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8 同志ミニレッサースパイダー

 ゴブリンの野営地目指して森の中を進む俺たち。


 おっさんとワンツーマンのチュートリアルをさせられていた時は、正直クソゲーとしか思わなかったが、今は巨乳隊長がPT入りしているから、全て問題なし。


(ノープロブレム。

 巨乳お姉さんがいれば、全ては正義であり、正しいのです)


 俺は聖職者のごとく、聖衣を纏って説教台から宣言することが出来るぞ。



 隊長からは蔑んだ目で見られたり、物理的な攻撃をたまに食らっているけど、それは全て愛。

 そう、きっと隊長の俺に対する、親愛(病んだ愛)の表現に違いないのさー。




 ――ゲシッ


「うおっ!」


 突然背後から蹴られて、俺はその場に前のめりに倒れた。


「た、隊長。なぜ蹴る?」

「理由はない。ただムカついたからだ」

「足で踏まれたままだと、起き上がれないんですが」

「そのまま一生倒れていて欲しくてな」


 蹴られた後に、背中を足で押さえつけられてしまった。


 フフ、隊長ってば照れちゃって可愛いな。

 これって、俺的にはご褒美だから全然気にしないぜ。

 むしろ、もっとやっ……



「マッチ、お前がこの馬鹿者を一発殴れ!」

「了解しました」


「えっ、ちょっ、いやだー!」

 マッチと言うのは、おっさんの名前ね。



「ヤメロー、おっさんに殴られるのなんて、ただの苛めじゃないか!苛め反対!」



 隊長に踏んづけられて起き上がれない俺は、地面の上でじたばたして抵抗したけれど、結局おっさんに一発殴られてしまった。


「ど、どうしてこんなひどいことに……」

「次にくだらんことを考えたら、マッチに抱きつくように命令するからな」


 ハ、ハイッ!?

 隊長、今とんでもないことを言いませんでしたか!?


「隊長、さすがに上官の命令でも、それは無理です」

「イヤダー、俺もおっさんに抱きつかれたら死ぬー。リアルで心が死ぬー」



 そんなどこぞの腐女子が喚起することなど、やりたくもない!




 ◇ ◇ ◇




 そんな馬鹿なことがありつつも、俺たちは森を進んでいく。



「気を付けろ、木の上にミニレッサースパイダーがいるぞ!」

 この声は隊長のもの。

 またまたモンスターとエンカウントした。


 森の木々の間に蜘蛛の巣が張られていて、木の上に一匹の蜘蛛が糸を垂らしながら空中に留まっていた。


 AR表示では『モンスター、ミニレッサースパイダー』。

 とはいえ、ミニってついてるのに、体長が1メートルはある巨大蜘蛛なんだけど。


 ゲームだからいいものの、リアルだったら絶対にお目にかかりたくないなー。


 ちなみに木の上にいる蜘蛛は複眼の赤い目を持っていて、それが地上にいる俺たちを睥睨していた。



 そして、口を開く。


(あ、これは遠距離攻撃が来るな)

 予備動作でバレバレ。俺がその場から飛びのくと、ミニレッサースパイダーの口から白い糸が、先ほど俺のいた場所に吐き出された。


「そいつの蜘蛛に捕まると身動きが取れなくなる。気を付けろ!」

 おっさんが忠告してくる。



 どうやらあの糸に捕まると、一定時間拘束されるか、敏捷力が低下するといったところかな?


 かつてプレーしていた、アーク・アース・オンラインでは、俺はスピード特化の技量型として戦っていた。なので動きを制約される攻撃や、敏捷性低下は勘弁して欲しい。



 だがしかし、そこで俺の脳内に信じがたい天啓が降りてきた。


(そ、そうだ。このまま俺はスパイダーと隊長の間に立ちはだかる位置に移動しよう。そして蜘蛛が糸を吐き出してくるが、俺は華麗に回避。だけど、その糸は後方にいる隊長にそのまま向かっていって、粘着糸にからめとられたエッチイ隊長の姿……)


 ――素晴らしい!



 俺は自分の信じられない天才ぶりに歓喜を覚え、早速スパイダーと隊長の間に移動する。

「隊長、こいつは俺一人で大丈夫なので、そこで見ていてくれ」


(そして、そこから動かないでね)

 とは、俺の心の声。



 隊長は何か小声で呟いていたが、それでも俺の言葉通り、その場から動かない。



(さあ、準備は整った。スパイダーよ、お前のネチネチネバネバの糸を吐き出せ!)


