16 リアルの鈴木次郎3
前書き
現実回は今回で終了です。
次回から再びラグーンの世界へ。
夕食を終え、その日するべきことをやり終えた俺は、絶にお休みの挨拶をして、ベットに入った。
それ確認して、ホームAIの絶が、家の照明を全て消してくれる。
ただこのまま寝てしまうのでなく、俺はリンカーを介して、量子サーバーにアクセスする。
俺の意識は現実から遠ざかり、量子サーバーが演算するVR空間へ。
VR版の我が家へと移動した。
もっともVR版の我が家も、俺が住んでいる家そのままだ。
ただ、さっき消したはずの照明がVR空間の中では灯されていて、そこには絶の姿もあった。
「今日のご飯は美味しかったぞ、絶」
褒めながら、俺は絶の頭に手を置いて撫でてやる。
「もう、ジローったらー」
撫でられた絶はくすぐったそうにしながらも、嬉しそうに照れている。
現実では触れられない絶だが、ここはVR空間。
リアルでないため、俺は絶に直接触れることが出来た。
その後俺は絶を、しばらく撫でて褒め回した。
こんなに愛くるしくて可愛くて、俺の為に健気に尽くしてくれる絶だけど、俺には、これから勇気を出して言わなければならないことがある。
その言葉を口にすれば、きっと絶の表情が厳しいものになるだろう。
だからこそ、俺は絶のご機嫌を取っておかなければならない。
「ねえ、ジロー」
「なんだい、絶?」
俺が頭を撫で続けていると、不意に絶が問いかけてきた。
「何か隠し事?」
「……」
いくら現代のAIが高度とはいえ、テレパシーが使えるわけじゃない。
リンカーを介して、俺の脳は家にある量子サーバーやネットに繋がっている。だからといって、個人の思考回路がすべて読み取られてるわけでもない。
「俺が絶に、か、隠すことなんて何もないだろう。ハハハー」
「……」
俺は、絶の機嫌を取らなければならない。
給料を稼いでくるのは俺だが、それでも月々の家計のやりくりをしているのは絶だ。
俺は幼女相手に、月々の家計のやりくりを任せているダメ夫……いや、見た目の年齢差を考えれば、俺がまるでダメ親父みたいに見えてしまうじゃないか。
まあ、それはあくまでも外見だけみたイメージでの話だ。
「……」
絶を撫でていた手が自然と止まってしまい、そんな俺を絶が無表情に見てくる。
絶は我が家ホームAI。
主人である俺の決定には、決して逆らうことはない。
だけど、家の中では俺よりも絶の方が偉い!
絶がいなくなれば、俺は炊事洗濯ができないし、掃除も満足にできないから、家の中がごみ溜めになってしまうのは確実。
AIが人間様に逆らわないからと言って、AIの立場が弱いわけではない。
仮にホームAIがいなくなれば、世の多くの人間が、生活に困ることになるだろう。
金がなくなって困るのではなく、現代の人間はテクノロジーに頼りすぎていて、ろくに料理洗濯もできないからだ。
もちろん、俺もそんな多くの人間の一人に含まれる。
「ねえ、ジロー。昨日プレーしていたエロVRはダメだよ」
そんな俺の前で、絶がとうとう切り出してきた。
そう、ご機嫌取りをしてまで絶に言おうとしていたこと。
それは昨日プレーした、ボインなお姉ちゃんが目の前で飛んでくれるエロVRの、製品版を購入したいのだ。
なのに、どうして絶がそのことに気付いたんだ。
「ジロー、僕はこの家のホームAIとして、ジローとはずっと一緒にいるんだよ。だから、ジローの考えていることなんてお見通しなんだから」
現代のAIって、ちょっと進化しすぎじゃありませんか?
