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22 絶、参戦

前書き



 第二章の前半部分があまりにもつまらなかったので、本日は五話分(一時間ごとに一話)更新します。(五話目)

 社会人なのに、二〇〇〇円の使い道にすら困窮しているって、かなりまずいんじゃないか?


 そんなことが脳裏に浮かばないでもない俺だが、現在はラグーンのゲーム内に戻っている。


 すぐ傍では、絶がウインドウ越しに俺に指示を出していて、ホームAIを参加させるための二〇〇〇円の課金をする。

 それから必要になるゲームのパッチのインストールが行われたが、現在の通信インフラは旧世紀のそれと違って非常に速く、大した時間もかからずにパッチの更新が終了した。


「確かペットの馬がいるよね。まずはそれを呼び出して」

 絶に指示されて、俺はメニューの中からペットの項目を選択。

 課金で手に入れた黒馬(リアル時間で30日の期限付き)を呼び出した。


 光のエフェクトと共に、俺の傍に馬が現れる。

 大きな黒馬で、課金しただけあってその足は速い……らしい。


 何しろ、俺は未だに街の中をウロウロしているだけで、この馬がどれくらいの速さで走れるか試していない。


「それじゃあ、少しだけ待っててね」

 絶の声がすると、傍で表示されていたウインドウが消え去った。



「はあ、巨乳の奥さんは今頃どこにいるんだろう」

 絶の姿が見えなくなると、俺は慰めてくれた奥さんの大きな胸を思い出す。

 少年時代の童心に戻った俺は、母性溢れる奥さんの胸が頭から離れなくなってしまった。


(俺って、案外ああいう女性に弱いのかもな)


 なんて思いつつ、街の通りを歩く、革製の鎧を着た女戦士の姿が目についた。

 肌は日に焼けた小麦色で、体は引き締まって筋肉質。

 しかし皮鎧の防御力が、胸を下から上へ押し上げていて、それが胸の大きさを大胆に強調している。

 エロイ。

 教導隊の隊長もエロアーマーを身に着けていたが、この女戦士も侮れないエロアーマー使いだ。


 大股で男みたいに笑い、同じPTらしい連れの小男の背中をバシバシ叩いて、ガハハと笑っていた。


 AR表示から、PC(プレーヤー)なのは確認できた。

 しかし、いくらゲームの中とはいえ、あんな男勝りな女いないよな。


「ハアッ、中身は野郎か。まあ、見た目は素晴らしいけどなー」


 中身が男のお姉さんなど、いらない。

 とはいえ、見た目だけなら大層ありがたいので、俺は女戦士が見えなくなるまで、その豊満な胸の谷間を遠くからじっくりと見物させてもらった。

 眼福、眼福。


 中身が野郎と分かっていながら、見た目に執着してしまう。

 俺の異常状態魅了は、今日も平常運転だ。




「ブルルッ」

 そんな俺の傍で、ペットの黒馬が唸り声を出す。


「もしかしてお前にも、あの胸の素晴らしさが理解できるのか?」

 ――コクリッ


 頷きやがった。

 ……こいつ、言葉が理解できてるのか?


「巨乳は正義なり!」

 ――ペロリン


 うげっ、舐められた。

 馬の舌に顔を舐められた!



 どうせなら、馬じゃなくて……



 なんて益体のないことを考えていると、目の前で黒馬が白い光のエフェクトを突然放ちだした。


「What?」

 一体何がどうなっているんだ?


 ゲームだから馬が光り出しても問題はないだろう。しかしなぜ俺の馬が光り出す?

 またゲームの訳の分からない仕様か、バグのせいかと思っていると、やがて馬を包んでいた光のエフェクトが小さくなっていった。


 そして、

「じゃじゃーん。僕、参上!」


 光のエフェクトが完全に消え去ると、馬の姿はなくなり、そこには黒い髪と瞳をした幼女の姿が代わりにあった。

 ショートカットの髪に、ボーイッシュな顔立ち。腰に両手を当てながら、ない胸を突き出してドヤ顔をしていた。


「絶?」

「ふふーん、驚いた?すごいでしょ、すごいよね!」


 課金の力でゲームに参加した絶は、家の量子サーバーが作り出している時と全く同じ見た目をしている。


 なお、AR表示では、『絶、ホームAI』となっている。



「うわー、すごいなー。ここがゲームの中なんだ。空気がおいしい。それにたくさんの人がいて、家のサーバーとは全然違うね」

 ゲームの世界に、興奮気味の絶。

 普段は家の量子サーバーにいるから、これだけ人がいる場所は珍しいのだろう。


 それにしても、空気がおいしいとか、どうやって判断してるんだろう?

