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27 リアルハートにダイレクトダメージ

「おお勇者よ、こんなところで死んで……」

 聞き覚えのある声がしたので、(ミカエラ)はガバリと起き上がると同時に、目の前にある説教台の上へ跳躍。

 その向こうで説教を垂れている、聖職者の衣装を纏ったショタ少年に、頭上からの踵落としを敢行した。


 だがしかし、その一撃は右に飛ばれて、あっさり回避されてしまう。


「畜生、スレイの足ならリーチが長いのに、ミカだとこれが限界か!」

「アハハ、ミカちゃんってば死んじゃったのに元気だねー」


 ――コチョコチョコチョ

 俺の気配察知と反応速度を上回る速さで、いつの間にかショタ少年――師匠――は、俺のわき腹を両手で揉んできた。


「ウッ、キャ、ウ、ウフ、ウハハハハハ」

「おお、ミカよ。情けないことにわき腹が弱点なのも相変わらずですね」

「や、やめ、やめろー!」


 どうせここは夢の中だと分かっている。

 前に一度経験したからな。


 現在の俺の姿は、アーク・アース・オンラインをプレーしていた時の、純白の羽を持つ幼女天使ミカちゃんの姿だ。

 スレイはイメケン男で、リアルで出会えば天誅してやりたい男だが、手足が無駄に長いおかげで、体術のリーチが非常に長い。

 ミカの2倍以上の長さを持っているから、あの男のイケメンぶりには腸が煮えくり返りそうだ。


 俺の操作キャラじゃなきゃ、発破してやったよ。

 発破はしないでも、既に殴って泣かせてやったけどさ。



「ところで師匠。ここにいるってことは、もしかしてゲームの中の俺って、死亡扱いになるんですか?」

 一通りわき腹を攻撃された後、なんとか落ち着いた俺。

 冷静になって、そのことを聞いてみた。


「えっ、知らないけど」

 すると師匠は、素で驚いた表情になった。


「知らないって。師匠はアーク・アース・オンラインでは無駄にゲームの裏情報まで知ってたじゃないですか。なのに知らないなんておかしいでしょう?」

 師匠のプレーヤースキルは、俺に以上におかしな次元にあったが、同時にネトゲ廃人並に、ゲームの情報をあれこれと知り尽くしていた。


 その中には、アーク・アース・オンライの運営スタッフに、俺と同姓同名の鈴木次郎さんがいるなんて情報を知っているほど。

 同じ名前の人なので、親近感を覚えるな。

 会ったことはないけど。



「どうせ今の僕って、ミカちゃんの中の妄想の産物だものー」

「そこで自分の事を妄想の産物とか言い切りますか?」

「言い切るよ」


 ニコニコ笑う師匠。


 ……抵抗するのはやめておこう。

 夢の中でも、この人の戦闘能力はやっぱりおかしい。


 てか俺の夢の中なんだからさ、ここでは俺が師匠に勝ててもいいんじゃね?

 なんて理不尽な夢だ!


「まあ、正直に言うと、今のミカちゃんはSP切れによる気絶状態で、HP0による死亡状態じゃないから、デスペナルティーとかないよ」

「……をぃ、やっぱり知ってたのかよ。てか、俺の妄想のくせに、なんで俺が知らないことを知ってるんだよ!」

「えへへ~」

 ニコニコと笑顔を浮かべるショタ師匠。



(あ、頭が痛くなってきた)


 そう言えば前に似たようなことを、教導隊の巨乳隊長が教えてくれたような気が。

 ……俺、まだ27歳だからボケる様な年齢じゃないぞ。


 た、多分死にそうな目に遭ったから、それで冷静に成り切れてないだけに違いない。




「そんなミカちゃんの為に、僕からスペシャルサービス」

「遠慮します!」

 混乱していた俺に、師匠が何か言いだした。

 だが、俺は何ももらいたくないぞ。

 師匠からという時点で、ろくでもないのは確定だ。



「安心して。勇者復活のために、中の人(ジロー)のリアルラックが減るだけだから」

「……やめてください。いくら夢でも、師匠に言われるとマジになりそうで怖い」


「あれっ?リアルラックを吸い取ろうとしたのに、ゴミみたいなエロVRを買って、とっくに金欠状態でカツカツになってるなんて……吸い取れるラックがないじゃん!」

 そこで頬をぷくりと膨らませ、プンプンと怒り出す師匠。


 これが師匠でなければ、多少は可愛げがあるんだけどな。

 もっともショタの怒っている姿など、俺の中では需要〇だ。



「クッ、俺だって、俺だって。分かっていたけど、それでも買わずにいられなかったんです!」

「ぷんぷん。そんなんだから彼女に振られた後、エロゲに引きこもった挙句、女性に対して年々拗らせていって、おかしくなっていくんだよ。もっと現実の女性を見ようよ」

「……」


 あ、目から汁が出てきた。

 俺のリアルハートに、ダイレクトダメージが入ってしまった。



 その場に膝から崩れ落ちてしまい、俺の目からボタボタと大粒の涙がこぼれてきた。


「ミ……ミカちゃん?」

「お、俺だって、俺だって。彼女に振られた後から、エロゲで変に拗らせてるってのは分かってるけど、それでも止められないんだからしょうがないでしょう!」


 俺だって気づいてるさ。

 彼女に振られたショックを五年経っても引きずっていて、それでエロゲに逃げ込んでいるくらい。

 でもさ、でもさ……



(ありゃ、これはちょっとやりすぎちゃったかなー)

