17 惑星間戦争とマジキチ集団
絶からエロVR禁止命令が出されてしまい、夜にやることがなくなった俺。
クソゲーだが、他にすることもないので、5日ぶりにラグーンを再度プレーすることにした。
「おのれ、ぱふぱふ!」
しかし、ラグーンにログインして最初に目にしたのは、例のぱふぱふ事件があった裏路地。
ここでログアウトしたのだから、当然ここに戻ってきてしまう。
心の中であの時の怒りと悲しみが渦巻き、空を見上げるために上を向いた。
ちょっとだけ、目の端から心の汗が垂れそうになったのを、上を向いて誤魔化そうとしたわけじゃない。
ただ、そこで俺は唖然とする。
空を飛行船が飛んでいた。
それも一隻だけでなく、空を何十もの船が飛んでいる。
飛ぶ飛行船の形は様々。
いかにもファンタジーの飛行船に見える、白い巨大な気嚢に、その下に縄でつりさげられた船の船体を持つ飛行船。
リアル世界でかつて名をはせた、ツェッペリン。
空飛ぶ城のアニメに登場し、ロボットの軍勢によってフルボコにされて沈んでしまった形の飛行船。
上下左右、あらゆる方向からたくさんのプロペラが突き出している飛行船。
中には太陽の光を受けて銀色に輝く、流線型の飛行船もある。これはファンタジー世界の飛行船と言うより、SFに出てくるメタリックな宇宙船に思えた。
その宇宙船に見える飛行船にはプロペラがなく、ロケットエンジンでも搭載して飛んでいるのだろうか?
そしてそんな飛行船たちの背後には、空には浮かぶ巨大な星の姿があった。その大きさは現実で、地球から見上げる月などとはけた違いに巨大。
惑星の半分は太陽の光を受けて白くなっているが、もう半分の夜になっている個所には、光を見て取ることが出来た。
その光は、まるで人工衛星が夜の地球を捉えた時に、暗い闇の中に存在する都市の明かりを連想させる。
あの星の名は、きっと惑星ヴァルドワだろう。
ラグーンというゲームは、ファンタジー中心の世界と、近未来的なSFの世界の2つから成り立っている。
今俺がいるのは、ファンタジー世界のルディナと呼ばれる世界だ。ならばあの空に浮かぶ星こそが、SF世界のヴァルドワだろう。
「すごい光景だな……」
俺はその光景に、ラグーンというゲームの底知れなさを感じさせられる。
「あれは"惑星間戦争"に参加する連中だな。それにあの銀色の"飛行戦艦"が出てくるってことは、今回は"精霊の庭園"の連中が出てくるのか。ヴァルドワの連中は気の毒だな」
俺が空を見ていると、いつの間にか傍に男がいた。
空の光景に見とれていて気付かなかったが、その男は片手を上げて、
「よっ、新人さんかな?」
と、声を掛けてきた。
「ああっ。どうして……って、この初期装備を見ればわかるか」
「そりゃね。開拓者装備一式着こんでいるから。たまにサブキャラを動かしてるベテランが、混じってることもあるけどね」
「俺このゲーム始めたばかりだよ」
ただし、これはセカンドキャラで、ファーストキャラはプレー時間1分と経たずに封印したが。
まあ、そんなことまで話す必要はない。
俺に話しかけてきた男は、AR表示からPCだと分かる。
「兄さん、この光景を見て感動してるみたいだけど、もしかしてプレー前に前情報を集めてない口?」
喜作と言うか、随分気軽な男だ。
「ああ。とりあえず面白そうだからプレーしてみようかと思ってな。始めたばかりでプレーを続けるかまだ決めてないから、ネットで事前情報を集めるのは、本気でプレーする気になってからでいいだろうし」
本当は面白そうだからでなく、巨乳キャラでプレーするために始めたよ。まあ、今はハーレム路線にシフトしたけどね。
「なるほど、なるほど。なら俺は親切ぶってゲームの情報をしゃべらないほうがよさそうだ」
なんだか親切な男のようだ。オンラインゲームでは、初心者プレーヤー相手に、いろいろレクチャーするのが好きなプレーヤーがいるので、そういう人物なのだろう。
「確かにまだゲームの詳しい事は知りたくないな。でも、今惑星間戦争とか言ってたよな。随分物騒な単語だけど?」
