90ゲーム、うさぎ座ギルドチーム『シュヴァルツ派閥』VS『エンエッセン・フェニックス』⑤
「エンエッセン・フェニックスを地面に叩きつけるなんて……、何てバカ力……!?」
「ゲイニンの蟲の魔幻の力なら主にゴキブリの素早さ、カミキリムシの咬合力、蟻のパワーの恩恵をもらって攻撃することができるんだ。その分MP消費が激しい魔法使いとほぼ同じくらいの使用回数だからサポートしてやってほしい」
「分かったわ、地上にいるなら無理して跳ばないで済むわ」
グラファイトの要望にシュヴァルツも応え、追撃を試みる。まだMPが半分以下なので通常攻撃の蹴りでエンエッセン・フェニックスのHPを削りながら自分のMPを少しずつ回復していく。しかし攻撃をしているのに対して怯まず立ち上がろうとするエンエッセン・フェニックスが再びその場からの蹴りを炸裂させる。
「『シールドブレッド』&ショットガン!!」
またもハービ―が両持ちショットガンでエンエッセン・フェニックスの足とシュヴァルツの間に向かって撃つ。
「シールド展開!!」
弾が半透明のシールドに変わり複数のシールドがバラバラに空中に滞在、エンエッセン・フェニックスの蹴りをシールドで防ぐが、耐久力が足りずそのまま割れ、結果的には蹴りを成功させてしまった。しかしシールドに一瞬でも防がれた蹴りは少し止まって、結果的にその瞬間でシュヴァルツが避けることに成功、リタイアすることはなかった。
「あ、危ない……! 助かったわハービー!」
「これくらいお安いごようです! でも気を付けて下さいね!」
「あのシールドがあれば少しでも動きを妨害できるのか、しかもガードするってタイプじゃない遠隔操作だから割られても多少は問題なさそうだ」
「分析力すごいわね……。あと一応言っておくけど、今のはボスモンスターだったから割られたけど、対人だったらそうも簡単には割れないわよ。たいていシールドにぶつかって逆にダメージを受けるから」
「へぇ……、それはなかなかに良い力だ。残弾数は?」
「ハービー! まだそのシールド使える~?」
「じゃんじゃんとは言えないけど今のところ問題ないわ、1桁になったら伝えるね」
「だって。リロードの時間もあるからガードできないタイミングが生まれることも忘れないで」
「分かってる、そこまで頼るつもりはない。俺のほうを狙ってきたらチャージが完了してなくても中断して立ち回る! そこまで自分の力に溺れん、俺は『カラージェイド』のリーダー、グラファイト! 刺し時は見誤らん!! 『ビルドアップ』・『マインドサステイン』・『スピリットチャージ』・『イマジンブレイズ』・『シャープネスエイブル』……!!」
グラファイトが戦闘態勢を取る。重い1発のために集中するための戦法、それをみんなが取ってくれている以上ミスは許されない。
それをルーティン化しているグラファイトの手順、まずは自身の攻撃力を底上げするためのバフのパレード、『ビルドアップ』で全ステータスを小アップ、『マインドサステイン』で時間を消費して改心率を上げる瞑想、『スピリットチャージ』で剣にパワーを蓄積させ、『イマジンブレイズ』で太刀剣にオーラを込めさらに攻撃力と範囲の幅を上げ、そして『シャープネスエイブル』で切れ味を高め剣の攻撃力を上げる。
これでもかとふんだんに取り入れたバフスキルは、グラファイトの1撃の重さをこれでもかと知らしめるためのもの、褐色女性アバターで燕尾バニーガールに自身と同じくらいの大きな太刀剣『参刃羽折』を下段の構えで力を溜め込むその姿からはとてもゴリゴリの脳筋のような戦闘スタイルだと予想できない。声も女声に変えないのも含め、そんなギャップこそがグラファイト、表面では計り知れない武器が本人に備わっているということだ。
「グラファイトが戦闘態勢に入った……、もう少しひきつけておかないと」
当然、何も動いていない者を狙おうとするのが狩る側のテンプレート、だからチームが気を反らさなければならない。そのために目立たず好機を訪れるのを待つグラファイトに対し、2人の前衛プレイヤーが必要となってくる。
ゲイニン、蟲の魔幻使いというほぼユニークスキルの力を使って蟲の力を借りた動きができ、特にゴキブリの速さで動き回れば厄介な存在になる。MP消費が激しいのでもちろん持久戦向きではない。だが、
