24 ウサミミと幼女天使調教
平原では俺以外にも、何人かのPCが武器を持って戦闘をしていた。
皆、初心者丸出しの開拓民装備に身を包んでいる。
中には俺と同じように、ブーストパックで手に入るコスチュームを着たプレーヤーもいたが、それはごく少数だった。
戦闘を繰り返しているうちに、日が傾いてきて、夕方になると、平原にいたプレーヤーたちが、次々にいなくなった。
皆街へと帰っていったのだろう。
時間経過で昼と夜のあるRPGだと、夜間になると強い敵が出てくる仕様があったりする。
夕方になると視界が悪くなってきて、夜になれば暗闇になって視界がとれなくなる。
戦闘するのが難しくなることもあり、多くのプレーヤーが引き上げていったのだろう。
もっとも俺は気にせず、ラビット相手に殺戮を継続中。
オンラインゲームでは、効率重視でプレーする連中のことはガチ勢と呼ばれているが、その対義語にのんびりとプレーする、エンジョイ勢という言葉がある。
俺は、ただのエンジョイ勢。ガチでプレーする気なんてないからな。
ただし昔から染みついた、VRMMORPGプレーヤーとしての習性は恐ろしい。体が効率を求めて、戦闘を続けてしまう。
「ねえスレイ、そろそろ夜になりそうだし、街に帰ろうよー」
「もう少しだけ、もう少しだけ待ってくれ。投擲スキルは獲得できたから、あとは短剣スキルを獲得できるまで待ってくれ」
絶が白い目で俺を見ているが、俺は未だに殺戮プレーを続行。
一撃で倒せる雑魚相手だから、戦闘という感覚などない。
そんな俺の後ろで、絶は地面にドロップしたアイテムを並べている。
「ウサちゃんの毛皮が96、97……」
可愛い動物の毛皮を、悲しそうな声で数える。
「ウサちゃんの心臓はおいしいのかな?もう102個あるけど」
兎を可愛いと言ってたのに、何かおかしくないか?
絶が兎の心臓を見る目がおかしい!
そんな絶に嫌な予感を感じつつも、俺は短剣スキルを獲得するために、虐殺プレーは継続だ。
なお、ラビット1体から必ずアイテムをドロップできるわけでないので、倒した数はすでに百どころか、五百は超えていると思う。
――俺、エンジョイ勢だから。
ただ、あまりにもラビットを一方的に殺戮……殲滅してしまうと、ラビットがとうとう平原にいなくなってしまった。
「ウサちゃん全滅。……スレイの冷血漢、兎殺し、人でなし」
「大丈夫だろ。また明日になればポップするはずだから」
絶が俺を見る目が冷たいが、ここはゲームの世界。
明日になればすべて元通りだ。
なんて話していたら、平原の片隅から俺の方目がけてやってくる、モンスターが3体現れた。
既に日が落ちて、夜になろうとしている。
辺りは薄暗い闇に包まれているのだが、以前獲得した暗視スキルのおかげだろう、俺は薄暗い闇の中でも、昼間と変わらない明るさで周囲を見ることが出来た。
そして現れた3体のモンスターは、デフォルメ化された二足歩行で歩く兎だった。
頬には傷跡があり、目つきはやたらと鋭く、人相が悪い。
そして手には赤いパンチンググローブをつけて、それをグルグルと振り回している。
ラビットと同じく、チュートリアルで戦ったブンブンだ。
「やさぐれた兎さん……」
その姿を見て、絶が微妙な声を上げる。
「これってマップの敵を倒しまくったら出てくる、レイドボスとかかな?」
俺の方は、そんなことを気にする。
とはいえ、ブンブンとは既に戦ったことがある。
俺は2、3歩ほど走って、ブンブンの傍まで急接近。
神速なんて名前のスキルがあるおかげで、早く移動できるのかもしれない。
ブンブンが急接近する俺に驚きながらも、グローブで構えを取ろうとしたが、それより早く俺はブンブンの眉間に短剣を突き立てる。
引き抜くのは時間がかかるので、アイテムボックスからもう一本短剣を取り出し、それで別のブンブンの首と胴体を切断。
……しようとしたが、武器の攻撃力が不足していたのか、首の途中で刃が止まってしまい、頭と胴体を完全に切断することはできなかった。
それでもブンブンに致命傷を与えることが出来たようで、そのまま前のめりになってブンブンの体が崩れ落ちていく。
最後に、一体だけ黒いサングラスをかけているブンブンがいた。
俺に向かってアッパーをかましてきたが、モーションが大きすぎて回避が簡単すぎる。
まずは軽いパンチでも放って牽制してくればいいものを、まるで戦いがなっちゃいない。
もっとも、サングラスをかけたブンブン――略してサングラブンブンと呼ぼうかな――程度なら、牽制のパンチでも避けるのは簡単だけど。
最小限の動きでアッパーを回避し、俺はサングラブンブンの眉間に短剣を投げつけて仕留めた。
≪特定の条件を満たしたことにより、短剣、夜間戦闘能力向上の各種スキルを獲得しました≫
「よっしゃー、短剣スキルゲット!」
ブンブンよりも昼間からの続けた戦闘の結果、ようやく獲得できた短剣スキルの方が嬉しい俺。
おまけに夜間戦闘能力向上ときたか。
吸血鬼っぽいスキルをゲットかな?
