください!」
本当によく見れば変な光景である、大人4人が尊敬している人物が実は子どもで男で、それでも顔色1つ変えることなく崇拝を保っている。カスキはこの熱い視線を向けられる感覚が初めてなのでだんだん緊張までも味わうようになった。
「あの......、Lapinさん!」
「いやゲームの名前をリアルで言っちゃ......」
「あぁっ! そうでした......、ごめんなさい......! 赤谷さん......」
「飛燕さんも皆さんも、俺のことはカスキで良いですよ」
「は、はいっ! では私のことも、香帆で呼んで頂いて結構ですので......」
「で、カホさんは何か聞きたかったんですか?」
「はい、私のコスプレ......、どうでしたか?」
「うん、すごく良かったですよ」
「ほ、本当ですか!?」
「でもどうしてバニーのコスプレが出来たんですか? あれ解禁したのはこの前の生配信した時じゃないですか。1週間もなかったのに」
「そうですね......。さすがにあれは、可愛いと思いつつも焦りました。今までの服でコスプレしても盛り上がらない、バニーのほうが可愛さが上回っている! そう思った私は、残り数日で既存のバニー衣装と燕尾服を注文して、色を塗るのはもちろんできる限り寄せようとアクセサリをつけて、そして今日間に合うことができました......!」
「す、すごいですね......! こういうのを何て言うんでしたっけ? ジェロニモ?」
「ジェバンニね」
「良かったわねカホさん、努力が報われて」
「うん......! まさか本物にあえるとは思わなかったし、しかも褒めてくれたし、私もう死んでも良い......!」
「あれ? カホさんもう酔っ払ったの?」
酒を飲んでいるとはいえまだそんなに……、な量だったはず。チームである菜々美たちすら、香帆は酒に弱くよく泣くということを今知った。
「でも、冬場にバニーガールをするなんて大丈夫だったんですか? 寒くなかったんですか?」
「全くと言えば嘘になるわ。でも愛があればアドレナリンで寒さなんてへっちゃらだったわ!」
「愛関係ないじゃん、アドレナリンって言ってるし」
「それに普通のバニーじゃなくて燕尾服付きだったからより露出が少ないほうで良かったわ」
「燕尾服カッコいいですよね!」
「……というより私からしたら、少しでも健全に見せたいっていう悪あがきが見えたけどねぇ」
「え……?」
「……」
「カスキさん……?」
「燕尾服自体もちろんカッコいいけど、露出度高い恰好させる罪悪感を消すために燕尾服も付けました、はい」
「そういうところ男子高校生っぽくてかわいい」
酒も飲んでいないのに顔が赤くなるカスキだった。
【プチメモ】
カスキが夏休み中に出したCSOの企画で、バニーデザインも提出した時、細かく丁寧に描かれていて好評だった。しかし奈越に、燕尾服の誤魔化しにすぐ気づかれてしまった。




