10 ゴブリン部隊との戦闘
前書き
いつもの2倍くらいの長さになっちゃった~。
さあ、ゴブリンどもは全滅させた。
俺に惚れていいぞ、隊長。
俺は両手を広げて隊長の方を見る。
「隊長、今すぐ俺の胸に飛び込んできていいぜ!」
そして、その巨乳を俺に抱きしめさせてくれ!
このためだけに、俺は頑張ったんだから。
「スレイ気を付けろ!まだ敵がいるぞ!」
……チッ、せっかく隊長に俺の格好良さを見せつけたのに、まだ雑魚どもがいやがったか。
草むらがガサガサと音を鳴らし、ゴブリンの集団が現れた。
先ほど俺たちを包囲したゴブリンと違い、今度はゴブリン、ゴブリンソルジャー、ゴブリンアーチャー、ゴブリンメイジとバリエーションが豊富。
そして、ゴブリンたちよりも体の大きな、赤いボロマントを纏ったゴブリンリーダー。
野営地の中にいたゴブリンたちが、戦闘をしている間にここまでやってきたようだ。
さらに先ほど野営地を確認したときには見当たらなかった、金属の全身鎧をきた兵士が二人、ゴブリンリーダーを守るようにして左右に立っている。
金属の鎧は所々さび付いているが、俺が持っている片手剣ではとても切れそうにない。
何しろ今手に持ってる片手剣は初期装備なのだから、仕方ないだろう。
なお、全身鎧の兵士はAR表示では『ゴブリンジェネラル、モンスター』となっていた。
総勢二二体のゴブリン軍団のお出ましだ。
俺はゴブリンたちを前に、とりあえずベルトからSP回復用のポーションを取り出して飲んでおく。
先ほどの戦闘で散々暴れまわったが、そのせいで体に疲労感を覚えていた。
ないよりまし程度の効果しかない疲労回復効果だが、飲まないよりはマシだろう。
それにしても、今までに、このゲームの中で自分のステータスを含めて、レベル表示を一度も見たことがない。
RPGならレベルがあるのが普通だが、たまにそういうパターンから外れるRPGも存在している。
このゲームにレベルがあるかは不明だが、ゲームを始めたばかりの初期状態の俺では、激しく動き回る戦闘を長く続けられないようだ。
「隊長、逃げよう?」
てなわけで、ここは敵前逃亡。軍隊式に言えば、転進すべきだと俺は進言する。
直後、風の刃が音を纏って突き抜けた。
俺が先ほど飲み干し、手の持ったままだったSP回復ポーションの空の小瓶が、上下にスッと切れてしまった。
切れた下側は、そのまま地面に落ちてパリンと砕け散る。
「……」
「ゴブリンメイジのウインドカッターだ。残念だが、ここで敵に背を向ければ、後ろから一方的に攻撃を受けて全滅だろうな」
「マジ?」
「大真面目だ」
隊長の言葉に、俺は顔を引き攣らせた。
◇ ◇ ◇
さて、状況がちょっとピンチっぽくなってきた。
『弟子よ、我が弟子よ』
そんな中、俺の脳内で師匠の声が響いた。
「……なんですか、師匠?」
さっき頭の中から消し去ったはずなのに、もう蘇ってきやがったか。
『お腹空いたー』
(OK、師匠は役に立たん)
ピンチを打開する方法でも言ってくれるかと僅かに期待してしまったが、この人にそんなことを求めた俺が馬鹿だった。
むしろ、これは妄想の師匠だから、まだましだ。
本物の師匠がこの場にいれば、きっともっと状況を厄介にしてくれただろう。
何しろあの人は、トラブルメーカーで、ドSの鬼畜野郎だから。
◇ ◇ ◇
目の前の現実にちょこっとだけ現実逃避している間に、俺に向かって風が飛んできた。
(またウインドカッターか)
風なので目でとらえることが出来ないのがつらいところ。
火や水系の魔法であれは視認できただろうが、風魔法は空気の塊なので、視覚で把握することが出来ない。
ゲームらしく風魔法にエフェクトがついていてもよさそうだが、そう言うものは一切ない。
俺はその場で足を半歩ずらし、上半身を捻って回避する。
風の刃が傍を通り過ぎ、背後にあった木がバシンと音をたて、幹に亀裂が入った。
幹を切断までしていないが、俺が当たって入れば、確実に深手を負っていそうな、とんでもない一撃だ。
というか風の刃に微妙にかすって、頬に傷が出来てしまった。そこから赤い血がジワリと滲み、流れ出す。
「つうっ、痛いな」
今までの殴ったり、殴られたり、蹴られたりに比べれば大したことがないが、頬の傷から、熱を帯びた痛さが伝わってきた。
(痛覚をリアルに感じるから、嫌になるな)
「ギャギャー」
この風の刃を放ってきたのは、ゴブリンメイジ。
ゴブリン部隊の後方に位置していて、前衛には他のゴブリンどもが勢ぞろいしていた。
俺の一撃でゴブリン1体を倒せるとはいえ、前衛を相手にしている間に後方にいるゴブリンメイジが次の魔法を使ってくるだろう。
それにゴブリン部隊には、魔法を使うゴブリンメイジだけでなく、矢を放つゴブリンアーチャーだっている。
ゴブリン部隊に真正面から挑んで1体ずつ倒していたら、その間に後衛からの攻撃でフルボコにされてしまう未来しか見えない。
俺、ピンチ!
