18ゲーム、理想を実現するのは難しい、しかし理想あってこそ人の原動力は底知れないものだ
「それで赤谷......、いやLapinって言ったほうが良いのか。見てるだけでも楽しい動きをするからさ、少し真似をしたいなって思ってるんだ」
「Lapinさんの真似って、女アバター使うんですか?」
「いやそういう意味じゃなくて、戦闘スタイルのことだよ」
「でもLapinさんの磨かれた戦闘スタイルは誰にも真似できないと思いますよ」
「かもしれないな、なら別の戦闘スタイルを考えるか......」
「私も初心者を終えて、これからどういう育成方針にしようか悩んでるんですよね......。でもLapinさんに聞くものじゃないと思うんですよねぇ」
11月28日、移動教室にて寿一と薫がゲームの話をしながら廊下を歩いていた。
「……」
「何しとるんやラク?」
「わっ!? びっくりした……」
2人の尾行をしていたラクに、リョウが急に話しかけてきた。
「その驚いた声にびっくりしたわ。つうか何しとるんや」
「愛姫さんと永良くんだよ。何か妙に仲良いなって……」
「まあ同じエリート組やし、あの一件以来他人行儀になんのもおかしなもんやろ」
「それもそうだけどそうじゃなくて……、発展がさ……」
「発展……? 仲が良すぎると何か都合悪いんか?」
「僕がというより……、カスキくんがそうじゃないかなぁって……」
「カスキぃ? 何でそこでカスキが出てくるんや?」
「だって……、カスキくん、愛姫さんのこと好きなんじゃないかな?」
「……ハァ? 何を言っとるんや」
何を気にしているかと思ったら、どうやらリョウにとってくだらないものだったらしい。
「一度でもあったか? カスキが愛姫のこと好きみたいなこと」
「それは表に出さなかっただけでさぁ、大抵の男子は仲が良い女子のこと好きになるんじゃないのかな? 愛姫さん魅力的だし」
「ん~、まあカスキも男やからなぁ」
ミルチューバ―ということと、度が過ぎるヲタクという大事な個性を除けば、カスキも普通の男子高校生だ。運命的な出会いをして、趣味も合って話し合える友達以上の関係だって築けるかもしれない。そしてそんなウフフ……、な展開もヲタクなカスキであれば余計に考えているに違いない。
「よぉお前ら、何してんんだ?」
噂をすれば……、カスキとついでにスミもやってきた。
「あ、カスキくんさ……、あの2人見てよ」
「2人? あぁ愛姫さんと永良じゃん」
「2人けっこう仲良くなってるよね?」
「あぁ、なんせ俺が仲介役やってんだからなぁ!」
「「えぇぇぇ!?」」
「な……、何だよ2人してそんな驚くことか」
ラク、そしてスミまでカスキの発言に驚いていた。リョウは驚くにしても声に出すほどではなかった。
「な、何でそんな恋のキューピットみたいなことするの……?」
「全くでござる」
まさかのスミも、ラクと同じ考えだったようだ。
「何言ってんだよお前ら、おかしいぞ」
「誰に言われても我慢できるけどおめぇだけは言ったらあかんやろ」
「何だよみんなして、話が見えないんだけど」
「か、カスキくんさ……、愛姫さんのことってどう思ってるの?」
「どうって……、友達であり弟子……、みたいな?」
「そ、それだけ?」
「何だよ親友って言って欲しいのか? 親友はお前らで愛姫さんはまた別なんだよ」
「さらりと嬉しいこと言うでござるな」
「は、はっきり言うよカスキくん……。カスキくんって愛姫さんにその……、恋愛感情ってないの?」
「……あ~、何そういうこと?」
ようやくカスキも察してくれたようだ。
「うん、運命的な出会いもしてるしてっきり……、って思ってたけど」
「ラクって、思ったより下世話なんだな」
「なっ!?」
「まあ正直なところ言うと……、そういう目で見てないな」
「そ、そうなんだね……」
「何ていうか、俺には俺なりの理想があるっていうか……。愛姫さんも魅力的だし、これから先の進展次第じゃそういう意識向いちゃうかもしれないけど……、今は友達か弟子としてでしか見れないかな」
「そうなんだね……、ごめんね何か変なこと言って」
「まあ気にすんな。それより2人はどんな会話してたんだ?」
「え? あぁ確か戦闘スタイルのことで話し合ってたよ。カスキくんみたいになりたいって」
「そうか、2人とも俺の大事な弟子だから、兄弟弟子同士仲良くやってて師匠は嬉しいよ!」
言っていることが親父臭い。聞いてた3人が同じ感想だった。
「それじゃあ弟子の期待に応えるためにも、良い師匠として色々考えてあげなきゃな。夕方誘ってみるか」
「あとこうも言ってたよ? 実行するのは期末テストが終わった後だって!」
