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感想を聞かせてよ、捨てた現実世界に花が咲き始めた状況の!(リメイク版)  作者: カラーコーン人間
第5章、さあ、ゲームという名の現実を始めよう
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28ゲーム、現実という勝負が苦手で捨ててもそれは弱い人間とは言わない、なぜなら本当の勝負の時に命をかけて挑めるはずだからだ

「精が出るねぇ、カスキくん」


12月24日の昼、ラクの家にてまたも特訓をしていたカスキ。


しかしパソコンの前ではなく、ラクの家のガレージ内、筋トレ道具や木刀等が並ぶ、いかにも現実の身体を特訓するかのような場所である。


それもそのはず、カスキはサンドバッグのような役割をしている吊るされた木片に、ひたすら木製短剣2本を使って打ち込んでいる。まるで剣士の修行のように、打たれて振り子の動き以上に激しくなる木片を、何度も何度も追撃する。


カスキは運動不足で運動音痴、しかしゲームで行っている双小剣の戦闘スタイルは彼の脳に焼き付けてあり、それを実現するのにセバスチャンこと田中の指導を加えるだけでその身に宿すことが可能になった。


そのおかげもあって、体育大会の終わりにサランラップで友達を助けることもできた。


短剣を逆手にすぐ切り替えられるテクニック、片手の剣で攻撃した後に追撃する身体運び、防御姿勢や投擲まで会得中である。


運動は嫌いなのになぜ汗水垂らしてまでこれをやるのか。単純にLapinに近づきたいという気持ちもあるが、現実で身体を動かすことで技のタイミング、隙を無くす動きの開発、イメージトレーニングの向上のために行っていると言っても良い。さらにはこういう理由もある。


「おうラク! お前もリアルでサバゲーして気分転換しないか? 最近ずっとゲームばっかしてたからさ、下手にやりすぎると熱が無くなって飽きるだろ? 脱線しないレベルでちょっとやること変えてみるのも良いぞ!」

「うん、そうだね。今度サバゲーできるようにしておくよ」

「良し......、休憩するか」

「いつから練習してたの?」

「3分前」

「......相変わらず持久力持たないんだね」


カスキのリアル戦闘は、実はそこまで長くは続かない。



「本番3分前でーす、準備をお願いしまーす」

「すごいね、視聴者もうスタンバイしてるね。これが生配信なんだね......」

「うぅ、いざ本番迎えると緊張するでござる」

「スミおめぇ、ゲームやってるときはですわに語尾変えるんやぞ。忘れんなや」

「分かってるでござる。今までの撮影中確かに何度か間違えたけど、今回は気を抜かないでござるよ」

「台本も、笑顔もオッケイ。あとは楽しむだけだな」


ついにこの時が来た。E-ZONES主催と言っても過言ではないイベントクエスト生配信。


この日のために、ゲームの練習もしてきたが、ミルチューバーとしての練習も欠かさなかった。表情豊かな演技ができるように、ゲーム画面前に手鏡を置いてほぼ常に己の顔を確かめられるように、やれるだけのことはやった。カスキの言う通り、あとは楽しむだけだ。


「良し、円陣組もうぜ」


そう言って、4人が肩を組み合い、カスキが咳払いをする。


「俺たちは、2つの世界を堪能している。これから行くゲームの世界を楽しむために、今この現実の世界の何かを、いくつか疎かに、犠牲にしたことだろう」


家族との暇を楽しむことも、寝る間も惜しんでゲームをしたことも、ありのまま生きるためにファンを減らしたことも、全てはこの現実を犠牲にしたからこそだ。その言葉に3人は心当たりがあり、その事実を受け入れる。


「だが、ゲームの世界だって、もう現実と言っても良いだろう。むしろゲームの世界を現実の世界に、違いはない。存在しているし、何かのはずみで大切なものを失くすこともあり、様々な人に出会い繋がりを持てること、どっちの世界だって同じだ。同じになった。つまり俺たちは、何も犠牲にしたつもりはないってことだ。背負うものは何もない、ただ楽しもう。それだけだ!」

