30ゲーム、自分へのご褒美は、現実世界という日々の苦汁を啜り耐え抜いた者にこそ与えられるものだ
「我が大技をとくとご覧あれ! ですわ。『大爆発』!!」
ようやく溜まったハーミーのスペシャルスキル、その大魔法でラビトイドを一気に片付けた。
「あ、ヒーラが作った壁が崩れそう」
「しぶとく壁を削り続けていたとはな、でも無駄や」
ヒーラが指をパチンと鳴らすと、壊れかけの岩壁が突然爆発しラビトイドたちが巻き込まれていく。
「えげつないね、壊したら壊したで爆発するなんて」
「使える手はどんどん使わんとな!」
もちろん爆発する仕組みはヒーラのMPを沢山削った上で完成する罠、あの時はMPに余裕があったから使ったまでのことだ。
一筋縄ではいかない、これもまたソロランキング10位の実力者の本質だ。
「Lapin! その素材ほんまに1人でやるんか〜? うちらも手伝ったほうがええんちゃうの〜?」
「私が欲しいんだから、私がやるわ! 3人は引き続き討伐をお願いね〜! 足止めでもこのミッションはクリアできるけど、倒さないと素材が手に入らないんだから〜!!」
このミッションにおいて、制限時間が過ぎるまで宇宙船を守るのが何よりも大事だった。Lapinたちが死守してさらに積極的に倒していたから、それでも数える程度穴を抜けるように宇宙船に攻撃をしていたが雀の涙程度、ジョイが処理して何のトラブルもなく、残り時間を見て余裕でクリアできることが分かった。
このミッションの難易度は、確かに高い方だと思うが攻略法はある。ハーミーみたいに魔法で広範囲攻撃をするか、ジョイの粘着弾のように足止めをするか、決して奴らを倒す必要ははっきり言ってなかった。
しかし素材が必要となると話は別だ。そんな隠しイベントは運営が追加したプログラム、企画者のカスキのためのサプライズ、カスキが企画した『Lapinのための装備』が、危うく手に入ることなく終わるところだった。
ゲームのことになると脳筋になってただ倒すしか考えてなかったが、今回はたまたま功を成した。おかげでご所望のものはもう目の前だ。
「良しっ、納品完了! 良いのを期待してるわ」
「それでは開始します」
NPC船員がコンピューターを駆使して作り上げる。結果出来上がったものは......、
『完成しました、装着してストーリーを進めますか?』
というアナウンスがかかり、はいとLapinは答える。
「た、大変です! あれをご覧下さい!!」
今、Lapinたちプレイヤーは飛び立つ宇宙船の中にいる。そこから先ほどの戦場を見渡すと、変革進行団が出し尽くしたラビトイドたちがいきなり共食いを始める。
共食いと見せかけた機械同士の合体、土埃が出て、上がって姿が見えた時、ラビトイドは巨大化していることが分かった。
2本足で立ち、モフモフながらに鉄壁さも誇っている体、眉間にあるキラキラ輝いた赤い宝石と、ギラギラと鋭い赤目、歯も耳も体も、何もかもが大きい。今からこの『ラビトイド・ジャイアント』を倒さなければならない。
「あ、あいつらが巨大化するなんて......! あんなのが暴れたら、この星だけでなく他の星まで危険です!!」
恐ろしさを強調するような常套句をNPCが言っている。本当はカスキたちもラスボスが大きな兎だということは知っているが、デザイン自体は初めて見るので、全く驚いていないと言えば嘘になる。
(良い感じに作ってもらったね?)
