26 初心者狩りを狩る初心者
トレクールの街へ戻る途中、待ち伏せしていた初心者狩りに遭ってしまい、絶賛大ピンチ中の俺。
だって俺、本当に初心者だよ。
装備品だって課金して手に入れたとはいえ、初心者ブーストパックなんて代物の装備品だ。
序盤のモンスター相手にはともかく、こんな装備じゃゲームの熟練者相手に戦えるわけないだろ。
ハッハッハッ。
よーし、初心者狩りを狩る時間の開始だ。
なーに、大丈夫。
俺、そういうプレーも師匠にやらされまくってるから。
あ、なぜか目から心の汁が垂れてきそう……
◇ ◇ ◇
「ウインド!」
男はクナイの先っぽを俺に向けると叫で。
するとクナイの先端から、風の魔法が飛び出してきた。
チュートリアルで、ゴブリンメイジが使ってきたウインドカッターを見ているが、風魔法は視認できないのが厄介だ。
あの時は完全回避し損ねて、頬に傷を作ってしまった。
とはいえ、あの時と違って、今の俺は魔力感知というスキルを所有している。
なーんとなくだが、魔法の塊みたいなものが飛んでくるのが見えた。
物凄くぼやけていて、ピントの合ってないぼやけた映像を見せられたかのような感じで、魔力の塊が迫ってくるのが見える。
ただ、あまりにもぼやけ過ぎて、魔法の効果範囲が分かり辛い。
「魔力感知スキル、役に立たねー」
それでも相手の放ってきた魔法の攻撃範囲が、なんとなく分かる。
ゴブリンメイジの時のヘマを再びしないため、今度は余裕を持って大きく回避。
ウインドの一撃を回避した。
「ウインド、ウインド!」
ところがどっこい。
男はクナイを向けて、馬鹿の一つ覚えみたいに魔法を連発してきやがった。
「あのクナイって魔法も使えるのか。魔剣ならぬ、魔手裏剣ってところか?面白そうな武器だな」
現在魔法スキルを複数所持していても、使い方を知らない俺。
別に忘れていたとか、調べるの面倒臭いから、気が向いたら調べればいいや。なんて思ってたわけじゃないぞ。
魔法より、街で出会った巨乳の奥さんを優先したから、いまだに魔法の使い方を知らないだけだ!
なんて暢気なこと考えつつ、ウインドの魔法を回避、回避。
俺は始めたばかりのキャラなので、あんな魔法食らったら、一撃で即死するかもしれない。
ああ、懐かしいな。
開始直前キャラで、熟練プレーヤーを沈めるのなんていつ振りだろう。
時間は経過しても、アーク・アース・オンラインをプレーしていた頃の感覚は、ハッキリと思い出せる。
昔の異常な修行は、今もこうしてVRの俺の体に染み込んでいる。
男が連発するウインドを回避しながら、俺は男の方へ近づいていく。
すると男は魔法で攻撃する愚を悟ったのか、今度は別のクナイを手に取って、それを投擲してきた。
切り払いスキルは持っているが、俺が手に持っているのは、鉄製の量産片手刀。
再序盤武器なので、熟練者の放つクナイをまともに受ければ、それだけで耐久値が0になって砕かれてしまいそうな気がする。
まあ、どのみちまともに武器と武器をぶつけて、戦うつもりはない。
ちょいと姿勢を下げると、投擲されたクナイが頭上を飛んでいく。さらに真正面から飛んできたのは、斜め前に跳躍して回避。
腕の傍をなぞる様にしてクナイが通過していったが、かすりもしなかったので、俺は無傷だ。
いっそ、立体機動スキルを使って空中に飛び上り、頭上から男を攻撃するという手も思い浮かぶ。
だが、それはやめておこう。
『ミカちゃん、スキルの使用は禁止ね』
脳内で、師匠の幻がニコリと笑いながら告げてきたのだ。
――幻であっても、この人には逆らうまい。
俺が記憶の底に沈めた黒歴史を掘り出してくるぐらいの事は、幻でもしてきそうだ。
投擲されたクナイを回避した後、片手刀が男へ届く範囲へ接近した。
――神速スキル万歳だ。
男は苦虫をかみつぶしたような顔をしつつ、最初に手にしていた魔手裏剣クナイを再び手に持つ。
――じゃ、死のうか。
男がクナイを持つ腕の付け根目がけて、俺は刀を振るう。
その瞬間、男の体がぶれた。
正確には、とんでもない速度で男の体が動き出した。
まるで残像を描くかのように、高速で動いた。
「舐めるなよ、俺には高速戦闘スキル……グアアアッ」
なんか自慢したかったようだが、秒速三十万メートルのレーザー光線を回避できてしまう俺からすれば、残像が残る程度の速度で動かれても、ぶっちゃけ遅すぎる。
動きがいきなり早くなったので、男の腕の付け根を狙った一撃が外れそうになったが、軌道修正をしたので問題なし。
クナイを持った男の腕が付け根から切り離され、空中を舞っていく。
男が煩いので、俺はサービスして、反対側の腕も切断。
男が反応するより早く、さらに両足も切り落としておく。
この戦いと、これまでの戦闘経験から、このゲームでは弱点部位をうまく攻撃すると、弱点部位を一撃で切断できたり、一撃死させられるのではないかと俺は考えている。
何しろ今俺が持っている片手刀って、序盤の武器だぞ。