とはいえ、この場には俺だけでなく、隊長とおっさんの2人がいる。
「隊長は魔法が使えたよな。それでゴブリンの後衛を任せても大丈夫か?」
「スレイ?」
「おっさんは、俺と一緒に敵の前衛の相手をしようか」
「よかろう」
身の丈サイズのハンマーを両手で握り、おっさんがニヤリと笑った。
俺とおっさんが前衛に立ち、ゴブリン部隊に武器を向ける。
「まったく。私が教導隊の隊長なのに、よりにもよって新米のお前が指示をだしてくるとはな……」
隊長が呆れた声を出す。
「だがいいだろう。この場では、お前の指揮に従ってやる」
そう言うと、隊長がブツブツと魔法の呪文の詠唱を始めた。
隊長もこれで戦闘態勢だ。
「さあ、どいつから死にたい」
俺は片手剣の切っ先をゴブリンどもに向け、ニヤリと笑った。
(よし、カッコいいぞ俺。隊長のハートを掴む為に、ゴブリンどもを皆殺しだ)
まあ、外見はまともそうにしてても、俺の内心はいつも通りの平常運転だ。
「グオオオッ!」
そんな俺の隣で、おっさんがいきなり吠え出した。
「えっ?」
なに、このゴリラ。
突然咆哮を始めたおっさんの体から、黒い毛がムクムクと生えてきて、体が一回り以上巨大化して、ゴリラ型の獣人に大変身……はしていない。
見た目は人間のままだけど、なんとなくそんな雰囲気と威圧感が満載になる。
そのまま物凄い雄たけびを上げて、おっさんがハンマーを片手にゴブリン部隊へ突撃した。
「ハアッ」
グウォンと風が音を出し、ハンマーの一閃でゴブリンがいきなり3体も空中にふっばされた。
――ブウォン
再び大気が振動。
振るわれたハンマーが、剣を持つゴブリンソルジャー2体を空中に吹き飛ばす。
ゴブリンソルジャーの一体は、ハンマーで顔面の半分を潰されてしまい、見るに堪えられないグロ画像状態だ。
いや、動いているから、グロ動画状態だ。
「……これ、俺が戦う必要ないんじゃね?」
先ほどゴブリンに包囲されていた時は、俺一人でほとんど片づけたので、
「俺ってチートキャラだよな」
なんて自惚れていた。
でも、おっさんの方が強くねぇ?
