25 初心者狩り
前書き
作者は今日もイケメン野郎スレイの株価を下げるため、頑張っています(キリッ
突然ですが、質問です。
PvPがあるゲームでは、熟練プレーヤーが始めたばかりの初心者相手に一方的な戦いを挑む、初心者狩りなんて行為がありますが、皆さんはこれをどう思いますか?
――俺は初心者狩りが大好きです。
かつてプレーしていたアーク・アース・オンラインでは、俺の操る幼女天使ミカちゃんは、師匠から修行という名の理不尽な苛めによって、身も心もズタボロに。
心がささくれたミカちゃんは、その鬱憤を晴らすために、自分より格上である師匠に反旗を翻すのでなく、逆にゲームを始めたばかりのド素人である初心者を狩る方向へ傾いたのです。
純白の翼をしていたのに、きっとあの時堕天使になってしまったのでしょう。
見た目は真っ白でも、ミカちゃんの心は確実にダークサイドへ墜ち、初心者狩りを楽しむ、歪な心の持ち主となってしまいました。
しかも師匠の訓練の影響で、上位陣6人組のPT相手でも、1人で勝てる戦闘能力を持ってしまったミカちゃん。
あんなのに襲われる初心者たちは、悲劇だったろうね。
――ハハッ、俺は全然後悔してないけどな!
◇ ◇ ◇
そんな過去がある俺だけど、ただいまロード・オブ・ラグーンのゲーム内で、黒馬状態になった絶の背中に跨り、トレクールの街へ帰っている途中。
小林一茶の俳句に、『雀の子そこのけそこのけお馬が通る』なんてのがある。
その言葉のまま、夜の平原を駆ける絶は、前方に現れたゴブリンを馬蹄で踏み潰し、物言わぬ肉塊の塊に変えながら突き進んでいた。
ゴブリンの集団がいようと何のその。
ただ駆け抜けるだけで、不幸なゴブリンたちが屍の山と化していく。
「ヒヒーン!」
黒馬状態の絶は人の言葉をしゃべることが出来ないので、嘶きを上げて自らの強さを誇示している。
絶はラビット相手では、俺の戦いをジト目で見ていただけだった。
可愛い者に対しては慈しみと慈悲の心に溢れていたのに、そうでなければ戦闘行為に全く躊躇いがない様だ。
戦闘というより、一方的な虐殺?
そんな俺の脳内では、小学生の頃に友達たちが、「赤信号みんなで渡れば怖くない」なんてほざく中、1人だけ、「赤信号、皆で渡れば全滅だ」と口走っていた。
赤信号を小学生が集団で横断したら、車にひかれて全滅してもおかしくないよな。
その時の言葉が真実だと、今なら実感できる。
なお、黒馬の絶にできる攻撃方法は『体当たり』しかないのだが、体当たりの結果がこれだよ。
俺は戦闘もしていないのに、アイテムボックスの中にゴブリンからドロップするアイテムが自動的に収納されていく。
さらに乗馬と馬上戦闘なんてスキルまでゲットしてしまった。
ただ馬の背中に張り付いて、落ちないようにしていただけなのにな。
俺の近接戦闘のプレーヤースキルは規格外だけど、乗馬のプレーヤースキルは壊滅的だ。
乗馬スキルを獲得できてからは、俺は黒馬の背中で手綱を握り、どこぞの白馬の王子様のごとく、颯爽と馬を駆ることが出来るようになった。
今までにゲーム内で獲得したスキルの中で、一番ありがたいと思うほどだ。
そうやって平原を駆けていたが、俺の頭上から何かが降ってきた。
数は三つで、俺がさっきまでスキルの獲得に明け暮れていた、短剣だ。
視界は暗視スキルの効果で良好な上、俺の直観力をバカにしちゃいけないよ。
それにVR空間限定だが、俺の空間認識能力は人間をやめちゃってるレベルだ。
飛んできてる物の形なんて、視界で見なくても分かっちゃう。
もちろん、原因は全て師匠の訓練のせい。
俺の脳に刻み込まれた、プレーヤースキルという名の呪いの賜物だ。
ゲームのシステムスキルを無視した、異常能力だが、
――俺は悪くねぇっ!
