37 ヴァルキリーとヘボ男
いらないアイテムを売りに行ったはずが、アリスとPTを組んで、バトルをすることで話がまとまってしまった。
オンラインオフラインを問わず、ジャンルにRPGとつくゲームに置いて、バトルは欠かせない冒険要素だからな。
「この辺りにはラビットしかいないから、馬でしばらく駆けた場所にいるゴブリンを討伐しに行きましょう。ヒルド!」
アリスがそう言うと、白いエフェクトと共に白馬が彼女の傍に現れた。
白馬の名前がヒルドらしい。
俺の課金レンタルの黒馬と同じで、アリサのペットだろう。
現れたヒルドはアリスの顔をペロペロと舐める。
(う、羨ましすぎる)
親愛の情を示す愛馬に対して、アリスもヒルドの顔を撫でていた。
(ああ、あの胸!外部装甲付きとはいえ、アリスの胸が当たっている!)
もちろん当たってるのは、馬の頭にだ。
「スレイー?」
そんな俺を、絶がジト目で見上げてくる。
身長差のせいで、絶は常に俺を下から見上げることになるからな。
「う、羨ましくなんてない。羨ましくなんて……」
俺は何とかアリスと白馬のヒルドから視線を逸らす。でも、ちょっとだけ目の端に涙がたまってしまったのは仕方がないだろう。
クソウ、生まれ変わることが出来たら、白馬がいい。
馬だったら、どんなエロ妄想をしても、表情でバレることがないしな。
「私には騎乗ペットのヒルデがいるが、スレイにはいるのか?」
目的地まで馬で駆らないといけないので、尋ねられた。
「もしいなければ、目的地までアリスと二人乗り……」
「ブヒヒン!」
俺の疚しさに塗れた内心は、白馬にすら看破されてしまったのか。
なぜか前足で蹴られそうになったので、大慌てで回避した。
このスレイ、巨乳美女の拳に沈むことはあっても、馬ごときに遅れは取らん!
まあ、アホなことはほどほどにして、
「絶」
「はーい」
絶が白いエフェクトを発しながら、幼女姿から黒馬姿へ変わった。
「立派な馬。もしかして、絶ちゃんなの?」
「ブルルッ」
絶が鳴いて、それからアリスの顔をペロペロする。
俺、生まれ変わることが出来たら、黒馬が……(以下略)
そんなやり取りがありつつ、アリスと白馬ヒルドを先頭にして、俺たちは平原を駆けていった。
◇ ◇ ◇
ノートン開拓村から馬の足で数時間。
ゴブリンどもがたむろしている平原の一角へやってきた。
「まずは私の戦い方を見せてあげる」
そう言い、アリスがアイテムボックスから取り出したのは、白銀のハルバート。
自身の身長より大き武器を、馬上で両手で振り回す。
教導隊ではおっさんがハンマーを持って派手に戦っていたが、あの時に負けない迫力がある。
しかしアリスの扱う武器がハルバートか。
見た目は美人なのに、パワータイプの戦い方をするのか。
「ヤッ!」
アリスは白馬の手綱を叩き、馬に乗ったまま駆けていく。
「ギャー」
「ガーッ」
向かってきたアリスにゴブリンどもが雄たけびを上げたが、次の瞬間アリスの持つハルバートが青い閃光を纏ったかと思うと、Xを描くように素早く振るわれる。
武技スキルによる攻撃だろう。
哀れ、二体のゴブリンの体が真っ二つに切断されて息絶える。
だが、仲間が倒されたことで、周囲にいたゴブリンたちまで攻撃状態になったようだ。
耳障りな鳴き声を上げながら、ゴブリンどもがアリスを包囲しようと集まってくる。
「ヒルド」
アリスが愛馬の名を呼ぶ。
それだけで意思疎通ができたようで、ヒルドはゴブリンたちへ駆けていく。
「戦陣踏破!」
スキルなのだろう。
ヒルドがゴブリンへ体当たりし、体当たりを受けたゴブリンが弾き飛ばされる。
それも一体だけでなく、当たるを幸いと、次々に弾き飛ばしていく。
さらに、アリスが突き出したハルバートの穂先が、ゴブリンの体を串刺しにする。
切って良し、突いても良しのハルバートは、馬上から複数の敵を相手にするのに、理想的な武器だ。
「うわー、グロイな」
集まったゴブリンたちは蹴散らされ、アリスとヒルドによって戦闘は一方的に終了した。
まあ、ゴブリンはザコモンスターだから当然だよな。
ただ、敵の強弱に関係なく、周囲には倒れたゴブリンが死屍累々になっているので、絵面にちょっと……
俺、グロ体制は低いんだよ。
それでも、白銀の鎧を纏い、白馬に跨ったアリスは絵になる。ハルバートを手にする彼女は、戦場の戦乙女と呼んであげたくなる凛々しさだった。
「すごいな、アリス」
「この程度当たり前よ」
戦いを終えて戻ってきたアリスは、俺の言葉に気をよくする。
「じゃあ、次はスレイが戦って。もちろんラグーンを始めたばかりの初心者を見捨てるようなことはしないから、敵に囲まれても、私が助けてあげる」
上から目線だな。
俺、ヒロインに助けられる系主人公みたいに、わざと敵に包囲されちゃおうかな?