(あぁ、文句なしだ)
「あれは私たちが倒すわ、あなたは帰って良いから、本部に連絡して増援をお願いね」
と、LapinはNPCに話しかけるが実際には助けは来ない。この4人のパーティーで倒すのがクエスト、失敗すれば最初からやり直すしかない。これは雰囲気で言ってるだけだ。
しかし、もしこのゲームが現実なら......、否、カスキたちはゲームをも現実として立ち会っている。その没頭こそが、見せる力を持つミルチューバーの必要な要素であり、強くなるための刺激にもなる。
「E-ZONES、出陣するわよ!!」
「あぁ!!」「えぇ!!」「うんっ!!」
バトルスタート!! 今ここに、巨大な兎対E-ZONESの戦いが始まる。
「さあ、新衣装のお披露目よ!!」
新生Lapinの姿、それは紛れもなく、誰がどう見ても100%返ってくるその名は、バニーガールだった。
脳波によって動く白い付け耳、腰まで尖るほど伸びた白く裏地が赤い燕尾服、そして白いバニーガールのレオタード、付け襟、腕輪、網タイツ、ヒール、紛れもないほどのバニーガールという夢が詰まっている正装だった。
「これが......、Lapinさんの真の姿、かっこいい!!」
「ふ、複雑ぅ......。兄の性癖を垣間見た気がする......」
生配信を見ていた2人の新衣装に対する意見は180度違っていた。
「なるほど、ウサギといえばこそね。それにしてもあの男、すけべぇだけど良いセンスしてるじゃないの」
相変わらずカスキのことをちゃんと名前で呼ばないデネブ、しかし彼からしてもLapinの衣装は高評価だったようだ。
(なあカスキ、お前の思うLapinからして、こんな格好されて嫌だとか恥ずかしいとか思わんのか?)
(今までの露出度高いキャラを全否定してないか? まあ大丈夫だとは思うけどぉ? 女の気持ちなんて完全に理解できるかよ。ただ、Lapinは目立ちたがり屋な性格から隠された気持ちは......、孤独を嫌い皆に囲まれて一生を生きて行く。それが彼女の生きがい、プライドの高さも自信家も、全て見た目に現れてるんだよ。.....って設定)
(ふぅん、まあおめぇがそこまで考えてるなら何も言わねぇよ)
カスキには、今まで大胆な服装を着て人前に立っている人たちを見てきた。そういうことができる女性は1周回って自分の身体を武器として用いている。それがカスキから見た心理である。
言ってしまえば、いちいち自分の創ったキャラクターに『恥ずかしい衣装を着させても大丈夫な理由』を創ることなんて普通はありえない。ただカスキはただエゴで、そこまでしておきたかったから創った設定だ。自分も相手もまだ納得できる範囲の落としどころ、それが多少は成功した感じがして内心とても喜んでいる。
自分の手塩に掛けて育てたキャラに新装備を着け、今自分のシナリオを始める。これ以上に楽しいことはない。新生Lapinの初陣、今、Lapinが空を翔け抜ける!!
「お手並み拝見ね、トゥーステージジャンプ&エアバウンド!!」
お得意の空中戦へ持って行くためには必要なムーヴ、その高さはジャイアントラビトイドを超えている。
「相変わらずすごい跳躍力だけど、どうしてその位置から……? まだ敵とは随分と距離が離れているのに、それじゃ何もできずまた着地するだけじゃない……」
デネブの言う通り、ここでジャンプをする意味が分からなかったが、次の瞬間誰もが驚く光景を目の当たりにした。
「「う、浮いてる……!?」」
跳躍の最高地点に到達し落ちると思ったが、そのままゆっくりと高度を下げながら前へ進んでいる。
「Lapinすげぇ! ついに浮遊を手に入れたんか!?」
「正確には浮遊というより滑空ね、少しずつ降りて行ってるから。この燕尾服が持つスキルで、空中により長くいられるようになったわ。さらに……!」
しばらく経つと、Lapinのエアバウンドのクールタイムが終わる。それを見越して空中でまたもエアバウンドを使う。空中からまたも使うジャンプ、今まではエアバウンドもクールタイムが終わる時には、空中攻撃を続ける時を除いてもう地に着いていた。これからは永遠にと言って良いくらい、長く空中にいられるようになった。
「さて……、このカイブツは空にいる相手にどう立ち向かうのか……、なっ!?」
いくら企画を提案したカスキでも、ラスボスの技や動きを完璧に知っているわけではない。しかしそれでもある程度の案は出せる、例えばラスボスはウサギなのでジャンプして着地した時の地ならしやプレスの攻撃も……、だと言ってこうなることは予想していなかった。まさかこのカイブツよりさらに高く跳んでいるLapinの、さらに上へとジャンプするなんて……!!
