18 当たりID?
前書き
第二章の前半部分があまりにもつまらなかったので、本日は五話分(一時間ごとに一話)更新します。(一話目)
さて、偶然出会った先輩は男だったが、なんとなく互いに気が合って意気投合した。
まだ出会ったばかりだけど、ゲームでの人間関係は、リアルほど深くなく、だからと言って他人と言うほど離れているわけじゃない。
適当にだべるには、都合のいい距離だ。
ところで、ラグーンを始めたばかりの俺の所持金は、現在0G。
オンラインゲームのゲーム内マネーと言えば、普通インフレを続けていておかしな額になっているのが普通で、プレーヤーの所持金もそれに合わせてとんでもない額になっているものだ。
なので所持金が、リアルで持っている日本円の額を超えているなんてのは、ごく当たり前の事。
なのに先日大きな買い物をして、リアルの日本円がカツカツのはずの俺の所持金よりも、ゲーム内の俺の所持金は低かった。
そりゃあ、0なんだから仕方ないよな。
ただ、俺の所持金が0と聞いた先輩は、
「へっ、何それ?初期の所持金って1000Gあったはずだけど、なんで0なの?」
「それがさ、ぱふぱふに使ってな」
ぱふぱふイベント。
男心を高揚させるイベントかと思いきや、その中身は「ぱふぱふ」音がするだけと言う、夢も希望もないクソイベント。
そのことを俺が話すと、、
「へー、そんなイベントがあったんだ。初めて知った」
先輩に感心されてしまった。
「男のロマンだよな。なのに、ひどい裏切りにあってしまった」
「まあなんだ。ロマンだから仕方ないよな」
おっ、この先輩はロマンを理解している人のようだ。
俺はガシリと先輩の手を握り、
「先輩もロマンを理解できるんだな。いい酒が酌み交わせそうだ」
「お、おうっ」
俺は厚い友情を感じたのに、先輩になぜか引かれてしまった。
……あれ?
もしかして空気を読んで、適当に合わせていただけなのか?
エロスに身命を捧げることが出来ない人物だったとは、俺の見込み違いだったようだ。
だからと言って、それぐらいで先輩のことを嫌いになったりしないけどさ。
「しかし0Gってのはひどいな。よかったら、金を少しあげようか?」
「いや、遠慮しておくよ。チュートリアルでのドロップ品あるから、それを売り払って当座の資金にしておくさ」
親切な先輩だけど、さすがにゲームをまだ続けていくかも決めていない俺がもらうのも気が引ける。
「そっか。じゃあさ、売るのにいい店を紹介してやるからついてきな」
「アザース、先輩」
いい人に出会えて俺はラッキーだ。
ただこういう親切な人は、男より女キャラの方がもっといいんだけどね。
巨乳の親切なお姉さんが、新米プレーヤーの俺を手取り足取り助けてくれれば言うことないのに。
この際だから、巨乳じゃなくても女の子なら我慢できる。
百万歩譲って、女キャラでプレーしていめネカマでも……うーん、まあ、ね、やっぱそれは……ダメだわ。
やっぱり外だけでなく、中身まで女の子がいい。
そんな俺の内心はともかく、親切な先輩のおかげで、俺はドロップ品を売り払い、2400Gほどの資金を獲得することが出来た。
「すごいな。あのチュートリアルでこれだけドロップ品を出せるなんて。もしかしてスレイって、ドロップ運がいい方?アタリIDなのか?」
俺がチュートリアルで獲得したアイテムは、ゴブリンの錆びた剣やら、槍、牙など。他にはミニレッサースパイダーの毒牙なんてものもあった。
それらの品に、先輩が興奮している。
ちなみにアタリIDと言うのは、ゲーム内でレアアイテムのドロップ率が、異様に高いキャラのこと。
『ゲームに当たりIDなんてものはなく、全てのプレーヤーには平等なレアドロップ率が定められている』
とか言った事を、オンラインゲームの運営なら、どこのゲームでも同じようなことを言っている。
でも、実際にゲームをプレーしていると、異様にレアアイテムのドロップ率が高いキャラっているんだよな。
あれって、絶対に不公平だ。
そして俺が今までにプレーしたオンラインゲームでは、自分が当たりIDだったことは一度もなかった。
「さあ、どうなんだろうな。出てきた敵を全滅させたら、こんなものじゃないのか?」
とはいえ、俺はプレーを始めたばかり。
自分のキャラが、当たりIDかなんて分かるはずがない。
だた、先輩は俺とは違う部分が気になったようだ。
「全滅って、もしかしてお助けキャラが登場する前に、ゴブリンの野営地を壊滅させたのか?」
「そうだけど。チュートリアルの戦闘だから、あれくらい簡単にクリアできて普通だろう。てかお助けキャラって、隊長とおっさんの事?」
「おっさんって、誰?」
なんだか微妙に会話がかみ合ってなくないか?
