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グレイがジェームスに見せたもの

ジェームスは言った。

「古の円形魔術は存在する。俺はこの目で見た」

ジェームスはその時のことをゆっくりと話し始めた。

ジェイムズは講堂の裏でタバコを吸って、グレイを待っていた。

その日は冬なのに妙に暖かで、

外でタバコを吸っていてもあまり寒さを感じることがないような、

天気のいい日だった。

「きたわよ」

相変わらず生意気そうな態度でグレイが歩いてきた。

当然約束の時刻を三十分は過ぎていた

「きたか。それで、本当に俺の貴重な時間を無駄にしないようなことなんだろうな」

「無駄に感じるかどうかはあなた次第だわ」

「お前にとっては無駄じゃない時間だと?」

「大いに無駄よ。あんたにこんな事を見せなきゃいけないことがね」

ジェームスは思った。

こいつは本当に人をイラつかせる女だと。

しかし、

『この国に伝わる古の円形魔法を披露する』

といった言葉を信じてきてしまったのだから、

グレイが機嫌を損ねて『やめた』などと言われたら、

待ち続けた三十分が無駄になってしまう。

いや、待っていた三十分よりも

こうやってグレイと会話しているしょうもない時間の方が

むしろ返してほしいと思っていたくらいだった。

ジェームスは、冷静に、そしてちょっぴりの皮肉を込めて返すことにした。

「なんだ。やっぱりインチキか」

「インチキかどうかは今わかるわ」

「で、何をみせてくれるんだ?」

「これをあんたの足元に書いて」

渡された紙切れには図形が描かれていた。

それは大きな円の中に直線と曲線で構成された幾何学模様だった。

「これが、そうなのか?」

「いいからかいて」

グレイはどこから拾ってきたのか木の棒を

ジェームスに愛想なく手渡した。

「俺が書くのか?」

「わたしがやったら意味ないでしょ?」

「誰でも出来る魔法ね。それで俺が?」

「つべこべ言わずに書く」

ジェームスはグレイに言われるままに書き始めた。

ジェームスは自分は手先が器用で、絵心もある方だと思っていた。

しかし、グレイは何度も何度も細かい指示と書き直しを要求してきた。

「そこは角度が三度緩い。ここはこの線と平行に引いて」

なんて細かい女なんだ。

もしかして意地悪されてるだけじゃないのか?

そう言う疑念を抱きながらも、ジェームスはグレイの指示に従って

講堂裏の地面に木の棒を使って円形の図形をなんとか書き上げた。

「じゃあ、持って来た石灰を溝にまいて。きれいに入れてね」

ジェイムスはグレイに持ってくるように言われていた石灰袋を取り出すと、

図形の溝に慎重に入れていった。

「これでいいわ。後は刺激を与えて」

「刺激?」

「反応を起こすのに刺激が必要なの」

「何をやるんだよ、刺激って」

グレイはジェイムスの足元に置いてある図形を描くことに使った

木の棒を指さした。

「それで図形を叩いて」

「はぁ? そんなので本当に何か起こるのかよ」

「やって。早く」

しぶしぶジェイムスは木の棒を拾い、図形を叩こうと振り上げた。

しかし、誤って木の棒を図形の上に落としてしまった。

「ちっ、めんどいなぁ」

ジェームスがかがんで木の棒を拾おうと、手を伸ばした時だった。

「ダメ! 下がって!」

グレイがジェイムスの体を引いて後ろに転ばした。

「な、なにするんだ」

ジェームスがグレイに文句をいった瞬間、

ジェームスの描いた図形が光り輝いた。

「なんだ?」

地面に書いた図形は一瞬光ったと思うと、

大地から緑色の草が急速に伸び始め、

図形の上に落ちていた木の棒をからめとりながら、

一気に数メートルの高さまで伸びて行った。

「危なかったわね。あの草に捕まっちゃうところだったわよ」

「こ、これが、まさか」

驚いているジェイムスの顔を見ながら、グレイはニヤリと笑った。

「これがあんたたちが探している誰もが使える魔法、マギセルクルよ」

先ほどまで天を突かんばかりに伸びていた草は、

急に力が抜けたようにしおれてゆき、

崩れるように地面にひれ伏していった。

そして空から先ほどの木の棒が落ちてきて

カランカランと音を立てて地面に転がった。

もしあの時グレイが体を引かれなければ、

自分はこの木の棒のように

数メートルの高さから地上に落とされていたのだとジェームスは思い、

身を震わした。

「あまりもたなかったわね。魔力がなくなったのよ」

「今の、俺がやったのか?」

「そうよ。あなたがやったの。初めてにしては上々よ。じゃあね」

そう言うとグレイは、まだ驚きを隠せないジェームスを置いて

踵を返してその場を去って行った。


タケルはジェイムスの話を聞いても御伽噺を聞かされていたような気分で、

とても信じられるものではなかった。

しかし、留学前に聞かされていた

『かの地の図形魔法』の内容と酷似していた事に動揺していた。

「気をつけろ。お前は多分、彼女にいい出汁に使われることになるぞ」

「どういうことだ?」

「お前が秘密を彼女から伝授されたって噂が流れ始めているからだ」

「知らんぞ、そんなこと」

「そうなればお前を尋問しようという奴らがお前に突っかかってくるかもしれん。気をつけろよ」

「誰がそんな根も葉もない噂を」

「噂の源は身近なところにあることが多い」

「どういうことだ」

「お前の一番近くにいる奴だよ」

「な、なに?」

問いただそうとしたところにグレイが来てタケルの横に座った。

「なんだ、二人とも仲よさそうじゃない?」

からかい気味に聞いてくるグレイに対して

ジェームスが笑顔で手を振った。

「殴りあった仲だからな」

「そんなことで、仲良くなっちゃうわけ?」

グレイはタケルに訊ねてきた。

「女にはわからん」

その一言にグレイは不機嫌な顔になり、ジェームスは笑いだした。

「ま、そうは言ってもお前らの仲にはかなわんよ。じゃ―な」

ジェームスが残した言葉を聞いてグレイは一転して笑顔になった

「タケル、タケル! わたしたちってそういった仲に見えるのかな?」

答えないタケルはグレイと対照的に不機嫌そうな表情になり、

去っていくジェームスを睨んでいた。

つづく!

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