―9/心配したんだから―
感動の 最終回!
ではなく、まだまだ続きます。これ、下手したら1年以上つづくんじゃないかな……
ブレーダーズ始めここにいる全員が黒ローブと白ローブを見つめて喚起する中、僕は気にせず姑娘を…飲めたらいいなとこの時ばかりは思ってしまう。未成年なのが故に酒を飲めるスピードというのはそう早いわけでもなく。
「しかし今日はすげー日だよな、ブレーダーズに会えただけでも運がいいのにこっから奇天烈に双子魔術師まで…」
「えっと、ニコさんがここにいるんですか!?」
客の一人が言った『奇天烈』に見事に反応したリュミエールである。
あかんこれどう頑張っても逃げられないし合わせる顔がない。僕は一気に姑娘を煽り飲み干すと、
「姑娘、濃いの」
と店長に向かって言う。
その豹変ぶりに気づいたゴードンは「おい大丈夫かチビ、元気ねぇぞ?」と励ましてくれるが既にこの状況では焼け石に水だ。
リュミエールが周りをきょろきょろしながら歩いているのも気配で分かる。チェムはどうやらレムレスやマリアと話をしているようだ。
と、ここで既に何があったか察した店長が姑娘を片手に、にぃ、と微笑む。
「俺も長いこと店長やってるし、こう見えて俺も『目』持ちだから大体お前が何やってんのか分かる。要は逃げてんだろ?」
賢者の目でも反応しないことを見ると全く新しい目を持っているように見える。そんな様子も気にしないでぽんと右肩に手を乗せた。
「安心しな、もうお前は守られてるんだ」
それにつられてたのか、ゴードンも左肩を叩いて慰める。
「もう怯えなくていいし恐れなくていい。俺らは守ることも仕事だからな。そんなことよりせっかくの再会だ、笑顔で迎えようじゃねえか!」
それでも、僕は正直言って怖かった。今は主が目覚めていないものの、この先もし目覚めてしまったらと思うと、やはり集団で旅をすることに抵抗を覚える。と、ここまでチェムと話していたレムレスが間を割って話す。
「こう見えても僕も『代償の目』っていう能力持ちなんですけどね、確かに、君が背負ってきた物はかなり重いものだと思いますけど、でも君の代償はそう重くないから大丈夫ですよ」
さらっと使い勝手悪そうだけど怖い能力持ってるな。ただ、先程の訝しげな表情は全く無く、寧ろすがすがしい笑顔をしている。
「ちゃんと前向き合ってみな、あんたにも仲間はいるんだから」
最後に、さばさばとした女剣士がそっと背中を押してくれた。そっと後ろを振り向いたら、とびっきりの笑顔と泣き顔をしたリュミエールが僕に抱きついてきた。
「もう、いなくなって心配したんだよ!」
「馬鹿…!」
気づけばチェムもリュミエールの隣で泣きながら僕の身体を抱きしめている。店長とゴードンはその様子を見て気分が晴れたのか二人でビールを飲み合っている。その様子をみた客全員もその瞬間に拍手が湧き上った。
これ、なんかアニメの最終回でよくありそうなパターンだ。
チェムとリュミエールが来たころに入れ替わりで広めの個室席が空いたため、再会のお祝いも兼ねて『ブレーダーズ』『双子魔術師』そして店長と共に個室でわいわい騒いでいる、というのはほんの建前である。
実はこの個室席、完全防音なので偉い集団たちの会議などに使われていることが多い。今回もこのメンバーでより詳しい事情を話すことになった、というのも席に座ってからチェムがいきなり、
「実は…さっきニコがC級保護対象になった」
と言われたからである。
暗殺ギルドのスパイ活動の役目としては情報の収集がメインなのだが、もう一つの役割として保護対象の観察が挙げられる。
保護対象は一番低いC級からB級、A級、S級、特S級の5つに分かれており、特S級は中心都市の国王などごく一部に充てられている。
因みに貴族と暗殺ギルドはもともと仲が悪く、保護対象がついていない場合が多い。
「言っただろ?お前は俺らが守る」
ニコがいなくなった直後に暗殺ギルドの資格を手に入れたリュミエールを含んで今ここにいるメンバーは僕を除いて皆暗殺ギルドのメンバーだという。
そして僕を含むこのメンバー全員の腕前もB以上と中々の面子で、高い順番に並べると大体次のようになる。
チェム…A6
ゴードン…A9
ニコ、店長…B2
レムレス…B4
マリア…B7
リュミエール…B9
「店長さん強いですね!?」
「おうよ、こう見えても昔冒険者やってたからな」
今回このことを初めて知ったリュミエールは驚いた表情で店長を見つめている。そして店長も特に驚く様子もなく平然と話している。
と、『代償の目』を持っているレムレスは僕の能力の代償について話してくれたようだ。
「ニコの持っている能力がどういうのだか分かりませんが、ニコの能力の代償は一滴以上の血、それも一度血を飲んだ人は受け付けないという奇妙な代償ですね。でもそれが切れると一番強い魔力を持っている人の血を吸って殺してしまう、ある意味怖い能力ですね」
正確にはそこに寄生の効果で能力が恒久的に使えるというとんでもないチート能力が隠されている上に血以外にもう一つ代償があるのだが。
その話を聞いた全員が人差し指を軽く切って僕が飲みかけていた姑娘にかけてきた。え、いきなり何するんですか?
そういえば血が他の液体なりに溶けても大丈夫なのか実証したことがないな。リュミエールが全員に治癒の魔法をかけて準備は完了、後は血入りの姑娘を飲み干し、スキルブックで効果を確認するだけだ。
結果はレムレスの予想通り、僕の能力が追加されてノルマCTが一気に増えていることに気づいた。
≪寄生:Lv3:CT21≫
≪光魔法:Lv8≫
≪風魔法:Lv26≫
≪回復魔法:Lv6≫
≪賢者の目:Lv11≫
≪闇魔法:Lv4≫(NEW)
≪魔術の心得:Lv1≫(NEW)
≪火魔法:Lv2≫(NEW)
≪魔剣術:Lv1≫(NEW)
≪心眼:Lv1≫(NEW)
≪爆発魔法:Lv1≫(NEW)
≪二刀流:Lv1≫(NEW)
≪隠蔽:Lv1≫(NEW)
ついでにスキルや魔術もこの一日でかなり増えた気がする。だが、吸血による寄生の傾向として「覚える能力とLvは血の量によって決まる」ため、それこそ全ての血を抜かないと術者が使っていた本来のレベルには至らない上、複数スキルがある際1滴だとどうしてもそこから漏れるスキルも生じる。そしてもう一つの方はそもそも性別と相性が関係しているため相手を選ぶというデメリットが大きい。
幸い、これまで魔術などを使っていると順当にレベルは上がるためそこまでこのデメリットを気にする必要はないが。
また一方で、血を吸う怪物は数多くいれど使う能力なんて聞いたことがない、というメンバーたちの疑問から僕の隠された能力について白熱な議論が交わされ、そこにチェムがさらっと「この子…闇魔法と光魔法同時に使える」など言い出したために全員が僕に集中した。
仕方なく右手に光の弾、左手に闇の弾を浮かせると案の定全員が唖然していたのは言うまでもないだろう。
※訂正コーナー