相手は上位プレーヤーって程の強さはなさそうだけど、それでも普通の初心者とタイマン張って、負ける様な防具はしていないはず。
そんな防具を装備している相手の肢体を一撃で切り飛ばせてるのだから、そういうゲームの仕様なのだろう。
(アーク・アース・オンラインの仕様と似てるな)
あのゲームでも、弱点部位にクリティカル攻撃を当てることが出来れば、一撃で弱点部位を切断でき、敵を一撃死させることもできた。
ひょっとすると、ラグーンと開発会社が同じなのかもしれない。
そして俺の目の前では、両手両足を切断されて身動きの取れなくなった男の体が地面へ転がった。
「スレイ……えげつなさすぎ」
男を無力化すると、馬型から人型になった絶がぽつりとつぶやいてきた。
「これはゲームだから問題ないさ」
なんて絶と話していたら、俺の注意が緩んだと見たか、男が口を窄め、そこから針を飛ばしてきた。
おっと。
危ないので、飛んできた針を右手の人差し指と中指でキャッチだ。
「残念だが、この程度の攻撃で俺は倒せんぞ」
「……」
「……」
せっかくなので格好をつけておいたが、なぜか絶と男は無言だった。
「お、お前、本当に人間かよ!俺の攻撃がかすりもしないとか、非常識すぎるだろ!」
「本当、人間技じゃないよね」
それどころか、男と絶がそんなことを言ってくるよ。
PCである男はまだしも、人間でない絶にまで人間じゃないって言われてしまうとは……
「失礼な。俺はちょっとチート気味なところがあるかもしれないが、列記とした人間だからな」
「何がチートだ!そんな装備で初心者のフリして、上級プレーヤーだろ!この卑怯者、さっさと俺を殺しやがれ!」
男は勘違いしているが、まあいいか。
PvP仕掛けてきた相手と暢気に話し続けるつもりもない。
てなわけで、俺は片手刀を振るって男の首を刎ねた。
「うわーっ」
肢体を切り飛ばされた男の惨殺死体が出来上がり。
その光景に絶がドン引きする。俺もホラーなこの光景に思わず顔を顰めてしまう。
それと先ほどキャッチした針だが、ベタベタしていた。
毒か麻痺の異常状態でも引き起こす武器かもしれないので、俺は針を死んだ男の体にぶすりと突き刺しておいた。
「グロ耐性は低いから、こういうのは勘弁して欲しいな」
――ジトー
俺は正直に告白したけど、なぜか絶に疑いのこもったジト目で見られてしまった。
その後、PvPに勝利したことで、男が使っていた魔手裏剣クナイが、アイテムボックスに手に入った。
名前はウルフファング。
手裏剣なのに、片仮名でウルフファングとはこれ如何に?
なんとなく和のテイストと合わない名前だ。
他にもクナイ数本に、所持金が20万G加算されるが、これらは倒した男が持っていたアイテムや所持金の一部だろう。
獲得できたのが20万G。
男の所持金が少なかったから、この程度の金額しか落とさなかったのだろうか?
八年も続いているラグーンでは、ゲーム内マネーのインフレも激しいだろうから、この程度の金額では、所持金として少なすぎる。
俺的には、もっと落とすと思ってたんだけどな。
それと、
≪特定の条件を満たしたことにより、敏捷最大値上昇、正体看破、高速戦闘の各種スキルを獲得しました≫
と、システムボイスが告げてきた。
敏捷最大値上昇は、プレーヤーの敏捷ステータス値を底上げするスキルだろう。
現状HPを始めとする俺の基礎ステータス値を確認できないので、どれほど役に立つか不明だ。
正体看破?
敵が自分のプレーヤー名やステータスなどを誤魔化すことが出来る、偽装スキルなんてのを持っていれば、それを見破ることが出来るスキルかな?
他のオンラインゲームでの話だが、そのゲームではプレーヤーを襲った犯罪者プレーヤーは、街に出入りすることが出来なくなる仕様だった。
しかし偽装スキルを用いると、犯罪者であっても正体を隠すことができ、正体がばれずに街へ入ることが出来た。
おそらく、それを見破る感じのスキルだろう。
それと高速戦闘だが、こっちは試しに使ってみると、周囲の速度が五〇分の一ぐらいの遅さに感じられた。
つまり、使用者が通常の五〇倍の速さで行動できるようになるスキルなのだろう。
近くにいる絶の顔が、スローモーションで動く様子を確認でき、その光景はちょっと面白かった。
ただし、ゴミスキルだ。
現状俺のプレーヤースキルからくる戦闘速度の方が桁違いに優秀なので、単なる劣化スキルにしかならない。
おまけに使い終わった後、胸を締めつけられるような痛みが走り、激しい動悸がし始める……
「ス、スレイ。大丈夫!?」
俺の様子を見て、絶が慌てて駆けよってくるが、俺はそれに答える余裕がなかった。
(し、死にそう)
動悸だけでなく、全身から冷や汗が出てきて、耳の傍で心臓が爆発するように脈打つ音まで聞こえてくる。
チュートリアルでも経験したが、SP切れの症状だ。
高速戦闘を使ったのいけなかったのか、はたまた戦闘中にSPをとてつもない量で消費していたのに、それに気が付かなかっただけなのか。
いずれにしても深く考える余裕はなく、俺はその場でぶっ倒れた。