「Lapinっ!?」
「『メテオスタンプ』!!」
高く跳んで落ちてくる、そんなジャイアントラビトイドの突撃を逃れるには後退、行く先というより落ちる先が地面なので、Lapinは技で先に地面へ着地しようとしている。
しかしより重いものが先に落ちるのが自然の摂理、Lapinのメテオスタンプよりジャイアントラビトイドのプレス攻撃のほうが速い。これは判断を誤ったか……。
「間に合ったっ! エアバウンド!!」
Lapinがエアバウンドのスキルで横に逸れる。エアバウンドはただジャンプするためのスキルじゃない、好きな方向に空中でも自分の軌道を変えることができる、Lapinにとっての優れもの。
空中戦を使うプレイヤーは有名どころでもLapinぐらいしかいない、だから自然とエアバウンドなんてスキルを持とうとする者も少なくなる。しかしこうも便利に避けられるものなら、皆にとってもエアバウンドの評価が変わるだろう。
そんなことより、間一髪大技を免れたLapin、もといカスキはとてもヒヤッとしていた。今の攻撃が当たればどれほどのダメージを負うのかは分からないが、少なくとも威力が高く一撃で死ぬ可能性だってあり得る。
「カスキさん……」
『どのMMORPGにもステータスというものがあって、ストレングス、アジリティ、バイタリティ、デクステリティ、インテリジェンス、あとはHPやMPなんかにポイントを振り分けたり、鍛えて伸ばしたりするものなの。全体に平均的に、まんべんなくステータスを上げることも良いけど、こんな尖った世の中にはあまり良い方法と言えないの。だから2つくらいは無視するわね。レベルアップすれば自然と少し上がるのだけにしておいて、自分のスタイルに合わせて1部のステータスを伸ばす! 私はジャンプしたりと機敏に動きたいからアジリティ、攻撃するためにストレングス、その2つを特に強化してるわ。だからその分バイタリティとかにステータス割り振れてないから実は当たれば脆いのよ、私は』
『なるほど.....、でもLapinさん1つ言って良いですか?』
『何?』
『というよりカスキさんに言いたいんですけど、どうしてゲームの中ではそんなに英語の成績良いんですか?』
『知らないよっ!!』
薫がカスキにゲームについて教えてもらった時のことを思い出す、MMORPGにおける基本的なことだ。
Lapinは身軽にしている分下手に攻撃を受ければ死ぬ可能性が高い。こんなに大きければ攻撃力も高い、動きが鈍いかと思ったが案外そうでもなかった大胆さに面を喰らっていた。
しかし、Lapinことカスキだって今までそのスタイルでボスキャラを攻略してきた、しかも今回は本人が一番楽しみにして戦略を考えてきた、負ける要素もなくはないが、勝つ見込みだって充分にある。
「空中に敵がいるとああいう風に対策を取るのね。気を引かせるには良いモーションだけど、こっちの身が持たなくなりそうね……」
「どうするんだLapin? 大人しく地上戦にするんか?」
「い~や! それでもなお私は空中戦を徹底するわ!!」
「さすがLapin、執念深い」
「ようはあのジャイアントラビトイドは空中戦と地上戦を同時に行えば片方の対策しか取れなくなるわけでしょ? 地上戦のほうに力を入れて、私が跳んで隙を見つけてみるわ」
「隙ってどういうこと?」
「あの額の宝石、何かありそうな気がするの。たぶん弱点」
「何でそんなことが分かるんですの?」
「……カン」
あくまで制作側としての勘である。そういった弱点要素をつけなければ面白くない、ならばどうするか、分かりやすく、それらしい推測が立てられるものを用意する。それがゲーム運営の都合というもの。カスキは多少なりと関わっているのでそれが分かる。
しかしあんな高いところが弱点では魔法などの飛び道具で狙わないといけなくなる。
「でもそうだな......、あの高さならお前の出番かもな! よっしゃ! 地上でうちらが気を引かせてる間に、あの額に風穴空けて来い!!」
「了解!」
「あとジャイアントラビトイドって名前長いから略した名前決めようぜ」
「あー、じゃあジャイラビで」
「安直」
作戦は決まった。Lapinとヒーラが前線、後方にハーミーとジョイという、彼女たちにとっていつもの戦闘スタイルで攻略を始める。
「行くわよ!」
「あぁ!」
Lapinとヒーラ、ジャイラビに向かって爆進する。
「え? さっきの作戦は? Lapinさんは空中戦をするんじゃないんですか......」