「良ぇ演説やけど、ソースあるやろおめえ」

「なあに、直前までキャプテン・ユニバースの作中の演説を聞きまくっただけさ」

「でも良いよ、リーダーがカスキくんで良かったって、心の底から思った」

「ふっ......、行くぜ! E-ZONES、」

「ゴー!!」

「それでは本番5秒前〜、4、3......」


カウントダウンが始まり、どうぞという合図がかかる。


「こんばんは~、E-ZONESのLapinと、」

「ヒーラと、」

「ジョイと、」

「ハーミーですわ!」

「すっごーい! もう5万人の方が、この生配信に来てくれてるんですね! ありがとうございます!」

「それじゃあLapinさん、今回のイベントクエストについての詳細をお願いします」

「はい。今から読み上げるのは、私Lapinの生みの親である方からのメッセージになります」


その言葉を発した瞬間、視聴者が数千人減ってしまった。E-ZONESという夢を壊した代償は小さくはない。それでも声色1つ変えず話を進める。


『皆さんはじめまして、Lapinの生みの親でございます。7月下旬、アメスシストにて私が考えた企画を提出しました。私の子、Lapinをレベルアップさせるための装備やスキルが用意されております。クエストを達成し、報酬として手に入るものは皆同じ、今回のイベントクエストはユニーク装備もスキルもありません。ぜひ、私が考えたクエストを楽しんでいって欲しいです』


それは、カスキの言葉。もどかしくもLapinが代弁するというややこしい建前になってしまったが、ゲーム企画の話をすること自体、Lapinが言うには相応しくない。これなら不自然ではないと思い、進行を続ける。


「やったねLapinちゃん、良い装備が手に入るって!」

「そうね、これは何としてもクリアしないといけないわね」

「そんじゃ早速クエスト行かなきゃな!」

「えぇ、E-ZONES出陣するわよ!」



人類が月面着陸に成功してから数百年、宇宙船を持ち数々の惑星を旅行できる時代になった。


しかし、月には『地球で見える綺麗な月にしか興味ない』と思う人が増え、月への観光客や住民が一向に増えることはなかった。


そんなある日、その月の不人気さを利用した者が現れた。


その者たちはクレーターの凹みを利用して裏カジノという隠れ店を設立し、密かに客を集め、あり得ないくらいの利益を得ていた。


いつしかそれが月という聖地の復興へと繋がり、堂々と事業展開できるようになった。


しかしそれから、月面カジノ店『Crater』から不正を働いているとの言葉を聞いた。


とはいっても証拠は不十分、イカサマが行われているという具体性のないカンだけだが、密かに調査が行われていた。


しかし調べていく度に、月面カジノ店『Crater』は『変革進行団』と繋がりがあったことが判明した。彼らは店の『未来の利益』を一部受け取る代わりにある腕時計をもらっていた。


その腕時計は『周囲の物の重力を6分の1まで弱くすることができる』能力を持つらしい。未来の月から得た技術となる。


その力を使って、ルーレットの玉の摩擦や空気抵抗を下げたり、シャッフルしたカードの動きを鈍くして好きな並びに一瞬で変える等、その物理法則を歪めて不正を働けることだと理解した。とはいえ、他には気付けないレベルで物理法則を歪めるという微力では使う人間の腕あって初めて成立するレベルだ。本来ならば装着者や周囲の重力を弱くして高くジャンプして楽しむおもちゃなのである。


そのうち証拠も見つかった。ディーラーが使った腕時計の出力が大きすぎたため使用された瞬間、落としたコインが落ちるのが遅かった動画が残っていた。


プレイヤーたち『防戻者』は強行突破を開始する。しかし動きを先読みした店員たちは未来へ逃げてしまった。行き先のサーチに成功し、プレイヤーたちも追いかける。



長々とストーリーが始まり、戦闘へ移るのはあと少しとなる。


(ストーリー、なかなか好評みたいだよ)