高性能すぎますよ。
いや、そもそも俺は家にある量子サーバーとホームAIの為に、今までに総額300万近い金額をかけている。
サーバーもAIも低価格帯の物なら、十数万円でそろえることが出来るが、そういったものは概してAIの知能が低く、人間から命令されないと自分からは何の行動も行わない。
また、サーバーが安いとゲームをプレーする際に処理落ちが発生したりする。
だから、無駄に金をかけまくって高性能なサーバーとAIを俺は用意したのだ。
絶ほど高性能なAIであれば、人間となんら変わりない対応ができる。
「絶、俺はどうしてもあのエロVRのお姉ちゃんに触りたい」
「うん、それは分かるよ。だってジローだもの」
俺はガシリと拳を握り締める。そんな俺のことを、絶もよく理解してくれている。
「だって、ジローは巨乳のお姉さんに勝てないものね。昔の僕だって、ボインボインだったし」
今でこそ、幼女体型の絶だが、昔は巨乳の金髪ボイン姉さんだった。
ただある日、何の前触れもなく俺の兄貴が姪っ子を連れて、俺の家に遊びにやってきたんだ。
その時、俺の姪っ子は五歳だったが、ホームAIのボインな姿を見てしまった。
しかも、性格は滅茶苦茶俺好みの、頭の悪いお姉さん仕様で、
「あっはん、うっふん」
と言うのが口癖だった。
「次郎、お前が昔からこうなのは知ってるけど、娘の教育に悪いからやめてくれ」
「す、済まない兄貴……」
あの時の姪っ子の泣き崩れた表情と、呆れ果てる兄貴のことが俺は忘れられない。
兄貴は俺と血を分けた兄弟だから、大体理解してくれるけど、さすがに姪っ子には駄目だった。
バカ女が口にする言葉の数々は、幼い姪っ子には泣かずにはいられない言葉だと、本能で理解してしまったのだ。
俺の良心は、純正の幼女である姪っ子に、あんな頭の悪い女を見せてしまったことを深く後悔した。
以来、俺はボインだった絶を封印し、外見データを作り直して今の幼女体型の絶にした。
ただし、外見だけ変えても、AIの人格は、巨乳お姉さんのまま。
つまり、「あっはん、うっふん」な口癖は、そのままだ。
ホームAIの人格は、購入した際にデフォルトでいくつかのタイプが用意されているが、エロお姉さんの人格は、さる特殊な志向を持たれる巨匠が、俺の為にわざわざオリジナルで用意してくださったもの。
巨匠の努力と熱意には申し訳ないが、俺には姪っ子が泣いてた顔を忘れることが出来ず、ホームAIの人格を今の絶の物へ変更した。
ただし、こっちの人格もデフォルトにないオリジナル仕様。
俺でも簡単な人格設定ならできるが、やはり細かい部分も作り込むとなると、俺ごとき素人ではとても手が及ばない。
なので、そう言うのを専門にしている業者さんに、三十万で用意してもらった。
それと余談だが、絶という変わった名前の理由だが、これは俺が会社の先輩が現実で趣味にしている競馬に無理やり連れていかれて、そこで買わされた馬券が大当たりしたときの馬の名前が、絶風なんとかって馬だったから。
その数日後に、ホームAIを購入したからだ。
さて、絶の過去を語るのはここまでにしよう。
ちなみに人格が変わっても、絶はちゃんと昔のボイン姉さんだった時の頃の事を記憶している。
「エロVRに10万円はダメ!いくら給料日だからって、そんな高い物買ってどうするの!だいたい貯金だってできていないのに……」
絶はクドクドと、俺にお説教を始めた。
俺の方がホームAIより偉いはずなのに、なぜか逆らうことが出来ない。
「だいたい、昔からいろんなエロゲやエロVR買ってるけど、半分以上は後で金返せーって叫んでるじゃない。きっと今回のエロVRだって……」
「分かっている。そんなことは分かっている。だけどな絶、ここで折れるようじゃ、俺じゃない。俺が俺であるためには、譲ることが出来ない。あのお姉さんの飛び跳ねる大きな胸……」
