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14 リアルの鈴木次郎1

前書き


 西暦二一一六年のリアル世界の話です。

 ただひたすら小難しい説明だけが続いてしまったので、後書きの方で今回の内容を簡単に要約しておきました。

 後書きだけ読めば、話の展開にそれほど問題ないハズ?

 スレイの中の人こと、現実(リアル)での俺の名前は鈴木次郎(すずきじろう)という。

 日本の鈴木家の次男坊で、現在27歳の独身有閑貴族。すなわち1人暮らしと言う意味だ。


 ちなみに職業は、自宅から自転車で五分ほどの距離にある警備会社に勤めている。

 警備会社と言っても、間違っても自宅警備員ではない。本物の警備員なので、その点は間違えないように。


 もっともVR空間では体術と剣術スキルをあっさり獲得し、接近戦では規格外の強さを発揮できながら、リアルの俺は弱い。

 警備会社に勤めているが、毎年会社で行われている格闘技の実技研修で、万年ビリの成績を入社以来常に誇り続けている。

 車内で俺より弱い奴は、女子を含めていない。


 身長が187センチあるので、大抵の人よりも背が高く、そこから相手に与えられる威圧感はある。

 だが、威圧感はあっても、俺はひ弱だ。


 VRでは超人染みた強さを持っていても、リアルの俺などこんなもの。

 VR内でいくら強くても、所詮それはゲームを動かしている量子サーバーの中で、演算によって導き出された結果にすぎない。

 どれだけVR内で強くても、その強さがリアルの体に反映されることはない。


 むしろ、VRをプレーしている間はリアルの体を動かせないので、逆に体力が落ちて、余計に貧弱になってしまう。



 そんなリアルで貧弱な俺がなぜ警備会社に勤められるかだが、現代ではロボット技術とAI技術が進歩しているために、警備の現場はAIが搭載されたロボットが担当しているからだ。

 正確にはロボットと言わずに、警備用ドローンと呼ばれているが。


 俺の勤めている警備会社では、主に契約を結んでいる会社の警備を請け負っていて、会社内を警備ドローンが自動で巡回して回っている。


 ドローンのAIには、契約先の会社員の顔画像が保存されていて、社内の人間と社外の人間の見分けがつく。

 朝の通勤ラッシュの時間には、多くの従業員が会社になだれ込んでくるが、そんな中でも社外からの不審な人間を、警備ドローンのAIはあっさりと見抜いてしまう。

 何百、何千人も社員がいる会社では、社外の人間が通勤時間に合わせて社内に紛れ込むのが容易になるが、人間の警備員よりも遥かに記憶能力で勝る警備ドローンであれば、社外の人間が不正に侵入しようとしても、それを検知できる能力がかなり高かった。


 また夜間警備でも、警備ドローンは遠赤外線を通常搭載しているので、闇の中でも周囲の光景をはっきりと視認できる。

 例え闇の中に侵入者がいて、死角から殴られたとしても、人間であれば怪我をしても、ドローンであれば外装がへこむ程度で、人間の腕力ではそうそう容易く無力化されることはない。


 それに人間の警備員が怪我をすれば、警備会社は治療費や見舞金を支払う必要が出てくるが、ドローンが故障した場合は修理費だけで済む。

 最悪修理不能で交換になったとしても、新人の警備員を新しく雇い入れて一から教育するより、格段に低コストで買い替えることが出来た。


 人間を1人雇うより、ドローンの方が遥かに低コストなのだ。

 それにAIが高度化しているおかげで、現場での人との簡単な受け答えもドローンが自動的にこなすことが出来る。


 おかげで、警備会社では警備ドローンが現場の警備を担当していて、人間の警備員などただの1人もいない。


 警備会社で働く人間(オレ)がしなければならないことは、それらのロボットから上がってくる定時報告の管理と、時にロボットのAIでは判断に困るイレギュラーな事態が発生した際、指示を出すことくらい。