 俺の願い通り、スパイダーは口から糸を吐き出してきた。



「うおーっと、危ない。回避だー」

 もちろん、そんな攻撃俺には当たらない。

 セリフがひどく棒読みになってしまったが、危機的状況だから仕方ないよなー。



 俺が回避した糸は、そのまま後ろにいる隊長めがけて……


「◆◆◆◆◆、ファイヤー」

 隊長の手から火の玉が飛び出した。それが飛んできた糸を焼き払ってしまう。どころか、炎はそのまま直進を続け、空中にいるスパイダーの体へ命中した。

 どうやらさっき隊長がブツブツ言っていたのは、魔法の呪文だったらしい。


 炎はスパイダーの全身を燃やす。

 燃えるスパイダーが暴れまわるが、そのまま息絶えてしまい、空中からボトリと地面に落ちてしまった。



「ふん、たわいもない」

 決め台詞を言う隊長。


 だが、俺はそんな隊長の勇姿を眺めていられなかった。



「クッ、どうしてこうなった。スパイダー、貴様はその程度の存在だったのか。どうして貴様はそんなに弱いんだ!」

 あまりの悔しさに、俺は地面に両膝をついて絶望した。


「せっかくのエロチャンスが……」

「マッチ、スレイに抱きつけ」


 ちょ、待って!

 隊長、その命令はなしでしょ!


「嫌だ!」

「やめてください!」


 俺とおっさんは、同時に拒絶の声を上げた。




 ◇ ◇ ◇




 俺の同志だと固く信じていたミニレッサースパイダーが非業の死を遂げた後、再び俺たちは森の中を進んでいく。


「ところで隊長。さっき魔法を使ってたけど、どうやったら使えるんだ?」


 悲しみはいつまでも引きずっていられない。

 俺は気を取り直し、隊長がさっき魔法を使ったので、その使い方を尋ねることにする。


「魔法を使うためには、スキルを獲得した後に、魔法の呪文を覚える必要がある。教導隊の駐屯地では無理だが、街に行けば魔法の本があるので、それを購入して読むといいだろう」

「なるほど」

 街の本屋で購入しないといけないのね。



「ちなみに魔法の属性ってあるかな?例えばさっきの炎とか……あとは闇とか?」

「魔法の属性であれば、火水土風の4属性がメジャーだな。それに派生形として氷や雷といった属性がある。それ以外にも、光や聖といった属性もあるのだが、これらの魔法は今あげた属性の魔法より扱いが難しいとされている」

「難しい?」

「呪文が長いんだよ」

 なるほど、それは確かに扱いづらそうだ。


「だがお前、今"闇"って言ったな」

「言ったけど?」


 隊長の視線が鋭くなる。

 しかし、なぜ闇に反応する。

 闇魔法は、俺がゲーム開始直後に、なぜか勝手に獲得した魔法スキルなのに。


「一般的に闇属性の魔法は高位のモンスターが使う。人間でも使えないわけではないが、禁忌の魔法として扱われているので、あまり口にはしない方がいいな」


(……OK。俺の種族はなぜか人間から吸血鬼になってしまったので、モンスターの使う魔法が勝手についてきたわけね)


「ちなみに、血や死霊というのは?」


 ――ギロリッ


 隊長が物凄く怖い目で俺を見てきた。



 どうしよう、心臓がどきどきして、つい興奮……ゲフンゲフン。



「血と言うのは知らないが、死霊魔法には絶対に手を出すな。それは不死者使いネクロマンサーどもが使う、闇よりさらに業の深い魔法だ!」



 ぴしゃりと言い切られてしまった。




 ◇ ◇ ◇




 さて、なんだか面倒臭い魔法スキルを、俺は持ってしまったようだ。

 人間失格確定の魔法スキルが2つに、明らかに人間失格としか思えない血魔法スキル。

 いや、スキル以前に、既に種族が人間から吸血鬼になってしまってるからな……。


 ラグーンでは、キャラ作成時に不死者(フンデット)などの、RPGでは確実にモンスター側の種族も選べるようになっていた。


 もしかして、俺って人間の陣営とは敵対するプレーをしていく事になるのかな?

 それと、人間立ち入り厳禁のモンスター種族の国もあるのかな?


 というか、ゲームの仕様的にあるんだろうなー。



 今はチュートリアルだからいいが、将来なんとなく面倒臭いことになりそうな気がする。


(……ま、始めたばかりのゲームだし、難しいことは考えなくていいか)

 そう結論付けて、俺はそれ以上考えることをやめた。


後書き


 レッサーミニスパイダーですが、初期案では名前をレッサーミニタラテクトにしていたのは秘密の話。



『スモールレッサータラテクト』?

『蜘蛛ですが、なにか? 』?



 ハハハハハ、知りませんよ、大御所様の小説なんてー(棒読み)

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