生配信ゆえリアルチャットが見れるようになる。賛否両論ではあるが見たところ好評のほうが多かったことを、ゲームのストーリーが流れている間小声で喋っていた。


(まあ、シナリオライターともちゃんと話し合って通ったんだからな。向こうの力のほうが話の構成は上だって)

(でも原案はカスキくんなんだからさ、もっと誇って、素直になりなよ)


そうは言われても、カスキは素直に喜べない一面があった。カスキが出した案の1つに『地球からの月光に影響が出るため、月に人を住まわせるかどうかの論争があり、結果として住むことは禁止となった』というのがあった。


しかしそれは、この後カスキが考えたカジノ店経営は良いのか、という矛盾が生じるため、その案はなしとなった。


準備ができて、戦闘までのカウントダウンが始まる。


「3……、2……、1……、スタート!!」


合図により、プレイヤーが乗ってる宇宙船がワープ、逃亡した店員たちを追いかけるという設定になる。


未来の月はさらに栄えており、どこかしらも太陽に照らされることのない満月状態。ワープしたタイミングは店員が宇宙船から逃げようとするばっちりなタイミングだった。


『私は彼らの宇宙船を見張ります。あなたたちは彼らを捕まえてください!』


NPC船員がそう言い、カスキことLapinたちは逃げて行った店員たちを追うことになる。


まず初めのミッション1は、腕時計により低重力機敏になった店員を4人捕まえることだ。単純に敏捷性かデバフ攻撃が必要になる戦いである。


ターゲットは丸腰、しかし腕時計の力で任意の場所の空間を高重力にするというデバフトラップを作ることができる。その場所だけ空間が歪んでいるため肉眼で分かるが、鬼ごっこをしている以上下手をすると引っかかってしまうことがある。


制限時間は10分、それまでに全員捕まえることはできるのか。


「ここで失敗したらみっともないわね、最初のミッションなんだから手早く済ませますわよ!」

「そうね! まずは私が鬼として動き回るわ、私のスピードで捕まえたいけど、意地を張るほどこだわったことじゃないから、隙を見てデバフ攻撃するなりトラップにかけたり好きに周って。向こうが攻撃しないからって油断しないでね!」

「「「了解!!」」」


広々とした丸く建物が密集したステージにて、鬼ごっこが始まる。Lapinはただ追いかける、近づかないと何もアクションが起こらない。入り組んだ建物の隙間を動き回る場所か、屋根に乗るという障害物がなくジャンプして移り替わる場所、どちらかを選ばなければならない。


「少し試してみるわ、下にいるターゲットを追いかけてみるわね」


追いかけるとプログラム通り追いかけてくる、敏捷性で言えばLapinのほうが上、しかしどう動くかの特権は向こうにある。向こうが曲がるとその通りに曲がり、屋根へ上がるならこちらも上がる。常に移動の権利が向こうにあるためその対応力、反射神経を良くしてじりじりと距離を掴む、それがゲームに良くある鬼ごっこの攻略法だ。


しかしこのCSO、このイベントクエストなら複数で、しかも妨害のための攻撃や魔法もありだ。メインは現段階のミッションではないため、割とすんなり攻略してもらわなければ困る。とは言ってもあまりにも容易すぎればそれはそれで達成感がない。集中して何とかクリアするくらいの難易度で設定されているはずだ。


案の定、ただ追いかけて曲がったりジャンプしたりの動きに0コンマでも遅れて対応していたらいつまでも捕まえることができない。しかしLapinと相手の鬼ごっこが1周終えて2周目に回った頃、


