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6 戦闘の前準備

「次はゴブリンと戦うぞ」

「嫌だ!」

 おっさんが何か言ってきたので、速攻拒否。


「ガハハハハ、どうしたどうした。たかがゴブリン相手にビビってるわけじゃないだろうな?なに、安心しろ。ゴブリンはこの近くの森に野営地を築いているが、そこまでちゃんと俺もついていってやるからな」


 俺が嫌なのはビビっているからじゃなくて、このゲームからログアウトしたいからなのだが……。


 まあ、いいか。

 昔はVRMMORPGをプレーしていた俺だけど、最近はすっかりエロVRの住人と化していた。

 それでもVRで戦闘をやると、思ったより腕が鈍ってなかったと思う。


 アクション要素のあるRPGでは基本的にレベルやスキル、装備。そしてプレーヤースキルが物を言うが、VRではモニター越しのゲーム以上に、プレーヤースキルの占める割合が大きい。


 下手な剣士プレーをしている相手にゲーム内の最強武器を与えても、熟練プレーヤーならダメージを受けないことで、相手に完勝できるなんてケースがある。



 自慢だが、俺はこれでも昔やっていたアーク・アース・オンラインというVRMMORPGでは、近接戦闘で五指に入ると言われた実力者(プレーヤー)だった。

 とはいえ、そのゲームは既にサービスを終了してプレーできなくなっている。あの頃の輝かしい栄光を、俺はつい懐かしく思い出してしまう。

 ただ実力者だと言っても、あくまでもゲームの中での実力なので、リアルで就職するときには、全く役に立たなかったけどな!



 そんなことを思い出しつつ、俺の目の前では、

「そうだ。せっかくなので、この機会にPT(パーティー)の組み方を教えておいてやろう」

 などと言って、おっさんがチュートリアルキャラらしく、PTの組み方の説明を始めた。



「おっさん、初めの頃とキャラ変わってないか?」

 あまりにもバカ丁寧に説明をし始めたものだから、俺はおっさんに呆れてしまう。



 その後、おっさんの説明を受けながら、おっさんからPT勧誘を送られた。

 目の前にPT勧誘を受けるかの確認用のウインドウが表示されたので、俺はYESを選択する。



 しかし、おっさんと野郎2人だけのPTなんてひどすぎる。

「はあっ、どうせなら巨乳隊長もPTに誘えないかなー」

「ふむ。ダメだとは思うが、戦力が多いに越したことはない。隊長にも声を掛けてみるといいかもしれんな」


 おやっ?