 その指示にしても、警備会社のコントロールルームから、ネットを介して遠隔指示を出すだけだ。


 ちなにみイレギュラーな事態とは、不審者の侵入や、警備している施設内で火災の発生、その他いろいろだ。



 警備ドローンが優秀なので、俺は警備会社のコントロールに詰めているだけでいいわけだ。

 なので俺は現場に出張る必要がなく、リアルでの戦闘能力が皆無でも、全く問題なかった。



 現在では俺の勤めている警備会社だけでなく、多くの職業でドローンが活躍している。

 ドローンたちは、大量生産の機会の組み立てを行い、推敲農業施設で食料の生産に従事し、企業の経理関係の帳簿だってあっさりと片付けてしまう。


 人間はそんなドローンたちの管理と、指示を出すだけでいい。

 その指示にしてもドローンのAIが優秀なので、そう滅多に難しい判断を求められることがない。

 おかげで労働の現場では、人の手がほとんど必要なくなり、人間は楽に働ける環境となっていた。



 もっとも、ドローンが普及して、いい事だけでなく、悪いことだって起きている。

 ドローンによって生産の現場に人手が必要なくなった分、失業者の数も増えて、それが社会問題化している。


 百年前には人口が一億を超えていたという日本だが、二一一六年現在では日本の人口は七千五百万人にまで減っている。

 人口の減少によって日本の労働力が低下し、国際社会の経済競争に太刀打ちできなくなる……なんて話が百年前には真剣に議論されていたようだが、実際にはドローンによって日本の労働力は確保され、特に国際社会での経済競争で不利になるということはなかった。

 ただ、ドローンによって労働者としての人間は様々な分野から駆逐され、働く場所を奪われた人間が失業者になってしまった。

 人口の減少は全く問題にならなかったわけだ。


(だ、だからいまだに俺が独身なのも、許されるはずだ……)





 それと現代では労働力としての人間が余っているので、早朝から深夜遅くまで働かされ続けるブラック労働というものは消滅している。

 日本国の法律が定める、一日の労働時間は八時間まで、一週間では合計四〇時間までというのが忠実に守られている。


 ブラック労働がなくてなんて、なんて素晴らしい社会なんだ!

 そう感嘆したくなるかもしれないが、無論現実はそんなに優しくない。


 現代は量子テクノロジーの進歩と共に、VR技術が当たり前のように普及している。

 量子技術の進歩と共に、人間の思考には脳内のニューロンとシナプスの結合が関わっているという21世紀には当たり前すぎた理論が、現在では覆っていた。

 人間の脳内にはニューロンとシナプスの結合があるが、それ未満の量子レベルの領域においても、実は思考がされていることが判明した。


 この領域は量子脳と呼ばれているが、量子脳の思考能力は、ニューロンとシナプスによる思考能力よりも早い。

 人間、楽しいだと時間があっという間に過ぎたように感じてしまう。

 逆に辛いことを経験している時は、時間を長く感じてしまう。

 死にそうな瞬間に出会った時には、それまでの人生が走馬灯のように一瞬で脳内を過ぎていくという。

 一瞬で人生の全てを振り返るなんてことは、非現実的なはずだ。リアルの時間数秒で、自分が数十年と生きてきた人生を振り返ることなんてできるはずがない。


 だが、量子脳の思考速度は、ニューロンとシナプスによる思考速度は最大で十万倍以上の速さで行うことが可能だそうだ。

 そして量子脳の思考速度は、常に一定というわけではなく、感情の起伏などに合わせて速さが変わり、それによって人間の感じている体感時間が変わってくる。


 例えばリアル時間一に対して量子脳の思考速度は平時では一の速さで行われているが、感情が変化した際に、リアル時間一に対して量子脳の思考速度が一〇〇になることがある。

 この際人間は体感時間で一〇〇秒も時間が経過しているように感じるのに、リアルではたった一秒しか過ぎていないなんてことがある。

 基本的に嫌なことを経験している時などに、量子脳の思考速度が上昇するわけだ。


 そして量子脳の思考速度が十万倍以上の速さにもなれば、自分の一生を僅か数秒の間に全て振り返ることも可能になるとのことだった。



 そんな量子脳は、誰の脳内にも存在している。

 量子脳は通常はリアルの一時間に対して、量子脳も一の速度で試行しているが、PC(パソコン)のCPUのクロック速度を上げることで、時間当たりの処理能力を向上させることが出来るように、量子脳もクロックアップすることで、時間当たりの処理能力を増やすことが出来る。

