EP.5-4 自らの実力
今回は割りと長めです。(相変わらず当作品比)
「ずいぶん静かになったな......おい! 誰か中の様子を見てみろ!」
盗賊の頭目が部下に命じて荷馬車の中を覗かせる、すると......
「うがっ!」
覗きこんだ男は荷馬車から飛び出してきた足に顔面を踏みつけられる。
荷馬車から飛び出してきた人物は男の顔をそのまま踏み台にして飛び上がり、着地の勢いをそのままに拳を地面に叩きつける。
「地裂拳!」
拳を中心に広がった地割れは周辺にいた盗賊達の足をとらえその場に倒れさせる。
「くそっ! 生意気な奴め!」
「ユキハ! アイツが親玉だ! 行けっ!」
「はい!」
ユキハはその俊敏さを生かして、ひび割れた地面に倒れた盗賊達を踏み台にして、太刀で頭目に斬りかかる。
「チッ! まだ居たのか、面倒な奴等だ!」
頭目は剣を取り出しユキハの太刀を受け止めると、後ろに控えさせていた部下達の元まで引き下がる。
「お前ら! いつまでもすっ転んでんじゃねぇ! このガキ共に痛い目みせてやれ!」
「「「へ、へい!!」」」
足場を崩され転倒していた盗賊達に向かって怒鳴り付け、グレンとユキハを袋叩きにするべく取り囲もうとする。
「そうはさせないよ......! トルネド・ウィップ!」
さらに荷馬車から飛び出したセトが呪文を唱えると、彼の持っている短杖の先に小規模の竜巻が発生し、やがて竜巻からいくつもの風のムチが伸びてきた。
「いけっ!」
セトが叫ぶと風のムチは唸りをあげながら盗賊達を強かに打ち付け、次々と意識を奪っていった。
「魔導師まで居やがったのか、厄介な連中だ!」
「おいおい、よそ見してる暇があるのかよ!」
怯んだ頭目に向かってグレンが怒濤の攻撃をしかける。
「ええい邪魔くさい! さっさとくたばれ!」
頭目はグレンの一瞬の隙をついて懐から短杖を取り出した。
「っ!? グレン、危ない!」
セトがいち早く気付き、グレンの元へと駆けつける。
「くらえ! ヒート・ファング!」「ウインド・ブラスト!」
頭目が放った魔法は火炎の牙となってグレンに襲いかかる、セトは寸でのところでグレンの腕を掴み、自ら放った魔法を推進力としてその場からグレンもろとも離れた。
「大丈夫? まさか向こうにも魔導師がいたなんて......」
「スマン、助かった...!」
「魔法を使えるのは自分だけ......なんて思ってたのかぁ? 魔導師の坊っちゃんよぉ!?」
頭目は不敵な笑みを浮かべて二人を挑発する。
「魔導師のガキは俺がやる! お前らは残りの二人をやれ!」
「「「へい!」」」
「ゴメン二人とも! 援護してる余裕がないかもしれない!」
「気にすんな、思いっきりやってこい!」「そうです! 後ろは任せて下さい!」
セトはギミックワンドを握り直し、盗賊の頭目と睨み合う。
「いくぜ......! ショット・ファイア!」
先に動いたのは頭目の方だった、セトに短杖を向けて大きな火球を打ち出した。
「ウインド・ブラスト!」
「へっ、バカが......」
セトは火球に向かって突風を放ち相殺しようとした、しかし火球は突風とぶつかった瞬間無数に拡散しセトへと襲いかかった。
「な!? しまった!」
慌ててその場から飛び退き、反撃を試みる。
「ウインド・スライサー!」
セトの放った無数の風の刃はそれぞれ曲線を描きながら飛んでいった。
「はっ! 甘いな! ショット・ファイア!」
頭目は再び火球を放ち、拡散した無数の火球をもってセトの魔法を打ち消した。
しかしその隙にセトは一気に距離を詰め、頭目の額にギミックワンドの石突きを向けてスイッチを叩く。
「チッ!」
紙一重で避けた頭目は体勢を崩し、そこをセトに捕らえられる。
「フロスト・タッチ!」
呪文を唱えるとセトが触れている箇所から冷気が吹き出し、頭目は首から上を残して全身が氷に包まれた。