「ねえスレイ。ウサミミリボンってアイテムがドロップしたよ」
今の戦いでドロップしたらしい。絶が頭に兎の耳のリボンをつけてみせた。
格好は開拓者スタイルで野暮ったいけれど、よく似合っている。
多分ブンブンからのレアドロップだろうが、いつか巨乳のバニーちゃんに、俺の手で直接装備させてあげないといけないな。
そんなことを内心で思いつつも、
「絶、似合ってるぞ」
俺は絶に、紳士的な対応をしておいた。
「わーい。それにこれはバニーちゃんの為に取っておかないとね」
「お、おうっ」
さすがと言うべきか……絶は俺の考えを見通していた。
◇ ◇ ◇
その後、陽が完全に落ちると、平原にはゴブリン系のモンスターが出没し始めた。
昼間のラビットは体当たりするしか能のないモンスターだったが、今度は錆びているとはいえ武器を持っているモンスター。
昼間に比べれば明らかに格上のモンスターだ。
別にこのまま戦闘を続けても問題はない。
相変わらず数値で確認できないHPは、敵からの攻撃を一切受けてないので満タン状態だろう。それに疲労感もほとんどないので、SPの残量も問題ないはず。
MPに関しては、いまだに魔法の使い方を覚えてないので、残量なんて関係ない。
ただゲームのステータスと違って、リアルの俺の脳の方が疲れていた。
昼間から延々とラビットを屠るだけの作業プレーだったが、単純作業にいい加減脳細胞が抗議の声を上げ始めた。
「短剣スキルも獲得できたことだし、街へ帰るか」
「はーい。っていうか、すっかり真っ暗になっちゃったよ。スレイってば、こんな暗いところで、よく戦ってられるね」
俺には暗視スキルがあるが、絶にはないのか。
しかし素直にそれを話しては、格好がつかないな。
「フフフ、俺ほどの人間になると、闇の中でも気配だけで戦えるのさ」
「へー」
そんな格好をつける俺を、絶が呆れたような目で見てくる。
嘘は言ってないぞ。
暗視スキルの効果もあるが、俺は完全な暗闇の中でも敵の居場所を察知して戦闘をすることが出来る。
俺がアーク・アース・オンラインをプレーしていた頃、あのクソ師匠によって洞窟に閉じ込められ、明かりをつけるのを一切禁止された状況で、延々と洞窟の中で戦いをさせられたことがある。
リアルでほぼ一か月間。
学校から戻ってアーク・アース・オンラインをプレーするたびに、洞窟へ連行され、監禁された。
一〇倍に思考加速されていた世界だから、どれほどの時間を暗闇の中で過ごす羽目になったことか……
「よいか、ジェ○イの騎士たるもの、フォー○の流れを感じるのじゃ」
その時の師匠は、クリスマスシーズンの課金ガチャで手に入れた、サンタクロースの付け髭を顔に張り付けて、年寄りぶっていた。
「ウガー、このクソ師匠がー!何が○ェダイだ!何が、○ォースだ!」
その時の俺は、まだ師匠の恐ろしさを理解する前で、無謀にも師匠に戦いを挑み、そして惨敗した。
「てへっ☆」
見た目ショタ師匠は可愛い子ぶった声を出していたが、俺の操る幼女天使ミカちゃんは麻痺状態にされて動けなくさせられた。その後全身をロープでグルグルに縛り上げられ、洞窟の天井からつるされた。
俺の真下には焚火が焚かれ、
――ドンドコ、ドンドコ
と、どこからか取り出した太鼓を暢気に叩きながら、師匠は踊っていた。
「これより、生贄を魔物に捧げるのです~」
そうして暗い洞窟の中から現れたのは、ニュルニュルの触手を持つモンスターだった。
「このクソ師匠。離せ、離せー!」
「可愛いミカちゃんの為に、僕からのプレゼントです~」
師匠は笑いながらも、俺を見捨ててその場からいなくなりやがった。
そして、その後俺は、モンスターの触手によって、あられもない状態に……
後日、そんなミカちゃんの無残な姿が、ネット上でSSと動画になって晒されてしまった。
その犯人など、たった一人しかいるはずがない。
あの時からだ。
師匠は、絶対に逆らってならなない存在だと、俺が理解したのは。
幼女天使ミカちゃんは、師匠の魔手によって、あの時精神的に調教されてしまったのだ。
幼女天使を調教するとか、マジパネエな。
当事者じゃなければ、俺だって羨ましく思ったはずだ。
でもさ、調教されたのは、正確にはミカちゃんの中の人である、俺なんだよな。
ひどすぎる罰ゲームだ。
「うっ、うううっ」
そのことを思い出してしまって、現在の俺の目から涙がこぼれ出してきた。
「スレイ、どうしたの?」
「な、何でもない……」
突然泣き出した俺を、絶が心配してくれる。
クッ、俺ってばなんて情けない男なんだ。
絶を心配させないために、腕で涙を拭いさる。
もうあのショタの姿をした悪魔はいないんだ。だから俺は大丈夫。
もう師匠によって苦しめられることなんてないんだ。
「さあ、早く街に戻ろう」
「う、うん。そうだね」
努めて明るくする俺に、絶がちょっと戸惑っていた。