「そろそろMPが心許ないな、まだ狙われてるっていうのに休む暇がありゃしねぇ……」
エンエッセン・フェニックスがまたも燃え上がらせた片翼を地面につけたままスピードを乗せて突進する燃え滾る物理的翼斬り、そのモーションに入ろうとしている。
「うーわやっべ、あの突進で追っかけてきたらさらに走らないといけないじゃん……!」
「いいよ、任せて! 『チェインスタッブ』!!」
フラッシュ、潜伏して神出鬼没な動きを主とする短投剣使い。そしてその武器には数々の罠を作ることができる、実は一番面倒で目を離してはいけないプレイヤーなのである。
それでも彼のプレイスタイルが活かせるのは敵がCPだからというのもあるだろう、そして団体戦でもあること、だが実は何より彼のその地味な存在こそを己が一番に理解し利用しているからだ。
フラッシュが投げたナイフは鎖付き、ナイフは下向きの翼中央に刺さりその鎖の先はもう1つのナイフ、そのナイフは地面に刺さってるので引っ張ると鎖がピンと張り思い通りの動きができず制限されてしまう。まだ空中にいるその場の時点で鎖がもうまっすぐに伸びている状態なのでこれ以上ゲイニンのいる先には進めない。
「よし、捕らえた! 今のうちに攻撃を……」
「クゥゥゥェェェェェェ!!」
強引に引っ張って鎖から解放されるのを望むエンエッセン・フェニックス、だがその行動を行う度にだんだんとダメージを負っている。
「あ、あんなことしてるけど大丈夫なんですか?」
「あぁ、問題ないすよ。ちょっと暴れてるくらいでちょうど良いんすよ、勝手にHP減らしてくれてるし、目的は少し拘束するだけなんで」
「どういう原理なんですかあれは?」
「ゲームの世界に原理の話をしないでよ(笑)。まああのナイフで刺した時の攻撃力自体はそこまで強くないんですけどね、代わりに打ってつけの能力を付与してるんすよ。あのナイフを引っ張れば引っ張るほど喰い込んでダメージが入るんす、もちろん使用者のMPを少しずつ消費するんすけどね」
「じゃああの鎖は……?」
「特定の部分での斬撃を与えないと、引っ張るだけでは壊れないすよ。まあ俺のMPも半分までなら使っても良いんで、あと数秒は止めておけば……」
しかし、エンエッセン・フェニックスはダメージを受けながらもナイフに刺さった岩ごと引っ張った。これである程度自由に動ける。
「え……、うそん!?」
「いいや、逆にチャンスや! メテオストレンジ!!」
ここでヒーラが岩を動かして、鎖でエンエッセン・フェニックスを巻き付ける。羽ばたくことができなくなりそのまま落下する。さらに攻撃できるチャンスを作った。
「助かりました!」
「ええでこんくらい」
「しかしまあ、ここの地面は思ったよりもやわいってことすかね、気を付けないと……」
「いやぁそれでもあんま真似できんやろうな、なかなかのパワーを持っとるんやなぁあいつ、下手に接近戦持ちかけられたら敵わへんとちゃうか……?」
嫌な予感を感じる、空を飛んでいてばっかりで接近戦も何もそんな選択肢など誰も取らないはずだが、パワーだけ見ると接近戦が主体のモンスターでなくて良かったと安堵するものか……、この妙な違和感をヒーラは察知したまま頭から離れないでいた。
「よし……、俺のMP回復も良いとこまで行ったし、そろそろリーダーの準備が完了するところだ! みんな離れて、うちのリーダーのために道を開けろ!!」
ゲイニンの発言にみんな従って、群がっていたチームが一気に離れる。そしてある程度の距離からずっと歩きながらじりじりと攻撃のタイミングを待っていたグラファイトの剣がついに戦況ごとかっぴらく。
「サンキューな、だがこの1発はあまり期待しないでくれ」
「え……?」
「水太一ノ技、改! 『流水』!!」
グラファイトの一太刀が見事にエンエッセン・フェニックスの身体に刻まれる、さらにもう一撃のボーナスが入り、2撃とも水属性ゆえにクリティカルが入りかなりの数値分ダメージを与えられたはず……、
「……ん~、まだまだ足りねぇな」
「えぇ……、かなりHPバー減ってたけど……」
「あの全力でこんなもんじゃなかった、おそらく水属性の熟練度の低さだな。相性よりも普段から使いまくってる闇属性で攻撃したほうが良いかもしれないな」