その後、俺はVR空間の中で絶を説得する為、ひたすら平身低頭した。
多分体感時間で3日くらい続けた。
もっとも思考加速されたVR内だったので、リアル時間では10分と経っていないだろう。
「ワーン、ジローのバカ、バカ、バカ、バカ!」
最終的に大泣きする絶。
幼い幼女が大泣きする姿は、かつて泣かせてしまった姪の姿とダブってしまい、俺の心が千々に乱れた。
だが、それでも、
「俺は買う!」
自らの信念を貫き通し、ついに十万八千円のエロVRを購入した。
◇ ◇ ◇
エロVRの製品版を購入してから、リアルで三日が経過する。
「ふっ、今日も太陽が黄色く見えるぜ」
俺は仕事から家に帰ると、夜な夜なエロVRの世界に入り浸った。
夜にプレーしているだけとはいえ、そこは思考加速されたVRの世界。
リアルでは考えられないような時間を、俺はエロVRの世界で過ごし続けた。おかげでリアルの体は、今ではすっかり搾り取られ、やせ細ってしまった。
毎朝起きるたびに、絶が家庭用ドローンを使って窓を全開にしている。
「ちゃんと換気しないと、臭いが残るんだよね」
「ああ、換気は大事だな」
一人暮らしとはいえ、やはり臭いが残るのはよくないよな。
たまに兄貴が姪っ子を連れてくるので、匂いが残っちゃまずい。
「はあっ、本当なら芳香剤とか置いておきたいけど、ジローの今のお金だとねー」
背の低い絶に、下から上目遣いで睨まれてしまった。
「だ、大丈夫。ちゃんと働いて稼ぐから」
「そう言ってるけど、体がフラフラじゃない!」
「それでも頑張れる」
「はあっ。お金がないから、体力がつくものも作れないし……」
俺の所業をホームAIの絶は拒否せず、すべて受け止めてくれる。とてもできたいい子だ。リアルで俺を振った元彼女とは違って、なんてできた女だ!
なお、エロVRの世界に入り浸っている俺だが、現在プレーしているのは、女の子がおしっこを我慢……(長いので中略)……染みの付いたのパンツ!
余談だが、このエロVR。十万で買ったのとは、まったく関係がない作品だ。
分かっていたさ。手が届かないから欲しく思っただけで、手に入れてしまうと存外つまらない駄作だったってことぐらい……。
おかげで、以前買った神エロVRに、また手を出しちまった。
「ああ、立ちくらみがする。今日は休みたいなー」
「ブーブー、早く仕事に行かないと遅刻するよ!」
俺は絶にせかされながら、企業戦士として戦うべく、自宅を後にした。
なお、その日仕事から帰ると、さすがにゲームは何もしないですぐ寝た。
もう無理。俺の心と体がボロボロよ。
「ジロー、しばらくエロVRは禁止だよ!」
あまりにも俺が憔悴していたため、絶によって、家庭にある量子サーバー内のエロ関係のデータを、アクセス禁止に指定されてしまった。俺はしばらくエロVRをプレーすることが出来なくなってしまった。
エロVRもVRエロゲもダメ。
(人間の俺より、絶の方が確実に偉くねぇ?)
なお余談だが、VRエロゲは昔から存在している、ヒロインを攻略したりしていくタイプのゲームの進化形。
一方エロVRとは、思春期の男の子のベットの下に置いてある雑誌や、ホテルで別料金を支払わないとテレビで見ることが出来ない番組の進化形の事を指している。
VRエロゲより、エロVRはもっと凄いぞ。
後書き
VRMMOが小説家になろうのジャンル分けではSFになってたので、近未来SFっぽい世界を描くために、3回に分けて書いていってみました。
まあ、書いたのはいいものの、技術的なことをいろいろ語りたいなと思った結果(むしろ技術的なことだけ、ひたすら書きたかっただけ?)、ご覧のようにラノベ失格の文章と、尽きることがない説明文ばかりの羅列に。
SFって書くのが難しい……




