35 ちゃん付けor呼び捨て
翌日。
絶と共にログインしたけど、昨日のようにアリスちゃんは傍にいなかった。
「アリスちゃんはいないかなー」
周囲をキョロキョロと見て回るけどいない。
うーむ、フレンド登録とかしてないから、今日出会えなければ、それきりなんてことになりかねない。
以前トレクールの街で出会った親切な男プレーヤーの先輩とは、あれっきりだ。
まあ、あれは男なのでフレンド登録の必要性を微塵も感じない。また会えればそれはそれ。会えなくても全く無問題だ。
しかし、アリスちゃんは胸の大きな美人さん。
しかも確実に中身は女の子だろう。
これで会えなくなれば、俺は傷心旅行に出かけるぞ!
「うーん、いないな。もう少しここで待ってみるか?」
「大丈夫だよ。アリスちゃんの連絡先なら聞いておいたから」
「連絡先?」
絶はアリスちゃんとフレンド登録していたのか?
だが、ホームAIの絶ではフレンド登録はできなかったはず。
「メールのアドレス聞いたの」
「メール……もしかしてリアルの?」
「そうだよ」
事もなげに答える絶だが、
なんだと!
女の子のリアルの連絡先を聞き出しただと!
羨ましすぎる!
「絶、俺にも連絡先を教えてくれ!」
「ダーメ。アリスちゃんとの約束で、スレイには教えちゃいけいなんだ」
クッ……なんて鉄壁のガードだ。
そこまでして、俺と関わり合いになりたくないのか……。
目的は絶で、俺のことはただの変態プレーヤーとしか認識していないのか。
俺がそんなこと考えている間に、絶がウインドウを開いて、リアルのアリスちゃんへメールを送る。
「宿題がまだ残ってるから、それが終わってからログインするって」
メールの返信が来たようだ。
しかし宿題ときたか。
リアルのアリスちゃんは、学生確定だな。
意外としっかりしたしゃべり方をしていたから、中学生ということはないだろう。高校生だな。
そしてゲームができるほど余裕のある大学生なら、夜間だけログインしてないで、昼間から遊びほうけてることだろう。
リアルの追及はここまでにしよう。
あまりやりすぎると、俺が彼女をリアルでストーカーしたがってる、危ない人認定されかねない。
今でさえアリスちゃんから俺への評価は壊滅的なのに、これ以上下がっては逃げられてしまう。
あの胸に……
「ジロー、また顔に出てるよ」
「ムムッ、このゲームにポーカーフェイスなんてスキルがあればいいのに」
「残念だけど、ないみたい」
「……」
絶はすでに攻略サイトも掲示板も漁っているからな。そういうのをまだ見てない俺とは、持っている情報量が桁違いだ。
でもさ、
「絶、俺から希望を奪わないでくれ……」
まだ知りたくはなかった。
俺の欠点を補ってくれるスキルがあると思っていたのに。
ポーカーフェイススキルがあれば、乗馬スキルよりさらに上の評価をしたんだけどな。
俺のにやついた顔を隠せれば、完璧スペックの見た目をいかんなく発揮できるのにな……。
そんなやり取りをしつつ、アリスちゃんがまだログインしないので、昨日の羊牧場へ行く。
戦闘をしていると時間があっという間に過ぎてしまうので、のんびりしながら待つのがいいだろう。
今日も絶が羊牧場でお世話クエストを受け、羊の世話をしながら、モコモコの羊毛に顔を埋めている。
ああ、絶は可愛いなー。
ただ、今の絶の格好は羊衣装なので、二足歩行できる羊が、四足歩行する普通の羊と、仲良くしているようにしか見えない。
「……そう言えばジンギスカンは羊肉で作るんだよな」
なんとなく羊たちを見ていたら、食い物のことが思い浮かんだ。
その瞬間牧場にいた羊たちと絶が、俺に一斉に視線を向けてきた。
俺、何も悪い事してないよ。
無罪だよ。
――パコンッ
そんな俺の後頭部を、いきなり後ろから叩かれた。
「お前は、どうしてそう言う発想が出てくるんだ!」
「アリスちゃん、こんにち……ギャー!」
俺はアリスちゃんに、派手に腹をグリグリと抉られた。
い、いかんよ、ちょっと君。俺の腸が口から出てきそう!
「今度"ちゃん"付けで呼んだら、これでは済まさないからな」
「は、はい……」
この子、かなり暴力的すぎませんか。俺に対して、一片の慈悲も存在してないよ。
さすがに毎日毎日攻撃され続けてると、これはもうご褒美じゃなくて、ただの拷問だ。
俺、さすがにそこまでMな境地には到達してないから。
「アリスちゃんだー!」
「絶ちゃん、こんにちは」
「こんにちはー」
そんな俺への扱いとは真逆で、アリスちゃんはどこまでも絶に優しかった。
よし、次は呼び捨てで行こう。
その後絶とアリスの二人は、羊相手に戯れていた。
俺は昨日と同じく、近所の公園に子供を連れて行ったお父さんみたいに、2人の姿を離れた場所からのんびり眺めていた。
あの外装が、いつの日か俺の目の前で開かれる日を夢(妄想)に見ながら。
◇ ◇ ◇
で、その後暇だったのでアイテムボックスを気づいた。
「ラビットの肉とか、どうしようか?」
以前平原でラビット相手に大量虐殺を行い、その時のドロップ品が山のようにある。
ラビットの肉に、ラビットの心臓、ラビットの毛皮。
各々100個以上ある。
あと、馬形態の絶がゴブリンを何十匹も跳ね飛ばしていたので、そのドロップ品もある。
ただ、ゴブリンのドロップ品は錆びた武器ばかり。
以前トレクールの街で先輩に案内されて売却したときには、二束三文でしか売れなかった。
あの時に比べれば俺の懐事情(ゲーム内通貨)は豊かになっているが、収入自体は安定しているわけじゃない。
収入は課金によるボーナス資金50Gと、初心者狩りを狩った時に手に入れた20万Gだ。
あとはチュートリアルで手に入れた、こまごまとしたアイテムを売っただけ。ぶっちゃけ前者に比べて、後者は雀の涙の金額だ。
序盤ではそれなりの資金を持っているだろうが、稼ぐ方法がまだ確立できてないから、無駄遣いはできないな。
というわけだから、ラビットから手に入れたアイテムはまとめて売ることにしよう。
「なあアリス、この村でアイテム売れる場所って、あったっけ?」
「今度は呼び捨てか?」
アリスの顔が般若のごとく変化した。
元が美人なのに台無しだねー。
いや、強面巨乳美人ってのも、それはそれで……。
「……ちゃん付けに比べれば格段にましだから、呼び捨ては許してやろう」
「アザース」
許可をいただけたので、とりあえずお礼はしておかないと。
でも、どうしてそこまで上から目線かな?
「で、アイテム売る場所なんだけど?」
「なんだそんなことも知らないのか。この村は小さいから、アイテムの売買はできないぞ」
「あ、そうなの」
さすがは開拓村。
建物が二〇件くらいしかないから、まともな店があるわけないよね。
いや、リアルだったらそれで当然だけど、ゲームなんだから小さな村にも一件くらいあってもいい気が……
「ただこの街はトレクールの街と近いから、PC、NPCを問わず、行商や商隊の往来が多い。運が良ければ、そいつらに売ることができるぞ」
「なるほど、じゃあ早速探してみるか」
てなわけで、旅の商人探しといこう。




