9ゲーム、現実世界の亀裂はゲームの世界には関係ない、しかし早く修復しなければ取り返しがつかなくなってしまう
リョウが窓から落ちてしまった、カスキたちの教室が2階だったことと草木がクッションになったのが不幸中の幸いだった。
しかしそれでも救急車を呼ぶレベルではあった。カスキたちが外に出て落ちた場所へ行った時には、満身創痍のリョウが立っていた。
額が切れ血が出ていて、右腕を左手で抑えながら右脚を引きずっているというのに立つなんて大したものだ。
リョウは救急車へ、後を付いていくようにカスキたちはラクが用意した車を使って病院へ、そこで治療を受けることになった。
治療中、見届けたい気持ちはあったもののカスキたちは明らかに邪魔だったため、病院の広場にて待機をしていた。
「防人さん大丈夫ですかね?」
「大丈夫ですよ、リョウくん部活やってて鍛えてるから」
「そうかもしれんけどなぁ……」
「どうしたのカスキくん?」
「確かにリョウは俺らよりはまだタフだよ、でもあの細身を見て分かるだろ? 前よりましにはなったけど、比較的栄養失調気味なんだよ」
「あ、そういえば……」
「それに、夏休み沢山部活やってたでござるからな。そのせいで疲労骨折になっていたら最悪でござるな……」
2人の言葉に沈黙が続いてしまう。
「……ふ、2人とも考えすぎだって! 確かに病院の前だとネガティブになりがちだけどさ」
「それだけじゃねえんだよ、あいつ確実に利き腕やっちゃっただろ?」
「そ、そうだね……。まだはっきりと決まってないけど打撲以上は……」
「あいつが利き腕しばらく使えなくなったら……、なったら……、」
「「どうやってゲームするんだよ⁉」」
「そこなの⁉」
「すごいですね、さすがはプロのミルチューバ―ですね!!」
「えぇ感心しちゃってるよ愛姫さん……」
「さっきから思ってたけど、愛姫殿って結構天然なのでござるな」
「え、待ってカスキくん! 愛姫さんに自分たちがE-ZONESだってこと言ったの⁉」
「ま、まあな。別に良いだろ? どうせならラビット隊に入れるほうが良いし、Lapinとして接するんじゃ正体明かすしかないだろ」
「そうかもしれないけどさぁ、もうちょっと隠す気持ちとか」
「おめえらもう脱線しとるやないか。まあそのほうが気が楽やけどな」
「「「リョウ!!」」」
外に出てきたリョウは、額が切れてたので頭に包帯を巻いていて、利き腕にはギプス、足は湿布なのか、服で隠れていて特に目立ったものはなかった。
「大丈夫なのか?」
「問題ないわ、このギプスだって念の為がすぎるあの医者の意向や。実際は打撲やけど……、骨が歪みかけてたみたいやって」
「とりあえず元気で何よりだよ……!」
「あぁ、カスキはスマホ大丈夫なんか?」
「まあ、正直言っちゃえばあの時その場で落ちたから液晶の端っこだけ少しヒビがな。でもお前の骨にヒビが入らなかったのが一番だよ!」
「何でちょっとウマい感じに言ってんだよ!」
仲良くじゃれ合って、笑いの空気を作る。
「それにしても本当に信じられないでござるよ丸秘殿は、居たたまれないからといってあのまま逃げ出すなんて……」
「あぁやっぱ来てないわけね……」
「どうする? あの女んとこ行って慰謝料ふんだくるか? どっちにしろ親呼ぶレベルだろ」
「いや、ケンコバとも話したけど今回は俺1人で決着つけたいんや。だから親の介入なんてさせへん、治療費もラク、E-ZONESで得た収入の俺の貯金から引いてくれ」
「そ、それで良いの……?」
「まあそもそも原因が、俺があいつの胸揉んじまったのがあかんかったからなぁ。あの女控えめで正直最高だったぜ⁉」
「あーこいつちょっと喜んでやがる、すけべぇめ!」
「良い気になってるでござるな」
「ご、ごめんね愛姫さん……、男の醜い部分を……」
「ま、まあ欲望に忠実で良いんじゃないですか?」
フォローにしては苦しい言い方だった。
「ラク、その代わりと言えばなんやけど、あの女の家教えてくれ。今から行く」
怪我をしているというのに、リョウは元気に電車に乗って、翔子の家である品川まで行く。付き添いと案内としてラクと薫が一緒に、カスキは逆鱗に触れてしまうという理由で、スミは家事があるからということで帰っていった。
