41 にやけ面とアルパカ
クイーンローパーを倒した後、ドロップ品として『ローパーの強靭な触手』という名のアイテムが10個。
それとレアドロップか、『ローパーの滴る鞭』という武器がドロップした。
通常の敵と違ってクイーンとついていたし、体の大きさも段違いだった。
レイドボスと考えていいだろう。
それにしても、なんて卑猥な武器と素材だ。
もしかして、特殊な趣味人たちの間で、高額で取引されているアイテムなのでは……。
まあ、そんな冗談――でもまんざらないが――は、置いておこう。
素材は今のところ利用方法がないし、俺は鞭の扱い方は知らない。
そのうち売り払う機会があれば、売ってしまえばいいだろう。
それらを確認してから、俺はアリスと絶の元へ戻った。
ただ、意外だったのが、
「もうヤダ。おうち帰りたい」
あの普段強気で俺をボコるばかりだったアリスが、地面の上に座り込んで泣いていた。
「絶、これは一体どういうことだ?」
「アリスちゃん、凄くショックだったのか、幼児退行しちゃったみたい」
巨乳持ちの美女だが、中身が幼児化してしまっただと!
なんて素晴ら……もとい非常事態ではないか!
「これって大丈夫なのか?」
「うーん、僕からは何とも言えないかな」
「パパー、ママー」
あ、これは滅茶苦茶重症だ。
おのれクイーンローパー、貴様のせいでアリスがおかしくなってしまったではないか。かつての幼女天使ミカちゃんだけでなく、巨乳美女の精神まで犯してしまうとは……。
って、中の人の精神がヤバくないか?
いくらアホな俺だって、さすがにリアルの人間の心がヤバい状態になったら、そりゃいつもみたいな事を考えてられないぞ。
「とりあえず、村まで連れて帰った方がいいな。1人で馬に乗るのは無理だろうから、絶、頼めるか」
「うん、任せて」
絶が馬形態になり、俺はアリスをその上に乗せ、二人乗りで村まで戻った。
なお、走る絶の後ろを、アリスの愛馬であるヒルドも同行して走ってついてきた。
実に忠実な馬だ。
主のことが心配なのだろう。
「……さよなら」
そして村の宿屋までたどり着くと、ぽつりとつぶやくように言い残して、アリスはゲームからログアウトしてしまった。
「アリスちゃん、心配だな」
「リアルすぎるゲームって、あそこまで人を変えるんだな」
人が変わってしまったアリスに、俺も絶も心配しつつも、それ以上何かをすることができなかった。
この日は、これで俺たちの冒険はお終い。
ゲームからログアウトしたが、何とも後味の悪い結末になってしまった。
◇ ◇ ◇
翌日、俺と絶は再びラグーンにログインする。
最近ではすっかり見慣れた、ノートン開拓村の入り口に降り立つ。
「今日はアリスちゃんはログインしないって」
「昨日、あんなだったからな……」
アリスのリアルでの連絡先を知っている絶は、ゲーム外でやり取りをしていたようだ。
あれは、心が完全に折れてたもんな。
ひょっとすると、もう二度とラグーンをプレーしないとか?
そうなると、俺の巨乳ハーレムの第一候補が、ここでいなくなってしまうわけか。
なんて結末だ。
いや、もちろんハーレムだけでなく、リアルのアリスの事も心配しているぞ。
「スレイー!」
またしても俺の表情に出ていたのか?
絶が上目遣いで俺を非難するように見てきた。
「絶、俺だってちゃんと心配してるんだぞ」
「でもさ、今の顔は酷かったよ」
「……俺の顔って、そこまで酷いのか?」
「これ見て」
絶が目の前にウインドウを開く。
一体何が映っているんだと覗いてみると、そこには黒髪黒目の男が、だらしなくにやけ切った表情をしていた。
ゲーム内で絶が取った、SSだろう。
「うわー、これはないわ。キモイ」
「キモイも何も、これがスレイの顔だよ」
「……」
ちょっと待って!
俺が嫌々ながらもハーレム計画の為に作った、スレイのイケメン顔の面影が全くないぞ。
これは酷いとか、別人なんてレベルじゃない。
下手すれば、触手モンスタークイーンローパー並の変態丸出しじゃないか……。
「クソッ、俺は悪くねえ。悪いのは全部スレイのせいだ!」
てなわけで、俺は全て、スレイのせいにすることにした。
不都合は全て他人のせいにしてしまえ!
