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フォルトゥナ・ストーリア  作者: 英雄ひいろ
高みを目指して
24/65

EP.5-2 いつかの災厄

「セイレーンって、あの人魚系モンスターの?」

 

「おう、港町のシファーで大量に発生しているみたいで、交易船がいくつも沈められているみたいなんだ」

 

「そっか、どんな魔物かちょっと見てみようか?」

 

 セトはベッドから起き上がると自らの部屋に用意した本棚へと向かい、一冊の魔物に関する本を抜き取ってグレンと共に覗きこんだ。

 

「フギンさん達に似てるね」

 

 セイレーンの頁には上半身が女性、下半身は鳥のような魔物の挿し絵が添えられていた。

 

「そうだな、でもあいつらは両腕が翼になってる以外は俺達と同じ人間だからな」

 

 そう言って、今度はセイレーンの特徴の欄に目を向ける。

 

『セイレーン:人魚系モンスター

 分類は人魚系となっているが下半身は魚ではなく鳥の姿をしている。

 美しい歌声につられて海に飛び込んだ者を両足についた鋭い爪で引き裂き攻撃する。』

 

「歌声に注意しなくちゃいけないみたいだな」

 

「うん、確か歌声の対策も書いてあったはず......」

 

 頁を捲ると、そこにはセイレーンの歌声の対策が書かれていた。

 

「この本によると"鎮静のオルゴール"を用いることで歌声につられる事は無くなるみたいだね」

 

「"鎮静のオルゴール"かぁ、高いんだよなぁ~、あれ」

 

「仕方ないよ、溺れながら八つ裂きは嫌だろう?」

 

 セトの問いかけに渋い顔をしながらもコクコクと頷くグレン、セトはその反応に満足したように頷き返すと本を本棚へと戻した。

 

「セイレーンはたくさんいるみたいだけど、何体倒せばいいの?」

 

「俺とお前で合計10体、片方5体ずつの討伐依頼なんだ、ちなみに明後日にはシファーに向かうことになってる」

 

「それじゃあ明日は町で"鎮静のオルゴール"を調達しにいこう」

 

「そうだな、今日はもう休めよ......って今までお前は寝てたんだったな」

 

「うん、僕はもう少しセイレーンについて調べてから休むことにするよ」

 

「じゃあ俺はそろそろ出ていくぜ、明後日に備えて必要な物をまとめとく」

 

 そう言ってグレンは部屋を出ていき、部屋にはセトだけが残される。

 

 セトは本棚から先ほどの本を取り出すと、再びセイレーンの頁を開きベッドで横になりぼんやり眺めていたが、いつの間にかウトウトと微睡み眠ってしまっていた。

 

 ーーー

 

 次に目が覚めたのは深夜の事だった、ひどく喉が渇いていたので枕元の水差しから直接水を飲んで喉を潤す。

 

 渇きが癒されると今度は猛烈な空腹感を感じた。

 

(無理もないか、殆ど丸一日何も口にしないで寝てたんだから、何か軽く食べてから寝よう)

 

 そう思い、何とはなしに窓の外を見た瞬間セトは全身から血の気が引いていくのを感じた。

 

「町が......!?」

 

 町から火の手があがっていた、首都の中心である王城のあった場所には大穴が空き見る影もない。

 

 地図で見ると正六角形の城壁の各頂点にそびえ立つ尖塔は先から徐々に崩れ、崩れた瓦礫は黒く暗雲が渦巻く空へと吸い込まれていった。

 

「いったい何が起こっているんだ......?」

 

 フラフラと窓に近づき窓を開け放つと、火事の熱気や人々の悲鳴が部屋へと流れ込んできた。

 

「何で...どうしてこんな事に.....うっ、ぐぁ......!」

 

 突然、脳に直接針を刺されるような鋭い頭痛に襲われた、立っている事ができずに思わず座り込んでしまった。

 

 しばらくすると頭痛は無くなり、再び窓の外を見ると、そこには月明かりに青く照らされたいつもの夜の町並みがあるだけだった。

 

「何だったんだ......? 今のは夢......?」

 

 窓を開けた時に流れ込んできた熱気も悲鳴も、夢と割り切れないほどに現実味がありすぎた。

 

 しかし、今窓から流れ込んでくるのは、ひんやりとした深夜の空気と人々が寝静まった静けさだけだった。

 

「さっきのは夢じゃない...? でも町はこうして無事だ......今のは夢なのか? でも、いや...」

 

 壁に背を預けて座り込み、冴えきらない頭で考えていたが、遂には意識を失うように眠りについてしまった。

 

 ーーー

 

「セト! おい、セト! 起きろって!」

 

 少し乱暴に揺り動かされて目を覚ますと、目の前にグレンの顔があった。

 

「グレン...おはよう」

 

「おはよう、って何でこんなところで寝てたんだ? 風邪ひくぞ?」

 

 変な体勢で寝ていたせいかあちこちが痛む体を動かして窓の外を覗く、やはり夕べ火事や崩落があった様子は無かった。

 

「セト? どうかしたのか?」

 

「......ううん、何でもない」

 

「そうか? ならいいけど...それより今日は"鎮静のオルゴール"とかを買いに行くんだろ、準備していこうぜ」

 

「うん、わかった」

 

 夕べ見た光景を未だに夢だと割りきれなかったが、今は目の前の事に集中すべく旅の仕度を始めるのだった。

 

お読み頂きありがとうございます!

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