着いた翔子の家は金持ちの家、といっても完全に和の雰囲気が強かった。木製の門と壁、それを越えて育った松の木、とても雅な印象だった。
「ここが丸秘家、そこそこ良い家やん」
「そうだね……、でも何て言うか。それにしては彼女、ちょっと控えめだよね、色んなことが」
「節約とか貯金とかが似合う女って感じだもんな」
「彼女、養子なのよ」
「え、そうなの?」
「えぇ、私が彼女から聞いた素性を話しても良いですけど、できれば本人の口から直接聞くのが良いと思います」
「せやな……」
丸秘家、という立札の下にあるインターフォンを鳴らし、声が聞こえるか扉の音がするのを待つ。
「はい、どちら様でしょうか?」
「お母様でしょうか? 私たち克星高等学校の者なんですが翔子さんは……?」
インターフォンからの相手に丁寧に返す薫。
「あらごめんなさいねぇ、翔子さんこの時間になっても遅くまで外で勉強をしているものだから。良ければ上がっていってください」
「いや、大丈夫や愛姫さん。ここで待っとこ」
「お気遣い感謝致します、失礼します」
家に入るほど図々しくはなかった。むしろ入ったら今度は何をしでかすか分からない。とりあえず家から少しだけ離れた道の端で、薫から翔子のことを聞く。
「翔子さんの父親は、今はもういない、売れない漫画家だったと聞いています」
「へぇ意外……」
「漫画家……、カスキが聞いたら喜びそうな情報やな」
「そこなんだ……、でも言ってること分かる」
カスキは4人組の中でも大の漫画好き、とはいえヒットしなかった漫画のことまで覚えているだろうか、脱線したことを思い出して本題に戻る。
「翔子さんの父親は実力が足らず結果自殺をしたらしく、そしてしばらくして翔子さんが中学生になる少し前に、母親が父親の後を追うように過労で亡くなってしまったと。その後丸秘家が養子として面倒を見ることになったと言ってました」
「なるほど、そうなってしまったらあんな真剣に秘書やってる理由も分かるわ」
「いえ、家のプレッシャーとかはあんまり関係なさそうですよ。むしろ丸秘家の人たちには夢を追っても良いのよと言われたみたいなんです。でもそこが問題なんでしょうね、夢を追った結果家庭が壊れた光景を見た彼女にとって、実るか分からなくても自分の好きな道を進むより、楽しくなくてもコツコツと堅実に仕事をこなすほうが良いと思ってるんでしょうね」
「楽しくない……?」
「えぇ、翔子さんしっかり秘書の仕事をやってはくれるけど、楽しそうというわけではなかったんです」
「じゃあ……、あの時の自慢は何だったんだ」
「たぶん、自分はちゃんと社会に貢献する準備ができてるって優越に浸ってるのかな?」
「酔ってるのかよくだらねぇ」
ドサッ、と音がした。その音のする方へ向くと、翔子が帰ってきていた。
「……っ!」
「おい待てや丸秘、話をさせてくれや!」
「……話ですって? 嫌よ」
「話聞かないっていうなら、お前に投げられたことを本格的に親と話し合うで? 義理の家族に迷惑かけたないやろ?」
「……痛いところ突くのが本当に腹立つ」
ラクと薫を先に駅へ行かせ、駅と丸秘家の間にあった誰もいない公園で、リョウと翔子はベンチに座っていた。もう暗くなる中、街灯が強く2人を照らしていた。
「親にチクらないことでいつでも脅せるってわけ?」
「違う、普通にめんどいんや、喧嘩の事後処理って親同士介入して謝罪の連鎖が続くからよぉ。だいだいそこまで気にしてねぇんだよ、俺にも全く非がないわけじゃないし」
「……じゃあ次交換条件でいかがわしいこと言ってきたら今度こそ病院送りにするわよ」
「ここに来て強気だな意外と。ま、そんなお前も嫌いじゃねぇよ」
「……ばっかじゃないの」
「あぁでも交換条件みたいなもんだけど、お前の昔のことを聞いた。愛姫さんから」
「……そう」
「あんまり嫌がらへんなぁ」
「嫌に決まってるわよ、ただ交換条件がいかがわしいことと比べたらまだましかなって」
「脳内ピンク色かおめぇはよ!」
「う、うるさいわね……! 男ってケダモノじゃないの! だから警戒しただけで」
「だからその考えがピンク色やって言っとるんや。もうええ加減それから離れてお前の親の話しようや」