「フフフ、惑星間戦争について知りたい?」
「ぜひお願いします、先輩」
俺は先達プレーヤーに敬意を込めて、男のことを先輩と呼ぶことにした。
「よろしい。ではゲームの先輩として惑星間戦争について教えて進ぜよう」
と、何かのスイッチが入ったのか、年寄り臭い台詞に先輩がなった。
「惑星間戦争と言うのは、ゲーム内時間で月に一度の間隔で開催されるイベントで、俺たちのいるファンタジー惑星のルディナと、あそこにあるSF惑星のヴァルドワの連中が戦う大規模戦争のことだ」
先輩があそこと指さした惑星ヴァルドワは――俺が思った通り――、空に浮かんでいる惑星だ。
「惑星間戦争では両方の惑星陣営に分かれて、大軍でぶつかり合っての戦いになる。俺たちの側は剣や魔法で戦い、ヴァルドワの連中は銃火器にロボットの軍勢がメインだな。もっとも戦いは地上だけでなく、今空に浮かんでいる飛行戦艦も加わっての一大スペクタクル大戦になる」
「なんだか聞いてると、ファンタジーって言うより、SFっぽい戦いなんだな」
PVを見た時にも思ったが、ラグーンというゲームにはSF的な要素が、かなりあるようだ。
「そうそう。俺も何度か惑星間戦争に参加したけど、それはもうすごいよ。まあ、俺なんてただのペイペイの兵士だったんで、たいして活躍できるわけないんだけどな。
何しろ、星間間戦争はPCだけでも十万人規模の人数が参加。さらに戦場にはNPCまで参加するから、最低でも百万を超えるキャラによる大決戦になるぜ」
「百万って……それはすごいな」
「だろう。俺たちみたいなのは地上で戦うしかないが、大規模ギルドだと飛行戦艦を所有していてな。
そいつらは互いに空で空中戦をやり合うんだ。空中戦は遠くから見てるだけでも面白いぜ。ただし、空からの流れ弾が飛んできて、一発で即死なんてこともあるから、その辺は注意だけどな」
先輩はやれやれと首を振る。
もしかして、飛行戦艦からの流れ弾で即死したことがあるのだろうか?
たた、この惑星間戦争には気になるところもある。
「でもさ、ファンタジーとSFの戦いはいいけど、こっちは剣や魔法なのに、相手は銃器にロボットまでいるんだろう。そんな奴ら相手に、ファンタジー世界の住人の俺たちが勝てるのか?」
俺が尋ねると、先輩はチッチッチと指を右手に振る。
「残念だが、現代の自衛隊が戦国時代にタイムスリップして無双とか、自衛隊が異世界に行ってその世界の軍隊相手に大量虐殺して勝利する……なんて都合よくはいかないぜ。俺たちの側には魔法があるが、ヴァルドワの連中は魔法を使えないからな」
「なるほど。一応バランスはとれてるってわけか」
「ああ。こう言っちゃ夢も希望もないが、これはゲームだからな。科学力が高い相手が、一方的に強いなんてバランスにはならないのさ」
「そりゃそうだな」
先輩のメタ発言に、「ゲームの世界観や雰囲気をぶち壊すなよ!」なんて言うほど、俺は純真無垢じゃない。
何しろ俺は青少年ではなく27歳の成人男性。先輩の言うことを素直に納得できた。
オンラインゲームでプレーヤーが二つの陣営に分かれて戦うが、常に勝つ側が決まっているなんてゲームバランスだったら、そのゲームはすぐに飽きて廃れてしまうことだろう。
そもそも、そんなゲームをプレーしようとする人間が、どれだけいることか……。
「それに俺たちの側には"精霊の庭園"がいるからな。あいつらが出てきたら、ヴァルドワの連中が勝てることはほぼないんだ」
「"精霊の庭園"?」
ゲームバランス云々の話が、いきなり崩れてないか?
ただ、随分とほのぼのとしたファンタジー名称が出てきたな。
しかし、先輩はそこでニヤリと笑うと、俺に顔を近づけてきた。
(男に顔を近づかれても、嬉しくないなー)
「"精霊の庭園"ってのは、国持ちギルドの連中の事なんだけど。あのギルドにはマジキチプレーヤーしかいないんだ。このゲーム内で、あのギルドは間違いなく最強だ」
国持ちという意味の分からない言葉が出てきたな。
まあ、今の俺には関係ないだろうからそれはいいか。
それよりもマジキチプレーヤーって、どういう連中だ?
