21 絶の脅迫
前書き
主人公の株価がさらに下がっていくかな?
なお、第二章の前半部分があまりにもつまらなかったので、本日は五話分(一時間ごとに一話)更新します。(四話目)
絶のお説教受けてしまった俺は、27歳と言う年齢にありながらマジ泣きさせられた。
絶の奴、よりにもよって俺のお気に入りのVRエロゲのセーブデータを削除すると脅迫してきた。それも、いざと言うときのために取っているバックアップまで含めてだ。
エロゲ本体は、削除されても再ダウンロード可能だが、セーブデータはダメだ。
一度消されてしまえば、全て最初からプレーし直すしかない。
現代のエロゲは高度化していて、中には状況再現が不可能な展開すらある。
この脅迫に、涙を流さずにいられるだろうか。いや、いられるはずがない!
幾多の苦節を経験しながらも、ようやく獲得したヒロインたちとの、甘く甘美な世界。それが失われてしまう!
しかし何も知らない人から見れば、10歳にもならない子供から泣かされている、情けなさすぎる大人状態だ。
ウインドウは既に閉じられ、絶の説教と姿はなくなっている。
一応、今回セーブデータ削除を回避することはできた。
だが、あまりにも絶の様子が真に入っていたため、いまだに俺の涙は止まらない。
「グ、グスン」
ついでに鼻水まで出てきたので、それを服の袖で拭う。
あ、いや、俺はイケメン男スレイ。
このゲームの世界では、吸血鬼の真祖であり、いずれは闇の帝王となって、王者の義務であるハーレムを築く男……。
ううっ、虚しいからそんな脳内設定なんてもうどうでもいい。
それよりログアウトして、家にある量子サーバー内のVR空間に出頭するよう、絶から命令されていた。
そのことを思うと、気が重くなってしまう。
「なあ、あんた」
そんな俺に背後から語り掛ける声があった。
「ウウッ、なんだ?」
振り向くと、そこには先ほどストーカー……じゃなかった、追跡していた巨乳で肉厚な奥さんの姿があった。
「大の大人がこんなところで大泣きしてどうしたんだい。怪我や病気ってわけじゃないだろうね。もしかして、どこか痛いのかい?」
奥さんの表情には俺を心配してくれる様子がうかがえる。
なんていい人なんだ。奥さんから見れば、俺なんて今出会ったばかりの見ず知らずの男だろうに。
「いや、体が悪いわけじゃないです。そもそも、悪いのは俺で……」
気落ちしている俺は視線を下げながら、奥さんに語る。
だけどさ、俺の視線は物凄く素直過ぎて、奥さんの胸にある2つの大きくて包容力に満ち満ちた塊へ向かってしまう。
プレーヤースキルならぬ、プレーヤーバットステータス……なんて言葉があるのかは知らないが、異常状態魅了が再び発動してしまい、胸から視線が動かせなくなってしまった。
「分かった。あんた女の子に振られたんだろう」
「いや、そうじゃなくて」
「そんな小さなことで落ち込むんじゃないよ。あんた顔はいいんだから、いい出会いなんてこれから先いくらでもあるから頑張りなさい」
ワハハハハ。豪快に笑いながら、奥さんは俺の背中をバシバシ叩いてきた。
ちょ、ちょっと痛い。
そして、奥さんの包容力に満ちぬ胸がたまに当たる。
(うっ、うへへ~)
「とりあえずこれでも食べておきな。人間食べないと悪い方にばかり考えがいっちまうからね」
バシバシ叩かれた後、奥さんはパンをくれた。
「ありがとうございます」
「なに、大したことはしてないよ」
それだけ言うと、奥さんは通りを歩いていて俺の視界からいなくなった。
後ろ姿を見送った後、俺は奥さんからもらった愛の結晶(スレイの主観)のパンを、ムシャムシャといただいた。
「う、うまい」
パンを食べ、俺は奥さんの悩ましい胸の事を思い浮かべつつ、これから絶のお説教の続きを聞くために、ゲームからログアウトした。
ただ、ログアウトする直前、俺の脳内で声がした。
≪特定の条件を満たしたことにより、虚弱体質のスキルを獲得しました≫
◇ ◇ ◇
「だ、誰が虚弱だ!」
ログアウトすると、そのまま家庭内の量子サーバーが作り出すVR空間の中に移動した俺。
だが、最後に告げたシステムボイスはなんだ。
誰が虚弱だ!誰が貧弱だ!