「な、なんであなたと親の話をしないといけないのよ」
「あいたたた頭ちょっと痛くなってキタワァ」
「良い性格してるわね」
「お褒めに預かり光栄やで」
皮肉の言葉にさらに翔子は苛立つが、少しは罪悪感があるためそこまで怒れなかった。
「で、人の過去掘り起こしてまで何を伝えたいのよ?」
「まず1つ確認させてくれや、親を恨んどるか?」
「当たり前よ。漫画家なんて収入も定着率も安定しない仕事をするんじゃなくて、何の感情もわかなくてもコツコツと仕事をしたほうがましよ」
「一理はあるけどな。人生を楽しめよな」
「……」
「俺ら4人組が、いかにしてヲタクやって、落ちこぼれになったか知っとるか?」
「……知らない」
「俺らに共通することは、現実から逃げたい、目を反らしたいと思うから。そしてそんな現実を楽しむためヲタクになって楽しんでる」
「あなたたちの現実逃避なんて……」
「俺の家、防人食品なんやけど、小さい時から生き物を殺すところをよぉ見せられて、ロクに物食べられんくなって拒食症になったんや」
「え……」
「家の人間からは役立たず扱いされるわ、点滴生活が続くわほんま大変やったわ」
「ど、どうするのよ……。家の人たちに見捨てられて、存在価値無くなって、これから……」
「あ? 別にどうもせえへんわ」
「え?」
「家のことなんかこっちから願い下げや。だから関西からこっち来たんや。てかそっちはどうでもええねん、拒食症な俺が少しでも克服できた話をしたいんや」
「それがアニメって言いたいの?」
「あぁ、主人公たちが美味しそうに楽しく食べてたり、綺麗な料理描写してるのを見たら、少しずつ食べてみたいって思うようになった。特にあの3人と一緒に昼食べるんが、今は俺の楽しみの1つなんや」
「……もしかして、あの3人も、赤谷も何かあるの?」
「まあな、スミは住、ラクは娯楽、カスキは衣、家の仕事内容と相性が悪い性格しとるんや。まぁもっと知りたきゃ本人に聞くとええわ」
「ここまで言ったのなら全員言ってくれれば良いのに……」
「何や俺らのこと気になっとるんか?」
「違うわよ」
コンマ数秒もないくらいスピードではっきりと言った。
「まあ、お前が漫画が嫌いになる理由は分かった。俺らだって嫌いなものがあって、生涯永遠に克服できそうにもない。だからと言ってなぁ、俺らは自分らの価値観で人にあーだこーだ言ったりなんかしない。特に衣食住って大事やから、文句の言いようもない」
「……」
「長話しすぎたな、帰るわ。あとこれは自論やけどな、どんなに好きなものでも、嫌いになっちゃう要素なんてたっぷりあるんや、だったら逆もあるはずや、ほんまに自分の好きなこと、もう一度考え直すとええわ」
荷物を持って、ベンチから腰を浮かしてリョウは帰る準備を始める。するとそのリョウの袖を翔子が掴む。
「ありがとう、そしてごめん。怪我させちゃって」
「あー別にええんや、控えめな胸触れて帳消しや!」
「しねっ!!」
そこらへんに落ちてあった石を翔子が投げるが、あっさりと躱されて逃げて行く。
翌日、問題なく登校してきたリョウにさすがに慣れた3人だった。もっとも部活に影響があるので同じ陸上部のメンバーは驚いていた。
「本当に大丈夫なのか?」
「大袈裟なだけなんだよ、まあギプスは男のロマンやからな、結果オーライ!」
「まあ逆に良かったかもね、大会も終わった後だし。本当に結果オーライだよね」
そんな話をしていた時、怪我をさせた張本人である翔子が教室へ入って行った。
「おう丸秘、もう大丈夫なんか?」
「怪我してるあんたに心配されるほど落ち込んでなんかいません」
そう言って自分の席へ着く姿を見てカスキが言う。
「何か丸秘、悪役令嬢から気の強い女に変わったって感じだな」
「悪役令嬢なの……?」
「まあ言いたいことは分からなくもないでござるよ、少し丸くなったでござるかな」
「なあカスキ」
「ん?」
「俺ひょっとしたらサイヤ人と気が合うかもしれへんわ」
「へ? え、えぇぇ!?」
カスキにのみ、リョウは自分の内の気持ちを告白した。
【プチメモ】
実は丸秘翔子は愛姫薫に対して1つ罪悪感を抱いている。それは都内カーストで自分の住んでるところがランキングが上であること。