 別に知りたいわけでもないけどさ。




 興奮している絶だけど、ただ俺は気になることが、

「なあ絶。その格好はどうしたんだ?」

「恰好?」


 いつもはクラシックナメイド服をしている絶。なのに今の姿は、革製の開拓者防具に身を包んだ姿だった。

 俺の初期装備の格好と変わらない、野暮ったくてみすぼらしい格好だった。


 俺の言葉を受けた絶が、自分の姿を眺めてみると、先ほどまでの興奮していた表情が一転した。


「へっ、なにこれ。僕こんな貧乏くさい格好いやだ……」

 喜びから一転、絶の顔から表情が欠落した。

 その様子が、絶の絶望ぶりを強調している。



「ううっ、僕は女の子なのに。こんなにダサい格好なんてイヤだ。ジロ……えーと、ゲーム内じゃ本名はダメだよね?」

「ああ、さすがにリアルバレはしたくないから、本名は禁止で」

「ハーイ、分かったよ。それじゃあ……スレイ」

 俺のゲーム内でのキャラ名は絶に教えていない。だが、どうやら絶にもAR表示が見えるらしい。

 しばらく俺の顔を見てから、俺のキャラ名を呼んでくれた。


「そうだ、俺の事はスレイと呼んでくれ」

「うん……。でもさ、スレイの顔が現実(リアル)と全然別物になってるんだけど。あと、声も違うー」

「いいか絶。ゲームの中の俺は、リアルの俺とは違うんだよ」

 腕を組んでなんとなく気障っぽい格好をつける俺。

 リアルではそんな格好絶対にやらないけど、ここはゲームの中だからOKだ。


「ここでの俺は、イケメンの闇の帝王。巨乳なお姉さんたちを仲間にして、ハーレムを築いていくんだ」

「ワー、さすがスレイ。でも、いつもエロゲでしてることと変わらなくない?」

「……」


 絶に言われ、確かにいつもとやっていることが変わらないな、と俺も思う。

 というか、それならわざわざVRMMORPGをしなくてもいいよな。エロゲやエロVRしてれば、いいだけだよな。

 もっとも、現在エロVR禁止令を出しているのが、目の前にいる絶だが。



「オンラインゲームの中でもハーレム作るとか、やっぱりスレイって、どこに行ってもズレないんだね。でも、僕が事前に調べたオンゲの情報だと、ハーレムプレーなんてできるのかなー?

 まあ、やっている人もいるって情報があったけれど……。

 でもでも、ゲームの中のPC(プレーヤー)の女の子って、実は中身が男のプレーヤーなのが多いんだって。そんな人たち集めても、ハーレムにならないよね」

「絶、お前なんでそんなことまで知ってるんだよ?」


 見た目は10歳いかない幼女なのに、オンゲの闇の事情に詳しすぎる。

 世の男プレーヤーの多くが、ゲーム内では女キャラでプレーして、その肉体を使って時にあられもないことをしている。

 そのせいで女キャラの多くは、中身が男だった。


 もっとも、俺もその口でプレーしようとした愚か者だ。

 だが、あれは俺にとって神殺しにも等しい、大罪以外の何物でもなかった。

 あのような罪は、まっとうな男として二度と犯さないと、俺は固く誓ったのだ。



「絶、お前VRMMORPGの世界にくるのは初めてだろう。なのに、そんな情報どこから仕入れてきたんだ?」

「ちゃんとオンラインゲームについて、事前に勉強しておいたんだ。攻略情報のサイトとか、掲示板とか、あとはSS(スクショ)や動画なんか見て、たくさん勉強しておいたよ」


 笑顔で答える絶。


 忘れてはならないが、我が家の量子サーバーは高性能であり、そこを本体とする絶も高性能なホームAIだ。

 そんな彼女にかかってしまえば、ネット上の情報を短時間で集めることなど、訳ないことだ。


 俺の大して広くない(アパート)を管理するには、絶はオーバースペックすぎる性能を持っていた。


「ってことでスレイ。もしも分からないことがあったら僕に聞いてね。だいたいの事なら、すぐに調べて教えてあげるから」

「あ、ああ。頼りにしてるよ」

「うん」


 とびきりの笑顔を見せてくれる絶。


 なんだかやる気に満ち満ちている絶だが、生憎俺はがっついてラグーンをプレーする気は、今のところない。

 とはいえ絶の表情を曇らせないために、俺は表情がやや引きつりつつも同意しておいた。


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