「そ、そうなのね……」
「よし、もう一度また頼む……、ん……?」
すると、降っていた雨が止んだ。
「ごめんなさい……、もうMPが……」
「しまったな……、このタイミングなら闇属性で攻撃したほうが良かったな。次の攻撃も水属性で攻撃したほうが……」
「いえ……、すぐにMPを回復させます! そうしたら次のグラファイトさんの一撃の時には間に合いますので……!」
「そ、そうか……。ならみんな、しばらく水属性の攻撃で……」
「おい……! なんか様子が変だぞ!?」
1人の声を聞いて敵に目を遣ると、エンエッセン・フェニックスがこれ以上になく燃え上がり、さらに赤かったエンエッセン・フェニックスの炎が青く変化していた。
「何だあの変化は……!? あんなのあったか!?」
「もしかして……、俺たちが見たデータって古かったのか?」
「確かに……、あの雨のスキルを使えば攻略は簡単すぎるからな。運営がいつん時か調整したのか」
古いデータ故に抜けていた情報という穴、雨を降らせ逆鱗に触れたエンエッセン・フェニックスはここぞとばかりに見たことのない火力を見せつける。
上空へ飛んでそのままの位置から地上のプレイヤーへ火炎放射、必死に避けても狙いを逃さないエンエッセン・フェニックスは放射の向きをしっかりと変える。
「くそっ……、あれ!? 足場が……!! うわっ!!」
「やばい行き止まりに……、ぐあっ!!」
(……しまった、ここに来て俺が岩魔法を使ったツケが!)
ここで2、3人がリタイア、そしてリタイアに近いほどの重傷を負った者も現れる。数人はハーミーたち魔法使いが何とかMPを使ってくれたバリアの中にいたり、ハービーによるシールド弾で守られたり、上級者は上手く立ちまわって攻撃から逃れた者もいる。
「この鳥ぃぃぃ、いい加減にしなさいっ!!」
ここでシュヴァルツが跳んでエンエッセン・フェニックスに蹴りを入れた。よろけたが攻撃中断とまではいかず、その放射はシュヴァルツへ向けられることになった。
「ま、まずい……!」
「水双六ノ技、『点滴穿石』!!」
ここでLapinが復活、六ノ技の突進で空中から攻撃、エンエッセン・フェニックスの側面に突進して放射の向きを変えシュヴァルツを救った。
「Lapinさんっ!? もう良いんですか?」
「当たり前よ。そんなに長いこと休憩できないし、そんな場合じゃない。また空へ行こうとしたら私たちで無理のない程度に攻撃するわよ」
「はい!」
しかしLapinの予想は外れ地上からでも攻撃できるほどの低空飛行に切り替え、物凄いスピードでプレイヤーたちを襲う。自身の身体の炎の放出を背面のみに限定し、ブースターのようにスピードを上げる。機動力を存分に見せるエンエッセン・フェニックスは逃げるプレイヤーの先に回り込んでからの蹴り、片翼攻撃もさらにスピードが上がった攻撃となっていた。
「か、火力を利用してさらにスピードが……!?」
「今までの大人しい火力を取り戻すかのように……、ここまで獰猛なやつだったのか」
絶望的なまでの戦場大混乱、これでは連携も何も取れそうにない。頼みの一発のグラファイトの攻撃のための時間稼ぎもできそうにない。
「くそっ、もう一度同じように俺が囮になる! 俺のスピードならなんとか撒けるから任せろ! フラッシュ、もう一度俺に……」
「……まずいあいつ、グラファイトを狙ってる!」
先ほどの一撃を警戒したのか、エンエッセン・フェニックスの討伐対象は今、グラファイトへ向いているのだ。
「ふぅん、俺を倒そうってか。だったら見せてやる、俺1人でもそこそこ戦えるってことをな! 踊れ、『参刃羽折』!!」
分厚く大きい、グラファイトの大太刀剣が折りたたまれていたのか、観音開きのように広がった。斧のようで扇のようでもあるその奇々怪々な武器の見た目に、遠くから見ていたシュヴァルツはさらに驚いた。
「何あれ……? あの男まだ奥の手を隠していたの!?」
「おぉ、久々に見れるわね。グラファイトの過激でありながら繊細であるプレイスタイルを……!」
【プチメモ】
Lapinは光の熟練度が十ノ技まで取得している最高値状態、そのうち十一の権利もあるかも……!?
他に炎は七、水は六、翠は四、闇は二といった熟練度である。