「廃人プレーヤーの集まりだから強いのか?」
「それがさ、ただの廃人とはレベルが違うんだ。
ギルドの加入条件は、
寝るのは死と同じだ!
現実時間で1日に3時間以上ゲームから離れれば即ギルド追放だ!
月に最低三万円、課金できない弱者に用はない!
ギルドへの貢献は義務である!
とかなんとか、訳が分からない条件ばかりでな」
「……そんな条件満たしてる連中って、ヤヴァくね」
廃人ゲーマーと言えば、リアルの生活完全に捨ててるニート族ならなれるだろうが、月額三万課金しろとかは、実家がよほど裕福でなければ、並のニートには手の出せない世界だろう。
逆に課金ができる社会人プレーがいたとしても、こっちはプレーできる時間に限りがあるから、条件を満たせない。
VRによる思考加速が可能だからと言って、リアルでの生活もしなければいけないのだから、普通の人間がVRゲーム漬けというわけにはいかない。
「ヤヴァイなんてもんじゃないさ。だから、奴らはマジキチプレーヤーの集団。ただの廃人とはレベルが違うんだよ」
「俺、そんな連中に関わりたくないな」
「当たり前だ。俺だって、そこまで頭のおかしな連中には関わり合いになりたくないさ。
それにそのギルドには、クローズテストの頃から放置(プレーヤーの中の人がトイレなどで休息に入っている間、プレーキャラがゲーム内で操作されずに放置されている状態の事)はしても、サーバーのメンテ以外でログアウトしたことがないなんて、猛者が何人もいるけど、そんな奴でも容赦なく追放処分食らうことだってさ」
「……」
おい、"精霊の庭園"とか可愛げな名前を抜かしてるが、明らかに名前と中身が合ってないぞ!
「それに今ではスポンサー様まであのギルドに加わっちまったから、大規模ギルドでも太刀打ちできない化け物になっちまった」
「スポンサーって、ゲーム会社のスポンサー?」
スポンサーっていえば、テレビ番組やスポーツなんかで資金を出す代わりに、広告を出す会社や団体、個人のこと。
そんな単語がいきなり出てきたので、訳が分からない。
「別にゲームのスポンサーってわけじゃ……いや、ある意味ゲームのスポンサーだな」
1人でブツブツ言って、自分だけで納得する先輩。
「あのな、スポンサー様っていうのはあるプレーヤーのあだ名なんだけど、そのプレーヤーって月に最低百万課金しているんだ」
「ハッ?」
ちょっと待って。
月に百万課金してるとか、なにそのバカ。
俺なんか十万八千円のエロVRを買ったせいで、今月はカツカツの生活を余儀なくされているのに、頭おかしいんじゃない?
「なにその金持ち。どこの成金ニート息子だよ!羨ましすぎだろ!」
百万も課金できる廃ゲーマーなど、金持ちの息子以外考えられないので、確定だ。
「だよな。でもな、スポンサーで驚くのはここからだ。奴はこのゲームがクローズテストだった頃の最初期からいるプレーヤーでな……」
スポンサーは最古参プレーヤーのようだ。
ただし、このゲームの稼働年数は現在、
「ラグーンって、確か正式サービス開始から八年経つよな」
そう、サービス開始したての新品ほやほやのゲームでなく、もうかなりの歳月がたっているゲームだ。
多くのゲームがわずか数年で終了していく中、これだけの期間サービスを続けられているのだから、かなりの大作オンラインRPGと言っていいだろう。
現在でもプレー人口が全世界で二千万人と言われているから、10年を超えることだって余裕だろう。
「スポンサーは八年間、毎月欠かすことなく課金し続けてる。それに百万ってのは、あくまでも最低額で平均じゃない。確実に億以上を、このゲームに貢いでいるわけさ」
「OK。億も課金できる金持ちなんて、本当にゲームのスポンサーじゃないか。っていうか何それ、もういっそ運営会社回収しちまえって額じゃね!」
「だよなー。ああ、羨ましいな。俺もそれだけ課金できれば、簡単にトッププレーヤーの仲間入りができるのに」
世の中理不尽だ。
金で苦労したことのなさそうな金持ちの馬鹿ニート息子のことを、俺も先輩も羨ましく思った。
(もしも俺に億の金があれば、エロVR買い放題なのに!)