 意外とおっさんがいい事を言ってくれるじゃないか。


「じゃあ早速隊長の胸に突撃……イヤイヤ、ここは紳士っぽくいかないといけないな。さすがに同じ失敗をして、おっさんとの野郎PTだけは勘弁だ」



 俺だって学習はするのだよ。

 さっきまではエロゲーの延長気分でいたから、巨乳隊長にいじめられてしまったのだ。あのゴミクズを見るような目で睨まれるのは……うん、とっても良かった。

 世の多くの男どもが、胸の内に何かしらの深い業を抱えているわけで、俺にも深い業があるだけだ。


 とはいえ、ちゃんとPTを組んでもらうために、俺は紳士でいくことにした。



「だが待て。隊長の所へ行く前に、まずは補給物資を受け取っておくといい。教導隊の宿営地に補給担当がいるから、そこで回復アイテムを受け取っておくといいぞ」

「……ヘーイ」

 隊長の元へ直行しようとしたのに、おっさんにお預けを食らってしまった。


 もういいよ。

 どうせチュートリアルを終わらせない事には、どうにもならないんだから、もう素直に言うことを聞いてやるよ。




 と言うことで、俺はおっさんを連れて、教導隊の補給担当の元へと向かう。


 補給担当は眼鏡をかけたお姉さん。見た目は気弱そうで地味だけど、サイズの合っていないメガネがすぐにずれ落ちてしまう。

 それを慌てて手で直す仕草が可愛いんだ。

 しかし、俺の予想ではこのお姉さんは、眼鏡をとると予想外に美人……


 ……てなことはなく、補給担当は教導隊に配属されたばかりの新米男兵士さんだった。

「お、女の子を配置しよしよー」

 さっきのは完全に俺の妄想(願望)で、現実にいたのは野郎だった。



 その補給担当から、茶色のベルトを受け取る。

 ベルトには西部劇に登場するガンマンがつけているガンベルトみたいになっていて、銃弾がしまえるような飾りがついている。

 もっともそこに入っているのは銃弾でなく、回復用のポーションの小瓶だった。


 AR表示で確認すると、HP、MP、SPを回復させるためのポーションが入っている。



「HPとSPは分かるけど、MPもあるなら魔法の使い方を知りたいんだけど?」

「ワハハハハ、筋肉こそが最強の武器だぞ。魔法など弱者の使う武器だ」

「おっさん、頼むから魔法のチュートリアルもちゃんとしろよ。あんた一応説明(チュートリアル)キャラなんだろ!」


 だが俺の声を無視して、おっさんは腕を曲げて、腕の筋肉を盛り上げてみせる。

「どうだ、素晴らしいだろう!」

 マッスルアニキみたいなポーズをとりやがる。しかも、笑顔を浮かべると、白い歯が太陽の光を反射して光輝く。


 そこにいるだけで、滅茶苦茶暑苦しい。



(おい、チュートリアルちゃんとしろよ。このおっさんのチュートリアルって、絶対に方向性がおかしいぞ!)

 俺は心の中で、運営の無能さをグチグチと言う。



 なお、ベルトにポーションが納められているが、これは昔のゲームで言うところのクイックスロットルになる。

 戦闘中にベルトにはめているポーションを取り出すことで、すぐに回復アイテムを使えるようになってるわけだ。



「てことは、アイテムボックスも当然あるよな?」

 そこで出てきた疑問を俺は口にする。


「ハー、フンッ」

「……」


 OK。

 おっさんは平常運転で、俺の質問なんて何も聞いちゃいない。

 代わりに筋肉を見せつけるように様々なポーズをとっていだけだ。


 目の毒だ。このままでは、俺の目が腐ってしまう。



「が、頑張ってくださいね」

 呆れる俺に、補給担当の男兵士君が同情を込めた声で言ってきた。


「お、おう。NPCに励まされている俺って……」

 ちょっと、悲しくなってしまった。




 ◇ ◇ ◇




 補給担当の所を後にして、俺たちは平原に張られた天幕の一つへ向かう。


「隊長、失礼します」

 天幕の前でおっさんが声を掛け、中から「入れ」と返事が返ってくると、俺たちは天幕の中へ入った。



 天幕に入ると、机に向かって書類仕事をしている隊長の姿があった。

 しかしアレだね。隊長の豊かな胸が、机にフニフニと挟まれて潰れている。おまけに谷間がちょうど俺のいる場所から眺めることが出来て、なんて眼福だろう。


「隊長、愛しています」

「……」


 紳士的だろ?少なくとも、いきなり突撃はしてないんだから。

 なのに、隊長から帰ってきたのは白けた視線だった。



 そしてなぜか天幕の中には気まずい沈黙が出来てしまうが、その空気を無視して、おっさんが話し始めた。


「隊長、これより私と新米のスレイの2人で、森にあるゴブリンの野営地を壊滅させようと思います。つきましては、隊長にもご同行いただければ幸いです」

「ふむ、ゴブリンの討伐か」

 顎に手を当てて、考える隊長。



 な、なんて素晴らしい。

 考え込む隊長の胸を腕が押しつぶしていて、とても素晴らしい光景が!

 なんて柔らかなお肉なんだろう。




 そんな欲望まみれの俺の視線に、隊長が気付いてしまった。


 机の上に置かれていた文鎮(書類の束が風に飛ばされないよう、重りとして使われていた)を掴んで、それを俺に向けて放り投げてきた。

 いや、投げたというより、投擲と呼ぶべき鋭さだった。


 アイラビュー。

 ――ガンッ


 俺はさっきの戦闘では圧倒的な数相手の敵に無傷で勝利したのに、この文鎮を回避できず顔面に直撃された。


「ゲフッ」


 直後、視界が真っ暗になって、俺はその場にぶっ倒れてしまう。



(な、なぜだ。俺のゲーム内反射神経をもってすれば、この程度余裕で回避できるはずなのに)


 ただ、今回は気絶まではいかなかった。




 そんな俺の耳に、隊長とおっさんのやり取りが聞こえてくる。


「……で、このバカは使いものになるのか?」

「訓練では圧倒的に数で勝る敵相手に、無傷で勝利しました」

「ふむっ、にわかには信じられん話だな」

「まあ、いざとなれば戦場で盾代わりにでも使ってやってください」


 ちょい待て!

 おっさん。あんた俺のことをそんな風に思ってたのかよ。


 抗議してやりたいが、ダメージがことのほか大きく、俺は意識はあっても、体を動かない。指先も、口も動かすことが出来ないので反論できない。



「いっそのこと、実戦で死んでくれるとありがたいな」

「ハハハ、このバカは隊長の為なら、きっと命がけで身を挺してくれるでしょうな。ワハハハハ」


 な、なんかこの人たち黒くねえ?


 でも、巨乳隊長のためなら、俺は本当に死ねるけどね。

 いや、もちろんここがゲームだから死ねるだけで、現実(リアル)で死ねって言われたら、心が折れるので勘弁して欲しいけどさ。


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