2 イケメン野郎に天誅を!
VRMMORPGロード・オブ・ラグーン。
エロ目的にプレーし、神殺しと言う禁忌を犯してしまった俺。
「もう2度と俺は神殺しを犯しはしない」
固く誓った俺は、なぜかこのゲームを続けてプレーすることにした。
正直、暇だったからプレーすることにしただけ。
大体ゲームなんて暇だからプレーするわけだしね。
てなわけで、俺は最初に作った巨乳ボインお姉さんを封印して、わざわざ課金してセカンドキャラを作ることにした。
ラグーンは基本無料プレーのゲームで、ファーストキャラは課金することなく作ることが出来るか、2人目のキャラからは課金をしないと作れない。
と言ってもたったの500円。
わざわざゲームのIDを取り直して、別IDを作る時間ももったいないので、俺は課金をしてセカンドキャラを作ることにした。
エロVRの馬鹿みたいな金額にはさすがに手を出せなかったが、500円程度に困窮しているわけじゃない。
ちなみにファーストキャラのデータを削除して、キャラを作り直せばタダだが、それをしなかった理由は、
「俺の10時間にも及ぶ超大作をこのまま|死なせる(削除する)なんてできるはずがないだろう!」
てなわけで、今度は神殺しをしでかさないように、大人しく男キャラを作り始める。
「このゲーム、本当にキャラを作り込めるからいいんだよなー」
とりあえず俺はゲーム内でプレーする惑星をファンタジー世界の方にしておく。
SF系の世界では、霧の中を空飛ぶ飛行船が存在していて、男心をくすぐるロマンがある。
だが、その世界では光学迷彩を持ち、空から電撃を落としてくる巨大化け物イカのモンスターがいるらしい。
しかも、それが物凄くリアルすぎて、ぶっちゃけ怖い。
これはゲームのPV動画を見て知ったことだが、チキンな俺はそのあまりにも不気味なリアルさに負けて、ファンジー世界を選択することにした。
「ああいうって、きっと欧米人が好きなんだろうな。ていうか、あそこまでリアルすぎると完全にホラーだろう。宇宙版クラーケンと戦うとか、マジありえないって」
PVでは銀色のロボットスーツを着たプレーヤーが、空中を飛び回る巨大イカに捕食され食われる光景まであった。
グロ耐性が低い俺には、正直プレーする自信が持てなかった。
てなわけで、ファンタジーワールドでプレーキャラを作る。
種族は人間、エルフ、ドワーフ、獣人、妖精、小人族などと言った、ファンタジーにつきものの、ほんわかとした種族がいろいろ。
他にはファンタジーでは敵役であるゾンビやゴースト、悪魔族なんて代物まで存在している。
あとは聞きなれないところでは、長命種や天族なんて呼ばれる種族なども存在していた、
もっとも、いくつかの種族は何かしらの条件を満たさないとゲーム開始時点では選択できないみたいだ。
俺が現在選ぶことが出来るのは、人間、エルフ、悪魔族の3つ。
その中から無難に人間を選んでおいた。
そして巨乳お姉さんに10時間の時を費やしただけあって、俺のキャラクリの時間は軽く2、3時間ほどかかってしまう。
「ぶっちゃけ男に用はないんだよな。とはいえ、どうせならモテモテハーレム路線でいこう。そう、見栄えさえ良ければ全ての女の子が俺の物になるのさ~」
俺は自分の心に素直に、欲望丸出しで男キャラをイケメン男に作ってやる。
黒髪黒目で長身痩躯。
身長が190を超えているが、イケメン野郎の必須条件は長身だと勝手に思い込んでいる。
いや、実際リアルの俺も身長が187センチあるから、身長ではイケメンの部類だと思うんだ。
ただね、背が高かったけど、リアルの俺は全然モテなかったんだ。
「なんでだ?やっぱり世の中は身長よりも顔なのか……」
ちょいと過去を思い出して、愚痴が出てしまった。
だが、細かいことは気にするまい。
リアルの俺を反面教師として、プレーキャラの顔はよくしてやる。
目鼻立ちをハッキリさせて、日本人と欧米系のハーフっぽく彫りのある顔だち。
ニカット笑えば白い歯が輝いて、眩しそうな爽やかイケメン野郎だ。
「……殴り倒してやりたい。このイケメン野郎、絶対に泣かせてやる」
自分で作っているキャラだが、俺は目の前で形作られていくイケメン野郎に、本気で殺意を感じてしまった。
「落ち着け、これは所詮ゲーム。だいたいこいつには俺のハーレム計画のための欠かせない人柱になってもらうのだ。だから心の中の嫉妬の炎を抑え込むんだ、俺」
プレーキャラ相手に、もてない男の嫉妬が沸々と湧き上がってきてしまう。
「くうっ、沈まれ。俺の中に封印された嫉妬の炎よ」
大人げないどころか、自分でもなんてバカやってるんだろうと思ってしまう。
でもそれでもな、モテたことがない俺は、どうしてもこのイケメン野郎にとてつもない腹立たしさを感じてしまうんだよ!