「わ、私に聞かれても......。田中さんは......」
「誠に申し訳ございませんが私にはこういったことは専門外でして」
「今また空中戦をしようと跳んでしまえば、またあのジャイラビは空中戦対策のあの動きをする。Lapinはギリギリまで近づいて攻撃して、隙を見て空を跳んで決めるのかもしれない、ってさ」
「あ、永良さん!」
スマホを横にしてワイヤレスイヤホンを耳に付け生配信の動画を見ながら、荷物を持って現れたのは、もうすっかり元気に歩くことができた永良寿一だった。
「メリークリスマス。これシャンメリーなんだ、あいつらが帰ってきたら一緒に飲もうな」
「ありがとうございます、では冷やしておきますね」
「永良さん詳しいですね......」
「俺が詳しいんじゃないよ。解説者からの言葉さ」
ワイヤレスイヤホンの電源をオフにして、スマホで生配信を見るのを止めPOINTに切り替えた。すると誰かと通話中である画面になっていた。
『やあやあみんな、メリークリスマス! キチク以来だねぇフレイバちゃん!』
「この声もしかして......、キリさんですか!?」
『あぁ! Lapinから君らのために解説頼まれたからな。分かんないところあったら聞きな、普段あいつに教えてもらってるだろ? 今日は課外授業だ!』
「わ、私の知らない人がどんどん来た……」
場違いな紅葉が疎外さを感じていた。
一方、特攻を仕掛けたLapinとヒーラは、まるで息を吸うように当然に、2人のコンビを決める。
「『メテオストレンジ』&『ライトロッド』!!」
彼女らの上に3つの岩が浮かぶ、ある効果を付与しているがただ彼女らの屋根代わりとして使われているだけだ。
「ギィィィィィ!!」
ジャイラビが前足で殴りにかかる、と同時にヒーラが操作して1個の岩を上へと浮かび上がらせる。するとジャイラビの前足はLapinたちでなく浮かび上がった岩へ、まるで吸い込まれるように岩を攻撃して破壊した。
「え!? 今の何?」
「ヒーラの『ライトロッド』だ、そのスキルにかかったものはまるで避雷針のように、全ての攻撃の対象となってしまう。飛び道具なら軌道を逸らされ、近接の範囲内にあれば盾代わりになる。あいつの嫌な駆け引きの一つだよ」
「永良さん詳しいですね」
「あいつは教えるよりPvPで勝手に学べって言って、容赦なく叩きのめしてきたからな。あいつの手の内は戦ってるうちにいくつか覚えた」
「スパルタですね防人さん……」
ジャイラビの背後に回ったLapinと浮遊した1個の岩、ヒーラはジャイラビの前まで来てそこで立ち止まった。
「ヒーラ、今から飛ぶから合わせて!!」
「みなまで言うなっ!!」
ヒーラが左腕を上げる、その操作で岩を自由に動かせている。しかしその魔法による操作は明らかに無防備、それを見逃さなかったジャイラビは前足でヒーラを攻撃する。しかしそれも、残るヒーラの上に浮いた岩でガードする。
「避けることも、攻撃することもしなかったですねヒーラさん……」
「できない、に等しいかな。複雑に岩を動かしてる間は他の操作はできない。あの『スウィングリング』も、あの2個の岩を所定の位置に留まらせてるからできるんだ」
「何事も都合良くいかないんですね」
『岩操作はいわゆるガードに近いからな、ガードしてる間は何もできないのと似てるな』
寿一の知っている内容だと、2人の解説付きでより詳しいものになる。
「トゥーステージジャンプ&エアバウンド!!」
ここでようやくLapinがジャンプを始める、それと同時に岩もLapinに合わせるように動く。ジャイラビは今度はLapinへ攻撃を始める、しかしデコイとなる岩のおかげで攻撃を受けずに済んだ。
しかしまだ攻撃が来る、なぜなら前足は2つあるから。
「まずい、Lapinさん……!!」
「トリプルバインド!!」
もう操作する岩がないヒーラは攻撃に移れる、3つに分かれた鞭を使い、ジャイラビの攻撃しようとした腕、首、片後足を拘束することができた。さらにもう片手の鞭で静かに攻撃を始める。
「ナイスよヒーラ、これならっ!!」
しかし、ジャイラビの目と眉間の宝石が突如光り始めた。
「この光……、まずい! Lapinっ!!」
宝石から放たれたのは、内部に入った光を宝石の中で何度も反射され強化された光線だった。そしてその光線が見事に、Lapinに向けてゼロ距離射撃で当たってしまった。
【プチメモ】
Lapinもといカスキとキリは、カスキがアメスシストに企画を出した7月に出逢った。




