12 チュートリアル修了
「金返せ、師匠!」
「きゃっ」
夢から目覚めると、俺の目の前には、黒縁のメガネをかけた栗色の髪と瞳をした女の子がいた。
若干幼さの残る顔だちなので、年齢は16、7歳といったところだろう。
シスター服を着ているが、衣服の下に隠されたふくよかな大地は、シスター服の上からでもその豊穣の豊かさを見て取ることができる。さらに年齢を考えれば、きっと将来はさらに巨大で、たわわなふたつの果実が……
「あの、大丈夫ですか?」
と、そんなことを考えていたら、俺を心配そうに見つめてくるシスターちゃん(仮称)。
「ハハハ、大丈夫です。全然問題ナッシング」
俺は笑顔で答えておく。
「そうですか。随分うなされていたようですけど、よければお水を飲みますか?」
「……ありがとう」
あれは夢だったんだよな。俺、マジで死んだんじゃないだろうな?
師匠が出てくるという、臨死体験とも、夢ともつかない悪夢を思い出し、俺の頭に再び若干の混乱が舞い戻ってくる。
そう言えば、俺は気を失っていたのか?
倒れる前、物凄い動悸に襲われたんだけど……
あの時、死を覚悟したほどの激しい動機を、今はまるで感じない。全くの平常、いつも通り普通の健康体だ。
「気が付いたか」
そんなことを思い出し、考えていると、この場に隊長が現れた。
周囲を確認すると、ここは天幕の中のようで、俺はベットに寝かされていたよう。
おやっ?
どうやらここはラグーンの中のままか。
そもそもシスター服を着ているメガネっ子がいる時点で、リアルでないのは確定だ。
リアルでシスター服着ている子なんて、教会にでも行かなければいないだろうしな。
……まあ、一度リアルの観光で行った教会では、若いシスターでなく、顔がしわくちゃのシスターババ様"たち"が登場した。
所詮若いシスターなんて、この世界ではすでに絶滅したのだろう。少なくとも、日本国内で期待してはダメだ。
それはさておき、隊長との話に戻る。
「俺は気を失ったんですね。一体何があったんですか?」
「気絶したのは覚えているんだね。いいかい、君はかなり激しく戦っていたけど、そのせいでSPが完全に切れたんだよ」
「SPが切れた?」
隊長がなにを言ってるのか訳が分からん。
「いいかい。戦闘で様々な技を使えばSPを消費するが、SPが完全になくなってしまうと、気を失ってしまうんだ。君はそうなるまで戦い続けて、そしてぶっ倒れたってわけさ」
「……もしかして、HPやMPが切れても気絶するとか?」
「そうだよ。魔法を使いすぎてMPが切れれば、マインドダウンを起こして気絶。HPがなくなった場合は、死んでしまうので、こっちは気絶どころじゃじゃすまないけどね」
なるほどな。
それがラグーンのゲームシステムと言うわけか。
「でも、SPが減少すると疲労感とか出てくるはずじゃなかったっけ?」
俺はあの戦いの最中、疲労感を全く感じていなかった。ただ全力を出して、最初から最後まで戦っただけだ。
だが、そんな俺の前で隊長はため息を一つ吐く。
「たまにいるんだよ。戦闘で精神が異常に興奮して、疲労で疲れ切ってるはずなのに、それに気づかないで戦い続ける馬鹿が。その結果、気付いたときにはSPが切れて、いきなり気絶するんだけどね。君は、典型的なパターンだよ」
なに、その気絶するまで気が付かない戦闘狂って?
てか、その症状に俺が当てはまってるのかよ!
「じゃあ、もしかしてあの時起きた痙攣と動悸って……」
「戦闘中は気づかなかったSP切れの疲労が、戦い終わって気が緩んだところで、一気に襲い懸ってきたんだろうな」
うわっ。何それ怖い。あの時マジで俺はリアルで死ぬんじゃないかって思ったのに。
このゲーム、感覚がどこまでリアルなんだよ。
突然の病気で、マジで死ぬかと思っちまった。
「物凄く、怖いなー」
「君のような新米は、見ていて危なっかしいよ」
「ハハハッ。以後、気を付けます」
「全くだ」
隊長はあきれ顔。俺は素直に反省した。
ところで俺はぶっ倒れたわけで、現在は教導隊の宿営地にあるベットに寝かされているとのこと。
隊長が言うには、倒れた俺をここまで運んでくれたのは、おっさんとのことだった。
SP切れだったので、ゲームの死に戻りでなく、おっさんに背負われて運ばれたとの事。
「あとでマッチには礼を言っておくんだよ」
「ウッ、クウッ。よりにもよって、あのマッチョおっさんにおんぶされるとか……なにその苛め」
不覚にも、俺の両目から涙がこぼれ出してしまった。
「おいおい、泣くバカがいるか。とにかく、こうして私たちは無事に戻ることが出来たんだから、いいじゃないか?
なんだ、戦いのときはあれだけ格好をつけていたくせして、まさか今頃になって怖くなったとかじゃないだろうね」
「ち、違う!」
隊長が勘違いしているようだが、俺の悲しい点はそこじゃない。
おっさんだ!
