33 いつも通りのダメ男と羊牧場
我が家の高性能ホームAI絶は、その性能によって非常に人間に近い感情と思考能力を持ち合わせている。
だけど、いくら人間に近いからって、見た目が一〇歳にならない幼女AIから俺は同情されていたらしい。
いくら何でもひどすぎない。
俺、これでも絶の持ち主だぞ。
俺は絶対に残念なダメ男なんかじゃない!
「ううっ、グス、グスン」
俺はラグーンからログアウト後、俺とVRをつないでいる接続装置のリンカー(見た目は首輪)を首から取り、1人トイレの中で涙した。
VRとの接続が切れたので、家の中にいても絶の姿を俺がとらえることはできなくなる。
家の内部には、ホームAIの絶が視覚を得るためのカメラが複数存在しているが、さすがにトイレの中まで設置されていない。
家庭用ドローンからも絶は視界を確保できるが、今の俺は絶のことなど忘れてただ一人トイレの中で泣き続けた。
豆腐メンタルの俺には、もはや立ち直れない。
そして翌日、寝たら割りとどうでもよくなってた。
いやさ、社会人なんだから会社に行けばひどい事なんていくらでもあるんだよ。
いちいち小さなこと気にしてたら、ストレスで禿げちゃうだろ。
てなわけで、俺は暢気に会社へ出社し、無事にその日の業務を終えて帰宅した。
ただ、昨日の夜リンカーを取ってから寝たのをすっかり忘れていた。
会社では、セキュリティー対策などの為に、社内専用のリンカーが別にあるだけど、それをつけるまで自宅用のリンカーを外していたことをすっかり忘れていた。
で、家に戻ってから、外していたマイホーム用のリンカーをつけたんだけど。
「ジ、ジロー」
いきなり涙目の絶が俺の体に飛び込んできた。
「ジロー、ごめんね。僕が悪かったから、だから僕の事を捨てないで。僕、ジローがいないと寂しくて生きていけないよ」
「お、おうっ。ていうか絶。お前昨日あれだけ好き勝手言っておいて、態度が違いすぎないか?」
「何バカなこといってるの。僕はジローの為にいるんだよ。だ、だから、もうリンカー外したまま、僕の事を無視したりしないでね」
絶の瞳がウルウルしていて、なんという愛らしさ。
俺が幼女愛好家だったら、思わず手を出しちゃいそうだ。
もっとも胸のない絶に、そんな邪な思いは抱かないが。
「よしよし。俺もお前がいてくれないと困るからな」
「うん、僕がいないと生きていけなくなるくらい、ジローを大切にするからね」
……いや、既に絶がいないとまともな生活できない体になってる気がするけど。
まあ、いいか。
絶はAIで、俺よりも偉くて、逆らっていい存在ではない。
彼女がいてくれないと、リアルの俺の生活は全く成り立たないからな。
◇ ◇ ◇
現実でそんな出来事があったが、その日も俺と絶はラグーンへログインした。
ノートン村の宿屋でログアウトしたので、今日も村の出入り口でログインだ。
「あ、絶ちゃん……と変態男」
ログインすると、ちょうど同じタイミングでログインしたのか、昨日会ったアリスさんがいた。
「アリスさん、こんにちわー」
「こんにちわ」
変態男と呼ばれたのは俺だな。
全然気にしないよ。いきなり言葉でのご褒美ですか?
「こんにちは、絶ちゃん」
アリスさんは絶には、にこやかだった。
――キッ
そして優しげな眼差しを、いきなり鋭くしたかと思うと、パシンと俺の頬に平手打ちをしてきた。
俺のVRでの驚異的な反射神経は、全く機能しない。
だって、巨乳美女からのご褒美を、この俺が回避できるわけがないだろう!