やっぱ俺、ゲーム始めたばかりのただの新米のペイペイだわ。
(おっさん、そのままゴブリンどもを根絶やしにしちまえよ)
おっさんの奮闘する姿を見ていると、俺は先ほどまでの闘志が薄れてきて、呆れの方が強くなってしまった。
もう、俺突っ立って見ているだけでいいんじゃね。
(でも、隊長にカッコいいところは見せないとなー)
とはいえ、このおっさん以上にインパクトのある戦いをやれる自信がなくなってしまった。
「ハー、フンム」
その後も、おっさんの鼻息荒い掛け声と共に、ゴブリンが空中を舞っていく。
「おっと!」
戦闘ではおっさんが無双しているが、その隙をついて俺の方に弓矢が一本飛んできた。
俺は、身体を最低限にずらすだけで回避。
「よっと、危ないなー」
おっさんも弓矢が飛んできたので、俺はおっさんの前まで移動して、それを剣で弾き飛ばす。
直後、グウォンと大気が唸ったので、俺は大急ぎでその場にしゃがみ込む。
直後、頭上をおっさんの振るうハンマーが唸りながら通過していき、またしても不幸なゴブリンが一体吹っ飛んだ。そのまま森に生えている木に激突して、口から泡を吹いてぶっ倒れる。
「新米、ワシの前にいきなり出てくるな!」
「矢を弾いてやったんだから感謝しろよ」
「ふん、あんなヘナチョコ矢では、ワシの筋肉は貫けんぞ!」
あー、脳筋だね。
おっさんには、何言っても無駄だわ。
ただ、そんなことを話している間に、ゴブリンウォーリアが迫ってきた。
俺はしゃがみ込んでいた態勢から、片手剣でゴブリンウォーリアの胸を突き刺す。
心臓を一撃で貫きし、ゴブリンウォーリアの全身がブルリと痙攣して絶命する。
ゴブリンウォーリアが命を失って崩れ落ちるより早く、俺は剣を引き抜く。
勢いをつけ、地面を蹴って空中へ跳んだ。
「おっさんには、そっちを任せた」
「コラ、勝手に敵の中へ飛び込む奴があるか!」
立体機動の足場で、1歩、2歩とゴブリンどもの頭上を移動。
と、そこで後方にいたゴブリンメイジがウインドカッターを放ってきた。
しかし残念。俺にはそんな攻撃通じない。
空中で少し体を捻って、ウインドカッターを回避……
「◆◆◆◆◆◆、ウインド・シールド」
隊長の声がして、俺の周囲を包み込むように風が蠢いた。
その風によって、俺に向かって飛んできていたウインドカッターの威力が減衰する。ただ、威力が減衰するだけで、ウインドカッターが完全に消えたわけではない。
とはいえ、それを俺は回避。
ウインドカッターは、そのまま頭上に生い茂る木の葉を、ガサガサと音を鳴らしながら突き進んでいった。
「馬鹿者、私の魔法がなければ、お前は死んでいたぞ!」
俺はちゃんと回避できていたのだが、隊長にはそう思われてなかったようだ。
全く失敬な。
俺はそこまで間抜けじゃないのに。
でもいいさ、
「俺のことを心配してくれるなんて、やっぱり隊長は俺のことが……」
「◆◆◆◆、ファイヤー。おっと、手元が滑った」
――ブオッ
隊長の放った火の玉が俺の傍を通過し、近くにいた不幸なゴブリンが、全身火だるまになった。
「……」
「無駄口を叩いてないで、さっさと戦え!」
「イ、イエス・マム」
(美人だけど怖いなー。でも、それもいいんだよなー)
とはいえ、これ以上無駄口叩くと脅しではすまなくなりそう。
ちなみに、こんなことを話している間に、俺はゴブリンどものど真ん中に着地。
周囲にいるゴブリンどもの内、槍を持ったゴブリンウォーリアが、真っ先に俺目がけて槍を突き出してきたが、俺は突き出された槍を身体を回転させながら回避。
回転しながら、片手剣で槍を突き出したままのゴブリンウォーリアの首を刎ねる。
「グガー」
直後、隊長の放つファイヤーが、近くにいたゴブリンを丸焼きにしてしまう。
「フンガー」
そしてゴブリンよりよっぽどモンスターっぽい雄たけびが響くと、再び空中をゴブリン数体が飛んでいった。
おっさんの戦い方は相変わらず凄まじい。
俺もそれに負けじと、ゴブリンどものど真ん中で、体を回転させながら、ゴブリンたちの攻撃を回避していく。
槍が突き出され、剣が振るわれ、時には短剣を持ったゴブリンの体当たりもある。
だがすべてが遅い。
この程度の相手が全方位から武器を振るってきても、あまりにも遅すぎて対処するのが簡単すぎる。
俺は敵の攻撃は全て回避する。
手にする片手剣は、防御の為に使う必要がない。つばぜり合いなど必要なく、敵の武器を弾く必要などない。