俺はそんなに弱くなんか……
「ジロー!」
「……」
身長差があって、下から上目遣いで睨んでくる絶の姿が俺の前にあった。
「す、すまない。絶」
「ジロー、僕が怒っているのは、ジローの為を思ってなんだよ。大体食費だって今月はギリギリで、ジローにいいものを食べさせてあげられないのに。
そんなことろでジローが勝手にお金を使うから……うう、僕はジローの事を心配してるのに、どうして分かってくれないの!」
最初は怒っていたのに、いつの間にか瞳に涙を溜めて、ポタポタと地面に落とし始めた絶。
そんな絶の姿に俺は芸もなく、
「すまない」
としか謝れなかった。
「ジローは悪くなんかないよ。いけないのは、僕なんだ。ジローがお金を使うってのが分かってたのに、オンゲをさせちゃったのも僕だし」
「いや、悪いのは俺だって」
「ううーっ、ジロー」
絶が小さな体で俺の体にジャンプしてきた。
現実で以前姪っ子に胴体に体当たり食らったことがあり、その時は受け止めきれずに尻もちをついてしまった俺。だが、幸いここはVR空間。
飛びついてきた絶を、俺は尻もちを搗くことなく受け止めることが出来た。
その後、絶がエグエグと泣くものだから、俺はその頭を優しく撫でて、泣きやむまで落ち着かせてあげた。
(絶はこんなにもいい子なのに、そんな絶を泣かせている俺はなんてダメな男だろう)
◇ ◇ ◇
ところで絶が泣きやんだはいいが、
「ねえ、ジロー。これ見てこれ」
VR空間の中で、絶がウインドウを開いて俺に見せてくる。
「これってラグーンの公式サイトだよな」
「そうだよ」
絶はウインドウを操作して、なぜか課金項目を表示。ツールバーを動かして、画面を下へずらしていく。
「ここ見て。ここ!」
絶が指さしたのは、特定の条件を満たしていれば、ゲーム内にホームAIもキャラとして参加できるというもの。
特定の条件と言っても、それは家の量子サーバーとAIのスペックに関してだ。
ホームAIには、性能の低い物から高性能な物までランクが分かれているが、うちの絶はサーバーと共に300万円の大枚を叩いている高スペックAIだ。
百年前の人間は、高性能な車を買い求めて大枚を叩き、その後は車からPCへ変わったものの、やはり大金を投じて性能を追求していくロマン人たちがいたという。
そんなロマン人たちの末裔である俺も彼らと同じで、家の量子サーバーとAIの絶の高性能化に拘ったわけだ。
実はそれが理由で、我が家の貯金がない原因になっているが、そのことに関しては気にしてはならない。
ロマンの為の投資なのだから。
で、当然ながら絶がラグーンをプレーするためのスペックを満たしたAIであるのは当たり前。
むしろ、オーバースペックすぎるほどのスペックだ。
ただ、俺の目の前では、絶が黒い瞳をキラキラと光り輝かせている。まるで少女漫画の登場人物みたいに、目の中でお星さまが輝いてそうな眩しさだ。
その表情を見て、絶がラグーンをプレーしたがっているのが理解できた。理解できない方がおかしいほどの、眩しい表情だ。
でもな、
「あの、絶さん。さっき今月ピンチとおっしゃっていたのはあなたでは?ホームAIがゲームに参加するためには、課金しないと……」
ホームAIが参加するためには課金が必要。
人間であれば、ゲーム内のファーストキャラは無料で作ることが出来たが、AIはそうはいかない。
ホームAIが操作するキャラのゲーム内での立ち位置は、プレーヤーに紐づけされたキャラ扱い。
少し例えが悪いが、ゲーム内ではプレーヤーに随伴する、ペット枠の扱いに近かった。それも無料でなく、課金しないと手に入らないペットみたいな扱い。
絶が人間みたいに感情を持っていても、AIと人間は、違う存在なのだ。
そんな難しい理屈はともかくとして、
「2000円は無理だろ。せめて次の給料日になってから……」
「ダメだよ、ジロー。僕が見ていないとまたゲーム中で勝手に課金するかもしれないから、ジローを監視するために、僕はゲームを一緒にプレーするの」
「で、でも、もう俺は昼飯何度か抜かないといけないわけで……さすがに今以上抜くと辛いんだけど」
ラグーンをプレーする気満々になっている絶。
でも、お金についてクドクドと説教し、あまつさえエロゲのセーブデータまで消すと脅迫してきたのは絶ではなかったか。
だが、そんな俺の前で絶はニコリと笑った。
「大丈夫、ジローがお昼ご飯を抜かなくても、2000円ぐらいちゃんと用意できるから」
「はい?それってもしかして……」
「おっと、それ以上は口にしちゃだめだよ」
俺が続けようとした言葉は、絶の指が俺の唇に当てられて、無理やり止めさせられた。
絶の身長では俺の口に指を当てられる身長がないのだが、ここはVR空間。
絶の体が空中に浮かび上がっていて、それで俺の口に指を当てていた。
(うーん、絶は可愛いけど。こういうのはやっぱり巨乳のお姉さんとがいいな)
幼女趣味はそこまで拗らせていないので、この展開に少しだけ残念な俺。
しかしだね、
(絶、まさかお前、俺に隠れてヘソクリしてるんじゃないだろうな?)
我が家の家計のやりくりをしているのは、俺ではなく絶だ。
そして仮にヘソクリがあったとしても、俺にそれを見つけられるはずがなかった。
何しろ絶は高性能AI。俺の頭より、遥かに知能が高いのだから。
後書き
27歳のおっさんがマジ泣きするという、あまりのシーンに、
『見苦しい!』
と、PSO2(ファンタシー・スター・オンライン2)界のネタキャラ、ルーサーさんのセリフで答えておきましょう。
それとも、
『式にゴミが!』
の方がいいかな?