そんなむかつくイケメン野郎に沸々と暗い感情を抱きつつも、やがて俺はプレーキャラを完成させた。。
キャラ名スレイと名付け、これでキャラクリは終了。
「さあ、スレイ。貴様のハイパースペックでハーレムゲーを始めるぞ!」
プレーキャラの作成が完了すると、俺はスレイのアバターを使ってゲームの世界へと降り立った。
ゲームの世界に降り立つと、巨乳のボインお姉さんの時と同じように、暖かな太陽の光が降り注ぐ平原へと周囲の光景が変化した。
風がさわやかに吹いて、心地いい。
そして俺はこれから始まる冒険に心躍らせる……前に、絶対にしておかなければならないことがあった。
「スレイ、貴様に天誅を下してやる!イケメンリア充野郎くたばれ!」
俺は叫んで、自分のアバターである長身イケメン男スレイの顔面に、全力で拳を打ち付けた。
「ゲフッ」
直後、俺は派手にその場から吹き飛んでしまう。
そしてVRのリアルな感覚が、俺の顔面に強烈な幻痛を与えた。本物に近い痛みが、俺の脳内で直接再生される。
それはシステムによって作られた痛みであるはずなのに、本当に殴られた痛みと全く変わらない痛みとなる。
っていうか、痛い!
痛すぎる!
「リアルなのはいいが、痛みまでリアルにするなよ!」
俺は手加減抜きで全力でイケメン男を殴ったわけだが、それは本当に痛かった。
おまけに殴った時に口の中を切ったのか血の味までする。思わず飲み込んでしまったが、リアルにするにもほどってものがあるだろう!
「イ、イテテッ」
そしてあまりの痛さに、思わず殴った自分の頬に右手を添えた。
「ヒッ!」
直後、殴った場所からさらに強烈な痛みが全身を駆け抜ける。
あまりの痛さに、俺は思わず目から涙まで流してしまう。
だがしかしこれで、
「やっ、やったぞ。イケメン野郎を泣かせてやった。ざまーみろ!」
泣いているのは自分が操るスレイだが、それでもこいつがイケメン野郎であることに変わりはない。
例え自分のアバターであろうと、イケメン野郎を泣かすことが出来たことに大変満足だ。
いや、分かってるよ。
自分でも物凄くバカなことをしてるんだって。
でも、どうしてもやらずにはいられなかった。
俺の嫉妬の炎が、それをやれと叫んでいたんだよ!
「クウッ、でも痛すぎるだろ。少しは手加減しろよ、俺!」
全ては自作自演。ただの自爆。
イケメンを殴れたのは嬉しかったが、その代わりに受けた痛みのせいで、俺はしばらく幻痛相手に悩まされるのだった。
そうそう、ちなみにゲーム内では俺の声は、リアルの俺の声ではなく、さわやか系ボイスになっている。
100年以上前に存在した"ゆっくり饅頭"と呼ばれる技術を元祖にした、文章読み上げソフトから進化した技術が使われていて、VRの中では人が話す言葉を自動的に人工音声が代わりに発してくれる仕様が出来ている。
技術の進化もあって、人工音声でありながら、その声は物凄く滑らかで違和感を感じさせない出来栄えだ。
おかげで、ゲームやアニメなどで声を吹き込む声優と呼ばれる職業は現在でも存在しているが、多種多様なボイスを自然に出すことが出来る"ゆっくり饅頭"によって、その数は恐ろしく少なくなっていた。
よほど有名な声優でなければ、あとは"ゆっくり饅頭"たちがアニメやゲームでの声を担当していた。
◇ ◇ ◇
ところで話を戻すが、俺が自分の顔を殴った後、脳内で抑揚のない声が響いた。
≪特定の条件を満たしたことにより、プレーヤースレイの種族が人間から、人間(吸血鬼・真祖)に転生しました≫
≪吸血鬼・真祖に転生したことにより、闇魔法、血魔法、死霊魔法、吸血鬼化、眷属支配、不死、吸血、身体能力向上、魔眼、暗視、HP自動回復(大)、SP自動回復(大)の各種スキルを獲得しました≫
「ハッ?」
突然頭の中で響いた声に、俺は訳が分からなかった。
後書き
『ゆっくり饅頭』
主にニコ動で大活躍してる、お饅頭たちですね。
技術的にはあれの発展進化系の技術が100年後には存在しているのだ~。
なんて世界観です。
饅頭でなく、ボイスロイドを元祖にしても良かったかな?