EP.1-2 兆し
セトの肩をかりて少し歩くとすぐに森を抜け、目の前に石畳で舗装された街道とその先にいくつもの尖塔のそびえ立つ城が見えてくる。
「あれがアグネロ城、この国の中心で城下街も含めてアグネロッサって呼ばれてる」
城を指差し、グレンがセトに街の説明する。
「街に着いたらどうする?」
「ひとまず医者にいこう、色々と頼りになる人を知ってるんだ──。」
ーーー
やがて二人は街の門にたどり着いた。
「随分と大きな街だね…」
「なんたって首都だからな、人も物も溢れるほどある」
街の門をくぐりながらグレンは医者に向かう、自分が戦闘で負ったキズを診てもらうのと、セトの事もある。
やがて壁を漆喰で固めた、周辺の建物より少し見栄えする建物にたどり着く。
「ミューズ先生! いるか?」
扉を開け呼びかけるグレン、待合室の様な部屋で待っていると、奥の部屋から緩くウェーブした銀髪に白衣姿の女性が現れた。
「いらっしゃいグレン…って、随分汚れてるじゃない、今帰って来たの?」
「ついさっきな、ゴブリン相手にヘマしちまった」
そう言ってグレンは大腿のキズを見せる。
「ゴブ共相手に一撃食らってるようじゃアンタもまだまだね、ところでそちらの方は?」
ミューズはセトの方を見る。
「僕はセト、グレンとは森を抜けた先の草原で会ったんです」
「そう、アタシはミューズ、ここで医者をしてるの、まぁ立ち話もなんだし奥に行きましょ」
そう言ってミューズは二人を『診察室』とプレートのかかった部屋に案内し、患者用の丸椅子にそれぞれ座らせ、自分は診察用の道具類が並んだ机に向かう。
「まずはグレンのキズを診ちゃいましょうか」
グレンの患部を観察し、簡単な診察を行い結果を告げる。
「大きなケガでもないし、太い血管も神経も無事、ただ麻痺毒を使われてるから足を無理に動かさないで、今はこの軟膏を塗っておいて」
診察を終えてグレンに軟膏の入った缶を渡す。
「さてと、それじゃあセト、今日はどんな用事?」
「それが……えっと…」
「こいつ、記憶がないみたいなんだ」
貰った軟膏を傷口に塗りながら、セトが説明する前にグレンが答える。
「あら、そうなの?ちょっと待ってなさい」
ミューズはそう言って引き出しの中から筆記具を取り出すと机の上に並べた。
「これは何か分かる?」
「万年筆と紙です」
「そう、じゃあ今からこの二つを使って部屋の中にある物の名前をを何でもいいから書いてくれる?」
セトは万年筆を取り、目についた物の名前を書き記してゆく、しばらくして「これでいいですか」と返された紙には『窓、机、薬棚…』と部屋の中で目につくものの名前が記されていた。
「ありがと、じゃあこれは読めるかしら?」
セトが書いた内容の隣に新たに文字を書き足して見せる、しばらく紙を見つめてからセトは答える。
「上から順に『薬草、診察台、カルテ、包帯』ですよね」
「嘘、これ全部読めるの?」
「はい、多分、書くだけじゃなくて、書かれた言語での音読もできます」
「ちょっと待った、どういう事なんだ先生?」
横から見ていたグレンが口を挟む。
「まぁ、これ見ながら聞いてちょうだい」
グレンは先程のやり取りに使われた紙を受けとる、そこには読める文字と読めない文字、文字とも思えない記号が書かれていた。
「ん?なんだこれ?」
「私達が普段使ってる文字と、私が知ってる別の言語の文字で書いてあるんだけど、彼はそれ全部読めるみたい」
「えっ!マジかよ!これ全部!?」
「しかも音読もできるとはねぇ、おかげで言語から大まかな出身地を探るのは失敗、でもこれだけ色々な言語が理解できるなら、ある程度の教育を受けたのかも知れないわね」
やれやれといった風に首を横に振り嘆息するミューズ。
「そういえば、森でゴブリン共に襲われたとき一回だけ魔法を使ってたけど、それと関係あるのか?」
グレンはセトに直接質問する。
「う~ん、わからない、そもそもどうやってアレができたのかもわからないし....」
「ちょっと待って、アナタもしかして魔法が使えるの?」
二人のやり取りを聞いてミューズが疑問を投げ掛ける。
「えっと、よくわからないんですけど、街に来る途中の森で掌からカマイタチが出てきて、それでグレンを助けられたんです……」
「そう…ちょっと調べて見ましょうか、もしかしたらその方面から何か手がかりが見つかるかも」
ミューズは一旦部屋を出ていくと、両手に収まるくらいの水晶玉を持って戻ってきた。
「いい?セト、この水晶玉を手に持って魔力を注ぐ…掌からエネルギーが流れてゆく様子をイメージをして、アナタに魔法の才能があるなら得意な属性に合った色に光るはずだから」
手渡された水晶玉をじっと見つめ、掌から自分の力が水晶玉に注ぎ込まれるイメージをする。
すると水晶玉は徐々にゆらゆらと虹色の光を放ち輝き始めた。
「あら?普通は原色のどれかに偏るものだけどこんなにも曖昧なのは珍しいわね」
「なぁ先生、虹色だとなんの属性向きなんだ?」
「そうね、どの色に属する訳でもないから……万能属性かしら?」
「万能!スゲェなセト!どんな属性の魔法も使えるんだぜ!」
グレンは素直にセトの事を称賛する、しかし当の本人とミューズは険しい表情のまま告げる。
「どんな魔法が使えても今の僕には使い方がわからない…」
「それに万能と言えば聞こえはいいけど特出したものが何もないというのがネックね……まぁ今回の目的からしてみれば珍しい万能属性なのは好都合ね」
グレンより複雑な状態にあるため問診は長引き、気がつくと夜になっていた。
「もうこんな時間か、オレはもう帰るぜ、先生」
そう言って立ち上がろうとするが両足がうまく動かず、もつれてしまう。
「満足に立つ事もできない状態の癖になに言ってんの、今日は病室空いてるから泊まってきなさい」
グレンは帰宅しようとしたが、まだ足に痺れが残り一人では満足に歩くことが出来なかったために、セトと共にミューズの医院にある病室で一晩過ごすことになった。
小説を書くって大変です(汗
週1で更新が現在の目標かな(-_-;)