エリザ宿舎に来る
「はぁ窮屈だったー」
廊下を歩きながらエリザは乱暴にネクタイを緩めた。
「それにさ、いつもは任務が終わったら休暇がもらえるのに何で今回はないんだろう。フィルメール団はこの国に害をなすだったりなしそうなやつを未然に殺すのが役目じゃん。王様は本当にどうしようもないことだけをうちらに回してくるじゃん。だから頻繁に暗殺なんてないよね。半年に一回くらいだっけ。だから今回の件は相当ヤバいの?」
「自分の娘だからじゃない?」
「はぁそんなもんかぁ?」
「だってあの人情深い王様だよ?だって私たちにまで誕生日プレゼントくれたんだよ?ありえるよ」
「あーあれね。城下のあるお菓子屋さんのクーポンでしょ。なんで王様があんなもん持ってんだろうね」
「たまたま視察に行ったら貰ったんだってさ。なんだかんだ王様ってフレンドリーだよね」
「王様と国民の距離がこんなにも近い国ってなかなかないよね。まぁそれがこの国のいいところなんだけどね」
「さーてとっ、明日からの作戦考えなきゃね」
ユリアナは両腕を高く伸ばし、ふうっと下ろした。二人は近衛専用の宿舎へと向かった。一般兵と近衛のとは場所がわかれており近衛はフィルメール団など機密捜査を行ったりするのでその内容がうっかり一般兵にとの事と、王様の急な呼び出しにもすぐ対応できるように城の中でも中央付近に位置している。
「慢性的な財政難の象徴だよね」
エリザは宿舎を見上げて皮肉をもらした。近衛の宿舎は塗装があちらこちら剥がれており、さらにツタが建物全体を覆っている。一見したら廃墟と化した洋館同然だ。城の内部にも同様のことが見受けられ、ただ石がつまれ放置されているところもある。
そんなボロボロ宿舎にイラっときたエリザが腐りかけた木のドアをけ破ろうとするのをユリアナが止める。
「はいはい王様への怒りは十分わかったから」
「こんなボロ屋敷に住む予定じゃなかったのに!お城に勤められるようになったらきれいな部屋がもらえると思って期待してたのにこのザマ!着任当初この建物見て愕然としたよ!今こうして任務から戻ってきても修理一つされてないし。ああ私の理想のMyホームはいずこへー」
「置いてくよ」
エリザがぎゃあぎゃあと怒り散らしている間にユリアナはその横を通り抜け、暗く湿った匂いのするロビーの奥にある階段をのぼりかけていた。
「少しはかまってよ」
「ゴ愁傷様デシタネ」
「ユリアナのいけずー」
ユリアナはお構いなく階段をのぼっていく。そのあとを埃を立てながらエリザが追いかけていった。