エリザ謁見する
「ほら、帽子かぶって、ネクタイ締めて、飾緒つけて」
ユリアナはなかなか支度をしないエリザに無理やりさせてあげた。
「帽子なんて邪魔」
取ろうとするエリザの手を抑える。
「ネクタイきつい」
ゆるめようとするエリザの手を抑える。
「飾緒ぶ……」
エリザが言いかけた途端にそれを予期していたかのようにユリアナがエリザの手を抑えた。
「正式な場所なんだから、我慢して」
「えーだって飾緒なんてさ肩から前につるす紐だよ?ぶらぶらして邪魔じゃん」
「私は飾緒好きだよ。だって近衛と限られた人しかつけられないんだよ。なんか特別な感じがしない?」
「しない」
エリザがふくれっ面で言う。
「さぁ、謁見の時間よ」
ユリアナの掛け声とともにエリザの目は前にそびえたつ扉に注がれた。錆びれた音を立てながら開かれたその先には赤いマントを羽織った白髪まじりの男性が座っていた。ユリアナとエリザは部屋の真ん中へと姿勢よく歩いていき片膝をついて右手を胸に、左手を後ろに組んだ。
「国家直属機密機関フィルメール団、エリザ・マッキンリー、ユリアナ・オールディスは違法取引によってこの国を危機に陥れる可能性があったマルセア・ラウル暗殺の任を果たし今ここに帰還しました」
「ご苦労であった。さっそくだが次の任務を与える。十八になる娘マリアがオルグレン国第三王子オルコット王子に求婚を申し込まれておるのじゃ。だがそれは政略結婚なのじゃ。農業国の我が国の穀物は安い値段で他国に売られているのじゃが、もし結婚が決まれば我が国より強い力を持つオルグレン国のことじゃから我が国の穀物をもっと安値にして自国の工業製品高く売りつけるはずじゃ。そんなことになっては我が国はオルグレン国に乗っ取られてしまう。じゃから明日付でオルグレン国第三王子オルコット・オルグレンの暗殺を命じる」
「エリザ・マッキンリー、ユリアナ・オールディスその命、承りました」
「ああ、それとじゃなこの任務はほかの近衛にも参加してもらうことになっているが基本は二人で任にあたってくれ」
「はっ。キリアコス・シャンカテイユ王様渡したいものがあります。よろしいでしょうか」
「なんじゃ」
エリザはポケットから先ほどもらった薔薇を差し出した。
「庭の花が見ごろです。ぜひ見に行ってはいかがでしょうか。民も王様をお待ちです」
「そうか、久しぶりに行ってみるとするか」
そういった瞬間、傍らに立っていた秘書の顔が険しくなり王様の耳元で何かをささやいた。
「いやぁそこをなんとかしてくれないかね。時間がないのは承知じゃよ。少しだけならよかろ?」
秘書はもうしょうがないなという顔をして引き下がった。よくこんな無茶ぶりを秘書に言って困らせる光景を目にする。こんなときはたいてい視察という名の民とのふれあいだ。おかげで親しみやすい王として民には浸透している。王様は立ち上がり階段を下り深紅の薔薇を受け取った。
エリザとユリアナは立ち上がり敬礼をすると退出した。