だって、こんな顔、リアルの俺でもやるわけないだろ。
だけど、絶は呆れたようにため息をつく。
「こっち見て。これはジローがエロ系のVRをしてる時の顔」
別のウインドウが開かれて、そこには絶が言うように、エロ系VRをプレー中の俺の顔があった。
なお、そのエロVRをプレー中の俺の姿は、リアルの俺の姿そのままだ。
長身痩躯のナイスガイな俺が、そこには映し出されて……はいない。
まあ、リアルでの顔は聞かないでくれ。
二七年間生きていて、彼女が一度しかできなかったような男だからな。
ただ、ウインドウに映る俺の顔は、スレイのにやけ切った顔よりも、さらに数倍ひどかった。
自分の顔のはずなのに、見ていられない。
あまりの酷さに、悲しくなって涙が出てきそうになる。
「……」
「ショックかもしれないけど、スレイは悪くないよ。ジローが原因」
何も答えられない。
いま、物凄くショック中だから、何も言えない。
「ちなみに動画もあるけど、そっちも見てみる?」
「イヤだー。というか絶、お前なんでそんなSSや動画を撮ってるんだよ!」
「ゲームでもリアルでも、スレイの姿を撮るのが、僕の趣味なんだよ」
うん、これがまともな俺を取ってくれてるのなら、嬉しいぞ。
絶がAIで見た目幼女とはいえ、それでも悪い気はしない。
しかしだな、そのとられた映像が、俺のあまりにもひどい姿過ぎて……。
「頼む。俺のそんな醜い姿は記録に残さないでくれ!」
絶がいないと全ての面でダメダメな俺だけど、とてつもない弱みまで握られてないか?
というか、確実に握られてるよな。
俺、マジで絶を怒らせられないぞ。
◇ ◇ ◇
その後俺(ジロー)は、スレイのことがムカついたので、顔面を殴って泣かせておいた。
あのキモイ表情ですら、リアルの俺よりマシとかマジ訳分からん!
イケメン死すべし!
そんな自分で自分を殴るという、他人から見ると奇怪な行動にしか見えない事をする俺を、絶が呆れた表情で見ていた。
「……スレイだから仕方ないよね」
などと、勝手に納得していたけどな。
さすがは絶だ。
俺の行動だけで内心を見通している。
いや、この場合はさすがと言うより「心の中を覗かないでください!」と、お願いした方がいいんだろうな。
そんないつものアホな事をした後、最近の日課になっている羊牧場での、羊の世話クエストを受けて、絶が一人で羊の世話始めた。
モコモコの羊の毛に顔を埋める絶は嬉しそうだ。
「うーん、やっぱりアリスちゃんがいないと、あんまり調子でないな」
とはいえ、やっぱりそのことが気になるらしい。
一人羊を世話しながらも、絶の瞳はたまに目の前でない遠くを見ていた。
俺もそんな絶を見ていると、我知らず外部装甲に包まれたアリスの姿を、脳裏に思い浮かべずにいられない。
いや、アリスの事を心配はしてるんだよ。ただ、俺ってどうしても素直な心の持ち主だから、胸の事が気になってしまって……ゲフンゲフン。
これ以上は墓穴にしかならないな。
そして羊の世話をいつものように終えたが、その後なぜか依頼の報酬として、ペットのアルパカを牧場主からもらえた。
「アルパカ?」
「そうだよ、いつも羊の世話をしてくれる君たちに、特別にプレゼントしてあげよう」
毎日通っていたので、顔なじみになったNPCの牧場主さん。
だがここは羊牧場で、アルパカなんて一頭も飼っていない。
ペットでくれるなら、羊だろう!
そう突っ込んでやりたくなる。
なぜ、関係ないアルパカが出てくる?
「アルパカって可愛いね」
しかし絶はそんなことお構いなし。
進呈されたアルパカの姿を見て、笑顔を浮かべていた。
「……」
まあ、ここはゲームだ。
多少設定におかしなところがあろうと、突っ込むのは野暮ってもんだろう。
だがしかし、アルパカなんて手に入れて、どうしろっていうんだ?
これはあれか?
一時期オンラインゲーム上で、アルパカに乗れることを宣伝しまくっていたゲームが存在していた。
そんなのに乗れて何が面白いんだと俺は思っていたが、案外女性プレーヤーターゲットで、そんなことを宣伝していたのだろうか?
このアルパカは、そんな類いのものなのか。
まあ、深くは考えまい。
この後、ゲーム内ではペットに乗り移れる謎妖精的な扱いになってる絶が、ペットのアルパカに乗り移った。
「メー」
というのかな?
微妙に羊に似た鳴き声を出して、アルパカ化した絶が、俺をつぶらな瞳で見つめてきた。
「もしかして乗れと言ってるのか?」
「メー」
人型以外では人間の言葉を話せなくなってしまう絶。
だが、今のは間違いなく同意の鳴き声だった。
「絶、恥ずかしいから勘弁してくれ。なにが哀しくて、二七のおっさんが……いやいや、お兄さんが、アルパカに乗らないといけないんだ」
――ペッ
「……」
絶のご機嫌を損ねたらしい。
つぶらな瞳をしたアルパカ絶から、唾を吐かれてしまった。
これが絶じゃなかったら俺は怒ってるところだ。
だが、リアルで俺の生命線を握っている絶に対して、俺が強く出ることは決してできなかった。
でも、乗るのは勘弁してくれ!




