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23 RPG初心者の絶

「VRMMORPGって、街の外に出て冒険をするんだよね。そこでモンスターとも戦うんだっけ?ねえねえスレイ、街の外に行ってみよう」

「分かった。でもいいのか、その格好は?」


 興奮気味の絶が俺の手を引っ張ってくる。

 しかし、絶の格好は初期装備の開拓民スタイル。


 絶はそんな自分の服装に視線を落とし、しばらくうーんと考え込んだ。


「スレイの今の所持金ってどれくらい?」

「ゲームのだよな?」

「もちろん」


 俺は正直に所持金を答えておく。

 武器をいくつか購入したので、初心者ブーストパックを購入した際に獲得した資金50万Gからやや減って、50万Gは切っている。


「それだといい服は手に入らないね。今のスレイは貧乏だから、お金が出来るまではこの格好で我慢するよ」

「お、おうっ」


 リアルでは、現金の事で絶を、怒らせたり心配させた俺だが、まさかゲームの中の所持金まで心配されてしまうとは……。

 なんだか俺、現実(リアル)でもゲームでも、ダメ男じゃないか?


 い、いや、そんなことはないぞ。

 ゲームでの俺はイケメンで、吸血鬼の真祖にして、闇の帝王スレイなのだ。

 まあ、今のところ闇の帝王(笑)でしかないが。




 そんなことを思いつつ、俺は絶に手を引かれて街の外へ向かう。


 なお、ゲーム内での絶(ホームAI)の扱いはペット……に憑依している謎精霊的な存在になる。

 絶によると、ゲーム内でプレーヤーが所持しているペットの姿と、家にある量子(ホーム)サーバー内での姿を、自由に切り替えられるとのこと。


 そしてステータス関係は、全て憑依中のペットの能力に依存してしまうそうだ。



 そんな絶は、

「あのね、スレイ。僕に、いつでも馬乗りになっていいんだよ」

 なんて、顔を赤らめながら言ってきた。


「お、おうっ」

 憑依元の黒馬に、いつでもなれるのが今の絶だ。

 だから、彼女に俺が馬乗りになっても何の不思議もない。ただ、移動用ペットの馬の背中に跨るだけなんだ。

 けっして、幼女姿の絶に跨るわけじゃない。


(見た目は幼いのに、どうして発想がここまで拗れてしまったんだ。いや、分かってるよ、全部俺が悪いってことぐらい)


 家の量子(ホーム)サーバー内にある、エロゲなどの管理も執り行っているのも絶だ。

 それに絶が今の姿になる前。アホな女丸出しの巨乳美女だった頃の絶の記録も、今の絶は引き継いでいた。

 人格は以前の巨乳絶とは全く違うのだが、それでも記録が残っているので、いろいろずれといるというか、俺の罪深い(ごう)を受け継いでしまっている……。


(ふ、深くは考えまい。考えたくない!)


 俺は自分の業の深さに蓋をして、そっと己の過去から視線を逸らすことにした。



 ◇ ◇ ◇




「街の近くの街道沿いなら安全だが、街道から離れればモンスターが出てくるから気を付けろよ」

 さて、絶に連れられて街の出入り口である城門前まで来れば、門番がご丁寧に注意喚起してくれる。


 若い男の門番で、どこの街にもいるただのモブNPC。

 俺を含めてRPGをしたことがある人間なら、そこにいないも同然の存在でしかない。

 村人Aと同じ存在だな。


 だが絶は、

「はーい、おじさん」

 笑顔を浮かべながら、門番に手を振る。


「お嬢ちゃん、気をつけてね」

 手を振られた門番も、相好を崩して絶に片手を振ってみせた。



 当然だろう。我が家の絶が可愛いことは当たり前だ。それに魅了され、メロメロになるのも仕方がない。


 何しろ絶の外見は、俺が手塩にかけて作り出した姿。

 中身のAIは専門の業者によるものとはいえ、それでも絶は、俺にとって娘にも等しい存在。

 俺好みの理想の巨乳美女の姿から遠く離れているとはいえ、それでも愛娘である!



 だがな門番、俺の目の前で絶にデレルなど言語道断!

 俺の娘に這いよってくるゴミ虫など、絶対に許すまじ!



「お前のような男に、うちの可愛い絶は絶対に渡さんからな!」

「ヒ、ヒエッー」

 ちょっと俺が睨んでやったら、若い門番は腰を引かせやがった。


(そんなのが門番で、この街の守りは大丈夫なのかね)

 門番のへっぴり腰に、心配すら覚えるほどの情けなさだ。


 そんな俺の横で絶が、

「大丈夫、僕は今も昔も、ずっとスレイの物だから」

 と、言っくれた。



 如何わしい発言にも聞こえなくないが、ホームAIである絶は、持ち主は俺だ。

 絶が俺の物であることに、どこにも問題なんてありはしない。


 決して、如何わしいわけではない!