ただ、武器で敵の急所を一撃で切り落としていく。
敵の関節を剣で落とし、首を落とし、時に半身を盾で隠したゴブリンの目玉を剣で貫き通す。
片手剣だけでなく、近づくゴブリンの足を踵で踏み潰し、敵の行動を掣肘してやる。
拳で敵の顔面を殴りつけるが、これは今一つ。
なので目玉に指を突っ込んで、敵の視力を奪い取った。
でも、感触がリアルすぎて、あまり目玉は潰したくないかも。
そんなことを思うが、今の俺は戦闘の中で興奮していることもあり、グロイことをいつもより抵抗感なく、無慈悲に行うことが出来た。
そうしている間に、ゴブリン部隊はほぼ壊滅状態に。
後方にいたゴブリンアーチャーとゴブリンメイジは隊長の魔法によって仕留められ、前衛はおっさんのハンマーで容赦なく粉砕され尽くした。
そして俺の周囲には、おびただしい血を流すゴブリンたちの骸ばかり。
残ったゴブリンはあと三体。
全身鎧を着たゴブリンジェネラルが2、そしてボス格のゴブリンリーダーが1。
「ウオリャー」
おっさんの雄たけびと共に、全身鎧をまとったゴブリンジェネラルが吹き飛ばされた。
ボロイとはいえ金属鎧をまとっている相手なのに、おっさんの怪力の前では全く意味のない装備だったようだ。
一方で俺は、もう一体のゴブリンジェネラルが振るってきた剣を回避。
俺の片手剣では、全身鎧を突破するのは無理そう。……少なくとも、力任せに振るうと、こっちの刃が折れてしまいそうな気がする。
なので、武器を振るったゴブリンジェネラルの鎧の隙間の関節を狙って、剣を突きいれる。
「ウギャー」
関節を剣で断ち切ると、鎧の間から血を流し、ゴブリンジェネラルが悲鳴を上げる。
だが、悲鳴を上げている余裕があっていいのかな?
痛みで仰け反ったゴブリンジェネラルの懐に俺は入り込み、そのまま顔面を覆う面防の隙間からゴブリンの目玉を剣で刺し貫いた。
目の奥には当然だが、脳がある。
脳にまで達した剣により、ゴブリンジェネラルは即死した。
ゴブリンジェネラルの体がグラリと揺れ、地面へ突っ伏した。
「さあ、後はお前だけだが……」
「ギーッ」
ゴブリンリーダーに俺は剣の先を向ける。対するゴブリンリーダーも、剣を俺に向けてきた。
男と男の正々堂々の一騎打ち。
といいたいところだが、ゴブリンリーダーの振るってくる剣は、やっぱり俺の前では止まっているも同然の動き。
欠伸していても回避できる。
まあ、回避するつもりすらないので、俺はそのままゴブリンリーダーの剣が振り切られるより早く、心臓を剣で貫いてやった。
「グギッ?」
心臓を貫かれたゴブリンリーダーは、自分の身に何が起きたのか、理解できてない声を上げた。
俺がそんなゴブリンリーダーの体から剣を引き抜くと、そのままゴブリンリーダーの体が力なく地面の上へぶっ倒れていった。
「ふー」
戦闘は無事に終了。
俺にとっては余裕のある戦いだったが、それでもゲームとはいえ、まともに戦闘をするのが久しぶりだったので、思わずため息がこぼれた。
「よくやった、新米」
そんな俺に、隊長のお褒めの声。
「ガハハハハ、ワシほどではないが、やはりお前さんには光るものがあるぞ」
ついでにおっさんも俺の事を褒めてくれた。
まあ、おっさんのことはどうでもいいので、ここは俺の嫁候補である隊長に、
「俺に惚れて、フニャラハラリャ……」
あれっ?
なぜか俺は突然体に力が入らなくなり、訳の分からない言葉を羅列すると、地面にぶっ倒れてしまった。
(な、どうしてこうなった!)
突然の事態に頭がついていかない。
そんな俺の耳元では、心臓の音がバクバクと鳴り響き、今頃になって全身がワナワナと痙攣するように震えだした。
(ちょ、ちっと待て、なにこれ!?これってゲームじゃないよな。嫌だ、もしかして心臓発作とか?俺のリアルの体が、いきなり病気になったのか!)
ありえないほどの動悸に、体の痙攣、さらに視界がフラフラする。やがて周囲の景色がグルグルと回転し、訳の分からない状態へ変わっていった。
(嫌だ。俺、こんなところで死にたくない!)
ゲームでなく、リアルの俺の体が、突然の病気に襲われてしまった。
≪特定の条件を満たしたことにより、鎧通し、魔力感知、SP最大値上昇の各種スキルを獲得しました≫
そんな中、抑揚のないシステムボイスが、俺の脳内でやけに鮮明に響いた。




