13 某大作RPGのお約束『ぱふぱふ』
教導隊の宿営地を跡にして、馬車に揺られている俺。
ゲーム開始直後は、クソゲーと思って辞める気満々だったが、チュートリアルが終了した今は、何となく流れでプレーを続けていた。
惰性というやつだ。
このままいけば街に到着するだろうが、馬車の上には俺と馬を操る御者さんだけで、暇だ。
なのでこの間を利用して、プレーヤーの腕輪に触れる。俺の目の前にメニュー画面の一覧が現れ、そこからオプションの項目選択する。
オプションの中には、プレーヤーの行動に対するシステムオートサポートと呼ばれる項目がある。
この中には歩行のサポートや戦闘での剣術や槍術、杖術、格闘などなど、ゲーム内での行動を、システムが自動的にサポートするかどうか設定項目が並んでいる。
VRゲームでは、いろいろな武器を持って戦うが、争いごとに関係ない世界で生きているごく普通の一般人が、いきなり武器を持って戦うなんてことが出来るはずがない。
なので、そういう行動をシステム側が自動的にサポートすることで、プレーヤーは戦闘のド素人でも、VR世界の中で普通に武器を振るって戦うことが出来るようになる。
また、リアルとVRでの身長差が大きすぎると、VR内でよく転んだりするので、それを補佐するシステムなども存在した。
それらの項目すべてを、俺は全てにOFFにしおく。
チュートリアルでは、ラビットやゴブリン相手に、手傷ひとつ追わずに戦った俺だが――正確にはウインドカッターで頬が切られたが――、あの戦いをしている間、どうにもシステムオートサポートが邪魔だった。
過去にプレーしたアーク・アース・オンラインで、師匠に無駄に鍛えられまくったせいで、システムのサポートが入ると、戦闘がやりにくくて仕方がない。
あっても問題はないが、ない方がもっと動きやすい。
てことで、俺はシステムオートサポートを問答無用ですべて切った。
ただ、魔法の自動詠唱という項目があったので、この部分だけはONのままにしておく。
体術や武器を持っての戦いは、システムの補助はいらないが、魔法の詠唱はさすがに無理なので、この項目だけは切れなかった。
まあ、今のところ魔法の使い方は知らないんだけどな。
……をぃ、魔法のチュートリアルが向けてるぞ、教導隊の連中(運営)!
オプションの設定は、簡単にだがこれで終了。
後々不都合なことがあれば、その時いじればいいだろう。
この後再び暇になったので、街につくまでの間に益体のない事を考える。
さて、俺の現在の種族はゲームのバグか、理不尽な仕様のせいで、人間(吸血鬼・真祖)となっている。
吸血鬼と言えばゲームや小説によっては、時にラスボスをしていることがある。
つまり悪の帝王だ。
そして俺が吸血鬼に転化した際、"吸血鬼化"と"眷属支配"という、非常に気になりまくるスキルを所得した。
これはつまりあれだ。
伝統的にエロい事を専門にしている吸血鬼が、爆乳美女の血を吸って吸血鬼に転化していく。
おまけに眷属支配スキルの影響下に置けるなら、俺は吸血鬼化した爆乳美女たちのハーレムを囲えるということだろう。
きっとこのゲームの中に住んでる電子の妖精さんが、俺に爆乳美女ハーレムを作れと啓示を下したもうたのだ!
「フハハハハ。俺は悪の帝王らしく、爆乳美女ハーレムを築き上げてみせる!」
悪の帝王らしく笑いだす俺。
フフフ、しかも今の俺って長身のイケメン野郎だから、完璧に絵になるじゃないか。
「フハ、フハハ、フハハハハハハハ」
よし、ラグーンでの俺のプレー方針は確定した!
そんな俺を、御者の爺さんが、頭のおかしい気の毒な人を見るような目で見てくる。
だが、俺が爺さんに視線を向けると、なぜかスッと視線を逸らされてしまった。
「……まあ、悪の帝王も何も、今の俺の格好ってこんなのだしな」
将来の計画は非常に明るいものの、俺は自分の装備品を見てみる。
武器は教導隊の宿営地でもらった初期装備の片手剣。ぶっちゃけ初期装備なので、期待できるもが何もないゴミ装備だろう。
ラビットやゴブリン相手には、これで無双できたが、最序盤のモンスター相手の無双だから、高が知れるというものだ。
(まあ、ないよりは確実にましだけどさ)
そして防具だが、革製でできた茶色の服とズボンを着ている。
初期に盾も渡されたが、俺の戦闘スタイルに合わない上に、鍋の蓋みたいな盾だったので、捨てた。
今の俺は完全に初期装備状態で、戦士や剣士といった戦闘職っぽい格好でなければ、冒険者という感じでもない。
開拓民Aといった、お粗末極まりない衣装だ。
現にステータス欄から確認できる防具の名前が、開拓民の服、開拓民のズボン、開拓民の靴などと列挙されてる。
間違っても、悪の帝王の格好でない。
開拓民Aの格好。それも下手すれば、貧相な開拓民Aかもしれない。
「まずは将来の計画よりも、この格好を何とかしないとな」
それ以外の事は全て適当で行こう。
とりあえずの方針を、俺は固めた。
◇ ◇ ◇
そうして馬車に揺られて辿り着いたのが、イース・トレクール帝国。その首都であるトレクールだ。
巨大な城壁に囲まれた城塞都市で、都市の各所には、この国の国旗が風になびいている。青地に、剣と盾の意匠が銀糸で刺繍された三角旗だ。
俺はトレクールの都市の、城門前広場で馬車を降りる。
周囲には各地を行きかう馬車がそこら中でたむろしていて、多くの人が馬車から降りたり、乗ったりしていて、せわしなく移動している。