「俺がチュートリアルをプレーしたときは、ババアの隊長と魔法使いの爺さんが一緒だったんだ。爺さんは結構強い魔法を使ってくれてたけど、隊長が弱くてな。数で押し切られそうになったところで、強力な助っ人が後から出てきたんだ」
おやっ?俺がプレーしたときと、同行したキャラが違うようだ。
それに、後からお助けキャラなんて登場しなかったし。
「俺の時とその場にいたキャラが全然違うな」
「このゲームってチュートリアルのキャラでも、ゲーム全体を管理してるAIが勝手に変更したりするから、それが原因だろうな。それにしても、あの野営地のゴブリンを全滅させられるなんて、強いキャラと一緒に行動できてよかったな。
スレイはやっぱり当たりIDに違いないぜ」
と、先輩は太鼓判を押してくれた。
「当たりIDねぇ。そう言えばプレーを開始したときに……」
俺はゲーム開始早々、チュートリアルが始まる前に、吸血鬼の真祖に転生してしまった。
ゲームのバグとも考えられる出来事だ。
そのことを先輩に尋ねようとしたが、
「あっ、悪い。晩飯に呼ばれたから、もう落ちないと。悪いけど、また今度な」
どうやらゲーム外から家族に呼ばれてしまったようだ。
独り身の俺と違い、実家暮らしか?
現実の先輩はかなりせっつかれているらしく、片手を上げると「じゃあな」と言い残して、その場から姿が消えてログアウトした。
随分慌ただしい別れだが、親切にしてくれたいい人だった。
「……フレンド登録しておけばよかった」
ただ、先輩がログアウトした後になって、俺はそのことに気付いた。
フレンド登録しておけば、次にゲーム内のチャットで連絡を取り合えただろうが、それが出来なかった。
先輩の名前は憶えているが、俺の方からどうやって連絡を取ればいいのかが分からない。
オンラインゲームだから、ゲーム内のチャットで相手の名前を入力すれば、連絡が取れるだろうが、このゲームにはプレーヤー名とキャラ名という2つの名前が存在している。
プレーヤー名と言うのは、キャラの中の人が所有している名前のこと。
一方キャラ名は、プレーヤーが操作しているキャラごとにつけている名前のことだ。
ちなみに俺が持っているキャラ名は、現在プレーしているスレイと、ファーストキャラである巨乳のボインちゃんの2つのキャラ名がある。
チャットではプレーヤー名の方を入力しないと相手に連絡が取れないようだが、俺は先輩のキャラ名は知っていても、プレーヤー名の方は知らなかった。
「……なにこの仕様」
AR表示で確認できるのは、相手のキャラ名で、プレーヤー名は確認できない。
ちょっと運営さん、この仕様は酷くない?
あとはメニューからいろいろ確認した範囲では、過去にPTを組んだ相手とはキャラ名とプレーヤー名がログとして記録に残るようだ。
ただし先輩とはいろいろ話したが、PTを組んではいなかった。
なので、先輩と連絡を取る手段がなくなってしまった。
「まあ、先輩は俺と違って熟練プレーヤーのようだから、向こうから連絡をしてくるかもな」
俺と違って先輩なら、俺に連絡を取る方法を何か知っているだろう。
仮に連絡がなかったとしても、出会って少しの間会話していたぐらいの仲だ。
オンラインゲームであれば、それくらいの出会いがあり、そして別れたままになってしまうことも、よくあることだった。