まあ、いいや。いちいち勘違いを正す気にもなれない。
俺が倒れている間看病してくれていたシスターちゃんは、いつの間にかこの場から出て行ってしまっていた。
ああ、将来有望な胸はどこに行ってしまった。
おっさんにおぶられてしまった俺には、気力(生きるための力)が必要だ。
とりあえず、俺はベットの上から起き上がる。
「もう起きて大丈夫かい」
「はい、大丈夫。ウオーッと!」
立ち上がったけれど、俺は足を踏み外し、倒れそうになってしまう。
そのまま近くにいる隊長のふくよかな果実に、俺の右手が、極々自然に、何の違和感もなく、全く俺の意識に反して、吸い込まれるように接近していき、ムギュリと……触れるなることはなかった。
せっかくふらついたふりして、隊長の胸を揉もうとしたのに、手が触れるより早く隊長が一歩後退して、俺の右手から逃れた。
隊長の胸を掴めなかった俺は、支えを失ってしまい、地面の上に無様に転んでしまう。
転んだ俺の背中は、なぜか隊長の足で踏みつけられてしまい、起き上がれなくなった。
「やっぱ、お前は最低だ」
「隊長、ありがとうございます!」
胸は失敗。だが、踏ん付けられるのも、俺には立派なご褒美だ。
「マッチ!今すぐ来い、このバカ男を殴れ!」
「了解です」
「や、やめろー」
隊長の命令で、天幕の外で控えていたらしいおっさんが入ってきた。
俺は絶叫したが、その後、おっさんに頭を殴られてしまった。
ク、クソウ。
どうして、こうなるんだ!
◇ ◇ ◇
おっさんに殴られる悲劇に見舞われたが、俺たちはその後天幕から外に出た。
俺と話をしているのは隊長。あとついでで、おっさんが隊長の傍に控えている。
「君にはこの教導隊で一連の戦い方を教えたつもりだ。ここで教えられることは全部終わったよ」
そう切り出す隊長。
おや?
と言うことはもしかして、チュートリアルイベントは終わりか。
「君には教導隊の訓練の終了の証として、この腕輪をプレゼントしよう」
隊長が差し出してきた腕輪を受け取る。
「嵌めてくれ」
隊長に言われ、俺は、
「やっぱり隊長は俺のことが好き……」
「マッチ!」
「ワー、ウレシイナー」
おっさんがニヤリと笑って一歩近づいてきたので、俺はまた殴られたくなくて腕輪を素直に嵌めた。
「それはプレーヤーの腕輪だ」
と隊長。
その後隊長は、プレーヤーの腕輪なる代物の使い方の説明を簡単にしてくれる。
ぶっちゃけこの腕輪に触ると、ゲームのメニューを呼び出せるというわけだ。
この腕輪にはアイテムボックスの機能も搭載されていて、アイテムの出し入れが可能になっている。
(ようやくアイテムボックスを手に入れたぞー)
とりあえず適当に喜んでおくことにしよう。
「その中には、君が倒したラビットやゴブリンたちから取れた素材も収められている。街で売り払ったりして、これからの旅の資金の足しにするといいだろう」
「了解、隊長」
隊長からプレゼントされた腕輪だからな。これからは大事に使っていこう。
◇ ◇ ◇
その後、俺たちは互いに別れの挨拶をした。
「ここで教えられることはこれで全部だ。街へ向かう馬車があるので、それに乗っていくといいだろう。君のこれからの旅が良きものであることを祈っているよ」
「ガハハ、また分からないことがあればここにきてもいいからな」
隊長とおっさんは、別れの挨拶をしている。
「隊長、ありがとう。おっさんには、もう2度と会わなくてもいいけどな」
短い時間だったが、隊長は実に素晴らしい胸をしていた。別れるのが実に名残惜しい。
おっさんの無駄に鍛えられた筋肉の胸もでかいが、それに関してはノーコメント。男の巨大な胸(筋肉)など、おぞましいだけの代物でしかない!
「ワハハ、別れがつらいからって照れて、そんな言葉を言うもんじゃないぞ」
「君には散々苦労させられた。もう2度と来なくていいからな」
「そんな隊長のツンツンしている所が、俺は大好きだ」
隊長の胸が名残惜しいが、俺はそう言って街へ向かう場所に乗り込んだ。
やがて馬車が出発し、ゴトゴトと揺れながら、俺は教導隊の宿営地を去って行った。
平原に立ついくつかの天幕からなる宿営地。
隊長の胸の大きさを脳裏に思い浮かべながら、俺は新たな世界へと旅立つことになる。
『チュートリアルイベントを達成しました』
俺の脳内で、抑揚のないシステムボイスが告げてきた。
後書き
計画性なしで書いてる話なので、前回の話でリアルに死んだことにして、そこから異世界召喚物にしていくなんてアイディアもありました。
仮に異世界物の展開がなったら、主人公は幼女天使ミカちゃんの外見だったかもしれませんね~。




