40 クイーンローパー3
――これはゲームであっても、遊びではない。
ただのネタだけど、このままアリスを助けないと、俺のリアルでの生活がピンチだ。
絶にリアルでサボタージュされたら、マジでピンチなんだけど。
てなわけで、アリスを助けるために、地面の上で大きくジャンプ。
続けて空中で立体機動スキルの足場を踏んで、さらに上へ跳ぶ。
クイーンローパーは高さ五メートルの大きさがあり、触手で持ち上げられてしまったアリスは、長身の俺でも、刀が届かないほど高い場所まで持ち上げられていた。
こういう場合、高さをある程度無視できる立体機動は非常に便利だ。
俺はアリスを捕まえている触手を切り落とし、アリスを助け出す。
「イッヤアッ、キャアー」
そのまま重力にひかれて、アリスの体が落下していく。
今まで強気で暴力ばかり振るっていたアリスの初めての悲鳴だ。
なんて感動的なんだろう。
ホラさ、普段強気な女の子ほど、弱い瞬間を見せた時のあのギャップがね。
というか、むしろそれが一番のご褒美じゃね。
ウヘヘー。
というのは、心の中だけにしておこう。
このまま落下してもゲームだから問題なさそうな気がするけど、さすがにそれはいかんでしょう。
俺は紳士だよ。ネクタイだけ装備してるのじゃない方のね。
ということで、立体機動スキルでさらに足場を作り出す。
今度は上に飛ぶためでなく、足場を蹴って地面へ向けて思い切り急加速した。
アリスが落ちてくるよりも先に地面の上に降り立ち、落下してきたアリスをキャッチだ。
「キャアアア、アレッ?」
悲鳴を上げていたアリスをお姫様抱っこ。
まるで、
『親方ー、空から女の子がー』
のシーンのごとく。
その後は落ちてきたアリスを抱っこだ。
――ジーン
直後、俺の両足が凄まじい重さを受けて、痺れる。ちょっと涙目になるくらい、足がしびれる。痛いんだよ……。
だ、だが我慢だ。
ここは踏ん張るところだぞ、俺。
「ほら、もう心配しなくていいぞ」
「ス、スレイ……」
――あれっ?
なんだか今のアリスは、いつもの強気じゃない。随分と弱々しいぞ。
目の端には若干の涙まで浮かべていて、マジもののヒロイン級の可愛らしさだ。
俺はしばし足の痺れすら忘れてボーとした。
「……おっと!」
ただ、ずっとそうしているわけにもいかない。
クイーンローパーから、触手が俺たちへ向けて延びてきた。俺はそれを足で踏み潰す。
ぺしゃりと触手が弾けて、緑色のドロドロした液体が飛び散る。
足で踏み潰せる程度の、耐久力だからいいけど、毒とか麻痺の効果ってないよね?
「とりあえず後は俺が片づけるから、アリスは後方で待機な」
ひと先ずアリサを抱っこしたまま絶の所までダッシュ。
一歩一歩歩くたびに、足からズキズキした痛みが来るけど、が、我慢だ。
――俺ややればできる子。こんなところでへこたれるな。
ついでに神速スキルがあるおかげか、クイーンローパーの追撃を振り切って、速く走れた。
「アリスちゃん大丈夫?」
助けられたアリスを心配する絶。
「絶、後の事は任せるから、俺はあの職種野郎を片付けてくる」
のんびりもしてられないので、俺は絶にアリスの事を任せるとそのままとんぼ返りでクイーンローパーの元へと戻った。
このころには足の痺れも収まってくれた。
よく頑張った俺。偉いぞ。
きっと後で、アリスがデレてくれるはず。
ただ、さっきクイーンローパーの事を野郎と呼んでしまったが、クイーンだから、このローパーは女なのだろう。
いや、メスと呼ぶべきか?