 師匠が、気まずげな表情になった。


「俺のリアルを攻撃するのは、マジで勘弁してください!」




 そんなやり取りをしているうちに、師匠曰く、死後の世界での夢は覚めていった。




 ◇ ◇ ◇




現実(リアル)の彼女欲しい」

 俺の魂の奥底に封じられている本音が、ぽつりと口をついて出た。


「ブルルンッ」

 師匠がいる夢の中から覚めたようだ。

 意識を取り戻して周りを確認すると、俺は馬の上に、伸びた状態で乗せられていた。

 格好悪い。



「ああ、絶か」

「ブルルンッ」

 黒馬が、俺に答えるように鳴く。


 気絶から復活したばかりでまだ気分がよくないが、俺はふらつきながらも絶の背中から地面へ降りる。

 辺りは未だに夜。空には星の瞬きを見て取ることが出来る。

 すぐ近くには、見上げる高さの城壁があった。


 俺が気絶している間に、絶がトレクールの街の傍まで俺を運んでくれたようだが……頭の考えがうまくまとまらない。

 ただ一つ理解できるのは、俺ってエロゲの中の巨乳美女より、本当はリアルの女の子と付き合いたいんだという、心の本音があることに気づいたこと。


 まさか、この俺の中にそんな欲望が封印されていたとは、今日まで思いもしなかった。


「リアルのどこかに、俺に優しくしてくれるボインボインの美人お姉さんがいないかなー」

「いないでしょ」

 俺が背中から降りた後、人型になった絶が答えてくれた。

 でも、今の俺は傷心中なの。優しくしてくれないと、また泣いちゃいそう。



「絶、そこは冗談でもいいから、いるよって答えてくれ」

「……」

 あれっ、ジト目で見られちゃったぞ。

 俺の可愛い絶が、俺の希望に応えてくれず、冷たいよ……。



「それよりスレイ、夜になったら城門が閉じちゃって、街の中に入れないんだって。この後どうしよう?」

「俺を誰か労わってー」


(ダメだ。スレイ……ジローが壊れちゃった)

 俺を見る絶の目に憐憫が浮かんでいるが、残念なことに俺はしばらく立ち直ることが出来そうにない。



「ああ、おっぱい、おっぱい……」

「僕がしっかりしなくちゃ。……スレイ、もう一度僕の背中に乗って。スレイは何もしなくていいから」

「……分かった」

 絶に促されるまま、俺は再び馬形態になった絶の背中に乗せられて、夜の街道を走り抜けていった。


 とはいえ、傷心の俺は、もう立ち直れそうにない。

 俺って、これでもガラスのハートをしていて、傷つきやすいデリケートな男の子なの。豆腐メンタルなんだよ。



 それからどれくらい時間が経ったか分からないが、たどり着いたのはどこかの村。

 村の周囲に城壁はなく、建物の数は20件あるかどうかといったところ。

 開拓村という奴だろうか。

 絶は、そんな開拓村の中にある大きな建物の前まで、俺を連れてきた。


「ブヒヒン」

 絶が鳴いたので、降りろと言うことだろうか?


 俺が降りると、絶は再び人型へ戻った。

 馬形態の時は絶が喋れないから、不便だな。


「ごめんくださーい」

 そして絶はやってきた建物のドアをノックし始める。


「オッパイ……」

「夜遅くにすみません。誰か起きてないですかー」

 ああ、オッパイオッパイ。

 理想のオッパイよ、どうか俺に力を与えてくれ。



 ――ガチャリ

「こんな時間に何か用ですか?」

「こんな遅くにすみません。今からで申し訳ないんですが、朝まで泊めてくれないでしょうか?」

「お客様でしたか。それにしても、随分夜遅くにやってきましたね」


 どうやらこの建物は宿屋のようだ。

 でもさ、俺はもうどうでもいいよ。


 どうせここはゲームの中。それよりも、おっぱ……



「今からでも、1日分の料金をもらいますが、宿泊は何名……」


 !

 胸だ。

 巨乳……だ。


 宿屋の娘さんと思しき女性は、俺の理想とする胸のサイズからするとやや小振りなのでいただけない。だからと言って、そのまま見捨ててしまうには惜しいサイズ。

 それに今の傷心中の俺には、多少の小ささなんて問題ないさ。

 ギリギリではあるが、俺のお眼鏡にかなうサイズということにしてあげよう。


「ぜひ俺と、朝まで目くるめくロマンスを……」


――ガンッ

 宿屋の娘さんの両手をガシリと握ったら、直後俺の頭に重たい拳が落ちてきた。



「ごめんね、スレイ。ややこしくなるから黙ってて」

「ヒデブッ」

 絶に殴られてしまったらしい。

 俺はうめき声を出し、無様にその場に崩れ落ちて倒れてしまった。


 ――お、おっぱ……



 そんなことがありつつ、その日俺はゲームからログアウトするのだった。


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