「大通りに出たわね、これならしばらくは真っ直ぐ逃げるわね! ここで捕まえてみるわ、エアバウンド!!」


普通のジャンプでなく、スキルを使ったジャンプでLapinは空を跳ぶ。スキルでのジャンプのほうが、普通にジャンプするより速く跳べる。


「そのまま、スパルダッシュ!!」


空中での三角跳び、エアバウンドを使って正面やや上向きのジャンプ、そして空中で相手に向けた双小剣のダッシュ攻撃。


相手は近づくほど軌道を変えるというシステムなのが、追いかけているうちに判明した。


ならば近づくなら一瞬、軌道を変える時には既にLapinに捕まえられてしまった。


「1人目確保、次!」

「はえぇなおい! こっちは攻撃しても当たんないってのによぉ!」


リョウことヒーラが長い鞭で走りながら攻撃しようにもターゲットに命中しない。


「ヒーラ、多分あの店員は腕時計をつけてるから重力を感じず身軽に動けるだけでただの一般人なのよ。私たちって一般人を攻撃しようとするとセーフティーロックがかかるでしょ?」

「あぁ、確かそういう設定やったなぁ」

「だからあの店員も同じ、NPC同様ダメージ付加不能のセーフティーがかかってると思うの」

「はぁ!? ふざけんなよじゃあどうやって倒すんだよ!!」

「倒しちゃだめというか、捕まえれば良いんだって」

「だから拘束しようとしてんじゃん!」

「そうじゃなくて......」

「だいたい、Lapinもさっき攻撃してたじゃんかよぉ! 何でそっちは良いんだ!?」

「あれは攻撃する前に詰め寄ったから、捕まえた判定になったのよ」

「え〜ダッシュ攻撃するタイプの技持ってねぇぞ鞭は。役たたずのまま終わりたくねぇぞ......」

「いやいや、ヒーラならちゃんと近づいて捕まえられるわよ。あの技とあの技を使えば」



ヒーラはもう一度、地上にいる店員を捕まえるのを試みる。


さっきも言った通り、こいつらに直接攻撃は効かない。デバフによる動き制限も、攻撃タイプであるLapinもヒーラも持っていない。ならこのまま追いかけるしかないのか、否、彼女たちは頭を使って店員を追う。


「岩魔法、メテオストレンジ!!」


ヒーラの十八番である岩魔法『メテオストレンジ』、ヒーラが鞭で地面を叩き、割れた破片を集結させ大きな岩を魔法で浮かしながら自在に投げ飛ばすことができる。一度に3つまで、岩を大きくしようとすると時間がかかる。


「そぉれっ!!」


まずは1個、大きな岩を店員の目の前に落とす。そう、あえて外すのだ。


目的は通路を塞ぐこと、低重力で機敏になればその岩も飛び越えられそうだが、逃げていて方向転換する瞬間に落としたのだ、ヒーラが迫っている、まるで慌てているかのようなシステムが柔軟さを披露し、狙い通りの方向へ逃げてくれた。


「1本道っ! 待ってたぜ!!」


ヒーラが2つの鞭を手に取る。


「スウィングリング!!」


鞭を放つ、先は上空の浮いた岩へ。


すると鞭の先が岩にくっついて、鞭を持っている限りブランコのように、スイングして移動が可能ということだ。


岩魔法を駆使し、宙に浮かせて特注の鞭をくっつけ移動する。平地でもどんな環境でも作用できる移動手段である。


そしてすかさずヒーラは2つの岩を店員の前後に落とす。横には建物の壁があって地上の移動は不可能になった。


システムにあった、屋根の上に跳び乗る準備が始まった。しかしそのタメが命取りだった。


「チェックメイトだぜ!!」


身動きがほぼ取れなかった店員をヒーラが確保することができた。


「すごい、2人とも自分の力でターゲットを捕まえたよ......」

「やれやれ、これでは私たちの出番がないですわね」

「でもトラップ作ったし、デバフで鈍くなったのもいるし、サポートという目標は達成したんじゃないかな」


ハーミーとジョイのおかげで残り2人もスムーズに捕まえることができ、これで1つ目のミッションが達成となった。


【プチメモ】


カスキはナーベル作品が好き、スミも好きだがカスキほどではなく、リョウとラクは未履修。

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