とりあえず、それだけは言わせてくれ。
で、飛んできた短剣の内1本は俺の頭を狙っていたが、これは頭をちょっとずらすだけで回避できる。
残りの2本は絶の体に当たりそうだったので、鞘に納めている片手刀を引き抜いて、一閃して払い落とす。
二本の短剣を、刀で直線に捉えられたので、一閃させるだけで弾き飛ばせた。
見切りとか切り払いなんてスキルもあるので、その効果もあるといいな。
まあ、ゲームのスキルより、俺のプレーヤースキルの方が確実に高すぎるんだけど。
「絶、ストップ!」
「ヒヒーン」
手綱を引っ張ると、絶がその場で嘶きを上げながら、前足二本を空中で走らせ、後ろ足二本は地面の上で踏ん張って急停止。
『サン・ベルナール峠を越えるナポレオン・ボナパルト』の絵画のごとき状態になる。
フッ、イケメンの俺が黒馬に乗っているんだから、それだけで絵になるな。
この姿を巨乳のお姉さんが見ていれば、一発で惚させられるのに。
「うわっ!」
もっとも急停止して絶の馬体が傾いたせいで、俺は無様にも後ろへ投げ出されてしまった。
体が空中に浮かび上がって、背中から地面に落ちていく。
手にしていた片手刀を放り捨て、咄嗟に体を丸める。
落下の勢いを残したまま、着地した地面の上で後ろ回りをひとつする。後ろ回りの途中で地面に両手をつけ、そこから勢いに任せて空中へ飛び上る。
体操選手のごとく空中で捻りを入れて一回転した後、地面の上に両足をついて着地した。
反動が殺しきれずに、最後にちょっとふらついたが、それでもなんとか踏みとどまることが出来た。
(ふー、危ない危ない。リアルでこんなことしたら、死んでるわー)
ゲームの中だからこそできる動き。
俺のリアルでの貧弱な体では、こんなアクロバットはできない。
というか、メダリスト級の身体能力がないと、リアルでは不可能だと思う。
で、地面に無事に降り立った俺は、腰の後ろに納めている短剣を鞘から抜き放った。
「そらよっと」
平原にはまばらにだが木がぽつぽつと生えている。近くにある木の上に、俺は短剣を投げつけた。
「クソが!」
すると罵声と共に、ザザザッと木の葉がこすれる音がして、木の上から人間が落ちてきた。
残念なお知らせだけど、男だ。
お姉さんじゃなかった。
落ちてきた男は、俺が投げた短剣を足に受けていて、そこから血を流していた。
「貴様、初心者じゃなかったのか!?」
地面に落ちてきた男が喚く。
「いや、出来立てほやほやの初心者だけど」
間違いなく俺は、初心者ですよ。ロード・オブ・ラグーンというゲームではね。
チュートリアルのクリア後は、エロVRにはまり込んで数日放置していたけど、その期間を入れてもプレー開始から1週間も経っていない、ド新人だ。
「嘘つけ!お前、俺のことに最初から気づいていただろう。この卑怯者が!」
男がまた喚いてるよ。
ところで俺には、気配察知と危機感知なんてスキルがあるが、そのおかげなのか、男が木の上に隠れているのは、事前に察知していた。
いや、もちろん嘘だよ。
システムのスキルがなくても、師匠に鍛え上げられた呪われた力があるので、気付けちゃうんだ。
なにこのチート能力?
俺ってヤバくねぇ?
てか、ヤバいよな。
それなのに師匠は、俺を軽くボコってくる。奴のヤバさは俺の比じゃない。
俺がゲームシステムをちょいと超えてる超感知能力の持ち主だとすれば、あの人はゲームシステムを無視してる強さだ。
チート程度の俺では、マジキチチートの師匠に勝てるわけねー。
閑話休題。
俺は男の事を、初心者狩りをしているプレーヤーだろうと当たりをつけていたので、わざわざ気づかないふりして、先制攻撃を受けてやった。
ほらさ、PvPって先に攻撃した方が犯罪者扱いになっちゃうゲームが大半だろ。
気づいていたのに、俺から手を出したら俺が犯罪者にされてしまう。
「じゃ、ここで死んでくれるかな?」
「クソが、舐めるなよ!」
俺は近くに放り投げた片手刀を地面から拾い上げる。
対して男は片足から血を流しながらも、立ち上がって短剣を構えてきた。
いや、あれは短剣じゃなくてクナイだな。
(いいなー。手裏剣スキルがあったら、俺もぜひゲットしたい)
街にある武器屋では見かけなかったので、俺は男の持つ短剣についつい目が行ってしまった。
後書き
――俺は悪くねぇっ!
RPG『テイルズ オブ ジ アビス』の主人公、ルーク・フォン・ファブレの放った名台詞(?)。