「く、くそ! 複数の属性を使えるなんて聞いてないぞ......!」
「あなたの負けです、早く部下達を退かせて下さい」
「...くっ、わかった......」
セトが頭目を放し、背を向けてグレン達に視線が向いたとたんに頭目はニヤリと表情を歪ませた。
「なんてな! 降参なんかするかよバーカ!」
頭目が叫ぶと同時に木の陰に隠れていた盗賊の一人が一筋の矢が放ち、セトの胸へと突き刺さった。
「うぐっ!」
「セト!?」「セトさん!」
さらにセトは横腹にも矢を受け、それに気付いたグレンとユキハがセトの元へと駆けつける。
「形勢逆転だなぁ! ガキ共ぉ!?」
頭目は全身から熱気を放ち身体を包んでいた氷を取り去ると、ニヤニヤ笑いながら三人の元へ歩み寄る。
「散々コケにしやがって、三人まとめて消し炭にしてやる! エクスプロージョン─......」「そこまでだ...」
突如どこからか漆黒の刃が飛来し頭目の手から短杖を叩き落とした。
「誰だっ!」
声のした方へと視線を向けると全身を黒曜石の鎧で包んだ男が立っていた。
「フォルテ......S級ハンターのフォルテだ! それにチーム“フォルテッシモ”のメンバーも!」
思いもよらない人物の登場にグレンが思わず叫ぶ。
「黙って見過ごせる性分ではなくてな、アマンダ、彼
らを頼む」
「はいよ、任せときなさい」
アマンダと呼ばれた緑衣の女性は一陣の風となって消え去ると、次の瞬間にはセト達の元へと降りたっていた。
「はいはい、邪魔しないでよね! スラッシュ・カーテン」
アマンダが指を鳴らすと、彼女自身とセト達を取り囲むように風の刃が渦を巻き盗賊達を退けた。
「挽き肉になりたくなかったらそこで指くわえて見てなさい、ヒーリング・フォグ!」
セトの体に刺さった矢を引き抜き患部に掌を添えて呪文を唱えると、掌から吹き出した癒しの霧によって傷口はたちまち塞がった。
「アマンダの方は問題ないようだ、フィル! 隠れている敵は任せる、残りは私がやる」
「アイアーイ、了解ぞな♪」
フィルと呼ばれた道化服姿の男は、バネのように伸び縮みする手足を自在に使って木の陰に隠れた盗賊達を引きずり出し倒していった。
「ボヨヨーン♪ ビヨーン♪ もひとつおまけにボヨヨヨヨーン♪」
「さて...お前達もかかって来るといい、逃げ出すよりはマシにすむかもしれんぞ?」
「チッ、S級ハンターだかなんだか知らねぇが舐めたまねしやがって、エクスプロージョン・ストーム!!」
頭目の放った魔法は火炎の渦となってフォルテを呑み込んだ、しかしフォルテが剣を一振りすると炎はあっけなく消え去った。
「私の装備は特別製でな、半端な攻撃や魔法じゃ通用しない──」
「俺様渾身の魔法がっ!? こうなったら野郎共、一斉にかかれ!」
頭目の号令のもと、周囲の盗賊達が一斉にフォルテへと襲いかかる。しかし尚もフォルテは不敵に笑って言葉を続けた。
「──更にはこんなこともできる、二爪!」
フォルテが叫ぶと同時に鱗の様に重ね合わさった黒曜石の鎧の一部が浮き上がり、鋭利に研ぎ澄まされた縁をもって盗賊達を次々と斬りつけていった。
「な...そんな、一瞬であの数を......!?」
「さて、降伏するなら今しかないぞ?」
尚も不敵に笑い続けるフォルテに対して、頭目はその場に膝をつき項垂れる事しかできなかった。
ずっと登場機会を逃していたフォルテ&フォルテッシモのメンバー登場です。
ちなみに今更ですがセト以外の魔導師が使う魔法の属性は火水風土のどれか一つに限定するようにしています。
『ランス→土(岩)、頭目→火(爆発)、アマンダ→風(雷)』といった具合に主となる属性一つにつき一つ副属性がついています。(水の副属性は氷)
次回は8/13に更新予定です。