「またこの光景を見ることになるとは……、成長しないでござるな」
ラクの家、しかしこの前の豪邸とは程遠い、までは表現せずとも、貧相、とも言い難いほど『綺麗でお固い施設』にて、缶詰になって精一杯勉強をやっている。
6月下旬、1学期の締めくくりのための期末テストにて、カスキは苦悩していた。落第しても良い、そもそもそう簡単に落第なんかするわけがない。カスキはそう楽観的な考えでいたのだ。
あわよくばこのままプロのミルチューバ―になれば将来になんら影響がないと、社会人からかけ離れた将来を見据えていた。見据えてなんて到底言えたものではないが。
しかしそんなことをラクが許すわけがなかった。今こうしてカスキたちがミルチューバ―をできているのはラクのサポートがあってこそだ。しっかり者のラクの機嫌を損ねるような行為をするわけにはいかない、ラクは『いつまでも僕のサポートができるわけじゃない、いつまでもミルチューバ―になり続けられるわけじゃない、せめてどこかで仕事ができるようにはしてほしい』という気持ちを3人に伝えた。つまり落第や退学なんて許さない。そのために再び勉強会が行われた。
「それではカスキ様、この問題は?」
「正解は……、越後製菓!」
「これで越後製菓が17回、帰宅の日が遠ざかってしまいましたね」
越後製菓とは、分からないという隠喩である。今行っている一問一答でそれを使う度に1時間監禁されてしまう。夜は睡眠時間を少し削りつつもここで寝れるが家のほうが快適である。そしてもちろん、学校には必ず行く。
田中を含めた監視付きの下とはいえ、娯楽などの勉強の妨げにならない物なら何でも支給してくれ、空調も快適で、メッシュチェアで座ることも許される、勉強するのに適切な環境が揃った部屋も、カスキにとっては地獄でしかない。
勉強自体、もう嫌なものでしかないからだ。
「でも前回の45時間よりはましになったね、確実に成長してる証拠だよ」
「そ、そう言ってくれると嬉しいよ、次も頑張れそうな気がするぜ……」
この一問一答全50問をやる前に軽く教科書を見直す時間をもらえるわけだが、その内容をある程度頭に入れることができたカスキの成長具合のおかげである。前回もその時間をもらったにもかかわらず教科書を見ても全く頭に入ってこなかったのが45問も答えられなかった原因である。
カスキのための勉強会、一番初めにこれをやっていて、効果が特にあったので採用された勉強法だった。監獄のように薄汚く臭い空間に入れるのはあまりにも人権に関わることなので実行できず、しかし何の変哲も無さすぎる空間もまた、娯楽ばかり集まったカスキの甘々な空間生活と比べれば己を追い込められる適切な環境であった。
勉強法は人それぞれ、前回は様々な方法でカスキの集中力を高める方法を模索していた。例えば図書館等の静かな場所で勉強するのが捗る人がほとんどだろう。だがカスキにとってそこは逆効果だった。
カスキ曰く、静かなところは音を出しただけで目立つからそれに意識を割かれて集中できない、落ち着かないと分析していた。
そこで今度はファミレスやモールの休憩ブース、人が沢山いて騒がしいところで勉強を行った。するとカスキの集中力がぐんと上がった。
そこもカスキ曰く、人が遊んだり騒いだりしてる中俺は勉強してるんだぞというマウントを心の中で強く持っておくことができる、という精神状態を分析してくれた。
しかしそういう場所には娯楽や食べ物といった誘惑もあって多少危険なところ、しかしぶら下げたにんじんを追いかける馬のように、設定したご褒美を間近に用意することもまた集中できる要素であることに気付く。
他にも大学生が編み出した勉強法を参考にしたり、漫画で出てくる『好きなものと勉強を重ね合わせれば覚えられるか』という勉強法も試した。少なからず通用したものもあれば、好きなものにしか視点を置けずフィクションのようにはいかないという失敗もあった。
前回は、そういった試行錯誤の時間を使いすぎて、1教科だけ赤点を出してしまった。
だからこそ今、今までの成功した勉強法でこの1週間を乗り切ればテストも上手く行く。そうラクたちは思っていた。だが監禁から解放された次の日……、
「どうしたのカスキくん、集中できてないけど……」
「何かだめっぽい……。一度やった勉強法は、二度目だと効果が落ちてる。つまり飽きてるんだよ多分……」
「ふざけるな」
まるで振り出しに戻ったような感覚だった。
【プチメモ】
カスキは騒がしいところでの勉強が得意だが、3人はそうでないため一緒に勉強することはない。3人は3人で、カスキには田中がついてくれている。