「絶は、俺にはもったいないくらいのいい子だな」

「えへへー」


 ああ、絶のはにかんだ姿はは可愛いなー。



 分かっているさ、これが単なる親バカだって。

 それでも、絶ってばやっぱり可愛いぜ。




 ◇ ◇ ◇




 そんなささやかなイベントがありつつも、俺たちは街の外へ出た。


 ゲームの最序盤の町であるトレクールの街は人の往来が激しく、城門では多くの人と馬車が行き来していた。そして街の外に出ても、街道には馬車や人が溢れていた。


 決して田舎の寂れた都市でなく、発達した大都市という印象が強くなる。



 そんな街道をしばらく歩き、やがて街道から外れて平原を歩き始める。

 人の姿がまばらとなって、かわりに兎の姿がちらほら見えてくる。


 AR表示を見なくてもわかる。

 俺がチュートリアルで戦わされた、ザコモンスターのラビットだ。


「わー、可愛い兎さん」

 しかし、VRMMORPGが初めての絶は、そんなことに気付かない。

 俺の手を離れて、無防備にラビットへ走っていく。


 絶のステータスはペットの黒馬のものが反映されているので、見た目の幼女姿に対して、驚くほど足が速い。


「絶、危ないから近づくな!」

「大丈夫だよー」

 俺が追いかけるより早く、絶はラビットの傍まで駆けていき、その前でしゃがみ込んでしまった。


 ラビットと視線の高さを同じにして、

「こっちにおいでー」

 と、絶が人懐っこい笑みを浮かべる。



 だが、そんな絶の顔面目がけてラビットが体当たりする。

「ひゃん!」

 顔面にもろに体当たりを食らって、絶が後ろ向きに地面に倒れてしまった。



「絶、そいつは兎じゃなくて、モンスター。敵だから攻撃されるぞ」

 絶の無防備さを見てられなくて、俺は絶の傍へ駆けていく。


「そんなー。こんなに可愛いのに、モンスターなわけないよ!」

「AR表示を見てみろ」

「……」


 ラビットをしばらく眺めていた絶は、やがてAR表示でモンスターと理解したのだろう。先ほどまでの笑顔が一転して、無表情になってしまった。


 そんな絶に、再びラビットが体当たりしようとする。


 だがそれより早く、俺は投擲用の短剣を取り出して、ラビットの顔面に投げた。

 短剣は狙いたがわず、ラビットの眉間に命中。


 額を貫いて、ラビットを一撃で仕留めた。



「ああっ、可愛かったのに……」

「可愛かろうが、不細工だろうが、モンスターを倒すのがRPGなんだよ」


 RPG初心者の絶に、俺は説明しておく。

 だけど絶は「可愛いのに……」と呟きながら、RPGの仕様に納得できないようだ。


 もっともそんな絶の傍で、俺は襲い懸ってくるラビット相手に、短剣を投擲して次々に仕留めていく。

 投擲した短剣はそのままなくなってしまうのでなく、ラビットの体から引き抜けば回収可能で、何度でも再利用して使える。


(とはいえ、感触がリアルすぎるのがな……)

 ラビットの顔面から短剣を引き抜くたびに、嫌な感触がしてくる。

 これ、完全にホラーだよ。

 VRのあまりにも出来過ぎた感触に、俺は内心複雑な思いもする。



 それでも様々なRPGをプレーして鍛えてきた俺は、難なくラビット共を始末していく。

 手元に投擲用の短剣がなくなった際には、普通の短剣を手に持って戦いもした。


 とはいえ序盤の雑魚なので、ダメージを受けることなく俺はラビットを一方的に殲滅し続けることが出来た。



 だだチュートリアルでは、ボロボロとスキルを獲得できたのに、なかなか短剣スキルを獲得できない。



 そしてあらかたラビットを倒し終えると、気落ちした絶が俺に話しかけてきた。

「スレイがリアルの女の子からモテない理由って分かる?」

「えっ、絶には分かるのか!」


 とんでもない爆弾発言だ。

 俺がリアルでもてない理由。裏を返せば、俺がモテるためには、どうすればいいかってことだよな!



「リアルでモテるためにはどうすればいいのですか。絶先生、ぜひお教えください!」

「可愛い物が理解できないから、モテないんだよ!」

「?」


 はい?

 さっぱり意味が分からん。


「こんなに可愛いウサちゃんなのに、スレイの冷血漢!」


 俺はRPGの定番に従ってモンスターと戦闘しているのに、絶からなぜか冷血漢扱いされてしまった。


 ――なぜだ?


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