「ありがとうございます!」
ヒリヒリとする頬を擦ると、それだけで愛を感じ取れるぜ。
「ねえ、絶ちゃん。君のご主人様って本当に大丈夫。リアルで小さい子供に手を出してないよね?」
「安心して、リアルのスレイは草食系で、小さな女の子に手を出すだけの度胸もないから」
「……」
絶さん、あの、あなた、俺の事を、そんな風に、見てたん、ですか。
「いや、リアルの俺は草食系かもしれないけど、小さな女の子はそもそも眼中にないから」
「だからって、私の胸を見るな!」
――ゴンッ
今度は頭を殴られました。
「あり……」
お礼を言いたかったけど、俺はバタリと前のめりにぶっ倒れた。
俺、弱すぎじゃね?
これはもしかしてあれか、虚弱体質とかいう名のスキルが原因なのか?
本当に嫌なスキルを獲得してしまったものだ。
どうにかして、消し去ることが出来ないだろうか?
俺はしばらく、気絶させられた後、何とか意識を取り持とした。
昨日は、結局体が動かない状態のままログアウトする羽目になったんだ。今日も身動きできず、ログアウトにならなくてよかった。
で、俺が気絶している間に、絶とアリスさんの間で話がまとまっていたらしい。
「モコモコの羊さん」
「可愛いから、一緒に見に行こうね」
「わーい」
なんでもこの村には羊の牧場があるそうだ。
小さな開拓村だけど、産業はあるんだな。
てことで、俺も2人についていくとしよう。
「あ、スレイ、意識が戻ったの」
「……お前はついてこなくていいからな。むしろついて来るな!このままどこかへ消えてしまえ!」
うおっ、絶の優しさとは対照的に、アリスさんの言葉攻めが激しい。
「ハハハ、俺は絶の保護者だからな。もちろん二人に同行させてもらうさ」
「うーん、どちらかと言うと、僕の方が保護者でしょう」
絶、そんなことは言わないで。
真実は、時に人を深く傷つけるんだから。
「確かに絶ちゃんはお前のホームAIだけど。……しかしそのにやけ切った顔はどうにかならないのか?」
アリスさんはしぶしぶと言った様子。
しかしだね、
「にやけ切った顔、そんな馬鹿なはずが……」
ちょっと試しに自分の顔を手で触ってみる。
鏡がないから手で確認だ。
「……」
ゴメン、今は何も言いたくないし、何も聞きたくない。
俺って、こんな顔をいつも巨乳に向けてしているのか……。
そりゃ、モテないわけだな。
◇ ◇ ◇
「わーい、モコモコのフカフカー」
「うふふ、可愛いでしょう」
絶とアリスさんが羊牧場で羊と戯れ中。
牧場主から、羊の世話をするクエストがあって、2人は仲良く羊の世話をしながらも、白い羊毛を堪能中だ。
「スレイもこっちに来て触ってみない?」
「俺はいいよ」
――面倒臭いから。
という心の声は封印だ。
『動物への愛護精神?』
『羊のつぶらな瞳?』
『可愛い物に目がない?』
ゴメン、全部理解できないわ。
俺、そういうのって全く興味ないんで勘弁してください。
俺的には、
『羊の世話をしたら、何かスキルが手に入るのかな?』
くらいは考えるけど、わざわざ牧場で動物の世話をする気になんてならない。
「絶ちゃん、君のご主人様はあそこに突っ立たせておくだけでいいんだよ」
アリスさんも、凍えるように冷たい目をしながらそう言ってくれる。
俺は羊の世話でなく、二人の仲良くする姿と、アリスさんの豊かな胸部装甲を見て、楽しませてもらうとしよう。
あれで装甲がなければ完璧なんだけど、それでも防御が分厚いと、それはそれで妄想力が働いて脳内が幸せになれるなー。
そうだ、胸と言えば宿屋の娘もいたけど、あれはダメだな。
ギリギリ俺のお眼鏡にかなわない、落第生ではダメだ。
一時は気の迷いで合格ラインに入れてしまったが、やはりあれでは大きさが足りない。
しかしまだまだ成長期。一年後の彼女はどうなってるだろう?
「未来の姿が楽しみだなー」




