EP.4-4 窮地
「グレン、今のって......」
「オーガの雄叫び...なのか?」
揃って洞窟の入り口を二人が見つめていると、何者かが物凄い勢いで飛び出し付近の樹木に激突した。
「ぐっ!......うぅ」
「兄貴!」「ウィーゴさん!?」
飛び出してきたのは、全身傷だらけのウィーゴであった。
「よ、よう二人とも、また会えて嬉しいぜ」
二人がウィーゴに駆け寄るとウィーゴはゆっくりと立ち上がり、無理やりニカッと微笑んだ。
「どうしたんだよ、その怪我! オーガは倒したのか?」
「倒した、て言うか虫の息まで追い込んだ、でも状況はかなりヤバイ」
ウィーゴの視線の先に目を向けると、先ほど倒したホブゴブリンの三倍はありそうな魔物が窮屈そうに入り口から姿を現した。
「こ、こいつが、オーガ......」
圧倒的な威圧感を放つその魔物は右腕の肘から先がなく、左手で2メートル程のトゲ付き棍棒を引きずっていた。
「右腕はどうにか切り落としてやったんだが......油断した、奴の後ろ見てみろ」
ウィーゴの言うとおりオーガの背後を覗きこむと、二匹の大ムカデが顎をカチカチと鳴らしながら入り口から這い出てきた。
「アイツらは......」
「"センチピード"牙に麻痺毒を持つD級モンスター、戦ってる途中でうっかり奴らの巣を壊しちまった」
「噛みつかれたんですか?」
「あぁ、右腕が動かない、皮肉なことにアイツとお揃いさ」
自分が右腕を切り落としたオーガを見ながらウィーゴは自嘲気味に笑った。
片腕が無いオーガとD級モンスター二匹、万全のウィーゴならば難なく倒せるはずだが、今こちらは同じく片腕が使えず二人のD級ハンターも先の戦闘でかなり疲弊している、状況は最悪と言えた。
「仕方ないか......二人とも、逃げるぞ」
「兄貴!? 諦めるのか?」
「グレン、ここは一旦退いてウィーゴさんの回復を待とう」
セトに指摘されて気がついた、オーガの腕は切り落とされ、復活することは無いが、ウィーゴの腕は治療して痺れがとれれば再び剣を持って戦う事ができる。
ここで退いてウィーゴの腕が治り、センチピードが諦めて去ってくれれば勝機は充分にある、しかし──。
「問題は奴らが素直に逃がしてくれるかって事なんだが......」
「逃げること自体が難しそうですね」
魔物たちは洞窟の入り口と、麓へ続く道を塞ぐように陣取っており、逃げられそうな場所と言えば背後にある深い森林しかなく、一時撤退の策はすぐになくなった。
「はぁ......仕方ない」
ウィーゴは左手で大盾を取り上げると、セトとグレンに指示をだす。
「俺が時間を稼ぐからその間にラネック村まで走って応援を呼んでこい」
「なっ...それって兄貴はどうなるんだよ!? 片腕じゃあすぐにやられちまうぞ!」
「心配するな、応援が来るまでは耐えて見せるつもりだ」
だが、麓まで行ってもすぐに応援が駆けつけられる訳ではない、オーガに対抗できる戦力があるなら首都のハンターに依頼が届くはずも無いからである。
「ウィーゴさん、貴方は自分を犠牲にして僕らを助けるつもりですか?」
セトの言葉に一瞬だけウィーゴの動きが止まり、観念したようにフッと笑った。
「あぁそうだ、半端者だった俺を叩き直してここまで引き上げてくれたのはグレンの親父さんだからな、そんな人に遺言で息子を任せられたんだ、命張ってでも守らねぇとな!」
ウィーゴは大盾を前に構えると地面を強く踏みしめ、突進の体勢をとる。
「シールドスマッシュ!!」
地面を強く蹴ると魔物たちに一直線に突っ込んでいき、大盾をオーガに向かって叩きつけた。
しかし、オーガをその程度で倒せるはずもなく、ウィーゴの渾身の一撃はトゲ付き棍棒によって防がれていた。
「この程度で殺れるとは思って無いんでな!」
大盾の取っ手を軸に体を回転させてオーガの首に回し蹴りを浴びせ、そのまま顔を踏みつけて跳び退き、油断なく大盾を構える。
グオオォォォ!!
怒り狂ったオーガは棍棒を振り回す。
「くっ!」
やみくもに繰り出される攻撃を慎重にさばいていたが片腕しか使えない為、徐々に押されてしまう。
咄嗟に横に跳び回避するが、そこにオーガのトゲ付き棍棒が襲いかかる。
「ここまでか......!」
死を覚悟して目をつむった瞬間──。
「跳べ!! グレン!」
「うおおおぉぉぉぉ!!!」
ギィィン!!
猛烈な突風に乗って、飛来したグレンの渾身の一撃がトゲ付き棍棒をとらえ、オーガの攻撃は僅かに逸れてウィーゴの隣へと叩き落とされた。
「グ、グレン......お前...」
「俺はな、兄貴......」
ウィーゴは思わず声をかけるが、それを遮ってグレンが話始める。
「親父とお袋が呪いで死にかけてた時に何もできない自分が悔しかった! だからS級ハンターになって大切な物を守れるようになりたかった! それなのに......!」
振り返ったグレンの目には、父と母を看取った時と良く似た、しかしどことなく覚悟を決めたような涙に満ちていた。
「|大切な物≪アニキ≫が自分から死ぬなんて言うなよ!」
それだけ言ってグレンはオーガに向き合い、大剣を構え直す。
「セト! ムカデ共は任せたぞ!」
「あぁ! でも援護は期待しないでくれよ!」
二人のD級ハンターによる、決死の戦いが始まろうとしていた。
なんかここ最近グレンの方がセトよりも主人公してるなぁ(~_~;)
次回は7/2に投稿予定です。