日本のラッシュ時の満員電車を考えれば大したことはないが、それでも中世の異世界都市を思わせる賑やかさだ。
俺は馬車の往来が激しい城門前広場を抜けて、都市の大通りを通っていく。
大通りには、道の左右に数多くの露店が並んでいて、商売人たちがさまざまなかけ声を上げていた。
AR表示を見るとNPCの露店が多いが、中にはPCの露店もある。
商人プレーに没頭しているPCの露天商の元へ、PCやNPCキャラが買い物の為に購入に訪れていた。
どうやら、このゲームではPCが物の売買に参加するだけでなく、NPCもPCの商業活動に参加するようだ。
昔のゲームであれば、PCの露店にはPCしか訪れなかったが、現在のAIは非常に高度な判断力があり、NPCたちがPCの露店で普通に売買をしている。
通りを埋める露店では、みずみずしい果物を売る店に、肉の串焼きを炙って売る店、スパゲッティーに似た麺類にソースを売っている店などなど、様々な種類が並ぶ。
中には露店のはずなのに、大道理の一角に石焼釜を置いている店がある。どうやってこんなところに持ってきたと言いたくなるが、そこはピッツァを焼いている、陽気な料理人の店だった。
AR表示でピザを焼いてる職人は、PCだと分かる。
ラグーンは、日本のみならず多国籍でプレーされているゲームなので、多分本物のイタリア人プレーヤーだと思う。
現在の技術では、ゲーム内で異なる国の言語が話されていても、システムに標準搭載されている自動翻訳機能によって、言語が即時自動翻訳され、プレーヤーに聞こえるようになっている。
ゲーム内の文字でも、自動翻訳機能は働く。
そのため、異なる言語間での意思疎通に問題はなく、他国のプレーヤーとも会話をすることが出来た。
百年前にあったグー○ル翻訳機と呼ばれるシステムが、百年の歳月の間にさらに技術を磨き上げることによって可能としたシステムだ。
さすがは、天下の○ーグル様だ。
閑話休題。
露店には食べ物を売っている店だけでなく、武器屋防具を売っている店、何に使うのかわからない石ころや、魔物からとれるだろう鋭い牙や革などを売っている店もあった。
カオスで怪しさ満点だ。
ゲーム内で利用する素材なのだろうが、初心者の俺には、どの程度の価値があるのか、さっぱり分からない。
「チャイ、いらない?」
そんな大通りの中で、いかにもインド人と言った、褐色の肌をした人に話しかけられた。
インド人氏(仮定)は、肩紐のついた籠を持っていて、その中には紅茶と牛乳思われる液体が入った大きな瓶が2つ。それと砂糖といく種類かの香辛料がブレンドされた粉の入った瓶を収めていた。
ただしゲームの中なので、本物の牛乳や紅茶なのかは不明だ。
インドの国民的飲料であるチャイを売り歩いているようだ。
インド人プレーヤー確定だな。
「いらない」
とはいえ、俺はすげなく却下。
インド人氏はそれだけ聞くと、特に気分を害した風もなく、通りを歩くNPCへ「チャイ、いらない?」と話しかけて行った。
なお、インド人氏はPCである。
わざわざゲームの中で、PCがチャイを売って回る必要があるのだろうか?
露店プレーをするのはともかく、さすがにこれは理解に苦しむ。
まあ、国籍豊かで、プレーヤー人口が二千万人もいると言われるのがラグーンだ。変わった人間など、そこら中にいるのだろう。
そう、俺は納得しておくことにした。
◇ ◇ ◇
ところで大通りを歩いていた俺だけど、いくつかの物売りに話しかけられた後、大きなお胸を持ち、薄い衣装を纏った女性に話しかけられた。
化粧がけばくて、あまり美人ではないけど、それにしても胸が大きいな。
俺はまるで金縛りにあったかのように、視線がお胸に固定され、そこから動かせなくなってしまったじゃないですかー。
なんて眼福、眼福、眼福、極楽浄土だー。
「お兄さん、1000Gで私とぱふぱふしていかない?」
「YES」
お姉さんのお誘いに、俺は迷う時間なく即決だ。
「ハハハ、お姉さん。今夜は寝かせないからなー」
「んふんっ」
ちょいと化粧が厚塗りな顔は勘弁だが、きっとこの人は俺を強く凛々しい本物の男にしてくれることだろう。
……いやさ、ここがゲームの中だって分かっているよ。だけどリアルの俺って、未だに童貞卒業できてないからな。
その後、俺はお姉さんに先導されて、人通りの少ない裏通りへ行く。
「さあ、いらっしゃい」
「おねえさーん」
――ぱふぱふ。
視界が暗く暗転し、そして至福のぱふぱふ音がした。
「ありがとう、お兄さん」
その後、巨乳お姉さんがにこりと笑うと、そのまま人通りの多い通りの方へ消えて行った。
「はい?」
今起こったことを、ありのまま話すぜ。
目の前が暗くなって、ぱふぱふ音だけが鳴り響いた。
そしたらなぜか、全て事後扱いにされて、お姉さんが人ごみの中へ消えて行ってしまった。
つまり、一番大事な部分は何もなかったんだよ!
胸を触れたわけでも、VRとはいえ童貞を卒業できたわけでもなかった!
暗い中で、ぱふぱふと音がしただけだ!
「クソゲーが!」
俺は惰性でプレーしているラグーンの世界から、この瞬間大声を上げてログアウトした。
――こんなゲーム、二度とするもんか!
蛇足だが、ログアウトできなくなって、俺はゲームの世界から抜け出せなくなった!
なんて展開がなかったことは、ハッキリと言っておこう。