 この量子脳のクロックアップは、"思考加速"と呼ばれている。


 量子脳では過去の記憶を回想するだけでなく、普段人間が様々に思考していることも考えている。

 思考加速を行えば、人間は一の時間のあたりに、通常時の十倍、百倍、千倍で速さで思考することが可能となった。


 この量子脳の思考加速は、量子テクノロジーの進歩と共に研究が進み、現在では人工的に任意の速度で思考加速を行うことが出来る仕組みが、民間ベースで実用化されていた。

 今では民間で、ごくごく当たり前に利用できる、一般的な技術になっている。


 何しろ思考加速は、VR(仮想空間)内で人為的に行うことが出来るのだから。


 俺がかつてプレーしていたアーク・アース・オンラインでも、昨日プレーしていたロード・オブ・ラグーンでも、ゲーム内では人為的に思考加速が行われていて、リアルの時間一に対して、ゲーム内では思考速度が一〇倍に加速されていた。

 その結果、ゲーム内で二四時間を過ごしたとしても、リアルの俺の体は八時間分の時間しかゲームをプレーしていないことになる。

 思考加速とは、そう言うことが出来る技術なのだ。


 なお、安全マージンもあって思考加速は最大で一〇〇〇倍までが上限とされている。

 オンラインゲームでは基本的に一〇倍の思考加速が標準になっているが、それにはゲームシステムにいろいろと関係した処理や演出のために、意図的に思考加速の最大値が下げられているせいだ。