だが、胸がない女など触手付きでもどうでもいい。
「俺は、貴様らの存在を絶対に許さん。あの時散々いいようにされたミカちゃんの為にも、ここで敵をとってやる!」
巨乳の女の子と関わりがなくなれば、触手モンスターなど俺にとってただの怨敵。
単なる有害物質でしかない。
俺はこのゲームを始めてから、今までで最大の闘志を込めて、クイーンローパーに刀の切っ先を向けた。
とはいえ、クイーンローパーの触手は数が多い。
これまでにアリスと俺で三〇本ぐらい切り落とし、細切れにしたはずなのに、まだ七〇本ぐらい体の周囲でウネウネと蠢いている。
とりあえず迫ってくる触手どもを細切れにしながら、俺はチラリと切り落とした触手の残骸を見る。
細切れにした触手は再生する様子がない。
アリスが切断した触手も、その後独立してミミズみたいに動き始めることはない。
あと本体に引っ付いている触手の切り口から、新たな触手が再生して生えてくることもない。
警戒しすぎとは思うが、俺はこいつらが嫌いだ。
過去にアーク・アース・オンラインで、どれだけ師匠によって、この手のモンスターと戦わされたことか。
あいつら、プレーヤーを勝たせる気がないだろうってぐらい、理不尽な再生能力を持った。あと、毒や麻痺系の異常状態とかがてんこ盛りだった。
そして、ひどい時は魅了だ。魅了されて、あのウネウネの生き物に、自分からボケーと歩いて行って、捕食されてしまう。
「うっ、くうっ、くうううっ」
気が付くと、俺は口から嗚咽を零し、目から涙を流していた。
「滅びやがれ、クソ触手野郎が!」
俺は叫び、さらに迫る触手を切断。
心の底からどす黒い怒りが沸々と湧き出す。
今の速度で戦っているのが許せない。
俺は一秒で一〇本の触手を切り飛ばしたが、それでは遅い。
さらに戦闘速度を早くする。
一秒で三〇本切り落とす。
留まって敵の触手を迎撃するなど、もってのほか。
クイーンローパーの周囲を駆けまわり、その体に引っ付いている触手を一本残らず切り落としていく。
奴らに慈悲は必要ない!
そして汚らしい触手は全て切り落としてやる。
俺が一人で戦うようになってから、僅か五秒と経たずにクイーンローパーの触手を全て刈り取った。
あとはバカでかい本体が残されただけだが、攻撃手段は触手しかなかったらしく、もはやクイーンローパーはただその場に突っ立っているだけ。
「止めだ!」
俺はアイテムボックスから、今ある武器の中で最も攻撃力のある、『ファブリニードの白夜剣』を取り出し、それで巨大なクイーンローパーの体を切り捨てた。
だが、一撃で済むわけがない。
こんな汚物は、原形も残さないために、さらに刻まなければ。
「こいつが!おのれ!よくもミカちゃんを!師匠のクソ野郎が!チクショウ!チクショウ!チクショウ!」
俺は何かの怨念に憑りつかれたかのように、クイーンローパーが地面に倒れ伏してからも、それでもなお手を緩めることなく、その体を切り刻み続けた。
かつてアーク・アース・オンラインで、惨殺幼女天使ミカちゃんなんてあだ名も頂戴したことがある俺。
このラグーンの世界でも、惨殺男として、クイーンローパーを切り刻み続けた。
「クハ、クハハハ、クハハハハハ」
俺は、自分でも訳の分からない感情に支配されるまま、その場で笑い声を上げ続けた。
◇ ◇ ◇
だが落ち着け。
ここで油断してはならない。
『てーい、鳥もちバクダーン!』
『溶解液弾、発射ー!』
『ああ、手が滑ってドロドロの油をまき散らしちゃった。ところで松明はどこに置いたっけ?あっ、引火しちゃった!』
師匠であれば、戦闘に勝利して一安心したところで、止めを刺しに来る。
ちなみに溶解液弾なる代物は、アーク・アース・オンラインで、防具の耐久値を極端に削ることのできる、鬼畜アイテムだった。
俺が触手モンスターとの戦いに勝った後、師匠が溶解液弾を誤発射と言う名の、故意の発射をして、ミカちゃんの装備品の耐久値を〇にして、とんでもない姿にさせられたことだってある。
俺は戦闘で荒くなった呼吸を落ち着け、目を閉じて周囲の気配を敏感に察することにする。
感じるんだ、ここて俺の脅威となるモンスターはいないか?
戦闘後に奇襲を仕掛けてくる師匠はいないか?
まさか、まだローパーの大群が潜んでいるとかじゃないだろうな?
俺は周囲の気配察知に、全力を尽くした。
もっとも、その全ては俺の杞憂であり、実際にはどのような危険もなかった。
だが、触手モンスターとの戦いの後であれば、このくらい警戒しなければならない。
それが、俺の心に刻まれたトラウマなのだから。
後書き
『これはゲームであっても、遊びではない』
言わずもがな、ソード・アート・オンラインの名台詞ですね。
当初はこれをもじって、『これはゲームであって、遊びである』にしようかとも思っていました。
まあ、別にどっちにしたからって、何か変わるものがあるわけでもないですが。