そこからロマンスに展開することってあるかな?
そうすれば、俺的な勝利条件は達成だしな。
「……言っておくけど、わざと敵に包囲されたら、その時は刺すから」
アリスの眼光が鋭くなり、ハルバートの先端を向けられてしまった。
「わ、分かったから、その物騒なものをこっちに向けるなって」
「ほら、さっさと戦う」
「ヘーイ」
もしかして、俺の心の中がアリスに読まれてしまったのか?
俺はやる気のない声を出しつつも、絶に歩いてもらってゴブリンの近くへ行く。
「それじゃま、簡単に片づけるか」
俺は絶に跨ったまま、アイテムボックスから投擲用の短剣を取り出して、それをゴブリンに向けて投げる。
――スカッ
おかしい、外れたぞ
――スカスカッ
なぜ外れる?
そうしている間に、攻撃されていることに気付いたゴブリンたちが、ウーウー、ガーガーと声を上げ始める。
「あんた、それで真面目にやってるの!」
「俺は真剣なんだけど?」
真剣に投げてるんだけど、短剣が当たらないから困る。
「ブルルンッ」
絶も俺の戦いぶりに、不満げな声を出す。
「分かってるって、こんなザコに苦戦するわけないだろう」
まさか、この俺がゴブリンごときに負けるわけがないだろう。
――スカッ
またしても外してしまった。
そして非常に情けないことだが、当たらないことに苛立って必要以上に力んで短剣を投擲したものだから、馬上でバランスを崩してしまった。
「ノウッ!」
そのまま背中から地面に落ちてしまう俺。
踏んだり蹴ったりだ。
乗馬と馬上戦闘を獲得したはずなのに、俺の馬上での戦闘能力はここまで酷いのか……
「ギャー」
なんてやってたら、すぐ傍にいるゴブリンが槍を突き出してきた。
俺は転がったままの状態で、まともに回避できない態勢。
「おおっと、怖い怖い!」
まあ、すぐに地面の上を右に転がり、突き出された槍を回避する。
……のだけど、次はお隣にいたゴブリンが剣を振り下ろしてくる。
もちろんこれも転がって回避。
回避した先で、さらに別のゴブリンが斧を振り下ろしてくる。
はいはい、回避回避。
「ブルルルーッ」
俺が地面の上で転がり続けて回避してたら、絶が怒りの鳴き声を上げて突進を始めた。
絶の体当たりを受けて、ゴブリンが一度に三体空中へ飛ばされる。
さらに怒り心頭の絶は、周辺にいるゴブリンどもを容赦なく吹き飛ばし、その馬蹄で踏み潰していった。
アリスの戦い方もグロかったが、絶の戦い方はもっとグロイ。
体や頭を粉砕されたゴブリンの血肉が周囲を飛び交って、とても絵面的にお見せしてはいけない光景になってしまう。
「絶、もうそのぐらいで勘弁してやれよ。ゴブリンどもは逃げ出してるんだから、追いかけなくていいぞ」
あらかたゴブリンを一人(一頭?)で掃討し終え、絶はようやくゴブリンを追いかけるのをやめた。
「絶ちゃん……ちょっと怖い」
戦いが終わった後、アリスがぽつりとこぼしていた。
だけど、俺もその意見には同意だ。
強さがどうこうでなく、戦った後の光景が怖いことになってるんだよ。
「次にスレイを苛めたら許さないんだから!」
そして戦いが終わった後、幼女体型に戻った絶は、ご立腹な様子で逃げていくゴブリンたちに叫んでいた。
絶を怒らせると怖いな。
いやまあ、現実の金銭問題とかで、この前怒られたばかりの俺だけどさ。
しかし、この戦いで俺はまるでいいところがなかった。
「ねえ、スレイ。あんたって本当にダメな男ね」
戦闘終了後、アリスから下された評価は最低。
「VRMMORPGが初心者じゃないとか言っておいて、絶ちゃんに助けられなきゃ何もできない体たらくぶりだったじゃない」




