3ゲーム、プライドが高い人間が住む現実世界は、いつだって見た目と偏見によって維持されている
「まったく、教師のくせに弱み握られてどうするんすか……!」
午前のHRが終わり、放課後となった。カスキ以外の生徒たちは帰り、例によって居残りの命令を受けたカスキは、ケンコバの手伝いをすることとなった。
「面目ない、まさか生徒にああやって脅されるとは思わへんやろ?」
「俺が星野先生に言ってもいいんですよ」
「丸秘もお前も、最近の若者は教師を何や思うとんねん」
「主語が大きいままやと一生人間レベル高くならないですよ~」
カスキが手際良くコピー機のボタンを押して刷り始める。ウィンウィンと紙が出てくるのを眺めて溜め息をつく。
「まあ、この程度の居残りで良かったですよ。本来の居残りをさせられたら俺も黙っていられなかったし、でも次はあの女にもうちょっとガツンと言ってくださいよ」
「ハハハ……、精進するわ」
どちらが上なのかわからない会話をしながら、コピー機から出来上がった紙を集めていく。
「せや、ひどいことしたお詫びとしてこれをお前にやろう」
早く帰りたい男へのささやかなプレゼント、それは、数学の小テストだった。
「これで夏休み明けの小テストは難なく乗り越えられるな!」
「どうしてだろう、地味に喜べない……」
ヲタクを現実に引きずり込む音がした。
「よ、ようやく着いた~……!」
居残りが終わってすぐ秋葉原の『アニテン』というメディア販売店へ行くカスキ、その迷いのない行動力を勉学に活かせられないのだろうか。
「2時過ぎか、予定では1時だったのに……。まあ過ぎてしまったものはしかたない、まずは漫画コーナー!」
平日とはいえアニテンで買い物をする人は少なくない、出入口から店内を見ても数十人はいることがわかる。そして何より大事なのはレジ前だ。手前の本棚が陰になっているのでどれだけ並んでいるのかはわからないが、数分並ばないといけないほどの行列だった。
「そうだ、ついでだからグッズコーナーも見るか……。そのうち列も少なくなってるだろ」
何も目的の漫画を買うことだけが楽しみではない。物が溢れ返るので滅多に買う事はないが、カスキはアニテンへ行けば必ずと言って良いくらいグッズコーナーを眺める。漫画原作のアニメ、ラノベ原作のアニメ、女性向けには通り過ぎるのみでボーカロイドや東方も、ほとんど全てを見渡してから、本題の漫画の購入へ向かう。
買いたい漫画を集め、カゴも用意されているが使うことなく両手で担がなきゃいけないほど多く持っている。そのままレジで精算をするため最後尾へ、本棚を周って左へ曲がればすぐそこに……、
「きゃっ!?」
……の前に、制服を着た一人の女の子とぶつかった。
「あ、すみません! 急いでしまったので、大丈……ぶ……です……か?」
まるで遅刻する食パン少女のような出会い、しかし彼女が持っていたのは数々のアニメグッズだった。
透き通った黒髪を流星の如くなびかせるのが先に目入り、目鼻立ちが書庫の如く整っているほどの美しさが自然と飛び込んでくる。おしとやかな風景が相応する大和撫子、一言で表せというなら『二次元から現れたかのような美しさだった』というのが出てくるだろう。今まで出会ったことのない美しさ、しかしカスキはこの女とその制服を覚えている。
「き、君はさっきの……、え? ということは、愛姫薫……!?」
今朝、車にぶつかりそうになったのを命がけで助けた女子高生、愛姫薫。
間違いなかった、愛姫薫という人物は知らなかったが、現在ここにいる女は今朝助けた女子高生だ。ラクが言ってたのが本当なら、アニメイトで出会った女=今朝助けた女子高生=愛姫薫、となる。しかし一つおかしかった。
愛姫薫はお嬢様で、ヲタクなカスキとは月とすっぽんな存在。そんな彼女がアニテンどころか秋葉原にいることすらおかしいのである。
「あ、あなたは今朝の、……っ!?」
ぶつかった拍子に彼女が持っていた物が落ちてしまった。その光景を見て彼女は急いで落ちた物を隠しながら拾い集める。
しかし、量が多すぎた。落ちた物の一つをカスキは拾い上げる。それは、
「これは……、CSOのソフト!?」
コーポレートスペースオンライン、通称CSO、今朝も遊んでいた現在カスキたちが一番ハマっているゲームだ。これを持っているということは……、まさか、そんなことがありえるのか。
「もしかして……、ゲーム好きなの?」
「は、はい……!」
【プチメモ】
問題があると思うので、〇ニメイトのことをアニテンという店名として扱いました。固有名詞って難しいですね。