 もっとも、思考加速はあくまでも脳内の思考速度を加速させるだけなので、リアルの体もそれと同じように早く動くことが出来るわけではない。

 あくまでも、VR内でしか、思考加速苦の恩恵にあずかることはできなかった。



 だが、VRを使えば思考加速が可能なのだ。

 そして、VRは何もゲームでだけ使われている技術でない。


 そう、仕事の現場でも、VRは利用されている。

 VRでの思考加速は最大で千倍まで可能で、多くの仕事の現場ではVRが用いられている。

 その結果、思考加速千倍の世界で、リアル時間で一日八時間の労働が行われている。

 リアルでは八時間労働だが、思考加速された世界の中では体感時間は八時間の千倍となる。

 八千時間は三三三日、ほぼ一一カ月に相当する体感時間の労働環境になる。



 一一カ月もあれば、山積みになった書類でも、余裕で片づけることが出来るだろう。

 逆に、体感時間が増えているから、それまで以上に仕事を多くねじ込むことが出来る。


 リアル世界で工業品などの生産はドローンが行っているので、人間がしなければならないのはロボットからの報告などを取りまとめる業務が主になる。


 今や人間のリアルの肉体が必要とされない現場がほとんどを占めている為、人間はドローンの報告・管理をVR内で処理していけばかった。



 その結果、現代日本ではVRの恩恵と言う名の悲劇によって、1日11カ月労働が常態化している。

 なお、それでも未だに存在している一部ブラック企業では、1日24時間労働が行われることがある。

 一日二四時間だが、VRで千倍に加速された世界では体感時間一〇〇〇日、実に三年弱の労働時間となってしまう。


 一〇〇年前は一日最大で二四時間労働で済んでいたのに、現代はもっと過酷な労働環境になっているのかもしれない。

 まあ、加速しているのは脳の思考速度だけなので、リアルの体は仕事をしている間、その辺に寝転がっているだけだが……




 ◇ ◇ ◇




 さて、警備会社での本日の仕事を終えて、俺は自転車をこいで自宅への帰路についている。


 自宅から自転車で五分の近場なので、公共交通を使えばかえって移動時間が長くなってしまい、自転車通勤の方が楽だ。


 それに職場ではVRに拘束されている為、体がなまりまくっていて、多少は体を動かしておかないと、もともと少ない体力がさらになくなってしまう。



 自転車をこぐ俺の横では、道路を行く車が信号待ちで渋滞している。

 百年経っても、いまだに自動車が空を飛ぶようなことはなく、相変わらず地面の上をタイヤで移動しているだけだ。

 まあ、実際にSFチックに車が空を飛ぶようになっても、空中で交通事故が起これば、空中から落下してきた車の残骸で地上が大参事になるだろう。

 空を飛ばない方が確実に安全のためにいい。


 ただ自動車の内燃機関は石油から水素動力に代わっていて、運転もAIが自動で行っている。

 運転がAIになっても、ご覧のように渋滞が解消されるわけでないが。



 そんな渋滞している車たちの上では、車の鈍足ぶりを嘲笑うかのように、ドローンが飛び回っている。

 これらのドローンは、宅配業務を専門に行っている宅配ドローンで、ネットで購入した物品を、配送元の企業から顧客元へ配送している。


 大体は通販大手のア○ゾンの宅配ドローンだが、他にも近場のスーパーからの生鮮食品や、ネットで注文を受けたレストランからの加工済みの熱々の料理などが、注文元の家庭へ配達されている。


 科学技術の力は、人間が店舗に出向く必要をなくし、こうして宅配ドローンたちが商品を配達することを可能にした。


 ひとは家に居ながらにして、好きなものを宅配してもらえるわけだ。

 おかげで百年前から生息しているニートたちは、引きこもりの生活水準が百年前よりも格段に向上していたりする。



 もっともこの空を飛んでいる宅配ドローンたちだが、全て車が走っている公道の上を、法律によって定められた高度を維持して飛行している。

 また、道路の信号が赤の場合は、道路交通法によって空中で停車(?)して、止まらなければならなかった。


 ドローンは便利なのだが、便利すぎるために、いろいろと縛るための法律があるわけだ。



 そんな渋滞した車と、その上を飛び回る宅配ドローンたちを視界の端に収めつつ、俺は自宅へと自転車をこいでいった。


後書き(今回のあらすじ)



 スレイの中の人改め、リアルでの俺の名前は鈴木次郎すずきじろうという。27歳だ。

 警備会社に勤めているが、言っておくが自宅警備員でなく、本物の警備員だぞ!


 もっとも時は西暦二一一六年。

 道路の上は飛行ドローンが飛び回っていて、アマ○ンの宅配サービスが大活躍しているような時代だ。


 ドローンと人工知能(AI)の発展ぶりはすさまじく、警備の現場で使われているのは、俺たち人間でなく警備用のドローン。

 人間がするのは、たまにドローンが送ってくる報告の処理をするだけで、事務系の管理職とやることは大してかわらない。





 そしてこの時代、VR技術のおかげで、人間の脳の中にある量子脳と呼ばれる思考器官を、最大で千倍にまで早めることが出来き、人間の体感時間を引き延ばすことが出来た。

 この技術の事は、思考加速なんて呼ばれてるな。


 ロード・オブ・ラグーンでは、思考加速が十倍の速さに設定されていて、そのおかげでゲーム内で丸々一日遊んだとしても、リアルでは二時間半も経っていないという素晴らしさだ。

 現代人は百年前の人間に比べて、遥かに遊べる時間が増えているんだ。


 もっとも、仕事の現場もVR技術のおかげで、体感時間が最大で千倍まで伸ばせる。

 VR技術では肉体のスピードまで千倍の速さにできないが、肉体労働の必要がない事務職には全く関係ない話だな。

 おかげでリアルで一日八時間働いたら、体感時間で最大八千時間(三三三日)分の労働が出来るんだ……



 進んだ科学技術ってすごいよな。

 遊ぶことだけでなく、一日八時間労働っていう法律に抵触せず、ブラック労働が出来るようになったんだから。

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